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Scene.68「正義は勝つ!のです!!」

 突然の混乱に見舞われかけた商店街に、リリィの気迫に満ちた声が響き渡る。


突撃する傘槍(チャージ・パラソル)……ッ!」


 気迫と共に顕現した、リリィの異能。

 傘を覆うサイコキネシスの力場を、リリィは勢いよく振り上げ。


「フル・スイィーングゥ!!」


 ボールを打つバットか何かのように、思いっきり振り回した。

 ボールの代わりにヒットしたのは、暴れていた異能者の腹部だった。


「おっぽぁ!?」


 サイコキネシスの頑丈な力場に力強く腹を打ち据えられた男は、唾液やら胃液やら内容物やらを吐瀉しながら、後ろに五メートルほど吹き飛ぶ。


「いまだ、確保ー!!」


 そしてその隙を逃さず、警備隊の隊員たちが一斉に襲い掛かり、男の身柄を抑えにかかった。


「ぬ、がっふぅ!? オノレぇ! 我が異能“影踊り(シャドウダンス)”が通用せぬとはぁ……!!」

「正義は勝つ!のです!!」


 若干興奮気味に叫ぶリリィ。

 取り押さえられる男に傘を突き付ける彼女の後ろで啓太がおろおろしながら北原に頭を下げた。


「あああリリィってば……。ご、ごめんなさい北原さん」


 リリィが今打ち倒した異能者は、周りの人間の影と自分の影を繋ぐことで、対象の動きを拘束し、操るという異能の持ち主だった。

 事前にその情報を得ていたらしい警備隊の者たちは、相手の異能に引っかからないように周囲を包囲。そして一斉に飛び掛かって取り押さえるつもりだったらしい。

 が、その場面に出くわしたリリィが、突然乱入。場をかき乱しただけではなく、そのまま勢いで異能者まで吹き飛ばしてしまった。

 まあ、突然の乱入者にもほとんど慌てず、異能者の確保を優先した警備隊の者たちはさすがと言えるが。


「いや、いいのよ、気にしないで。リリィちゃんにも怪我がなくてよかったけど……」


 北原は笑顔でそう言いながら、ふと首を傾げた。


突撃する傘槍(チャージ・パラソル)っていう割には応用効くんだねぇ。横スイングにも対応してるんだ」

「いえ! 初めて成功しました!!」

「ええっ!? そうなの!?」


 嬉しそうに飛び跳ねながらそう言うリリィに、啓太は思わず叫び返す。


「自信満々に振りあげるから、突撃する傘槍(チャージ・パラソル)の攻撃にああいうのがあるのかと僕思ったよ!?」

「いいえ? むしろ、今までは突撃しかできなかったんですよ。だから突撃する傘槍(チャージ・パラソル)っていうんです」

「あ、ああ……まあ、言われてみればそうだよね……」


 仮に傘に力場を纏うだけなら、わざわざ突撃する(チャージ)とは付けないだろう。


「けれど、アラガミ・アカツキより伝授していただいたサイコキネシスの訓練法のおかげで、なんとなく力場の使い方がつかめてきました! 今なら、傘を開いたままでもサイコキネシスの力場を維持できそうです!!」

