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Scene.4「アラガミ・アカツキ、覚悟ぉー!!」

 新しい生活環境。慣れない日本の授業。そしてクラスメイトからの質問攻め……。

 メアリーがそれらから解放され、ようやく一息つけるようになったのは、四限を終え、昼休みの時間帯になってからだった。

 今彼女は、結局隣の席となった暁、そして駿と光葉と机を並べ、持ってきた昼食の包みを開いているところだった。一緒に、一がいるのは、まあ、余録だろう。


「へー、じゃあメアリーちゃんは騎士団じゃまだ新米なんだ」

「はい。私よりも、もっとすごい人たちが異能騎士団にはたくさんいますから」

「へー」


 暁の友人ということで昼食の席を勝ち取った一は嬉しそうにメアリーへの質問を繰り返す。


「じゃあ、暁の事も、騎士団で聞いてるんだ」

「はい! アラガミアカツキ……我々の敬愛する団長と渡り合ったとされる、今代最高のサイキッカー……そのお話は、常々窺っております」

「いーよムリせんで。どうせロクな話聞いてないだろ?」


 一とメアリーの会話にはさして興味のなさそうな暁は、購買から買ってきた惣菜パンを頬張りながら、駿と光葉の動向に注視していた。

 今でこそ静かに弁当を食べている二人だが、少し目を離すと。


『駿、あーん……』

「やめい、いい加減。この場で強制帰宅させるぞ」


 ……光葉が自重知らずの甘え方をしようとするのだ。

 駿は駿で何も言わずにそれを実行しようとするので始末に負えない。

 光葉の頭に紙袋をかぶせて、怪人に変身させている暁の姿に苦笑しながら、メアリーは騎士団のフォローを入れた。


「いえ、そんなことはありませんよ? 団長も皆様も……アカツキさんの技術には目を見張るものがあると、口をそろえて仰ってましたから……」

「何が目的だ異能騎士団……! こんなド新人を騙してなんになるってんだ……!」

「なんなの暁。お前と騎士団の間にマジで何があったの?」


 メアリーの言葉に戦慄する暁の様子に、一は呆れた顔になった。

 いくらなんでもひどい言いざまだと思うのだが、どうやら暁は本気でそう思っているらしかった。

 と、そんな親友の姿に、駿から鋭いツッコミが入った。


「さすがに被害妄想が過ぎると思いますよ、暁。俺の記憶が確かなら、騎士団は暁に対してそこまで敵意をむき出しにはしていないはずですが」

「え、ええそうですよ? 確かに、アカツキさんの事をよく思っていない人が多いのは確かですけれど……。団長から、アカツキさんに手を出さないようにとお願いもされてますから……」

