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Scene.70「単なる予言だ……と、思いたいな」

「問題は、百人もの異能者を容易く隠し通してみせるような異能者が、すでにタカアマノハラに潜入していることかねぇ?」

「そういうこっちゃな」


 暁はコーヒーを啜り、小さく息を吐く。


「それがどういう異能者かによるが……そいつは単独で百人相当の戦力を持ち歩けるってことだ。今はそれなりに数が減ってると思いたいが……」

「そのことなんですけれど、捕まっている異能者の一部、どうも最近異能者に覚醒した人達らしいことが判明しているんですよ」

「あ? どういうことだ?」


 美咲は資料を捲る。


「そのままの意味です。つい最近、異能に目覚め、そのまま調子に乗ってタカアマノハラに来て暴れて……ってパターンらしいです。異界学園で暴れた四人組の炎刀使いとか、まさにそのパターンだとか。ちなみに、皆日本人でしたよ」

「あれが? まあ、外人にしちゃ顔が平たいとは思ってたが」


 一応捕まえた相手の事は覚えていたのか、暁は自身が捕まえた異能者たちのことを思い出す。

 柄の様なものを基点に炎を生成してみせていた。しかも、気合の入れようでその威力は増幅する辺り、そこそこの異能強度を持つのだろう。

 しかも、互いの異能を組み合わせることで、技自体の威力を上げて見せた。同じ系統の異能を持っているなら、波長やらなんやらを合わせて異能の威力を上げることは可能だが、即席でうまく行くほど単純な技術でもない。相応の訓練に勤しんだのだろう、と暁は当たりをつけていた。

 そこまで思い出し、暁は美咲を見やる。


「……しかし、どう考えてもつい最近異能に目覚めた奴には思えんぞ。単体での異能強度なら、多分中途入学できるくらいだろうし、異能同士を組み合わせて見せた。それ専用の訓練を受けていたようにしか思えん」

「いえ、それがですね」


 胡乱げな暁に対し、美咲は指を振って説明を始める。


「実は、先日暁さんが発見したディスクに関して完全な解析が終わりまして……覚えてます?」

「あー……オラクル・ミラージュだったか?」

「はい。先輩が、無理やり部屋をこじ開けて見つけたんですよね。あのディスクが、何か?」


 少し回復してきたらしい啓太が体を起こす。

 美咲は資料をまた捲り、啓太の質問に答えた。


「どうもあれ、異能者へと覚醒するための映像記録だったようでして……それを見ると、同じ系統の異能に目覚めやすくなるらしいんですよね」

「異能者に、覚醒? 映像で、ですか?」


 異能による覚醒は誘導方式しか知らない啓太は、不思議そうに首を傾げる。


「ええ、らしいんですよ……。私も知らなかったです。資料によると、覚醒するために脳に多量の刺激を与える必要があるらしくて、精神に異常をきたす可能性が高いんだそうです。まあ、早い話が見ると異能が身につくけど、発狂しかねないヤバい系の映像記録ってことですね」

「……つまり、今回捕まった異能者の一部は、そのディスクで目覚めたと? 大丈夫なのかい、その後は」


 発狂、と聞いて会長が顔をしかめた。

 見て、どのような変調をきたすかはわからないが、少なくとも良い方向に傾くことは無かろう。


「今のところは平気なようですね。比較的、大人しく過ごしているそうです」

「比較的、ねぇ。まあ、クスリやってるわけじゃねぇんだ。いきなり発狂するわけでもあるめぇ」


 小さく欠伸を掻く暁。

 啓太は身を乗り出しながら、美咲へと質問を続けた。


「その、映像記録を見たから、先輩が相手をした人たちは同一の異能に目覚めたんでしょうか?」

「取り調べの結果、そのようだと判明しましたね。四人が四人同じ異能を持っているなら、そこまで過剰な訓練をせずとも異能を組み合わせることができるでしょう?」

「いや、知らねぇよ。そんな事例、聞いたこともねぇ」


 最もメジャーな異能の一つであるサイコキネシスの持ち主・暁は、そう言って首を傾げた。


「サイコキネシスですら、慣れてねぇ奴が合わせようとしても、うまくはいかねぇぞ。同じ異能に目覚めたとして、そううまくいくもんかね?」

「僕に聞かれても……」


 その道の先輩に問われ、質問に困る啓太。

 暁にわからないものが、啓太にわかるわけはないだろう。

 暁自身もそれは分かっているので、早々に話題を切り上げた。


「まあ、実際そう言うことになってんだから、それ専門のディスクかなんか見たってことなんだろ?」

「ええ、そうですね。異世先生も、ディスク内の情報を操作すれば、異能にいろんな指向性を持たせることができると言ってましたし。あの四人が、それ専用の異能を目覚めるディスクを見せられた、と考えるのが正しいでしょうね」

「……もしやそのディスクさえあれば、相手側は戦力をいくらでも増やせるのかな?」


 会長が微かに戦慄しながら、小さく呟く。

 その会長の言葉に皆、押し黙る。

 見るだけで異能に目覚めるということは、そこらにいる一般人を捕まえて映像さえ見せてしまえば、異能者として即席の戦力にできるということだ。

 リスクを考えれば、大手を振って行えることではないが、向こうはそんなことはお構いなしだろう。すでにオラクル・ミラージュという実績が存在する。

 ややして、会長がゆっくりと口を開いた。


「そこまでして……いったい何をしようとしているのかな?」


 異能者を集め、タカアマノハラで暴れ、そうして逃げる。

 その行動に意味があるとは思えない。これがもし、他国の工作員による妨害工作の一種であるというのであれば、多少は意図が見えるが……。


「捕まえた異能者たちのうち、行方不明だった英国人さんたちは、目的やそれに類する事柄に関しては完全に黙秘。最近異能に目覚めたらしい人たちに関しては、教団員に暴れろと指示されたからだそうです」

