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Scene.69「ある程度情報をまとめられましたよー」

 暁が突然現れた異能者たちを撃退してから、一週間が経った。

 暴れた異能者を捕まえた報奨金も、ばっちり現金でもらった暁は、いつものように生徒会室で。


「あ゛ー……」


 ぐったりと、椅子に背中を預けていた。

 全身から倦怠感が漂っている。見ているこっちも疲れてしまいそうだ。

 その隣には、啓太とリリィの姿もあるが、彼らもまた似たような状態だった。


「………」


 啓太は完全に無言で長机に突っ伏している。寝息は聞こえてこないので寝てはいないように思えるが、動く気配もない。


「すぴー……」


 その隣に座るリリィは完全に眠っていた。いつも突撃する傘槍(チャージ・パラソル)の発動に使う傘を抱いて、今にも椅子の上からずり落ちてしまいそうな体勢で眠っている。一応彼女の目の前には、サイコキネシス鍛練用の雛あられ皿があるが、一粒も移動することなく放置されている。

 三人とも、疲労が限界まで来ているように見える。

 そんな三人の姿に労いの笑みを見せ、コーヒーを淹れてやりながら会長は声をかけた。


「さすがに新上君も、お疲れの様子だね……」

「そりゃな……。あれから一週間、毎日だぞ……。体力はともかく、いい加減うんざりもするっての……」


 会長の言葉にそう返し、暁はぐったりと息をつく。

 あれから一週間。異能者の襲撃は、あれ以来ぱったりと止んだ……と言えればよかったのであるが、決して休むことなく連続して現れた。

 出現場所はほぼランダム。異能者の強さもばらばらであるが、共通しているのはある程度異能を使って暴れた後、逃走を図り、その足取りがようとして知れないということくらいだろうか。

 それらの対応に、警備隊はもちろん、異界学園の生徒会も奔走することとなった。

 会長は警備隊の補佐に回り、美咲はサテライト(アイ)でタカアマノハラの監視、つぼみは増えてくる情報から、より精度の高い予言を。

 そして、それ以外の生徒会常駐メンバーは、前線に立って異能者への対応を迫られた。

 結果がこのグロッキーである。小柄で体力もあまりない啓太とリリィはもとより、ロードワークなどでそれなりに体力増強に勤しんでいる暁でさえこのざまである。メアリーなど、今日は一足早く上がったくらいだ。

 ちなみに、駿と光葉もこの場にはいない。と言っても体力がどうこう、というよりは光葉の精神状態の問題なのだが。駿がいれば安定はするが、場合によっては駿と別れて行動することもあった。今日はその分の穴埋めということで、二人で適当な場所へデートに出かけるとのことであった。