「へぇー。それは応用の幅が広がりそうだね」

「はい!」


 啓太の言葉に嬉しそうに頷きながら、リリィは開いた傘をくるくると回す。

 今まで突撃一辺倒の戦い方から、普通の武器を振るうかのように力場を維持できたのがよほど嬉しかったようだ。

 そう言えば僕にもあんな時期があったっけなぁ、とか懐かしく思い出しながらも、啓太は北原へと向き直った。


「にしても……少し変ですね……」

「そうねぇ……。さっき啓太ちゃんに取り押さえてもらったのも含めて、商店街だけで二件。それ以外でも、暴れてる異能者を発見したって報告があるけど……」


 警備隊に支給されているスマートフォンを見つめながら、北原は険しい表情になる。


「ちょっと普通じゃないねぇ……一日に何件も、異能者が暴れるなんて通報があるのは」

「ですよね……」


 啓太も難しい顔で頷く。

 世界で最も治安の悪い都市でもあるまいに、警備隊への通報が同じ時間帯にいくつも重なるのは尋常ではない。

 そもそも、ここでは学生同士のケンカはあっても、いわゆる通り魔的な犯罪はほとんど起こらない。暮らしているのが、基本的に学生と研究者だけだからだ。

 だが、今日は商店街だけでも三件、場当たり的な通り魔事件が起きている。

 北原はスマートフォンに入って来たメールを見て、顔をしかめた。


「……なんてこった。異界学園の方にも暴れん坊が出たんだってさ」

「え、学園の方で!?」

「うん。まあ、そっちは暁ちゃんが取り押さえてくれたみたいだけど……」

「そうですか……よかった……」


 啓太は暁が犯人を取り押さえてくれたと聞いて、安堵のため息を突く。

 だが、北原は険しい顔のまま呟いた。


「けれど……啓太ちゃんたちが協力してくれた商店街(ここ)や、異界学園以外の異能者たちには逃げられてるからねぇ……」

「そうなんですか?」

「うん。情けないことに、こっちの包囲を突破されてね」


 苦々しそうな顔でメールを確認し、北原はまたため息を突く。


「……居住区にも表れたみたい。しかも、逃げられちゃったらしいよ」

「そんな……」


 啓太は愕然とした表情で北原を見つめる。

 傘を回すのを止め、日傘のように差しながらリリィは北原へと近づいた。


「キタハラさん、警備隊の方々は精鋭とお聞きしていますが……どうして異能者を取り逃がしてしまうんですか?」

「おぉう、耳の痛い質問が……」


 リリィの素朴な疑問に顔をひきつらせ、ばつが悪そうに頭を掻いた。


「んー……まだ異能科学が完全に解明しきってないから、異能者に対して有用な武器っていうか、道具が存在しないっていうのが一つ」

「そうなんですか? では、そちらのアサルトスタンガンは?」


 微かに目を見開いて、リリィは北原が担ぐアサルトスタンガンを見つめる。


「そちらは、暴徒鎮圧用装備と聞いています。それは、有効打になりえないんですか?」

「残念ながらねぇ。威力としては。リリィちゃんでも防げる程度だと思うよ?」


 北原は苦笑しながら肩を竦め、次の理由を話した。


「で、次に……現代において異能者は大半が子供であるということ」

「子供だから、ですか?」

「そ。もちろん、大人の異能者もいないわけじゃないけど、まだまだ少数派で、現代における異能科学論を支えているのは、リリィちゃんたち位の子供だって言われてるくらいよ」


 北原はそう言いながらどこか遠くを見つめる。

 異能科学論は、かつては眉唾オカルト学問として扱われていた分野だ。提唱され始めた当時は当然、世界にそれなりに浸透した今でも、改めて異能を学びたいという大人はいない。

 故に、異能科学においてその最先端を走るのは常に子供たちなのだ。親が物は試しと子供に異能を学ばせてみるというケースが非常に多い。

 こうした現状を“児童による人体実験”などと揶揄されることもあるが、とにかく異能者には子供が多い。


「だからってわけでもないけど……力尽くでの制圧とかって、結構世間がうるさいのよ。異能を持った子供が、自分の力の制御を間違えて骨を折るのと、暴走したのを大人に取り押さえられて骨を折られたのじゃ、大分意味も変わってくるしね」

「そうですね……」


 傘を閉じながらリリィは難しそうに頷く。

 自身も、人を傷つけられる異能を持つが故に、思い悩んでいるのだろう。

 そんな彼女を安心させるように、北原は笑って見せる。


「……その二つが、主な原因だけど、一番大きいのはおっさん達警備隊の力不足だねぇ」

「えっ?」

「おっさんたちは、町を警備して、そこで暮らす人間たちを安心させなきゃいけないお仕事なんだよ? 人が暴れるってことは、その人が安心できてないってこと。だから、それを未然に防ぐのも、おっさんたちの仕事ってわけよ」


