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Scene.48「ワイルドカード!!」

「唸れ我が異能(チカラ)! ファイヤーバーd」

「うるさい」


 今しがた、真っ赤に燃える鳥状の何かを発射しようとした少年の体が、暁の一言と共に階段の窓ガラスから吹き飛ばされてゆく。

 その様子を見ながら、啓太はやや沈黙。


「……せめて必殺技くらいは待ってあげましょうよ」

「あいにく今日の優しさ残高は品切れだ。お前に使い尽くしたからな」

「ああ、ごめんなさい、名も知らぬ異能者さん……」

「お前ら余裕だなホント!?」


 階段を駆け上がり、下に向かって威嚇射撃を繰り返しながら西岡が悲鳴を上げる。


「なんだ!? 異能者になると、皆神経が図太くなるのか!? 俺は悲しいぞ、暁!」

「おっさん落ち着けって。何言ってんだかよくわからねぇぞ?」

「あーはっはぁー! 慌てたくもなるわーよーぅ!」


 西岡の隣でやはり威嚇射撃を繰り返す北原が、半泣きになりながら続けた。


「だって、さっきから妙に強い異能者の相手ばかりしてるじゃない!? おっさんの神経はもう使い古した雑巾のようにボロボロよ!?」

「バカヤロウ! 使い古した雑巾は良く手になじむ最強の掃除用具なんだぞ!? 雑巾をバカにする奴は俺が許さねぇ!!」

「争点ずれてますよ先輩!?」


 啓太がツッコミを入れるために暁を見上げると、階段の上の方に人影が見える。


「っ!」


 注意喚起を口にするより早く、啓太は腕を一閃させる。

 彼の腕の先から放たれたトランプはまっすぐに人影へと突き進み。


 ドォンッ!!


 ……と轟音を響かせてサイコキネシスを放射した。


「先輩!」

「進路クリア。行くぜおっさんズ」

「あーん、二人ともかっこいいわねー!?」

「くそっ、情けない……!」


 啓太の切られた札(ワイルドカード)によって進路上の敵が排除されたのを確認してから、四人は階段をかけ上げってゆく。

 輸入貿易会社、オラクル・ミラージュ。普段は物静かなそこは、さながら戦場のように荒れ果てようとしていた。






 門番代わりに突っ立っていた小太りの少年を排除した後、西岡は警備隊の他の面々にタカアマノハラ内の捜索を命じた。

 彼が言っていた導師様……この少年をそそのかしたであろうその人物を、タカアマノハラから逃げられないようにするためだ。

 ここに来る前からすでに交通規制をはじめ、タカアマノハラからの出入りは可能な限り不可能にはしてある。

 だが、何事にも例外は存在する。こちらの想像もつかないような方法で、導師様がタカアマノハラを脱出しないとは限らないのだ。

 その一方でオラクル・ミラージュの捜索も行わねばならない。それは西岡と北原の二人で行うことになった。

 そもそも大人数で来たのは威嚇の意味合いが強く、手早く調査するだけなら人数はそう必要はない。

 そして暁と啓太の二人は、正式に警備隊からの依頼を受託。西岡と北原のバックアップ……という名の護衛を行うこととなった。

 いくら暁が無償奉仕(ボランティア)を名乗り出たとはいえ、ここまで巻き込んで無給というのは警備隊の、そして一人の大人としての矜持が許さなかった。

 初めはロハのつもりで来ていた暁は、思わぬ収入に俄然やる気を見せ、今では積極的に内部の調査に乗り出していた。






「――そして調査は順調に進んでいるのであった。まる」

「調査っていうかこれもうすでに制圧か鎮圧の領域ですよね!?」

「だってしょうがねぇじゃん。向こうもやる気なんだからよ」


 ミシミシといきなり襲いかかってきた男の頭部を掴みながら、暁は啓太に向かって肩を竦めて見せた。

 どこに隠れていたのか、四人がオラクル・ミラージュの中に足を踏み入れた瞬間、そこかしこから異能者が現れ、彼らに対して攻撃を仕掛けはじめたのだ。

 まったく容赦のない攻撃に対し、西岡と北原の二人はなすすべがなかった。

 彼らの持つアサルトスタンガン、確かに対異能者戦を想定して開発された経緯を持つ非殺傷兵器なのであるが……残念なことに一定以上の異能強度を持つ者にとって、アサルトスタンガンは有効な武器とは言えなかった。その気になれば、彼らは自動車一台を一人でおしゃかにするのだ。そんな人間に、銃一丁で挑むのがそもそもどうかしている。

 そしてアサルトスタンガンを防ぎきれない異能者には、そもそもアサルトスタンガンを持ち出す前に取り押さえられることが多い。多勢に無勢とはよく言ったもので、数で勝れば何とかなってしまうのである。

