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Scene.77「自重してください先輩……」

 タカアマノハラ、商店街。異界学園の生徒たちの憩いの場であるそこは、今や即席の戦場と化していた。

 様々な異能の持ち主たちが、己の力を振り絞り、敵に向かって解き放つ。

 閃光が瞬き、轟音が響き渡る。異能を駆使したその戦いは、ある種のエンターテイメントでもあった。

 現代のいかなる戦場においても、これほど煌びやかで、幻想的な戦いを拝むことはできないだろう。

 いや……あるいは時代が進めば、そんな光景がいつの日か現れてしまうかもしれないが、今この時間において、異能者同士の戦いが拝めるのはこのタカアマノハラだけだ。


「ふっ……とべぇー!!」


 一人の少年が叫び、手のひらの上に生まれた竜巻を敵に向かって解き放つ。

 少年の手に収まる程度の大きさ出会った竜巻は瞬く間に電信柱も飲み込んでしまうほどに成長し、途上に存在していた多数の異能者を飲み込み、吹き飛ばしていく。

 悲鳴と共に吹き飛んでゆく異能者たち。そんな異能者たちに、無数のトランプが飛んで行った。


「危ない!」


 古金啓太である。彼は空中で逆さになり落下する異能者たちの体にトランプを張り付け、異能者たちが怪我をしたり、よしんば死んだりしないように適当な場所へと軟着陸させる。

 竜巻に巻き込まれた際、風の衝撃で服が裂けたり、血が出ていたりするが、さすがにそれはどうしようもないだろう。

 何故なら、この異能者たちは。


「隙アリィ! 死ねぇい!!」

「え!?」


 こんな感じでほとんど問答無用で襲い掛かってくるからだ。

 倒れた異能者たちを介抱しようと駆け寄る啓太の隙を突き、手のひらをスタンガンのように瞬かせた異能者が突撃してくる。


突撃する傘槍(チャージ・パラソル)、突撃ぃ!!」

「ごふぅっ!?」


 が、そんな彼の横合いから砲弾のような勢いでリリィが突撃してきた。

 ほとんど色がかすんで見えるほどの勢いで突っ込んできたリリィの突撃する傘槍(チャージ・パラソル)に弾き飛ばされ、男は華麗なる縦三回転を決め、地面に叩きつけられた。

 すっ飛んだリリィは、突撃に使った傘を開き、パラシュートの要領で勢いを殺して地面に降り立った。


「ケイタさん! 油断大敵です!!」

「あ、うん、ありがとうリリィ! でも、そんな勢いどうやって」


 不思議に思った啓太がリリィの飛んできた方向を向くと、何かを蹴り抜いたような暁がグッと親指を立てていた。


「必殺のリリィシュート」

「何やらかしてるんですか先輩!? 一つ間違えればリリィ、大怪我ですよ!?」


 どうやら暁の蹴りを発射代替わりにしたらしい、と理解した啓太は大声でそう叫ぶ。

 そんな彼の肩を、ポンと竜巻少年が叩いた。


「まあ、落ち着けって啓太。リリィにしろ、新上先輩にしろ、割といつも通りじゃね?」

「全く否定できないのがなんか悔しい……」


 竜巻少年の言葉にしょんぼり肩を落とす啓太。

 力尽くがデフォルトの暁と、基本突撃思考のリリィだ。たとえ注意したところで、やめてもらえるわけはないだろう。

 リリィはフンスフンスと鼻を鳴らしながら、やや興奮気味に啓太たちの元へと戻ってくる。


「まったく! この程度でこのタカアマノハラを落とそうなどと片腹痛いです! まだ銀行強盗の方が、骨がありますよ!」

「そうだなー。まだテロリストの方が歯ごたえあるよなー」

「いやいやいや。その二つと比べたらだめですってば。っていうかテロリストって」


 確かに暁の実力ならば、どこかのテロの鎮圧に呼ばれていてもおかしくはないだろう。

 異能者の実力によっては、壁越しにでも力を発揮することができる。それに暁であれば、犯人と人質、双方を殺さないように手加減することも可能だろう。

 とはいえ、冗談だろう。そう思いたい。

 啓太は心の中でそう願いながら、辺りを見回す。


「でも……この辺りは少し落ち着きましたかね」

「だといーけどなー。さすがにこう、連発で力を使ってると、だるくなってくるぜ……」


 竜巻少年はコキリと首を鳴らす。

 いつもは平和なタカアマノハラ商店街も、異能者たちの襲撃と、それに応戦する異界学園の生徒たちのせいで荒れ果てていた。

 事前に委員会から本日の営業中止の知らせが出ていたからよかったものの、そうでなければ大惨事であっただろうは想像に難くない。

 啓太たちのいる場所はある程度落ち着いているが、耳を澄ませばそこかしこで何らかの異能が炸裂している音が響き渡っているのが聞こえてくる。


「まだ終わってないところもありますね……。応援に行きませんか?」

「いいや、まだだ。まだこの連中を警備隊に引き渡してねぇ。褒賞が確定するまで俺はここを動かんぞ」

「自重してください先輩……」


 鬼気迫る表情で携帯電話に向かっている暁の背中に、啓太はため息を投げかける。

 啓太たちは生徒会であるため立場としては、戦闘に苦戦している生徒たちの手助けをする立場なのであるが、暁はそんなことはお構いなしに自分が倒した分の異能者たちの褒賞をきっちり懐に納めていた。

