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Scene.65「この俺が負けるとでも本気で思ってるのかよ?」

 昼休みから一時間ほど経ち、己の異能学習や修練を終え、ちらほらと帰り始める生徒の姿が見えてきた。

 まばらに生徒たちが動くグラウンドを眺めながら、会長は生徒会室に集まった者たちにゆっくりと告げる。


「……さて、おおむね予想通りというか。昨日、商店街に現れた爆破系異能者の捜索依頼が、委員会から降りてきたよ」

「討伐じゃなくて、捜索なんだな」

「そもそも対象が人間だからねぇ。むやみやたらに討伐とはいかないだろう?」


 物騒なことを言い出す暁の言葉に苦笑しながら、会長は振り返る。

 暁とメアリー、駿と光葉、そして美咲の、計五名がそこに座っていた。


「ひょっとしたら知っているかもしれないけれど、昨日未明にタカアマノハラ下部で、原因不明の爆発事故が起きている。例の異能者からの犯行声明かもしれない、と委員会は判断しているようだよ」

「一の言ってた奴か」


 聞き覚えのある話に、暁は気だるげにつぶやく。

 メアリーもそれに頷きながら、しかし会長へと問いかけた。


「そうですね……。しかし、それだけでは、わざわざ生徒会に依頼する理由にはならないのでは?」


 メアリーの言うとおり、それだけでは根拠に薄い。

 明確な声明が出たというのであればともかく、一の話から分かっている限りでは、ただ爆発事故があったというだけだ。

 たったそれだけで、委員会が生徒会に対して依頼する理由にはならないはずだ。

 そんなメアリーの問いに対し、会長はコーヒーを啜りながら答えた。


「それがねぇ。これとは別に、近衛君が委員会からの依頼を受けたんだよ」

「ツボミさんが? ということは……視たんですか? 犯人の姿を」


 つぼみが呼び出された、ということは未来予知に他ならない。

 その上で委員会が依頼したとなれば……近いうちに、また何かあるということだろうか。


「うん、まあ、見たというか……一緒に居たっていうか」


 なんと説明したものかと迷うように視線をさまよわせた会長は、暁の方を見る。


「ちゃんと説明するとだね。昨日のうちに撮影しておいた異能者の写真を元に、近衛君の白紙の予言書(ポステ・プロペ)で見てみたら……新上君とその異能者が一緒に居るらしいんだよねぇ」

「俺がぁ? どういう意味だよ?」


 つぼみの予言に自身の名が上がり、素っ頓狂な声を上げる暁。

 冗談じゃないというように肩を竦めながら、体を起こして会長を睨みつける。


「あいにくだが、俺ぁ、そんな異能者は知り合いにいねぇぞ。どんな面してんだ、いったい」

「こんな面だよ」


 そう言って会長が差し出した写真に写っているのは、顔の全てが包帯で覆われた男の姿。

 暁はしばし無言で写真を睨み、首を傾げた。


「……心当たりがありすぎて逆にわからねぇ。とりあえず、襲いかかってきた奴はしこたま殴ることにしてるからなぁ」

「まあ、君の事だからそうだと思ったよ。近衛君の予言によると、仲良くしてる、っていうよりは対立してる感じみたいだし」


 うーん、と割とまじめに悩んでいる暁を呆れたように見つめながら、会長はテーブルの上に写真を放り投げる。


「写真しか使ってないせいでそこまでしかわからないものの、近い未来に君とこの異能者が対立するのは間違いないようだからね。今回の事も、依頼というよりは委員会公認というべきかもねぇ」

「ハッ! 喧嘩していいってか? どうせ無傷とか、そう言う条件付きだろ?」


 そう、あざけるように言う暁だが、会長は首を横に振った。


「いや、さすがに死んだら困るけれど、死ななければ多少の無茶を許すそうだよ」

「あ?」

「それはまた……ずいぶん太っ腹と言いますか」


 会長の言葉に、美咲が目を見開いて驚く。

 死ななければ多少の無茶を許す……要するに、死ななければ何をしてもいいと言っている様なものだろう。

 普通の異能者であれば、そんなことをいちいち気にする必要もないが、暁ほど力のある異能者ともなるとそうもいかない。加減を間違えれば、あっさり人が死ぬ威力を叩きだす男なのだ。

