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Scene.6「先輩の……新上暁の、本当の姿が」

 そんな感じでしばらく後輩たちと戯れていた暁の傍に、駿たちがやってきた。


「暁。よろしいですか?」

「んあ? どうした駿」

「ムキー!」


 指先一つで完全に体を押さえられてしまったリリィが悔しそうな声を上げるが、暁も駿もそれにかまうことなく話を続ける。


「生徒会より招集がかかりました。暁にも応じてほしいそうです」

「おぉ、久しぶりだな……。ちったぁ、金になる話だといいんだがな」

「金……ですか?」

「ああ、そうだ」


 金、の言葉に首をかしげるメアリーに頷いて見せながら、暁は指をクルリと回してリリィをサイコキネシスで投げ飛ばす。


「ぎゃふん!?」

「生徒会にゃ、たまに委員会やタカアマノハラそのものから依頼が来るんだが……それをきっちりこなすと金がもらえるんでね……。異界学園じゃ、一般的な小遣い稼ぎさ……」

「はぁ……」


 クックックッ、と悪い顔で微笑む暁の言葉に、メアリーは曖昧に頷いた。

 いまいち想像できない、といった風情だ。

 そんな彼女に、暁は肩を竦めて見せる。


「ま、早い話が日雇いのバイトさ。俺のような貧乏苦学生にゃ、ありがてぇ話だけどな」

「そうですか……あ、私もご一緒してもよろしいですか?」

「あ? 別にかまわんが」


 メアリーの申し出を受け、暁は怪訝そうな顔になる。


「……言っとくが、お前が受けられる内容かはわからんぞ? 基本的に、どんな異能を持ってるかに強く依存するからな」

「ああ、いえ。そちらに興味があるわけではなくて……。生徒会に参加させていただければと、思いまして」


 暁の邪推を否定しながら、メアリーは微笑んだ。


「こうして交換留学生として学ばせていただいているわけですし……少しでも、学園のお手伝いができればと思いまして」

「……まあ構わんが。交換留学生なら、異能強度も十分だろうし」

「ありがとうございます」


 暁の回答を受け、嬉しそうにメアリーは頷いた。

 そしてもう一人。無残に転げたリリィもまた、勢いよく立ちあがりながら手を上げた。


「うぐぐ……私も生徒会に参加させていただきたいです!!」

「じゃあ、いくか。遅れて儲け話がふいになっても困る」

「暁にお願いしたいと言っていましたし、その辺りは大丈夫だと思いますよ」

「ちょ、無視ですか!? 私のこと無視!?」


 さらっとリリィの発言を無視して生徒会室かどこかへ向かう暁。

 その背中に叫び声をかけながら、リリィは拳を握りしめた。


「ぐ、ぬぬぬ……! やはりあの男、許しがたい……!」

「その辺は否定できないかなぁ……いつもだいたいああだけど」


 リリィの背中を慰めるように叩いてやりながら、啓太は彼女に同意した。

 リリィは同意を得られてよほどうれしかったのか、勢いよく啓太へと振り返った。


「ですよね! そうですよね!? 何故あんな男が、この高名な異界学園に所属しているのか、不思議でならないですよね!?」


 さらなる同意を得ようと、リリィはそんなことを口走る。

 勢いに任せただけの発言だが、リリィ自身は実に的を射た言葉だと思っているらしい。


「いや、それはないかな。先輩はこの学園にいて、しかるべき人だと思うし」

「え?」


 だが、それは否定された。

 まっすぐに、彼の背中を見つめる、啓太の言葉によって。

 啓太は飛び散ったままだったトランプを手の中に引き寄せる。

 手も糸も使わずに、ひとりでに飛翔するトランプたちは、綺麗な軌道を描いて啓太の手の中へと納まっていった。

 最後の一枚……ジョーカーのカードが飛んできたのを確認し、啓太はトランプを制服のポケットへと収めた。

 一枚も取りこぼしのないことを確認し、啓太は暁の背中を追って歩き始めた。