 とはいえ、他人が倒した分を無用に請求することはなく、今回のように他人との合体攻撃で仕留めた場合は、その人との折半という形で落ち着けている。

 暁が生徒会室へと連絡を着けて数分。数名の隊員と共に北原が異能者たちの確保へと現れた。

 小さなバンに乗って現れた北原は、バンから降りて暁の顔を見るなり呆れたような顔つきになる。


「はーい、おまたせー……って、まぁた暁ちゃんたちなのー?」

「もちろんよ。換金よろしく」

「言葉の通り、現金なんだから……。暁ちゃんには、褒賞手形でいいわよね?」


 北原は暁には報奨金に換金できる手形をその場で切り、他の三人にはポイントをその場で発行できるハンディポイントチャージャーを差し出した。


「あ、僕はいいです。実際に倒してるわけじゃないですし……」

「あら、そーうー? 別にそんなこと気にしなくてもいいのに」


 啓太は謙虚にそう申し出る。実際、啓太が倒した異能者は一人もいないので、彼の言っていることは間違っているわけではない。

 北原の好意は越権行為であるため、それを気遣ってもいるわけだが。

 そうしてつつがなくすべての処理を終えた北原の元に、一本の無線が入った。


「隊長! 生徒会からです! 付近で戦闘が終わったので、今度はそちらに回ってほしいと……」

「またぁ!? 商店街激戦区過ぎるでしょぉ! それじゃあ、おっさんいくわね!」


 無線連絡を受けた北原は、大急ぎでバンへ気絶した異能者を積み込み、急発進で次の現場へと向かっていった。

 それを見送った啓太が耳を澄ませてみると、先ほどまで鳴り響いていた戦闘音がいつの間にか止んでいた。

 周辺に敵の気配がないのを確認してから、啓太は一息ついた。


「もう商店街には、敵の異能者はいないんでしょうか……?」

「だといいよなー。ちょっと休憩したいし」


 竜巻少年はそう言いながらポケットの中にカードをしまう。

 開いたままだった傘を閉じて、リリィは啓太たちへと振り返る。


「でしたら、一旦学校へ戻りますか? 商店街はこの通りですし……」


 リリィの示す通り、商店街の全ての商店は閉まっており、営業している店は一つもなかった。今日も元気に商売をしているのは道端に点々と置かれている自動販売機位なものだ。

 一応自販機には軽食を販売してくれるものも存在するが、さすがに割高だ。


「うーん……どうしようかなぁ。先輩、どうしますか?」

「あ? 俺はもうちょっと狩ってくるから、お前らは好きにしろ」


 そう言いながら、暁は携帯で生徒会室へと連絡を入れている。次の狩場を探しているのだろう。

 啓太は暁の様子を半目で見つめながらリリィと竜巻少年の方を窺う。


「僕は……僕も、先輩と一緒に行こうかと思うんだけど……」

「それでは私も!」

「じゃあ、俺は学校へ一度戻るかなぁ」


 それぞれに意見を出し終え、三人は互いの目的のために動く。


「それじゃあな啓太。怪我しないよう頑張れよ」

「アハハ……気を付けるよ」

「それでは、そちらも気を付けて!」

「おう。リリィもなー」


 竜巻少年は手を上げて、そのまま学校へと向かっていった。

 彼の異能は、竜巻の発生。威力の調整こそ出来ないが、自然現象として猛威を振るう竜巻の威力は、暁も含めた四人の中で本日中トップの撃墜スコアを誇ることからも窺い知れる。


「あとは威力調節出来りゃ完璧なんだがな、あいつ」

「あ、先輩」


 いつの間にか啓太の背後に立っていた暁が、竜巻少年の背中を見つめながら、そんなことを呟く。

 どうやら、生徒会室でのやり取りは終わったようだ。


「どうでした? めぼしい情報は得られました?」

「いや、特になしだ。午前中だけで、三十人くらいとっ捕まってるせいか、向こうも身を隠すようになってきたな」


 暁はそう言って肩を竦める。


「異界学園の方にも出たらしいが、そっちは先公がとっ捕まえてるらしい」

「先生が、ですか?」


 啓太は暁の言葉に驚き、首を振った。


「異能を持ってる先生、いましたっけ?」

「いや、いねぇよ? いねぇけど、武道系の部活の顧問がやったらしい」

「あー……」


 啓太も、噂くらいは聞いたことがある。異界学園の武道系の顧問はその筋では有名な人間で、素手で異能者を制圧できるとかなんとか。

 筋骨隆々……と言えるほどの筋肉を持たない先生の姿を思い出しながら、啓太はため息を突いた。


「噂は聞いたことありますけど……無茶するなぁ……」

「その辺は俺たちも大概だと思うがな」

「無茶してる自覚はあるんですね」

「あたぼうよ」

「胸張らないでください」


 啓太はまた一つため息を突く。

 その無茶を、後ろから見ている方の身にもなってもらいたいと言いたげである。

 そんな二人に、手の中でくるくると傘を弄んでいたリリィが近づいていった。


「それで、どうするんですか? 近辺には異能者の目撃情報がないんでしょう?」

「ああ。だが、遠くにいないわけじゃない。ちと遠いが、倉庫街の方に行ってみるぞ」

「倉庫街、ですか」


 商店街からだと、中央塔を挟んでちょうど反対側だろうか。


「ああ。そっちでそれっぽい人影が動いてるのが見えたんだと。まだそっちには誰も行ってねぇから、俺たちがそれを仰せつかったわけだ」

「わかりました。リリィも、それでいい?」

「もちろんです! 怪しい影など、私が成敗してくれます!!」

「アハハ……ほどほどにね?」


 三人は倉庫街へと足を向けた。


「……しかし、誰もいない倉庫でうごめく影とか実に幽霊っぽいよな……」

「!?」

「ちょ、先輩!?」


 一抹の、不安を残しながら。




 果たして倉庫街に現れた影は幽霊なのか!?

 ではチートカップルの様子もついでに見ておきましょうか。

 以下次回ー。

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