 これは、暁に対するリミッター解除許可とも言えるだろう。つまり、本気でその異能者を捕えろ、ということなのだろうか。

 会長は扇子で自分を仰ぎながら、片目を眇めて話を続ける。


「どうも委員会の方に腹案があるみたいでねぇ。その辺りは話してもらえなかったけれど、異世先生の方から何か聞いてるみたいなんだ」

「ほー。研三のおっさんがなにを言ったのか、お前ら知ってるか?」

「いえ。ここ二日ばかり、家に戻らず、中央塔にこもりきりなので」


 腕に抱き付く光葉をそのままにしながら、駿は暁に応える。


「ただ、昨日電話した時に、暁が持ちかえったディスクがどうとか言ってました。何か知りませんか?」

「ディスクゥ? ってあれか? オラクル・ミラージュとやらの? なんかヤバいもんだったのかね、アレ」


 そう言って暁は、少し前に制圧に臨んだ、オラクル・ミラージュで発見したディスクを思い出す。

 わざわざ大がかりな仕掛けで隠すほどの代物とも思えなかったのだが……。


「それは西岡のおっさんに渡したんだが……つまり研三のおっさんのとこまで召し上げられたのか。西岡のおっさん、研三のおっさんからなんか話聞いてないかね」

「ふむ。まあ、その辺りは後日にでも西岡さんに尋ねるとして」


 話が盥回しになってしまったためか、会長は切り替えるように、扇子を音を立てて閉じた。


「ともあれ、委員会はその異能者の身柄を欲しているんだ。生きたままの状態で、ね。話を聞く限り、強力な異能者のようだし、それは納得なんだけれどね」


 会長はスッと、まっすぐに暁を見つめて静かに問いかけた。


「実際のところ……やりあって勝てそうかな? 新上君」

「バカにしてんのか、会長?」


 真剣な表情をした会長を見下すように鼻を鳴らし、暁は腕を組んだ。


「俺が勝てねぇのは、世界中探しても駿の奴だけだ。それ以外の異能者に、この俺が負けるとでも本気で思ってるのかよ?」

「……まあ、君ならそう言うと思ったよ」


 傲慢ともいえる暁の言葉を聞いて、会長は薄笑いを浮かべる。

 聞きようによってはこの場にいるすべての異能者を見下したともいえる発言だが、彼にはそれだけの実績がある。

 第一世代の異能者、フレイヤ・レッドグレイブ。かの英国最強にして、世界最強のサイコキネシストを降す実力は、伊達ではないのだ。

そんな自信満々の暁を横目で眺めながら、美咲が彼に問いかける。


「暁さんなら、実際勝ちそうですけど……勝算はあるんですか? 同系統の啓太さんは負けてるわけですけど」


 まあ、当然の疑問である。

 力場の発生の仕方や戦術が違うとはいえ、かの異能者に敗北した啓太はサイコキネシスの持ち主だった。

 いくら暁が力のある異能者とはいえ、その戦術は基本的には啓太に準ずるはずである。だとすれば、相手側に手札が割れている状態のはずなのだが。

 そう案ずる美咲に、暁は心配無用というように頷いてみせる。


「心配すんじゃねぇよ。相手の異能がどうあろうと、結局は一撃ぶち込んだ方が勝つんだ。これはガキのケンカだろうが、国同士の戦争だろうが、変わらねぇ」

「いえ、そんな暴論振り回されても困るんですけど」


 頭痛を覚えて美咲はこめかみを押さえる。

 まあ、言わんとすることは分かるが、そこに持ち込むまでが重要なわけで。


「まあ、実際問題、古金の奴とは状況も違うだろ。あいつの場合、周りに警備隊もいたっていうじゃねぇか。それをカバーしながらじゃ、さすがに攻めにも回れんかったろうしな」