「さよかー」

「信じてやれよ少しは……」


 聞く気ゼロな態度の暁の様子に、さすがに眉根を顰める一。

 当の暁はもそもそとパンを頬張り、それからメアリーをねめつけた。


「しかし、交換留学生ね……。異能騎士団からうちにそんなもんが来るとはね……。よく許しが出たな」

「交換留学生という案自体は、以前から出ていたんです。問題はどこから出すか……だったのですが、やはり異能騎士団から人材を選出するのが最適だろうということで……」

「今や異界学園、種々様々な人種が集まりますからね。父も、そういうことには積極的なようですし」


 メアリーの言葉に同意しながら、駿は甘い味付けの卵焼きを頬張る。

 そんな駿の隣で、光葉が彼の目の前の空間に影で必死に文字を綴る。


『どう? どう? 駿、おいしい?』

「はい、おいしいですよ、光葉」

『よかった』


 光葉は駿の言葉に光葉は微笑み。


『光葉の唾液と愛がたっぷりの卵焼きなの……♪』

「吐けぇぇーー!!! 吐き出せそんな呪詛アイテムぅぅぅぅ!!!」


 暁が全力で吐かせにかかるが、駿はしばらく咀嚼した後、しっかり卵焼きを飲み下す。


「……んん。通りで微かに苦いと……」

「違和感、感じたらすぐに吐き出せぇ!! お前この間、髪の毛入りのおにぎりとか食わせられてたろうがぁ!!」

『髪の毛違う。下n』

「なお悪いわぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


 光葉の書き文字を拳で消しながら暴れる暁。

 そんな彼の姿を見て、半笑いの表情でメアリーが一に問いかける。


「彼らはひょっとしていつもこんな感じなのですか?」

「おおむねこんな感じだな」


 一は頷きつつ、荒れる友人たちを置いて食事へととりかかった。




 昼休みの時間が終わると、普通の学校であれば五限目の授業が始まる。

 だが、異界学園においては異能獲得のための学習、あるいは異能の訓練が始まる。それが普通の学校における五限、六限、そして体育の時間に相当する。

 異能獲得のための学習は一時間程度。人によって個人差はあれ、入学して一か月程度で大体の人間は異能者として覚醒できる。

 そして異能を獲得した者たちは、校庭やグランド、あるいは各自の教室で各々の異能を磨く。こちらの方に時間制限は特になく、その気になればいつまでも訓練を行ってもよい。訓練を行う際には、学校から何らかの器具や機械、そして異能科学を身に付けている教員が指導を行ってくれる場合もある。もっとも、異能には個性が強く映る傾向があるため、自分自身で磨く以上に効率の良い練習方法はなかなか存在しないが。

 学ぶつもりがなければ帰っても構わないが、一ヶ月に一回程度の頻度で異能強度のテストが行われる。そこで成績が振るわなければ強制異能訓練コース行きである。こちらでは毎日すべての時間、異能の訓練に費やすこととなる。期間は次の異能強度のテストまで。その間は勉強をしなくて良いと、わざとこちらのコースを選ぶものもいる。

 だがこの学校にも一応期末テストは存在する。そちらの方で赤点が続くようであれば……問答無用で退学処置となる。

 学業と異能の両立。それが、この学園に存在するルールの一つなのだ。

 生徒たちがそれぞれの系統ごとに分かれて各々の訓練場へと移動する中、メアリーが暁に問いかけた。


「あの、アカツキさん……私は、どこへ向かえば……?」

「んあ? 何も聞いてなきゃ外でいいんじゃねぇか? 大抵の器具はあるし、外は広いしな」

「そうですか……」


 いい加減な言葉に不安そうにうつむきながらも、彼女は暁の背中を追いかける。

 と、そこへ、鋭い声がかかった。


「アラガミ・アカツキ、覚悟ぉー!!」

「え、ちょ、リリィ、待って!?」

「あ?」


 声に振り返ると、こちらに向かって傘を構えて突撃する一人の少女と、そんな少女を追いかける啓太の姿があった。

 少女の見た目はどうにも西欧系らしく、淡い金髪と青い瞳を持った可愛らしい少女だ。とても小柄で、中学年位にも見えるが、制服のデザインから暁たちと同じ高校生らしいことが窺えた。