 北原は笑い、そしてくしゃくしゃとリリィの頭を撫でた。


「そう言うわけだから、リリィちゃんが悩む必要はないんだよ? 全部、おっさんたちが悪いのよー」

「北原さん……」


 自虐に走る北原を痛ましそうに見つめるリリィ。

 そんなリリィの眼差しを受け、少し悲しそうに目を細めた北原だったが、すぐに笑顔を取り戻しリリィの頭から手を離した。


「……さて、悪かったねぇ、デートの邪魔して」

「え、あ、いえ、それほどでも、にゃいです……」


 デートと言われ、不意を打たれたように顔を赤くするリリィ。

 彼女の初々しい反応に微笑みながら、北原は啓太へと振り返った。


「そーいうわけだから、啓太ちゃんはしっかりリリィちゃんをエスコートすること! いいわねん?」

「僕、北原さんの事、きらいです」


 またもデートと言われ、啓太は頬を赤く染めながら、北原を睨みつける。


「あぁん、嫌われちゃったー」


 北原は大げさにそう言いながら、しょんぼり肩を落として警備隊の者たちの方へと歩いていった。

 そんな北原の背中を睨み続けながら、啓太はリリィへと歩み寄った。


「……それじゃあ、リリィ。行こうか」

「は、ひゃい!? わ、わかりました」


 北原の言葉の影響が抜けきらないリリィは、素っ頓狂な悲鳴を上げながら背筋を伸ばす。

 そんな彼女の可愛らしい様子に笑みを浮かべながら、啓太は少し考える。


(……にしても、変だよね。こんなに連続して異能者が暴れるなんて)


 考えるのは、暴れていたという異能者たちの事。

 異界学園にまで現れたという彼らは、いったい何がしたかったのか?


(現れて、暴れて、そして逃げ出す……。まるで、そのこと自体が目的だったみたいだ)


 商店街と異界学園にいた異能者に関しては捕まえられたが、それ以外に関しては逃げられている。が、暴れたこと以外に今のところ目立った被害が報告されているわけではない。

 誰かが死んだわけでもなければ、研究街に現れた異能者が何か盗んだわけでもない。

 まるで、自らの存在をアピールするかのような行動に、啓太は不審を覚える。


(そんなことをして、何になるんだろう? 一体――)











「――いったいあの女何考えてやがんだよ?」


 大量のコンテナが並ぶ倉庫街。

 人の出入りも激しいが、死角も多いこの場所にクーガと呼ばれる少年が腰かけていた。

 傍には本を抱えた少女と、包帯を巻いた男の姿もある。


「とにかく異界学園にいる連中の気を引くように動け、とか……どういう指示だよ?」

「わからない……陽動、のつもりなのかも……」


 クーガの言葉に、少女も首を傾げながらそう呟く。

 陽動、と言われてクーガは、嫌悪感を露わにした。


「ハッ! 俺たちは捨て駒ってかぁ? まあ、実際捕まってんのは教団連中だけだけどなぁー」

「無事逃げ切ってる人たちも、いるよ?」


 少女は本を開き、その表面に踊る文字を読みながらそう呟く。

 流れる文字を読みんでいた少女は、とある一文を目にして、少し悲しそうに顔を歪めた。


「……けど、ごめんなさい。あなたの、お友達の四人組は、捕まっちゃったみたい……」

「………」


 腕を組み、コンテナに背中を預けていた包帯男は、少女の言葉に首を振った。

 気にするな、とでもいうかのようだ。

 少女は申し訳なさそうに目を伏せながらも、クーガの方を見る。


「……どうする? 明日も、続ける?」

「んー。とりあえず、もう一回やってみてから、またあの女のところへ行こうぜ」


 クーガはそう言って、手の中に小さな球体を生み出す。


「俺は気の長い方じゃねぇからなぁ……。あんまトロ臭いようなら、急かしてやろうぜ?」

「……ん、了解」


 少女は頷き、本を閉じる。

 そして改めてページを開き直すと、その本から文字が踊りだし……。

 三人の姿は、いずこかへと消えていったのだった。




 裏で活動を続ける三人組。

 彼らは、何を目的に動くのか?

 以下、次回ー。

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