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Scene.51「どうしたのこれ!?」

「え……!? どうしたのこれ!?」


 転送し、そして発見された男たちを追おうとした会長たちは、目の前の光景に愕然となった。


「うぐ……」

「く、あ……!」


 その場はまさに死屍累々と言った様子だったのだ。

 アサルトスタンガンや、対サイコキネシス用防御盾で装備した警備隊の隊員たちが、倉庫街の路地……大量のコンテナで道が作られているその場に倒れ伏しているのだ。

 ほんの少し前、怪しい人物発見の報があったばかりだというのに、この惨状はどうしたことなのだろうか。

 転送してきた隊員の一人が、倒れていた隊員を抱き起こした。


「お、おい! どうした!?」


 倒れていた隊員は、必死に何かを伝えようと口を開く。


「ぐ……こ、子供……! 子供が……!」


 それだけ言うと、隊員はがっくりとうなだれてしまった。


「! おい、しっかりしろ!」

「え、まさか……!?」


 朱音が悲鳴じみた声を上げる。

 まるで、事切れてしまったような隊員の首筋に指を当て、会長は脈を確認する。


「……いえ、息はありますよ。気絶しただけです」

「え、あ、なんだ……そっか……」


 会長の言葉に、朱音は安堵の息をつく。

 とはいえ、まだ安心できるわけではない。

 会長は扇子を広げながら、警備隊の隊員に声をかける。


「気を付けた方がよいでしょう。姫宮君の転送にタイムラグはありません。この場に陣取っていた警備隊を倒した猛者が、まだ付近をうろついているはずです」

「ああ、わかっている」


 隊員はアサルトスタンガンを構え、周囲を警戒する。

 会長はその輪の中に朱音とともに入りながら、自分も周囲を警戒し始めた。

 不安そうな朱音は、そんな彼の背中に手を当てる。


「ど、どうしよう……私、どうすればいい……?」

「できれば、逃げていただきたいところですが……」


 朱音の言葉に、会長は困ったように眉根を寄せる。


「今転送すると、確実に僕らも移動しますよね?」

「う、うん……輪の中にあるものは、全部いっぺんにだから……」

「ですよねー」


 朱音の転送に容量限界はないが、転送物の指定はできない。つまり、転送するときは全部まとめてなのだ。

 そのため、朱音だけ転送するのであれば、まず輪の中にあるものを全部のけなければならないのだが……。

 周囲の惨状のせいで、警備隊の隊員たちは一度輪の中に集まり直してしまったのだ。


「うぅむ。まずは移動すべきですが、せめて周囲の安全を確認してから……」

「そんなひつようはねぇよ!」


 朱音の身を案じる会長の耳に、甲高い少年の声が響いてきた。

 そちらの方へ顔を上げるより先に、集まった警備隊たちの輪の一部が吹き飛んでしまう。


「ぐわぁぁぁぁ!?」

「え!? なに!?」


 朱音が突然の出来事に慄いたような声を上げる。

 次の瞬間、また警備隊たちの体が吹き飛んでゆく。


「ぎゃぁぁぁぁ!?」

「な、なに!?」

「サイコキネシスか何かでしょうか」


 人間が足元から吹き飛ばされるという惨状を目にして、会長は冷静にそう判断する。

 また警備隊たちが吹き飛ぶさまを見て、朱音は涙目で会長に叫んだ。


「そ、そんな冷静な……! 今すぐどうにかしなきゃ!」

「と、申しましても僕にできるのは……」


 朱音に縋りつかれて会長は困ったように扇子を開き、そして一声高く叫ぶ。


各人散開(・・・・)!! 纏まっていると的になるぞ!!」

「っ!! お、おう!!」


 造言被語(ライアー・ボイス)。聞いた者の精神に干渉し、ある程度行動を操る異能。

 その異能に操られ、混乱していた隊員たちは素直に散開を始めた。

 突然の出来事に思考が停止してしまい、抵抗なく異能が浸透したおかげだろう。

 瞬間、警備隊隊員たちがいた場所で何かが破裂した。

 さながら放り込まれたグレネードが爆発するように、空気が周囲へと拡散する。


「きゃぁ!?」


 パァンと言う乾いた破裂音に、朱音が耳を塞ぐ。

