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Scene.67「そこで満足してたら発展はねぇな」

「チィッ!!」


 男たちのうちの一人が舌打ちと共に、炎の刃を組み合わせる。


「フレアブレードォ!! フルスロットルゥゥゥゥゥ!!」


 男が叫ぶのと同時に、二つだった炎の刃が一つとなり、極大の獄炎となって天を突く。


「くらえぇぇぇぇぇぇ!!!」


 そして振りかぶった獄炎の刃を、男は勢いよく振り下ろした。

 暁はそれを真正面から受け止める。


「我流念動拳……巨掌」


 両手を上げた暁の手のひらに、サイコキネシスの力場が宿る。

 振り下ろされる獄炎の刃を、その手のひらで受け止め、握りしめる。

 真剣白刃取りならぬ、真剣炎刃取りといったところか。


「んな!? このぉぉぉぉぉぉ!!」


 男はその光景に目を剥いたが、すぐに叫んで炎の刃に力を込める。

 つかもとで炎が膨れ上がり、刃に更なる力を供給しようと唸りを上げる。

 だが、次の瞬間。


 ゴッバォン!!


「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!??」


 膨れ上がった力は、暁が握ったサイコキネシスの力場によって行き場を失い、男の手元で破裂した。

 男が握っていた剣の柄は粉々に砕け、手のひらは爆発の衝撃で引き裂かれてしまう。

 爆発によって転んだ男は、手が砕けた痛みに叫び、のた打ち回る。

 暁は小さくため息を突き、男の顔面を足で踏み抜いてやる。


「ぐぎゅっ」


 小さな悲鳴を最後に男の体がビクンと跳ね、そのままぐったりと動かなくなる。


「まずは一人……いや、二人目か」


 先に倒した一人の男の存在を思いだし、暁はそう訂正する。

 そんな暁の背後で、炎が燃え猛る音が聞こえてくる。


「「うりゃぁぁぁぁぁぁ!!!」」


 聞こえてきた方向に振り返ると、残った二人の男たちが、互いの炎の刃を組み合わせ、こちらに斬りかかってくるところだった。


「「フレアブード・ダブルディスパッチだぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」」


 先ほど倒した男が顕現してみせたよりも、はるかに強烈な熱波が暁を襲う。

 暁はそのまま地面を蹴り、宙へと逃れる。


「「逃がすかぁぁぁぁぁぁ!!」」


 だが、それで逃げ切れるほど男たちも甘くはない。

 二人は増幅した炎の刃を勢い良く振り上げ、空中にいる暁に向けて斬り飛ばす。

 宙を飛んでしまった暁に逃げ場はない……。


「ああっ!? 宙を、蹴って!?」


 はずだった。

 だが、サイコキネシスとの少年が驚きの声を上げる。

 なんと暁は、その場に足場があるかのように宙を蹴り、自らの体を移動させたのだ。


「「なっ!? なんだとぉう!?」」

「自分の体重以上の力が出せるんなら、この程度へでもねぇよ」


 慄く男たちに聞こえているかどうかは別として、暁はそう呟き、さらにもう一度宙を蹴って見せる。


「「く、くそがぁぁぁぁぁぁぁぁ!!??」」


 男たちは逆上し、手にした巨大な炎の刃を振り回す。

 空気が焦げ、熱が視界を歪ませ、膨張した大気が衝撃波を生む。

 圧倒的な暴威を前に、暁は今度は跳躍せずに炎の刃を待ち構える。


「先輩!」


 迫りくる悲劇を前に、少年が声を上げる。

 だが、暁はゆっくり片足を上げる。


「我流念動拳……」


 上げた足先にサイコキネシスが集中し、俄かに光り始め。


「念動・爆脚!」


 勢いよく振り下ろした踵を、迫りくる炎の刃に叩き付ける。

 拮抗は数秒。暁の振り下ろした足は、男たちが生み出しが獄炎の刃を粉々に打ち砕いた。


「「なっ!?」」


 目の前の結果に、言葉を失う男達。

