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Scene.56「やはりパイロキネシス系か!」

 啓太たちが爆発音の上がった現場へ到達すると、そこには凄惨な光景が広がっていた。


「これは……!?」


 焼けた看板。ひしゃげた軒先。辺りに転がっているのは、爆発によって破壊された建物の破片だろうか。

 火の手まで上がり、何が燃えているのか真っ黒な煙が絶えず立ち上っている。

 見れば、爆発に巻き込まれたのか傷を負い、気絶している人たちの姿まで見える。

 ツン、と肉が焦げるようなひどい匂いが鼻を突いた。


「っ……!」


 辺りの光景の凄惨さに思わず袖で顔を覆ってしまう。

 だがそれでも目を凝らすと、爆発の中心点と見える場所に誰かが立っているのが見えた。


「あれは……?」


 メラメラと燃え盛る炎の中に立ち尽くしているのは、男のようだった。

 顔には包帯を隙間なく巻き、かろうじて視界が確保されているだけ。いったい誰なのかは、啓太には思いもつかなかった。

 被害者の一人かと思い、啓太は駆け寄ろうとする。


「そこの人! 一体何が……!」

「待って!!」


 そんな啓太を、文が止める。

 腕をつかみ、引きずるようにしながら、文は必死に啓太を引き留めた。


「も、森山さん!? どうしたの一体!?」

「ダメ、啓太君……! あの人、おかしいよ!」


 啓太を引き留めようとする文の体は震え、怯えているように見えた。


「おかしい……?」


 啓太はその言葉に、もう一度男の方を見る。

 爆心地に立ち、ただただぼうっと空を見上げる男。

 異様な光景ではあるが、文が怯える程かどうかまでは、啓太には推し量れなかった。


「いったい、何がおかしいの……?」

「あの人、心の中がぐちゃぐちゃだよ……! まるで、誰かに無理やりかき回されたみたい……!」

「……? どういうこと……?」


 心を読み取る文の言葉に、啓太は眉根を顰める。

 啓太にはあまりにも断片的すぎて、よくわからなかった。

 だが、より深く問いただす時間はなかった。

 啓太たちの目の前に、タカアマノハラ警備隊の武装トラックが現れたからだ。


「うわっ!?」

「きゃ!」


 けたたましいブレーキ音とともに数台の小型トラックが止まり、その中から対異能者用重装備で全身を固めた警備隊隊員たちが現れる。

 一見するとパワード・スーツでも着込んでいるようにも見える警備隊の隊員たちは、素早い動きで男を包囲し、負傷した者たちを助けてゆく。

 アサルトスタンガンを構え、爆心地の中心の男に狙いを定める。距離は15メートル前後ほどだろうか。アサルトスタンガンの射程としては、適正と言えるかもしれない。

 十分な射程距離をを開けて警備隊の者たちが並び立つ。

 そして、最後に西岡が現れ、啓太たちの姿を見て少し驚いたような表情になった。


「ん……? 啓太君か!?」

「あ、はい。西岡さん、これは……?」

「悪いが説明している暇はないんでな。君たちは下がっていなさい!」


 西岡は啓太の質問を遮りそう言うと、スピーカーに繋がったマイクを手に取り男に向かって叫び始めた。


「そこのお前! 通報により、貴様がこの惨状を引き起こしたのは分かっている! 大人しく、投降しろ!!」

「これを、あの人が……」


 啓太は改めて周囲を見回す。

 まるで商店街の通りに爆撃でも行われてしまったかのような有様だ。

 聞こえてきた音は一回だった。もし一回の異能発動でこの惨状を生み出したのだとすれば、あの男の異能は警備隊の装備では太刀打ちできないレベルである可能性が高い……。


「……西岡さん!」

「三つ数える! その間に、投降しろ!!」


 啓太は慌てて西岡に声をかけるが、西岡はそれを無視してカウントダウンを始める。


「ひとぉーつ!」


 男は西岡の声にゆらりと視線を巡らせる。


「ふたぁーつ!」


 そしてゆらりと片腕を上げ、西岡の方へと向ける。


「みぃーっ――!!」


 そして、音を鳴らすように軽く弾いた。

 瞬間、赤い導火線の様なものが走ったように、啓太には見えた。


「――!!」


 啓太は腕を一閃させる。

 投げつけた一枚のトランプはまっすぐに男と西岡の間に割って入り、西岡に向けて走る導火線にぶつかった。

 トランプが導火線に接触すると同時に、爆音と閃光が轟く。


「ぐぉっ!?」

「うわっ……!?」


 爆炎のあまりの強力さに西岡と啓太は腕で目を覆う。

 手榴弾などというレベルではない。ダイナマイトが目の前で炸裂したと言われれば納得できるほどの爆発が、男を覆っていた警備隊たちを襲う。


「これは……! やはりパイロキネシス系か!」


 濛々と立ちこめる爆炎を前に西岡は脂汗を流す。

 パイロキネシス系の異能は、特に危険なものの一種として認識されている。

 理由は極めて単純。サイコキネシスと違い、大した調練を経ずとも十分な殺傷力を産むことができるからだ。

 実際、今啓太が投げたトランプがなければ西岡はこの爆発を直接喰らっていた可能性が高い。

 今回の警備隊の者たちが重装備なのは、通報に際して男の異能について聞いていたからである。主に異能としては主流なサイコキネシスやパイロキネシスに対する防御力を高める目的のアサルト・スーツで身を固めているが、この爆発を直接喰らって耐えられるかどうかはさすがにわからない。