 爆発した場所を見て、会長が小さく首を傾げる。


「……? サイコキネシス……にしては妙ですね?」

「何が!?」


 涙目のまま朱音が叫び返す。

 会長は顎を撫でさすりながら、自らが覚えた違和感について話した。


「いえ、サイコキネシスで吹き飛ばしたなら、立ち上るような上方衝撃波だと思ってたんですけれど……どうも違ったみたいで」

「え!? じゃあ、何よ!?」

「さあ。さすがにそこまでは……」


 呟く間にも、散開した警備隊を追いかけるように二度三度と見えない爆発が巻き起こった。


「きゃ、きゃあ!?」

「ふむ。コントロールは、あまりよろしくないようで」


 散開してからは、誰も吹き飛ばされていないのを見て、会長はそう呟いた。

 だが、会長に叫び返す声があった。


「うるせぇー! これでも前よりましになったんだよぉ!」

「おや、そうでしたか。それは失敬」


 言いながら、会長は声のした方を見上げた。


「失敬ついでに、貴方が何者かお答えいただけるとありがたいのですけれど」

「ふん! 問われてなのるも何とやらだ! 教えてやんねーよ!」


 会長が見上げた先は、コンテナの上。そこに立っていたのは、十歳くらいの少年だった。

 黒い装束に身を包んでいるものの、背丈は明らかに小学生程度。勝気そうな顔には笑みが浮かんでおり、手の中で何かを弄んでいるように見えた。


「こ、子供……!?」


 その姿を見て、朱音は驚いたように声を上げる。

 朱音の反応が気に障ったのか、少年は手の中で弄んでいた何かを握りしめて振りかぶった。


「うるせぇー! 誰が子供だぁ!」


 叫んで、見えない何かを投擲する。

 すると、会長たちからそう離れていない場所でまた見えない爆発が巻き起こった。


「きゃぁー!?」

「……んむぅ、これは」


 それを見て、会長は目を細める。

 再び手の中で見えない何かを弄び始める少年は、朱音の様子を見て高笑いを始めた。


「はっはっはぁー! 俺様のことを子供と見くびるからそういう目に合うんだよぉ!」

「ちっ! あいつが味方を……!」


 まだ気絶していない警備隊の隊員の一人が、舌打ちと共にアサルトスタンガンを構えた。


「あいつは敵だ! 容赦するな! 撃て撃てぇー!」

「いささか乱暴な……」


 気が立っていたのか、あるいは恐怖が心を支配していたのか。子供が相手だというのに警備隊の隊員たちは即座にアサルトスタンガンを構えた。

 そんな彼らの様子に会長は小さく呟くが、やむ形無しと頷いた。


「とはいえ、致し方なしですか。あの子の異能は、どうも強力そうですからね」

「大人を何人も吹き飛ばしてるんだから、強力なんてもんじゃないよ……!」


 会長に縋りつきながら、崩れ落ちそうになる体を支える朱音。

 彼女は元々こういう荒事には向かない異能者だ。慣れない現場にいるせいで、腰が砕けそうになっているのだろう。

 彼女の腰に手を回し、体を支えてやりながら、会長は少年の方を見上げた。


「そうですね。おそらく、この場にいる誰よりも強いでしょうし」

「はっはっはぁー! むだむだぁ!!」


 鳴り響く連射音。アサルトスタンガンから発射された無数の弾丸は、しかし少年の体には一発も届かない。

 彼が目の前に出現させた障壁の様なものに阻まれてしまい、アサルトスタンガンから発射されたゴム弾は中空に浮かび上がったままになってしまっていた。


「くそ……!? 化け物かこいつ!」

「はっはっはぁー! 喰らえぇー!」


 少年は障壁を張ったまま、また腕を振りかぶり、何かを投げる。

 数瞬置いてから、ひたすら引き金を引いていた隊員の付近で見えない爆発が起こった。


「うわぁー!?」

「どんどん行くぞぉー!」


 気をよくしたのか、連続で何かを放る仕草を繰り返す少年。

 そのたびに、見えない爆発がそこかしこで巻き起こる。

 爆発位置はランダムのように見えるが、たまに警備隊が爆発に巻き込まれたり、爆発の中心に隊員がいたりするあたり、ある程度狙っているようだ。


「う、うひゃぁ!? せ、誠司君どうしよう!?」


 爆発はまだ会長たちのいる場所に届かないが、いつ爆発に晒されるかわからない。

