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Scene.73「あれで手加減とは恐れ入る」

 その後、無事に礼拝堂を制圧し終えたフレイヤ達であったが、逮捕までいたった組織の人数が想定されていたよりもずっと少ないことが判明した。

 どこかに隠れているであるだろう、ということは容易に想像がついたが、あいにく礼拝堂全体はすでに捜索をし終えたと言ってよかった。

 なので。


「よいしょっと」


 フレイヤが異能で礼拝堂を丸ごと持ち上げ、床下に何か入口が存在しないか確認することとなった。

 空のゴミ箱でも持ち上げるかのような気安さで、フレイヤは礼拝堂を持ち上げる。

 物々しい破壊音と共に礼拝堂全体が宙へと浮き上がり、地面に刺さっていた木やら石やらがそこの方からバラバラと落ちてゆく。

 あまりにも現実離れした光景に、離れてみていた捜査官や騎士団の人間、果てはその身でもって彼女の実力を感じた犯人たちでさえ、唖然とした表情でその景色を眺めていた。

 彼女の真の実力がこの程度ではないと知っているものの一人であるホームズは、火のついていないシケモクを揺らす。


「こういう時は楽でいいなぁ。まさに重機いらずだ」

「いささか優雅さにかける名称ですが、まあよろしいでしょう」


 レディはホームズの評価にいささか不満げである。

 そしてフレイヤはそんな評価を余所に、礼拝堂を元の場所から話して軟着陸させる。

 大きな音を立てて着地する礼拝堂を横目に、ホームズはフレイヤへと近づいていった。


「ご苦労様、お嬢ちゃん。しかし、あんな風に持ち上げて中は大丈夫なのかねぇ」

「そこはご安心あれ、ホームズ警部。中の物は、しっかり力場で固定おいたから、たとえウェッジウッドが中にあっても、ひび割れ一つないわ」

「そいつぁ有難いねぇ」


 ふんわりと微笑んで自信満々にそう告げるフレイヤ。

 ホームズはそんな彼女に苦笑してみせながらも、礼拝堂跡地と化した地面へと目を向ける。


「さぁて、モグラはどこにいるのやら……って」


 そして、明らかに地下への入り口と見える部分を発見し、肩を竦めた。


「ここまでやって見つからねぇわけもないわなぁ。おぉい」


 ホームズが手招きで部下を呼び寄せる間に、フレイヤは地下の入口へと近づいてゆく。

 広さは縦横に二メートル四方。

 表面の土ぼこりを払うと、鉄製の扉と、何かを読み取るためのスキャナーの姿が見えた。


「ここにもスキャナー……ということは間違いなさそうね」

「ええ。彼らの組織は、出入りにこのペンダント――」


 レディが取り出したのは、暁たちが捕まえた侵入者が下げていたペンダント。

 彼女はその表面の模様を撫でながら、扉のスキャナーへと近づいていった。


「――その表面に彫られたQRコードを用いていました。おそらく、これは彼らが後付したものかと」

「宗教組織にしちゃ、いやにハイテクだよなぁ」


 ボリボリと頭を掻きながら近づいてくるホームズ。

 レディが取り出したペンダントを覗き込み、それから扉の方へと顔を向ける。


「新興宗教っていやぁ、もっとコテコテで、胡散臭いもんだったんだがなぁ……。時代が変わったってことかねぇ」

「そもそも、宗教の体裁を取ったただの犯罪組織だったのでしょう。とりあえず、開くかどうか試してみますね」


 レディはそう断り、手の持ったペンダントを扉のスキャナーへと近づけてゆく。

 ペンダントの存在を感知したスキャナーが勝手に起動し、ペンダントに彫られたQRコードを照会する。

 しばらくして、ビー、と不正解を告げるかのようなブザーが鳴り響いた。

 レディはホームズを振り返り、ホームズは部下を振り返った。


「おい。誰か、適当に起きてる奴、連れて来い」

「ハッ」


 部下の一人が駆け出し、拘束された犯人の一人を連れてくる。

 すでにフレイヤの力を見せつけられて萎縮しきっている犯人は、やや怯えながらホームズたちの前に立たされた。

 怯えた様子の犯人を刺激しないよう、笑いながらホームズは語りかけた。


「ああ、そう怯えんでいいよ。ちと、聞きたいんだが、いいかな」

「な……何をだ?」

「このペンダント……お宅らの宗教のシンボルだったか? これで、お宅らの建物にはだいたいは入れたんだが……どうもここは開かんらしい。そりゃ、なんでだ?」


 ホームズが指差したペンダント。実際のところは暁から提供された資料を基に複製した模造品であったが、これが彼らの組織の捜査に際し大いに役立った。

 ホームズの言うとおり、彼らに関係する建物にはフリーパスで入れるようになったのだ。元々秘密主義の強い組織だっただけに、このマスターキーは天からの贈り物に等しいものであった。

