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Scene.50「オッケー! すぐに飛ばすよ!」

 タカアマノハラ居住区。タカアマノハラ警備隊の本拠地でもある、警備隊本部の目の前の道路に立つ会長が、携帯電話を耳にあてて何度か頷いている。

 その周りでは、警備隊の面々が忙しそうに何かの準備を行っていた。


「ええ、ええ……。そうですか。そちらも、引き続き頑張ってくださいね」


 電話の相手からの返事が良かったのか、ほっと安堵したように笑顔を浮かべる会長。

 会話が終わったのか、会長は耳から携帯電話を話し、通話を切った。

 そのまま携帯電話をポケットにしまい込むと、その隣に立っていたショートカットの少女が会長へと声をかけた。


「暁君、なんだって?」

「向こうの制圧は順調に行われているようですね。そろそろ完了するでしょうから、手すきの方にお願いして、異能者の方々を捕まえてもらいませんと」

「そっか。暁君は相変わらず頼りになるねぇ」


 少女は会長の言葉を受けて、にっこりと笑う。

 笑いながら、会長を見てぱちりとウィンクしてみせた。


「もちろん、誠司君も頼りにしてるよ? 我らが生徒会長様♪」

「ハハハ、ありがとう姫宮君。その期待に応えられるよう、鋭意努力しますよ」

「フフ、ありがと」


 姫宮君と呼ばれた少女が、嬉しそうに笑った。

 彼女の名前は姫宮朱音。異界学園の生徒会に所属する三年生の、幽霊役員である。

 異界学園の生徒会には、彼女をはじめとして名前だけ生徒会役員として登録されているものが数多くいる。

 何故そう言ったものがいるのかと言えば、タカアマノハラの委員会からの依頼を正式に受諾するための形式として、生徒会が窓口として機能しているためである。

 そのため、委員会からの依頼を受諾するためにはまず生徒会に所属する必要がある。生徒会へ所属するのに一定以上の異能強度を必要とするのは、このためだったりする。

 そして、異能の種類によっては委員会からの依頼が毎日のようにやってくるため、生徒会に顔を出す暇がなくなり、自然と幽霊役員になってしまうというわけだったりする。

 そんな姫宮朱音の異能はと言えば……。


「テープの範囲は、これくらいでしょうか?」

「あ、はい、そんな感じで! 端と端はきっちりつなげておいてくださいね!」

「わかりました!」


 朱音の言葉に頷き、警備隊の一人が道路に張り付けた朱いテープの端をしっかりとつなぐ。

 朱音と会長、そして警備隊の者たちが立つ場所を覆うように、円を描いて朱いテープが張り付けられていた。

 それを見て、満足そうに朱音が頷く。


「よーし。じゃあ、ちょっと様子を見てみるかなー?」


 そう言って、朱音は一枚の地図を取り出す。

 それはタカアマノハラ全体を描いた地図であり、所々に朱いマーカーで丸の印をつけられていた。

 朱音はそれぞれの丸に手をかざし、何かを探るように唸り始める。


「んー。んんー……」


 瞳を閉じ、眉の間にしわを寄せる朱音。

 しばらくして、地図上の全ての丸の上に手をかざし終え、満足そうに頷いた。


「――よし! 全部のポイントに、繋がることを確認したよ! あとは、各ポイントの警備隊の人から発見報告を待つばかりね!」

「ありがとう、姫宮君。それでは警備隊の皆さん。各所からの連絡を待ちつつ、姫宮君のゲートポイントの中で待機してください!」

「了解です」


 警備隊の一人が頷き、他の警備隊の者たちも朱い輪の中へと移動を始める。

 その光景を見て、会長は感心したように頷いた。


「しかし、姫宮君の朱輪転送(ワープゲート)……これほど大きな輪の中にあるものも転送できるんですね」

「それはもちろん! 委員会からの依頼受諾No.1の転送能力者の実力、甘く見ないでよね♪」


 そう言って朱音は、会長に笑いかけて見せる。

 姫宮朱音。彼女が持つ異能の名は朱輪転送(ワープゲート)。朱いテープと地図をリンクさせて基点とする、ハコニワ型の転送能力だ。

 地面に張り付けた朱いテープの輪と輪の間をつなぎ、瞬く間に転送する能力であり、転送先の指定を地図に描いた朱い丸印で行う。

 赤いテープの中に収まりさえすれば、転送容量に限界はなく、転送の際の負荷も一般的な転送者のそれと比べれば軽い方であり、普段は産地直送系の農作物の臨時便として転送能力を行使している。