 メアリーの方を窺うと、驚いたような顔で少女を制止するように前に出た。


「待ちなさい、リリィ! こんなところで!」


 暁は一つため息をつくと、指を鳴らしてそのまま少女に背中を向ける。

 その瞬間、少女のスカートのボタンが外れ、膝下くらいまでスカートがずり落ちる。

 当然少女はスカートに足を取られ、そのまま勢いよく正面にダイブしてしまう。


「きゃぁっ!?」

「ちょ、リリィ!? っていうか先輩!?」


 突然の出来事に、啓太は顔を真っ赤にしながら顔を手のひらで覆いそっぽを向く。

 メアリーはメアリーでその出来事に目を剥いて、暁の背中に問いかけた。


「あ、アカツキさん!? ですよね、なにを!?」

「スカート穿いた女子の動きを封じるならこれが一番手っ取り早い」


 言い置いて、暁は先に進もうとする。

 しかし果敢にも、リリィと呼ばれた少女はそのまま立ち上がった。


「ぐ、ぬぬ……! 卑怯なりアラガミ・アカツキ! 日本男児なら正々堂々勝負しろぉ!!」

「そこで日本男児と出てくるあたり、お前さんもあの女にだいぶ毒されてる口か……」


 威勢のいい啖呵にため息をつきつつ、暁は振り返る。


「言っとくが、こんな狭い廊下でやり合う気はないぞ。廊下の修理代だって安く――」

「はっ! 語るに落ちましたね! 戦いにおいて地の利を生かせとは、貴方が団長に言い放った言葉のはず!!」


 そして視界にリリィの姿を入れ、がくんと顎を落としてしまう暁。

 リリィは暁の様子に気が付かず、あるいは誇るかの如く自らの姿を堂々と晒した。


「自らの兵法にすら背く……アラガミ・アカツキ破れたりっ!!」

「……あー、えー……」


 えへんとない胸を張る小柄な少女の姿に、暁は手をふらふらと彷徨わせ、結局自分の顔半分を覆う形で落ち着けた。

 そのまま開いた方の瞳は閉じ、なるたけ少女の姿を見ないようにしてやりながら、問いかける。


「お前さん……その姿はなんだ……?」

「これですか? これは団長に貴方対策と渡された必勝アイテムです!!」


 そう言って示して見せるは、黒い薄手の半ズボンタイツ。ぴっちりとした、それは素敵なスパッツであった。

 ただし、ごく一般と違うのは――。


「確かに団長の言うとおりですね! これさえ穿いていれば、スカート下ろしもなんのその! 貴方の奇策もおそるるに足らず、です!」

「お、おう……」


 暁は何も知らない少女のために瞳を閉じてやりながら、メアリーに声をかけた。


「メアリー……」

「あ、え、はい!」


 メアリーの返事が、暁には若干上ずっているように聞こえる。おそらく、リリィの姿に違和感を感じ、そして気が付いたのだろう。

 微かな罪悪感さえ覚えながら、暁はメアリーに頼むことにした。


「リリィとやらに……その、スカート穿かせてやれ……」

「はい、わかりました……」

「む? なんですか?」


 リリィは暁の言葉に不信を覚えたようだが、それを口にするより早く、メアリーがリリィに近づき、耳打ちする。


「あのね、リリィ……――」

「はい? はい……――」


 ぼそぼそと耳打ちされ、そして次第にリリィの気勢が削がれていくのを感じる。

 開けたままの方の瞳をうっすら開くと、リリィはすっかり萎縮し、顔を赤くし、下半身を隠すように手のひらで覆っていた。

 そして、瞳には涙さえ見える。


「…………!!??」

「……わかったら、さっさとトイレにでも行って来い。さすがの俺にも慈悲はある」

「……ぃ……」


 蚊の囁くような返事と共に、メアリーに連れられてリリィがトイレへと向かう。途中でちゃんとスカートを回収するのも忘れない。

 そんな彼女の背中を不思議そうに見送りながら、啓太が暁に近づいた。


「あの、先輩? リリィ、どうしたんですか……?」

「どうしたっつーか、哀れっつーか……」


 リリィの姿が見えなくなったのを確認し、彼女の名誉のために口を噤むかしばし考え。


「……お前、あいつと知り合いか?」

「え? ええ、知り合いというかクラスメイトで……生徒会ということで、なぜか世話係に任命されて……」

「そうか」


 喋った方がおもしろそうだと思い、啓太の耳元に口を寄せる。


「……さっきリリィのスカート、俺が下してやったろ……?」

「……ああ、はい。先輩の十八番の一つですよね、アレ……」


 啓太はやや軽蔑するような表情になりながら先ほどの情景を思い出し……そして顔を赤くしてすぐに頭を振って忘れようとする。

 そんな純な後輩に、暁はさらなる追い打ちをかける一言を放った。


「あいつはその下にスパッツ穿いてたが……さらにその下には何も穿いてなかったぞ……」

「ブッ!?」


 暁の言葉に、鼻血でも出したかのような勢いで、啓太は吹き出した。

 おそらく思い出したのだろう、一瞬ではあるが目撃した、彼女の後姿……。

 ぴっちりと……それはもう体のラインが浮き彫りになるほどぴっちりとしたスパッツ……。

 しからば、その後ろ姿、特にヒップラインはすなわち……。


「………!?!?」


 思わず前かがみになる啓太。

 後輩のリアクションに満足しながら、暁は憐れむようにリリィの去った後を見つめた。


「大方、スパッツの下に下着を穿いておいた方がいいと、あの女に言われなかったんだろう……。無知というのは、時に大いな罪を生み出すものよなぁ……」

「何をしみじみと締めくくろうとしてるんですかあんたはぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」


 噴火したかのような勢いの怒声と共に、啓太渾身の真空飛び膝蹴りが暁の側頭部へと襲い掛かるのであった。




 俺はこの物語をどういう方向性へともっていきたいんだ。

 ちなみにリリィちゃんの上司である“あの女”は、暁と相対する際には直穿スパッツにヌーブラ、場合によっては絆創膏という出で立ちです。ちゃんと上着を着てはいますが。あ、こっちにスタイリッシュ痴女の称号を取っておけばよかった……。

 次は、訓練風景ですかねー。ではー。


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