 囮捜査を行うという予定もあったのだが、その手間さえ省いたのだ。まさに暁様様と言える。

 もっとも、資料の出所は完全に伏せられているため、暁には何ら関係ない物品ということになってはいるのだが。

 ホームズの質問に対し、男は弱々しく首を振った。


「それでは、開かない。この扉は、導師様と、あのお方に近しい方が持つ紋章でしか、開かないようになっているはずだ……」

「ふぅむ? ということは……」

「おそらく、彼らの組織の核心となるものがあるのでしょう」


 導師様、というのは彼らの宗教におけるトップであり、彼らを指導する立場にある人間であるとされる。

 彼からもたらされる福音が、より強い力を人々に授け、この世を神の楽園にすることができる……というのが、大まかな彼らの活動内容だ。

 その福音とやらがディスクの形をした映像記録であり、その福音を受けた人間は組織に対して忠実になってしまうというのも、捜査の途中で判明したことである。

 そしてそのディスクは、異世研三がもたらした情報により、脳に刺激を与える危険極まりない代物であるともわかっている。

 導師とその近親者のみが出入りできるとなれば、ここにはそのディスクを制作するための機械や、制作のための研究記録などがあるとみて相違なさそうだが……。


「これじゃ開かない、ねぇ。じゃあ、導師様はどうした? お宅らの一大事に、いったいどこほっつき歩いてるんだい?」

「導師様はとてもお忙しい方だ。常にここにいらっしゃるわけではない……」

「ふぅむ。まあ、想像していた通りの答えだねぇ」


 ホームズは仕方ない、という風に頷き、フレイヤの方へと振り返る。


「お嬢ちゃん。悪いが、もう一働き頼めるかい?」

「ええ、もちろん。悪の禍根を根絶やしにするためであれば、この程度お安い御用よ」


 フレイヤはそう言って笑い、扉の方へと目を向ける。

 瞬間、轟音を立てて扉がへこみ、鉄板に亀裂が入る。


「む……加減を間違えたわね」


 フレイヤは眉根をしかめるが、次の瞬間には扉が上へと吹き飛んでしまう。

 宙に舞った扉だったものを礼拝堂の方へと飛ばしながら、フレイヤはため息を突いた。


「あの程度であれば、一撃目で通れるようになると思ったのだけれど……やはり手加減は難しいわね」

「あれで手加減とは恐れ入る」


 冷や汗を流しながら、ホームズは空いた地下室へと入ってゆく。

 その後にフレイヤ、レディと続き、ホームズの部下も何名かともに地下へと降りて行った。

 一行が二階か三階分の階段を降り切ったところで到達したのは……おおよそ予想通り、研究施設のような場所であった。

 今は全ての機器類の電源が切られており動いていないが、どれもこれも最近動かしたような形跡が見受けられた。

 ケーブルにつまずかないように歩きながら、ホームズは機械類を検めていく。


「あー……なんだろうなぁ、これ」

「さて、見ただけでなんとも判断いたしかねますが……」


 機械類を起動するためのスイッチを探しながら、レディは呟く。


「まあ、察しますところ、異能科学関係の物品かと。コトセ先生のおっしゃる刺激方式とやらが研究されていないことを考えると、専門家の方々にもわからないものかもしれませんが」

「そこが厄介だよなぁ……その、コトセ先生は連れてこれんのかねぇ」

「難しいでしょう。彼の頭脳はもはや人類共通の資産と言ってもよいですが、所属が日本です。彼を検分のために招くには、まず日本政府の許可を取る必要があるでしょう」

「面倒なことだ」


 ホームズはため息を突く。

 彼の隣を通り過ぎながら、フレイヤは机の上に散らばっている資料へと目を向ける。


「コトセ先生のおっしゃる通りなら、刺激方式による安定した異能覚醒が主な目的かしらね……? 異能者を増やすのは、事のついでかしら……」


 研三から聞いた刺激方式の概要と、それを生み出したであろう男の話を思い出しながら、フレイヤはそう当たりをつける。

 と、一つの資料が彼女の目に留まる。


「あら? これは……」


 手に取ってみると、それはとある異能者に関する監察資料の様なものだった。

 何とはなしに目で追いかけていた彼女は、その対象に気が付いて目を剥いた。


「ミツハ・コトセ……? 彼女に関する資料がなぜここに?」


 資料の中には、彼女の異能に関する大まかなデータと、彼女の生活に関することが細かく記されていた。

 彼女が駿に執心していることも、駿がいなければ精神が安定しないことも……夜の闇が彼女の微睡を誘うことまで記されている。


「これは……? どうしてこんなことまで?」


 普段の生活態度や、行動パターンなども記されている資料を前に、フレイヤは動揺する。

 まさか、こんなところで光葉の名を見ることになるとは思わなかったのだ。

 不安定になる主の姿にいち早く気が付いたレディが、彼女の背中を支える。


「お嬢様? いかがなさいました?」

「何故? どうして……?」


 フレイヤはレディの声に応えず、うわ言を呟く。


「お嬢様……失礼します」


 自らの声が届いていないことを悟り、レディは小さく謝罪してからフレイヤの手元を覗き込む。

 そしてそこに書かれている内容に目を通し、小さく頷く。


「なるほど……ホームズ警部!」

「ああ? なんだよ」


 適当にケーブルを引っ張っていたホームズは、鋭いレディの声に驚きながらも振り返る。

 レディはフレイヤの背中を支えながら、ホームズに声をかけた。


「我々は今すぐ戻らねばなりません。あとをお願いできますか?」

「ああ、そりゃ構わんが……何があった?」


 ホームズは訝しげに問いかけるが、レディは首を横に振る。


「それに関しては後程。まだ憶測の域を出ませんものですから」

「そうか……まあ、お宅らの事は信用してる。お嬢ちゃんが持ってる資料も、あとできっちり返してくれよ」

「ありがとうございます。それでは」


 レディはホームズへと一礼を返し、フレイヤを連れて急ぎ騎士団本部へと戻る。

 発見したものと、事の次第を、日本にいる研三へと伝えるために。




 制圧完了と共に、発見される資料。

 異能のデータ自体は、おかしなものではありませんが……?

 以下次回ー。

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