 リリィもそれを追い、そしてメアリーも続く。

 彼女たちが着いてくるのを確認して、啓太は独白を続けた。


「……今でこそ、僕もこうしてこの学園にいるけれど、そのきっかけになったのは、先輩とリリィの尊敬する団長さんが戦ってるのを見たからなんだ」

「……あの戦いですか」


 啓太の言葉に、リリィは苦々しげな表情になる。

 暁にとっては、世界に名を轟かせるきっかけとなった戦いだが、彼女たちにしてみれば敬愛する団長の名に泥を塗られた行為に等しい。

 リリィが不機嫌になったことに気が付きながら、しかし啓太は続けた。


「今でも信じられないよ……。奇策、怪策を弄したとはいえ、第二世代である先輩が、第一世代であるフレイヤ・レッドグレイブを、実際に打ち倒したなんて……」

「ええ……あれは確信的な出来事でした。それまで存在していた常識を、真っ向から打ち破ったのですから」


 第一世代と、第二世代。

 この二つには、絶対的な隔たりが存在していると言われている。

 自然発生型の第一世代と違い、第二世代は学習によって異能へと目覚めるものを指す。だが、これは元々持っている才能を開放しているわけではない。学習によって型を定め、その型の中に魂を押し込めることで、力を放出しやすくしているだけに過ぎない……というのが異世研三の言葉だ。

 この型填めによって、老若男女を問わず、学習さえすればすべての人間が異能へと目覚めることができるわけだが……この型が、第二世代の力の限界を定めてしまっているのである。

 対し、自然発生型の第一世代には型が存在しない。故に、己の魂を自由に、余すことなく、異能に注ぎ込むことができる。そのため、限界値が存在せず、その者のあり方によってはまさに神のごとき力を発揮することができるのだ。だが、異能科学が研究されて三十年経った今でも、第一世代へと覚醒する方法は確立されていない。偶発的に力に目覚める以外に第一世代へと至る方法はないのだ。

 一説には、第二世代の力が戦闘機に搭載されたミサイルであるならば、第一世代の力は核ミサイルであるとされている。そして力の差は、同系統の能力であればより顕著であると言われている。

 第二世代では、第一世代に勝つことはできない。これは世界の常識であり、誰もが信じて疑わない真実であった。

 ……三年前に、英国騎士団の競技場において行われた、第一世代と第二世代のサイコキネシス能力者同士の、決闘までは。


「能力値に限界があるはずの第二世代能力者、アラガミ・アカツキ……。彼の勝利は、全ての異能科学研究者の常識を覆し、昨日まで信じていたものすべてを否定する行為でした……」

「ええ、そうです。おかげで、団長は英国の信用を貶めたとして、一からの再スタートを余儀なくされたんです……」


 感嘆の吐息を漏らすメアリーに対し、リリィは悔しそうに歯ぎしりをする。暁の勝利が、よほど許しがたいのだろう。先を行く暁の背中を、穴が開けと言わんばかりに睨み付けている。

 啓太は彼女たちの言葉に頷き、そして続けた。


「……そして、第二世代の能力者たちにとっては先輩の存在が大きな指標になった。特に、僕の様な人間にとっては」

「指標……?」


 リリィは啓太の言葉に首をかしげる。

 あんな男が指標になり得るのか……強く疑問に思っているようだ。

 だが、啓太の目に迷いはない。彼は続けた。


「異能に限界はない……先輩は、それを証明してみせたんだ。磨き、鍛えることで、誰にも負けることがない、とても強い力になるって、僕に教えてくれたんだ」


 その瞳に輝くのは、強い憧憬。

 古金啓太という少年は、新上暁という男の背中をまっすぐに追いかけている。


「ここ、異能学園は全てを受け入れ……そして自らを磨き上げていく場所。何よりも練磨を美徳とするこの学園において、先輩以上にふさわしい人間は、きっと後にも先にも表れないよ」