 暁はその隙に、地面に着地する。


「互いの異能で、力を増幅する。限定的にではあるがゲンショウ型でハコニワを生み出す……。発想は良かったな。ただまあ……」


 コキリと、指の関節を鳴らす。


「そこで満足してたら発展はねぇな」

「く、くそぉ!!」


 暁の言葉の中に侮辱のニュアンスを感じた男が激昂し、炎の刃を生み出そうとする。

 握りしめた剣の柄を振り上げ、炎を灯す。


 トン。


 そんな男の胸に、暁の手のひらがふれたのは一瞬の出来事であった。


「っ……!?」

「我流念動拳、衝破」


 瞬く間に間合いを侵略されたことに、驚く暇は男にはなかった。

 暁の手のひらから打ち出された一瞬の衝撃波がその身を突き抜け、体ごと意識を吹き飛ばしたからだ。


「―――っ!!??」


 男の体は宙を舞い、為すすべなく地面へと転がる。


「これで三人。あとは――」

「ああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」


 暁が振り返るより早く、最後に残された男が悲鳴と共に炎の刃を振り下ろす。

 一瞬で仲間をやられてしまったショックと、次は自分の番であることへの恐怖が入り混じった、恐ろしい形相で手に持つ炎の刃に力を込める。


「お前だけだな」


 振り下ろされた刃を暁は、今度は掌で受け止める。

 サイコキネシスの壁に阻まれた炎の刃が、じりじりと音を立てる。


「くぁぁぁぁぁぁぁ!!! 燃えろ! 燃え尽き――」

「衝破」


 男はさらに力を籠めようとするが、それより先に暁の一撃が炎の刃を打ち砕く。

 火薬の爆ぜるような音共に、男の力が吹き飛ばされる。


「あ……ああっ……!?」


 男の顔が絶望に染まる。

 そんな男の顔面を、暁は固く握った拳で打ち抜いた。


「おげっ!?」


 無様な悲鳴と共に男は吹き飛び、そのままグラウンドをゴロゴロと転がっていく。

 うつぶせに止まった男はしばらく脊髄反射でぴくぴくと動いていたが、意識はなく、再び起き上がることはなかった。


「これで四人……ラストだな」

「先輩! 大丈夫ですか!?」


 校庭で暴れていた不審者たちをすべて撃破した暁に、まだ逃げていなかったサイコキネシストの少年が駈け寄った。


「あん? なんだ、逃げてなかったのか」

「先輩が、心配で……でも、さすがです、先輩!!」


 少年は暁を見上げて、きらきらと瞳を輝かせる。

 暁はその少年の視線が眩しすぎるのか、フイッと視線を逸らしてしまった。


「おう……そりゃ、どうも」

「僕もいつか、先輩のようなサイコキネシストになりたいです!!」

「まあ、頑張ればなれるんじゃね?」

「はい、頑張ります!!」

「いやはや、下級生に持てるね、新上君」


 どうやってこの少年を追い払うか迷っていた暁の元に、口元を扇子で隠した会長がやってきた。

 声の調子からからかいの色を感じ取った暁は、舌打ちしながら会長の方へと振り返る。


「ほっとけ。おら、お前もいつまでもじゃれつ出でないで、帰るなりなんなりしな」

「はい! それじゃあ、ありがとうございました! 新上先輩!!」


 シッシッと追い払うように手を振る暁の様子にもめげず、少年は元気よく頭を下げて駆け出していった。

 少なくとも寮に帰る方向ではない。どうやら、先ほどの暁の様子に触発されてしまったらしい。


「いやぁ、元気がいいねぇ」

「悪いことじゃねぇだろ」


 暁はどことなく爺臭い会長の言葉にため息を突きながら、改めて会長へと向き直る。


「とりあえず、こっちは終わった。警備隊への、連絡はしてくれたか?」

「そちらも連絡はしておいたよ。もうすぐ来ると思うから、とりあえず不審者の皆さんを一ヵ所に……」


 会長が説明している間に、グラウンドに警備隊御用達の装甲車が現れる。