 そのため、一定以上の異能強度を持つ異能者に対しては、同じくらいの異能強度を持つ異能者をぶつけるのが、現時点における最も効率の良い異能者対策であるとされている。


「情けない……! 守るべき子供に、守られるなんてな……!」


 悔しそうに呻きながら、付近の部屋を調べる西岡。

 その手際は極めてよく、最小限の動きで部屋の中を物色していく。

 西岡が取り上げ、注目していた資料を素早くカバンに詰めていく北岡が、慰めるように彼に言った。


「まあまあ、西岡。適材適所、できることとできないことの区別はつけようぜぃ?」

「お前にはプライドがないのか!?」

「あるけどちっぽけなもんよー? だから暁ちゃんたちには感謝してる!」

「感謝の形は、報酬でよろしく」


 下り階段から姿を現した人影をつつがなく弾き飛ばしながら、暁はそう口にする。

 そんな暁の姿に苦笑しながら、北原は少し真面目な声を出した。


「現在三階だけど、上も覗いていくか?」

「無論だ。こうなった以上、徹底的に調べてやる」


 西岡は鼻息も荒く上階を見上げる。

 現在三階。一階ロビー、二階応接室を超えて、三階事務室となっている。

 さらに上にあるのは、四階の資料室と、最上階の社長室となっている。


「怪しいものがあるとすれば、社長室だな」

「だねぇ。たぶん、トップが件の導師様だろうし」

「社長が導師様って、どういうことでしょうか……?」


 トランプの壁で防御しながらも結構余裕があるのか、啓太が不思議そうな顔で西岡たちに問いかける。

 西岡は、啓太に対して首を横に振ってこたえた。


「すまんが、俺たちにもわからん。名称から察するに、何かの称号のようだが……」

「まあ、気にしてても仕方ねぇだろ。上まで行きゃ、なんか残ってるだろうし」


 頭を締め上げられる痛みに気絶した男を、ぽいっと窓から投げ捨てながら暁は前を見据える。


「さてと。じゃあ、次の階に行こうぜ」

「頼もしいねぇ、暁ちゃんはー」


 北原は笑いながら暁の前に出ようとして。


「っ! 危ない!」


 啓太の鋭い警戒の声に反応し、素早く身をかがめた。

 頭上を銀色に光る何かが通り過ぎて行った。


「あぶなっ!? 何今の!?」


 北原が叫ぶのと同時に、金属がへし折れる甲高い音が響き渡る。

 暁が差しのべたての先で、フォークが真っ二つに折れて廊下へと落下した。


「……フォーク? いったいなぜこんな……?」


 西岡の声に応えたのは、大量のフォークが廊下に落ちる音であった。


「っ! なんだ!?」


 西岡が音のした方へと振り返ると、一人の少女がそこに立っていた。

 ……足元に、夥しい量のフォークをばら撒いて。


「………?」


 訝しげに眉を顰める西岡。

 そんな彼の視線を受けてか、少女は口の両端を釣り上げた。

 その様は、さながら赤い三日月のようで。

 その笑みに呼応するように、地面に散らばっていたフォークがすべて宙に浮かび上がった。


「なんっ……!?」

「サイコキネシス。ポルターガイストに近いかな」


 目の前の異様な光景に慄く西岡の隣で、暁が冷静に少女の異能を分析する。


「普通なら十本単位が限界だろうに、パッと見百本近くありやがるな。なかなかやるじゃねぇの」

「のんきに言ってる場合か!?」


 悲鳴に似た声を上げる西岡。

 そんな彼の姿が滑稽に見えるのか、少女は声を上げずに笑い続ける。

 少女は指揮を執るように指を振り上げる。

 彼女の指に応えるように、大量のフォークの切っ先が暁たちの方へと向かう。

 そして、少女はスイッと指を振り下ろした。

 それと同時に、フォークは一直線に暁たちの方へと突き進む。


「くっ……!?」


 反射的に西岡はアサルトスタンガンを構える。

 だが、銃口一つですべてのフォークを叩き落とすことはできない。

 このフォーク全てを捌き切ることができるものがいるとすれば。


切られた札(ワイルドカード)!!」


 同じ実力を持った異能者だけだろう。

 啓太は自らの異能(チカラ)の名を叫びながら、二組のトランプを宙に撒く。

 しばし力なく宙に漂っていたトランプたちは、すぐに自らの役割を思い出したように飛び回り、四人の前に盾のように立ちはだかった。

 少女の笑みがより深く、赤くなる。たかだか紙切れ一枚で、自らの武器を防ぎきれるものか……という絶対の自信が見え隠れする。

 だが、数秒後にはその顔が驚愕に染まることとなった。


 ギャリィン!!


「!?」


 少女が飛ばした大量のフォーク。それは一本たりとも啓太の放ったトランプを貫くことができなかったのだ。弾き飛ばされ、力を失ったフォークは、次々廊下へと落ちていく。

 プラ加工してあるとはいえ、紙で出来たトランプと、大量生産品とはいえ、金属でできたフォーク。どちらの方が固いかなど、一目瞭然であるはずだ。だが、現実は少女の思い通りにはならなかった。


「……っ!」


 余裕の笑みが一転、焦燥の憤怒と変わり、少女の両手に大量のフォークが現れる。おそらく、袖の中に隠していたものだと思われる。

 少女は勢いよくそれを振りかぶり、啓太に向かって投擲しようとする。

 だが、啓太もまた、二枚のトランプを指に挟んで少女めがけて投擲しようとしていた。


「ブラックジャック!!」


 そう叫び、投擲された二枚のトランプは、同時に少女が放った大量のフォークをいともたやすく弾き飛ばす。

 少女は目を見開き、回避を試みるが間に合わず、二枚のトランプの間に張られていた力場に首を捕えられる。


「っ!!」


 声なき叫びが尾を引き、少女の体がトランプに引っ張られるように真後ろへと吹っ飛んでゆき、やがて上り階段付近の壁に張り付けられてしまう。

 あまりの勢いに、少女の意識は吹き飛んでしまう。

 意識が遠のく寸前、彼女が目にしたトランプの絵柄は……。


「ダイヤの“(エース)”と“(キング)”……ナチュラルだね」


 啓太は嬉しそうにそう言って、笑みを浮かべた。




 多分この後暁に盛大に弄られることとなると思います、啓太君。かっこつけすぎですね。

 きっと、初めての戦闘にナチュラルハイになってるんですよ!

以下次回ー。

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