 朱音は怯え、会長に縋りつく。

 また一発爆発が起こり、会長たちの体を爆風が煽る。


「きゃあ!?」


 突然のことに、朱音は怯え、会長に抱き着く。

 そして、爆風に煽られる朱音のスカート。


「……おぉ」

「はっはっはぁー! どうだ!? 参ったかよ!?」


 会長が微かに感嘆の吐息を漏らしていると、少年が勝ち誇ったように叫び声をあげた。


「お前らじゃ、俺に手も足も出ないってわかったろ!?」

「……ええ、そうですね。では、事のついでにお願いが一つ」

「んー? なんだよ、言ってみろよ!」


 下手に出てきた会長に気をよくしたのか、少年はそう口にする。

 会長は一つ頷いて、こんなことを言い出した。


「いえ、僕たちが傷つかない程度の勢いで、もう一度爆風を起こしてもらえませんか? こう、僕が幸せになれる範囲で」

「? なんだどういう意味だよ」

「……… せ い じ く ん? 」


 会長の言葉の意味が解らず首を傾げる少年。

 だが、朱音は正しく理解した。会長に、地の底から這いずってくるような低音で囁きかけた。


「それどういう意味かしら……? 怒らないから言ってみてくれない?」

「あ、いえ、ほんの出来心なんです……。僕も男なんで、欲望には勝てないんです」

「何だか知らねーけど、もう一発ってことだろ!? 間違いなく痛ぇけど喰らいやがれぇ!!」


 プチ修羅場に突入する会長たちの様子に構わず、少年は腕を大きく振りかぶる。

 それを見て、会長は素早く自分の喉に閉じた扇子を当てる。


「疾ク・駆ケヨ・我ハ・韋駄天ナリ」

「おりゃぁ!!」

「あっ……!」


 会長が何事かと萎え終わるのと同時に、少年は腕を振り抜いた。

 数瞬後、また現れる見えない爆発に怯え、朱音は身を固くする。

 そんな彼女の体を、会長は素早く抱きかかえた。いわゆるお姫様だっこという形で。


「え」

「失礼」

「きゃぁ!?」


 朱音が何か言うより早く、会長は地面を蹴り、飛び上がる。

 朱音を抱えたまま、会長の体は高く飛びあがり、そのまま少年が立っているのとは反対側のコンテナの上へと着地した。

 会長の跳躍力を見て、少年が驚愕を露わにする。


「んなっ!?」

「……と、久しぶりでしたが、いけましたね」

「…………」


 突然の出来事に朱音は固まったまま、会長の首根っこに抱き付いている。

 会長は小さくため息をつき、少年の方へと視線を向けた。


「……さて、こちらとしては、貴方には大人しく捕まっていただきたいのですが……」

「へっ! 何言ってやがる! ちょっと早く動けるくらいで、いい気になるんじゃ……!」


「クーガ……」


 会長の言葉に息巻く少年であったが、その背後から聞こえてきた少女の声に、身を固くする。

 少年の背後に突然現れた少女は、大きな本を抱えたまま、ぼそぼそと喋る続ける。


「クーガ……お仕事、終わり……」

「わ、わかった! わかったから耳元でぼそぼそしゃべるんじゃねぇよ!?」


 こそばゆいのか、耳を押さえながら少年は飛び退く。

 しばらく少女を睨みつけていたが、すぐに勝ち誇ったような表情で会長の方へと振り返った。


「……フン! 今回は俺たちの勝ち逃げだ! 悪く思うなよ!」

「……そうですか。またまみえる瞬間があれば、勝たせていただくことにしましょう」

「言ってろ! アバヨッ!」


 少年は叫び、両手を振り上げて何かを投げる。

 それは中空で破裂し、周囲の空間に風の嵐を巻き起こした。


「ん……!」


 突然の暴風に瞳を閉じる会長。

 次に目を開いた時に、少年たちの姿はなく、無残にも倒れ伏すタカアマノハラ警備隊の姿があるばかりだった。


「……ふむ。何とも散々な結果に終わってしまいましたね……」


 会長は目の前の結果にホゾを噛む。

 結局……導師様とやらには逃げられてしまったのだ。




 会長無念の、導師様捕縛失敗……。

 暁たちの方は、制圧に成功しているようですが……。

 以下次回ー。

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