「そうですねぇ」


 暁の言葉に、美咲も同意するように頷いた。

 確かに、聞いた限りの状況は、異能者の周りを警備隊が包囲し、そして異能者はそこを瞬時に爆破できるという状況だったらしい。

 そんな状況で、自分と警備隊、そして一緒に巻き込まれた森山という少女も守りながら戦って勝てと言うのは、年若い啓太には荷が重すぎる話だろう。

 事実、途中で駿が乱入しなければかなり危うい状況だったという。まあ、おかげでというべきか、啓太とリリィは仲直り出来たわけなのだが……。


「ということは、周りに警備隊の皆さんがいなければ、啓太さんでも勝てたんでしょうかね?」

「かもな。まあ、俺は周りにだれがいようと、かまわずそいつを殴り倒しに行くが」

「少しは庇ってあげてください」


 堂々そう宣言する暁を半目で睨みつける美咲。

 そんな二人のコントに苦笑しつつ、メアリーは会長へと指示を仰いだ。


「それで会長……委員会からの依頼ですけれど、具体的にはどうするんでしょうか?」

「差し当たり、久遠君を中心にタカアマノハラ中を捜索して、見つかり次第みんなで捕まえに行く感じだね。まだ犯人がここにいればだけど」

「あれ、また馬車馬のごとく働かせられる予感が」


 会長の言葉に少し泣きそうになりながら振り返る美咲。

 そんな彼女へすまなさそうにしながらも、会長はさらっと言ってのける。


「だって、近衛君はまだ委員会からの依頼が終わってないのか出てこれないようだから……。あとは人海戦術ならぬ、目玉戦術しかないじゃないか」

「まあ、わかってますけど……私だけ、ギャランティ大目に申請しといてくださいよー? フィルムだってただじゃないんですから……」

「フィルムに関しては、必要経費ということで、委員会に申請しておくよ」


 美咲はぶつくさ言いながらも、自分のカバンを確認する。

 そんな彼女の様子に苦笑しながら、会長は暁の方を向く。


「で、実際の捕縛は新上君に頼むとしよう。そうすれば、近衛君が見た状況を作れるわけだからね」

「おう、そーだな」

「ツボミさんの予言を成就させておくことには、何か意味が?」


 二人の発言が気になったのか、メアリーがそう問いかける。

 会長はなんてことないような顔で笑いながら、それに答えた。


「いや、何。近衛君の異能は精度が高いからね。それが委員会からの信頼の元になっているわけだが、こっちの都合でその精度を落とすわけにもいかないからねぇ」

「一つ外すだけでも、予知系異能者にとっては痛手だからな。状況再現だけで済むんなら、こっちが協力してやりゃどうにかなるしな」

「ああ、なるほど……」


 その答えに、メアリーは納得したように頷いた。

 要するに、つぼみの信頼を落とさないためというわけだ。

 この二人も中々憎いことをする。

 今後のことをいつも通りの表情で話し合う二人を見つめながら、メアリーは笑う。


「フフ……やはり、お二人は――」

「す、すいません!!」


 メアリーの言葉は、その先は突然の来訪者によって遮られてしまった。

 息を切らせながら入ってきたのは、下級生のようだった。

 会長は驚いたように目を見開いて、入ってきた少年を出迎える。


「おや、どうしたんだい? そんなに慌てて。少し落ち着いて――」


 会長は少年を宥めようとするが、彼はそれを払いのけて訴えかけた。


「こ、校庭に変な人が現れて、異能で暴れてるんです! 何とかしてください!!」


 その言葉を聞いた瞬間、暁は窓を開けて外へと飛び出していく。


「新上君!」


 会長はそんな暁を呼びとめながらも、自身も校庭を見る。

 先ほどまで平和そのものと言えた校庭は、いつの間にか現れた一団によって俄かに荒れ始めているところだった。




 突然の来訪者。飛び出す暁!

 彼は、学園を守れるのか?

 以下次回ー。

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