 西岡はマイクに向かって叫ぶ。


「――投降の意思なしと判断する! 発砲許可! 撃てぇ!!」


 西岡の言葉に、アサルトスタンガンが一斉に火を噴く。ゴム弾が飛び、爆炎の向こう側へと消えていく。

 だが、次の瞬間。赤い導火線が警備隊の列の一角へと伸びる。


「!? うあぁっ!!」


 それに気が付き、隊員が飛びのこうとするが、わずかに遅い。

 爆炎が上がり、列が崩れてしまった。

 直接炎を浴びてしまった隊員たちの着ているスーツに火が移り、それを消そうと隊員たちは必死に地面の上を転げまわった。


「当たってないのか……!? くそっ! 消火急げ!」


 西岡の指示に、何人かが列を離れて火のついた隊員たちの消火活動に当たる。

 銃撃が止まない間にも、西岡は新たな指示を出していく。


「フラッシュグレネード!」


 隊員の一人が、小さな手榴弾の様なものを取り出す。

 西岡が叫んだとおりのもので、音と閃光で相手を気絶させるものだ。

 ピンを引き抜き、晴れかけた爆炎の向こう側に向かって投げつける。

 だが、フラッシュグレネードは途中で男の異能によって爆破されてしまう。

 まるで爆炎の向こうから見えているかのような動きだ。爆炎が視界を塞いでいるのは向こうも同じはずである。

 西岡は相手の反応の速さに不可解さを感じながらも、指示を飛ばす。


「ダメか……! 散開! 動き回りながら、対象を狙え!!」


 煙が邪魔をしているのであれば、晴らすか見える位置に移動しなければならない。

 隊員たちは素早く動き始め、爆炎を迂回しようとする。

 が、その進路を遮るように、先ほどの爆発ほどではない小爆発が隊員たちの進路を遮る。

 一ヵ所ならず複数個所、爆破されるのを見て西岡は舌打ちする。


「チッ! 一ヵ所だけじゃないのか!? このままじゃらちが――!」


 開かない。そう叫ぼうとした西岡の元に、赤い導火線が伸びる。


「っ! 隊長!」


 隊員がそれに気が付き、注意しようと声を上げる。

 それに気が付き西岡も避けようとするが、それよりも導火線が伸びる方が早い。


「くっ!?」


 それでも何とか回避しようとする西岡。

 しかし、導火線は無情にも彼の眼前まで伸び――。


切られた札(ワイルド・カード)ッ!!」


 不意に、西岡の襟首を何かが引っ張り、導火線の前に幾枚ものトランプが飛び込んでくる。

 トランプはあっという間に中空に壁のように並んでゆく。


「う、ぉっ!?」


 驚く西岡の眼前で爆破は起こったが、トランプの壁に遮られ、爆風は西岡はおろか周りにいた隊員たちにさえ届かない。

 自らの異能、切られた札(ワイルド・カード)を展開した啓太は、続けざまに叫ぶ。


「サイコウェーブ……展開っ!!」


 彼の声に呼応するようにトランプは横に広がる。

 その光景はさながら中空に線を引くような光景だった。

 そして、十分に展開されたトランプからサイコキネシスが放たれ、視界を塞いでいた爆炎が一息で吹き飛んでゆく。


「お、おお……!」


 知ってはいても、ここまでとは思っていなかった西岡は啓太の力に軽く驚く。

 西岡と立ち位置を入れ替わり、今度は啓太が前に出る。


「っ!」


 緊張からつばを飲み込み、啓太はじっと前を見据える。

 顔に包帯を巻いた男は、さっきと変わらぬ位置に立っているように見えた。

 その前には、大量のゴム弾が落ちている。おそらく警備隊のアサルトスタンガンが落とされたものだろうが……。


「どうして落ちてるんだ……? あの人に、防御手段はないはずなのに……?」


 啓太は素直に疑問を呟く。

 パイロキネシスはあくまで火を出す異能。一直線に飛ぶゴム弾を防ぐような、壁を生み出すことはできないはずだ。

 爆風で押し返したにしても、あんな風に男の目の前に落ちているのは不自然だ。

 いったいどうやって男がアサルトスタンガンを防御したのか。それを悩む啓太の顔を見て、わずかに覗く男の瞳が微かに見開かれた。


「――ェ……」

「? え、なに?」


 漏れ聞こえた声には、微かに啓太の耳にも届く。

 男に呼ばれたような気がして、啓太は顔を上げた。

 瞬間、男は両手を上げる。


「っ!」


 攻撃の気配に、啓太は素早くトランプを飛ばす。

 同時に、炸裂する爆炎。

 まっすぐ啓太を狙った二本の導火線は、中空で迎撃されて破裂した。

 だが、それでは終わらない。続けざま、矢継ぎ早に導火線は放たれ、啓太の元へと殺到する。


「くっ!?」


 啓太はトランプをばら撒き、被害が変に広がらないように立ち回る。

 自分に向かう導火線をすべて撃ち落し、なるべく人がいない位置へと向かって駆け出す。

 すなわち――誰も他に立てない空中へ。


「お、おお!?」


 突然空へと駆け出した啓太の姿を見て、警備隊の誰かの声が上がる。

 自らのトランプを足場に空に立つ啓太は、下に立つ男を睨みつけながら、何とか反撃の隙を窺う。


(ここには森山さんもいる……! 何とかすぐに終わらせないと!)

「………ッ!!」


 空に立ち反撃の機会をうかがう啓太を見て、声なき方向を上げる包帯男。

 無数の爆火の中、文は涙を浮かべて啓太の背中を見つめていた。




 再三の異能者バトル! 今度は爆発系能力者です!

 果たして啓太君に勝機はあるのか!?

 以下次回ー。

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