「………」


 啓太の言葉に戸惑い、リリィは周囲に目を向ける。

 いまだ校庭に残り、多くの生徒たちが自らの異能を磨き上げている。

 小さな小石を飛ばすのにも苦労する者。自ら飛ばしたらしい炎が木に燃え移ってその消火に苦労する者。己の影か分身か、あるいはその両方かに翻弄され、戸惑う者。

 大勢の者が、自らの異能を磨き上げようと、それぞれに努力を重ねている。監督らしい教員の姿もちらほらと見受けられ、彼らの叱咤激励に返事をしたり、あるいは怒鳴り返したりと生徒たちの反応も様々だ。

 だが、皆に共通して言えることは……誰も弱音を吐かないことだ。誰もが何も言わず、懸命に己の異能を磨いている。


「………」


 そしてリリィは新上暁の背中を見つめる。

 ちょうど欠伸を掻き、腰のあたりをだらしなくボリボリと掻いているところだ。

 歩くときはやや猫背で、とてもではないがまっとうな学生とは言い難い。言動も素行も、怪しさに満ちていた。


「………むぅ」


 リリィには、どうしてもあの男と努力という言葉が結び付けられなかった。

 確かに敬愛する団長に土をつけたのだ確かだが、それは数多く用いた奇策が原因。今団長が彼と戦えば、また結果は違うはずだ。

 リリィは固くそう信じ、啓太の言葉に反した。


「私にはそう思えません。あの男も、所詮才能に胡坐をかいた、俗人の一人に思えます」

「俗人ってのは否定できないかな」


 リリィの言葉に啓太は苦笑する。


「一人暮らしで貧乏だからって、お金に汚いし。基本的に人の話は聞かないし」


 そう口にしながらも、暁の背中を見つめる啓太の眼差しには、強い尊敬の念が込められていた。

 そんな彼の様子が面白くなく、リリィは思わず口をとがらせ、こうつぶやいた。


「ケイタさんは騙されてるんです! いろんな人間に、その才能をもてはやされている、あの男に!」


 その言葉に、啓太は足を止めた。


「……そうかな?」


 そう呟き、まっすぐにリリィを見つめる啓太。

 その視線は、どこまでも真剣なものだ。

 ケイタの視線に射竦められ、リリィは足を止める。


「……本当に、そう思う? 先輩が、その異能をもてはやされ、その上に胡坐を掻いていると?」

「む、むぅ……」


 一瞬、そうだと反論しそうになったが、啓太の様子に気圧され、リリィは気まずそうに俯いた。


「……いえ、ケイタさんがそこまで言うなら、その、少しはそう言う部分があると認めるのはやぶさかじゃありませんけれど……」


 リリィは手をこね合せながら、別の切り口を探そうとする。

 そんな彼女の様子に苦笑しながら、啓太はこう呟いた。


「……リリィにも、すぐにわかるよ」


 そして穏やかに微笑み、そしてはっきりと口にする。


「先輩の……新上暁の、本当の姿が」

「……むぅ」


 啓太の笑顔の妙な圧力に、リリィは押し黙ってしまう。

 そのまま啓太は暁を追って歩き始めるが、リリィは腑に落ちなかった。


(ケイタさんは……アラガミ・アカツキが実力でフレイヤ様に打ち勝ったと思っているのでしょうか……?)


 だとすればそれは間違いだ、とリリィは考える。

 第二世代のものが、本当の意味で第一世代のものに勝てるはずがない。

 それが……世界の常識だからだ。




 なんか急に真面目な話になったなー。

 そして適当な設定が山盛りに増えていく。こういうのが後々自らの首を……!

 次回は生徒会のメンツ勢揃いな感じでー。少しでも学園ものっぽく……! ものっぽく……!


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