「サイコメトリーではどうだったんだ?」

「日本人側の主張に嘘はなく、英国人さんたちの方もとりあえず暴れろと言われただけのようですね。上がなにを考えているかに関しては正確なところを知らず、ただ大願成就のために動けと言われているようですね」

「なんだよ大願成就って……」


 その胡散臭い響きに暁が眉根を寄せる。


「そもそもその宗教ってのがすでに怪しげなんだよな……。どういう宗教なのかわかってんのか?」

「えーっとですね、私も独自に調べてみたんですけど、英国の一角で騒がれている新興宗教の一つですね。教義は“異能至上主義”。人間に目覚めた異能こそ、神の御業そのものである、という宗教のようです。いろいろきな臭いうわさが立ってまして、やれ教団に所属すると異能が強くなるだの、教団が異能者を集めているのはどっかと戦争するためだのと、怪しい噂の総本山みたいな有様ですね」

「なにそれあやしい」

「まったくだね」


 あまりの胡散臭さに、暁と会長は顔をしかめる。

 啓太も同じような表情になり、そんな彼らに美咲は同意する。


「まったくですね。あんな宗教に乗っかる人の気がしれませんよ」

「……そう言えばリリィも毎日のお祈りは欠かしていないんですよね……。僕は神様信じてませんけど、そんなにいいものなんでしょうか?」

「知らねぇよ。ここに、リリィ以外に神様信じてる奴ぁいねぇだろ」


 その肝心のリリィも今はすやすや眠っている。この場に、宗教に関して語れる人間はいなかった。


「神様なら、ネットで見たことがある。あれはいいもの」

「それは神様違いだろ……」


 何故かつぼみが胸を張ってそんなことを言い出すが、そもそもそれは宗教的な意味合いを含まない。関係ないなんて話ですらない。

 ややずれ始めた話を修正するように、会長が咳払いをする。


「……まあ、宗教談義はさておき、その教義からタカアマノハラを攻め入る理由は見当たらないねぇ。タカアマノハラは、いってしまえば異能都市だ。彼らにとって聖地……と言わずとも、敵対し得るような場所じゃない」

「ですよねぇ」


 会長の言葉に、美咲が同意した。

 教義が異能至上主義というのであれば、タカアマノハラは彼らにとっては好ましい場所だろう。

 ここは、世界で唯一と言っていい、異能者のための都市。ここで暮らす人間は皆、何らかの形で異能という力と向き合っている。

 そうして日々、異能の力を高めようと努力を続けているのだ。いわば、神の御業を広めようとしていると言える。そんな場所に攻め込むなど、宗教的にはアウトもいいところだろう。


「けど……オラクル・ミラージュとかを考えると、真っ当な宗教……じゃないですよね?」

「つぅか、まともな企業ですらなかったろ」


 だが、もし。その新興宗教が、宗教の皮をかぶった犯罪組織だとすれば。


「侵入者連中は、タカアマノハラの研究を狙ってたね」

「ええ。最近は、鳴りを潜めているようですが……」

「じゃあ、やっぱりタカアマノハラで研究されている、異能に関係するデータが目的なんでしょうか?」


 会長たちがそれぞれに敵の目的を推測している横で、暁は腕を組む。


「異能至上主義……ねぇ」


 個々人の才能によってその威力や効果が左右される異能。

 ある意味、異能科学論が注目されているこの時代を象徴する言葉とも言えるかもしれない。

 そして、その言葉を主張するのにうってつけの人材が、このタカアマノハラには二人存在する。

 つぼみの方へと視線を向ける。


「……そういやつぼみ。予言がある程度固まったんだったな。どんな内容だ?」

「私が見た内容は、大まかに二つ」


 つぼみは自らが予言した内容を記しているらしい手帳を開く。


「一つは、あなたの事。あなたはいつかの夜、タカアマノハラではないどこかで、この間現れた爆炎の異能者と戦う運命にある」

「ほう?」


 自らの運命の予言に、暁は興味深そうな顔になる。

 どうやら、例の異能者と戦うのはほぼ確定事項というらしい。

 タカアマノハラではないどこかで、というのが引っ掛かるが……。


「で、もう一つってのは?」


 暁がそのことに言及すると、つぼみは黙り込んだ。

 彼女はあまり表情が変わる方ではないが、それでも一目でわかるほど、怯えているようだった。


「? どうした?」


 彼女の珍しい様子に不審を覚える暁。

 つぼみは自分を案じてくれる暁を見上げ、それから首を横に振った。


「……できれば、この予言は外れてほしい」

「穏やかじゃねぇな。……どんな予言だ?」


 ややあって、つぼみはその予言を口にする。


「……私が予言したのは、タカアマノハラの沈没。その首謀者は、異世駿」

「……なんだと?」

「あなたが爆炎の異能者と戦う前後で、異世駿の力が暴走するかもしれない未来を、私は予言した。……それを受けて、委員会は厳戒令を発動すると言っている」


 シン、と生徒会室が静まり返る。

 いつの間にかこちらの話を聞いていた会長たちも、つぼみを見つめてじっと黙りこんでいた。


「………」

「………」

「………先輩、それって」


 啓太が、怯える。

 暁は、そんな後輩の視線を受け、緩やかに首を振った。


「単なる予言だ……と、思いたいな」


 一筋汗を流しながら、暁は窓の外を見る。

 何事もなく、穏やかなタカアマノハラ。

 静かなそれは、嵐の前のそれなのかもしれなかった……。




 つぼみちゃんの予言が、タカアマノハラを襲う!

 警備隊も忙しいようですよ!

 以下次回ー。

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