「ほら来た」

「じゃあ、とりあえず一ヵ所にまとめとくぞ」


 暁は装甲車を見て頷きながら、そこらに散らばっている男たちの体をサイコキネシスで引きずって集める。

 装甲車は暁のいる場所までやってくると停止し、後ろの方で扉が開いて中から警備隊の者たちが降りてきた。

 隊長と思しき中年の男性が会長の元までやってくると、身分証明書を提示する。


「異界学園に、不審な暴徒が現れたとの通報があったのだが……」

「ええ。つい今しがた鎮圧に成功しまして、身柄はあちらに」


 会長が示した先には、暁が死体か何かのように積み上げる四人の男の姿があった。

 それを見て、隊長は頷く。


「さすが、異界学園生徒会……。こうもあっさり暴徒を鎮圧してしまうとは……」

「いえいえ。これもすべて新上君の実力によるものですから」


 会長は事実をそのまま口にするが、隊長はそれを謙遜と受け取ったようだ。


「ハハハ、謙虚だな。ともあれ、協力感謝する。おい!」


 隊長は後ろに控えていた部下たちに指示を出し、男たちの身柄を本格的に拘束し始める。

 部下たちがてきぱきと男たちを拘束するのを眺めながら、隊長はポツリとつぶやいた。


「しかし、これで四件目だ……。昨日の今日で、どうして……」

「四件目? こんな事件が、四件も起きてるんですか?」


 隊長のつぶやきを聞き咎めた会長は、鋭くそれを指摘する。


「あ、いや」


 自身の漏らした呟きを聞かれたことに気が付いた隊長は一瞬気まずそうな表情になるが、どうせすぐにわかることだろうと思ったのか、すぐに教えてくれた。


「……実は、商店街や研究街など、場所を問わずに異能者が現れて暴れているという通報が、今日だけで四件も入っているんだよ」

「なんと、それは穏やかじゃありませんね」


 隊長の言葉に微かに目を見開く会長。

 力をつけた異能者が調子に乗って暴れている、という通報自体はタカアマノハラでは珍しくとも何ともないが、日に四件となるとさすがにハイペースだ。


「幸い、昨日の異能者ほど強力ではない者が多いため、警備隊だけで対応可能だ。君たちは、心配しなくともよいぞ」

「そうですか……。教えていただき、ありがとうございます」

「いや、気にしなくても……」

「隊長!!」


 素直にお礼を言う会長に、隊長は笑顔を見せるが、装甲車から顔を出した部下の報告に顔色を変える。


「また通報です! 今度は居住区方面で、異能者が……!」

「なんだと!? すぐに向かうぞ!」

「了解!」


 隊長は会長の方へと向き直ると、申し訳なさそうに頭を下げた。


「すまない。私はもう行かねばならない。もし今回の報奨金などを受け取りたい場合は……」

「委員会の方へ、連絡させていただきます」


 会長はそう答える。

 今回の場合のように、暴走した異能者や暴徒などを取り押さえ、それを警備隊に通報すれば、委員会から報奨金を受け取ることができるのだ。もちろん、支払いはポイントになるのだが。


「すまない。それでは失礼する!」


 隊長はもう一度頭を下げ、部下たちが全員乗り込んだのを確認してから、装甲車へと乗り込む。

 四人の暴走異能者を載せた装甲車は、そのまま急発進してグラウンドを飛び出していった。

 その姿を見送りながら、暁は小さく首を傾げた。


「異能者の暴走事故ねぇ。春先だし、そう言う気分になるのかね」

「なんでも春のせいにするのはいかがなものかと思いますよ?」


 会長は口元を扇子で覆いながら、油断なく目を眇めた。




 というわけで、暁さん圧勝! まあ、この程度では相手にもなりません。もっとレベルが高くないと。

 しかしタカアマノハラにも不穏な動きが……。いったいどういうことなのか?

 以下次回ー。

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