 これだけ見れば、第一世代の異能者だと勘違いされそうであるが、彼女は第二世代として認知されている。

 その理由は、転送を行えるのは、朱音が存在している朱円のみであり、それ以外の場所から、他の場所への転送は行えないのである。転送する際には、朱音も共に転送する必要があり、朱音が円の外に出て中のものだけを転送する、というようなことはできない。

 そして朱音が転送できるのは朱円の中に存在しているものだけであり、例えば飛んできたミサイルを転送してどこかへ放り投げる、というような使い方はできないのである。


「もちろん、期待していますよ。お忙しい中、いきなり呼びつけて申し訳ありませんでした」

「ほんとだよー。たまのお休みに、いきなり呼び出される方の身にもなってよねー」


 会長の言葉に、朱音が拗ねたような声色で彼を非難する。

 だが、その表情は明るく、頼られたことを素直に喜んでいるようにも見えた。

 会長も笑いながら、申し訳なさそうに朱音へと頭を下げた。


「いやはや、本当に申し訳ない。できる範囲で、今回の埋め合わせは行わせてもらいますので、それでご容赦願いたい」

「ほんと? それじゃあねー……」


 朱音は少しもったいぶるように、人差し指を口元にあてながら何かを考える。

 少しして、考えがまとまったのか、にっこり笑いながら会長へ甘えるように囁いた。


「……今度の私のお休みに、タカアマノハラ・グランドホテルのレストランでご飯食べさせてくれたら、許してあげる。もちろん、誠司君のおごりだよ?」


 タカアマノハラ・グランドホテルは観光客向けの、高級ホテルである。

 内装は当然として、中に要する施設も有名ブランドで揃えてあり、特にレストランはその値段も味も東京にある有名店もかくやというレベルの高さで有名であった。

 本来であれば、一介の学生には手の届かない場所なのであるが、幸いなことに会長は一介の学生というには特殊であった。

 微かに顔をひきつらせながらも、会長は笑いながら朱音の言葉に頷いた。


「……そうですね。姫宮君のスケジュールに合わせて、僕も休みを取っておきますよ」

「ほんと? やったぁ! 約束だからね?」

「もちろん、約束しましょう」


 会長は力強く頷き、朱音は嬉しそうに何度か飛び跳ねた。

 ここだけ切り取れば、学生同士が食事の約束を交わした微笑ましい情景だ。

 警備隊のある者は微笑ましそうに笑い、ある者は妬ましそうに舌打ちをする。

 何とも和やかな空気が流れる警備隊本部前。とても、タカアマノハラの外に逃走しようとしているとされる、導師様なる人物を捕縛しようとしている一団の様子には見えない。

 会長は一つ咳払いをし、場の雰囲気を払しょくしようと連絡係の警備隊隊員に声をかける。


「……ところで、各所からの連絡は入りませんか?」

「今のところは」


 そう言って首を横に振る警備隊隊員。

 会長は一つため息をついた。

 そんな会長に、朱音は不思議そうに問いかけた。


「……ところでちょっと思ったんだけど、その導師様って相手、ここまでする必要があるの」

「……と、言いますと?」

「いや、さ。ネーミングからすると、宗教系の人だよね? そんな人が、警備隊の総力上げて捕まえる必要があるのかな、って思って」


 不思議そうな朱音の様子に、会長は何度か頷いてみせる。


「姫宮君。君は、ここ最近起きている侵入者事件はご存じで?」

「? まあ、一応」


 朱音は一つ頷く。

 そして首を傾げて再度問いかけた。


「けど、それと何か関係が?」

「単純に言いますと、その導師様が此度の侵入者事件の首謀者である可能性が高いという話です」

「え……それホントなの?」