 親友のリア充振りを思い出しながら、暁は呆れたような表情で天井を見上げた。


「いったい何があったってんだよ。いつからタカアマノハラは異能蛮族フェスティバル期間に突入したんだ?」

「そんな奇怪な風習は聞いたことないよ」


 暁の口からこぼれた奇妙な名前に、会長は苦笑するが、的確な表現とも言えた。

 突然現れ、適当に暴れて、そのまま姿をくらませる。これで物でも盗めば盗賊だが、その形跡もなければ蛮族と評するしかあるまい。

 暁の前にコーヒーを置き、自身の分のコーヒーを会長は啜る。


「……ただ、実際問題として実害だからねぇ。早めに原因をはっきりさせて、何とかしないと」

「ただ今戻りましたよー!」


 会長の重々しい言葉に応えるように、生徒会室の扉が開いた。

 そこから姿を現したのは、美咲とつぼみの二人だ。

 その手には、それぞれ茶封筒が握られている。


「おう、お疲れ」

「お疲れ様です、二人とも」


 暁と会長は二人を出迎え、それから手にした茶封筒。


「それで、どうだったかな?」

「はい、何とかある程度情報をまとめられましたよー」

「予言の方も、確定と言える程度に纏まってきた」


 二人は口々にそう言いながら、名がテーブルの上に資料を広げる。

 彼女たちは情報探査という得意分野を活かし、委員会などに顔を出して現状に関する予測や今後の対策についての案を纏めてきたところだ。

 持ってきたのは、その関係の資料だろう。美咲が、資料の一枚を取り上げる。


「えーっとですね。今までで、捕まっている異能者ですけれど、取り調べの結果、どうも英国出身者が多いようですね」

「英国の?」


 会長は首を傾げる。


「まあ、確かに金髪の人は多かった気がしますけど……根拠とかあるのですか?」

「根拠と言いますか……ICPOの方に問い合わせましたら、ここ一ヶ月くらいに、英国で身元が分からなくなった人が結構いたんですよ」


 彼女が提示してみせたのは、おそらくICPOから取り寄せた捜査資料か何かだろう。

 英名で、人の名前がずらりと並んでおり、その幾つかにマーカーで線が引かれていた。


「取り調べの際、本人たちはほとんど黙秘を貫いていましたが、顔写真とサイコメトリーでの捜査の結果、この表に載ってます行方不明者たちだと断定されました」

「見つかってよかったじゃねぇか。誘拐か何かか?」

「いえ、それが……」


 美咲はほとほとあきれ果てたように首を振り、暁へ答える。


「どうも、自主的に行方不明になったようで……」

「……それ行方不明って言えんのか?」

「この場合は、失踪や逐電というべきかな。立派な行方不明だよ。……彼らの失踪の理由は分かっているのかな?」


 会長の言葉に、美咲は別の紙を取り上げた。


「親族や友人の話では、どうも新興宗教にはまっていたようでして……その関係で、突然姿をくらましたんじゃないかと」

「宗教ねぇ」


 暁は胡散臭そうな顔で美咲の取り上げた資料を見て、目を細めた。


「ん……? おい、会長。これ、見覚えないか?」

「はい?」


 暁が指差す先に、会長は視線を向ける。

 英治で書かれたレポートの一角。そこには一枚の写真がプリントされており、奇怪な模様が彫り込まれたペンダントが映りこんでいた。

 会長は記憶の底を探るように唸り声をあげ、ハッと気が付いたように手を打った。


「ああ、思い出した! 確か、先週あたりに起こった、気象予報研究所の侵入者たちが、似たようなものを着けていたねぇ」

「みたいですねぇ。どうも、その新興宗教のシンボルマーク的な何かだってお話ですよ?」


 美咲はちらりと、何かを期待するように暁へと目線を向ける。


「……そう言ったお話を、かの英国最強さんから伺ったりは……」

「しねぇな、あいにく。そもそも、あのクソアマに金かけてまで電話かけてやる筋合もねぇしな」

「さようですか……」


 素っ気ない暁の言葉に肩を落とす美咲。

 ただ、それでもすぐに立ち直り、説明を続けた。


「……実は、暁さんが検挙に協力したオラクル・ミラージュの社員たちも、似たようなペンダントを着けていたんですよ。模様こそ違いましたが、検分の結果、侵入者たちが持っていたものと同じ材質で出来た、同一規格の物だということが判明しました」

「これで確定だな。オラクル・ミラージュは黒だったわけだ」

「確か、嫌疑は輸入品数詐称だったかな?」


 暁から聞いた話を思い出す会長。

 確か輸入品として提出されている資料に記されている数より、実数が相当少ないという話であったが。


「察するに、輸入品を減らして、代わりに人をこっちに寄越したってことなんだろうけど……どれだけの人間が侵入してるかは、わかってるのかい?」

「えーっと、資料によりますと実際に誤差が生まれるようになったのは四月の頭辺りからで、その誤差から生まれる体積によって推察されるこちらへの侵入人数は……」


 美咲は資料を捲りながら目で数字を追い、ややあってうんざりしたようにその数を口にした。


「……推察するところ、ざっと百人前後だそうですよ……?」

「よくそんだけの人数、一ヶ月ちょいで運び込んだもんだな」

「飛行機だと十中八九ばれるだろうから、船を使って密航させたんだろうけれど、それにしても計画的だねぇ」


 さすがに数に、呆れたように顔を歪める暁と会長。

 飛行機と違い、船は一ヶ月で何度も国々を往復するようなものではない。さらに言えば時間もかかる。隣の国に船で手紙一つ運ぶのにも、一ヶ月以上かかることはざらだ。まあ、時間の大半は出港までの時間待ちなのだが。

 おそらく、時間の違う船便をいくつも利用し、物資に紛れ込ませて人を運んだのだろうが……。

 運ぼうとする方もする方だが、運ばれる方も運ばれる方である。不安定なコンテナの中で波に揺られるなど、正気ではあるまい。


「しかし、そうなると困ったねぇ。今まで捕まった異能者、正直五十人もいかないんじゃないかい?」

「だな。一週間で……それでも二十人ちょっとだったか?」


 ひーふーみーと指折り自分や啓太たちが捕まえた異能者たちの数を数える暁。

 美咲は資料を捲って、正解の数を発見する。


「……今月の頭に起きた侵入者事件辺りも数えまして……それでも二十九人だそうです」

「まだまだ、このタカアマノハラには、違法に滞在する犯罪者がたむろしてるというわけだ」


 会長は嘆かわしそうに目を伏せ、首を振る。

 すると、今まで顔を伏せていた啓太がググッと弱々しく力を入れながら顔を上げた。


「でも、それっておかしくないですか……?」

「なんだ起きてたのか古金?」

「何がおかしいんですか?」


 美咲に尋ねられ、啓太は何とかそちらに顔を向ける。


「だって、百人ですよ……? そんな人数がこのタカアマノハラで違法に暮らしてたら、すぐにばれませんか……?」


 彼の言うとおり、タカアマノハラはそこまで広くないし、隠れられる場所が多いとは言い難い。

 一見、人が訪れず隠れるのに最適そうな倉庫街も、最新の警備装置や対人警報装置などが導入され、不審なものが現れれば即座に警備隊へと通報が行く。

 タカアマノハラの総人口は、ざっと一千人そこそこといったところだが、その中に百人も紛れ込めるとは、啓太には思えなかったようだ。

 それに同意するように、美咲も頷いた。


「まあ、私も同じ思いですよ。とはいえ、推察はあくまで推察。実際は、もっと少ない可能性だってありますよ?」

「……でも、それなりの人数が侵入してるんですよね?」

「まあな。ただまあ、侵入者が百人になろうが、一千人になろうが、どっちでも同じことだがな」

「え? どういう意味ですか?」


 数など問題ではない、と口にする暁を見て啓太は首を傾げる。

 暁はコーヒーを啜り、はっきりと口にした。


「そもそも、異空間を編み上げるハコニワ系がいりゃ、その中に人間を入れれば済む話だ。どんだけ大人数だろうと、不思議じゃねぇよ」

「……ああ、そっか……」


 暁の言葉に、啓太は頭を抱えてしまう。

 そうだ、その通りなのだ。今の世の中……そんな不思議が平然とまかり通ってしまう世の中なのだ。




 意外と頭の痛い話になってきましたかな?

 そして予言も怪しい方向へ?

 以下、次回ー。

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