 驚いた様子の朱音に、会長は頷いてみせる。


「ええ。実は、今日のお昼頃、英国の異能騎士団から極秘で研三先生に向こうで活動している新興宗教の資料が届きましてね」

「なんで研三先生のところにそんなものが……?」


 当然と言えば当然の朱音の疑問に、会長は声を落として答えた。


「……いえ、実はね? 新上君が、こちらの侵入者の情報を勝手に向こうに送ってしまって……おそらくその見返りじゃないかと」

「うわぁ……」


 朱音はなんでそんなことをと顔をしかめる。

 現状、侵入者事件関係の情報は、タカアマノハラ外へと流出してはならないと政府からきつく言われている。言うまでもなく、色々と複雑な外交関係を崩さないためだろう。

 だが暁はそれをあっさり踏み破ってしまったわけだ。朱音でなくとも顔をしかめたくなるだろう。

 まあ、異能騎士団もうかつなことは言わないだろうし、そこまで大きな問題にはならないだろう……と思いたい。

 会長はまた咳払いをして話を切り、話を元に戻した。


「……で、その宗教団体の資料に、オラクル・ミラージュとの関係性を匂わせるものも含まれていたんですよ」

「なるほど。それで、オラクル・ミラージュを洗い直してみたら、なんか怪しいんで捕まえてみようって話になったと?」

「まあ、おおむねそんな感じです」


 だいぶ端折った理解の仕方であったが、朱音の言葉に会長は頷いた。


「もちろん、オラクル・ミラージュ以外にも怪しい企業は何件かあったようですが……現段階で立件が容易かったのがオラクル・ミラージュで。試しに突っついてみたところ……」

「向こうが馬脚を現した、ってわけね」


 朱音も何度か頷いてみせる。

 藪をつついて蛇を出すではないが、ずいぶんあっさりと本性を現したわけである。

 だが、当然疑問も残る、

 朱音は首を傾げながら、会長に問うてみた。


「……でもさあ。そのオラクル・ミラージュ、ずいぶん迂闊だよね? こうあっさり正体表したんじゃ、今後の活動だって怪しくなるのにさ?」

「そうですね。そこは僕も気になっているところです」


 朱音の言葉に、会長も考え込む。

 オラクル・ミラージュの今回の行動、リスクの方が大きい気がする。

 オラクル・ミラージュの影に、宗教団体という名の犯罪組織がいるのであれば、今回のことで拠点を一つ失うわけである。当然、タカアマノハラも警戒を強めるであろうし、わざわざ騒動を起こす利点が向こう側にはないはずなのだ。


(……何か、見落としているのでしょうか。こちらにとって、致命的な何かを……?)


 会長は考える。

 もし、今回の行動が、向こうにとって利を為すとすれば……。


「怪しい人物発見の報有り! 倉庫街方面のようです!」

「あ! 誠司君! 倉庫街だって!」

「……わかりました」


 会長は頷き、朱音に指示を出す。


「では倉庫街の方へ飛ばしてください。皆さんも、戦闘の用意を。おそらく、向こう側の抵抗があるはずですから」

「オッケー! すぐに飛ばすよ!」


 朱音は明るく応え、警備隊たちも転送に備えて構える。


(……いや、今導師様とやらを捕まえれば、全ては解決するはずだ。目の前のことに、集中しましょう)


 朱音が転送先を指定する間に、会長は思考を切り替える。

 導師とやらを捕まえて、一連の事件に幕を下ろすために。




 というわけで、新キャラの朱音ちゃん。転送係です。普段はお仕事に忙しい子。

 こういうキャラにもきちんと個性を出せるようになりたいですねー。

 以下次回ー。

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