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Scene.42「ひとりきり……?」

「ひとりきり……?」

「ああ。会長が感じた、リリィの心の起源とやらとも齟齬がねぇ。これで間違いはねぇと思う」


 放課後。啓太、リリィ、駿、光葉の四人を覗いた生徒会の面々が、生徒会室に集まっていた。

 駿と光葉は今日は一足早くに帰り、リリィもまた今日は早くに帰ってしまった。啓太のことはわからない。クラスメイトに聞く限り、帰ったわけではなさそうだが……。

 まあ、わからないことは気にしても仕方ないとばかりに、暁は啓太のことは考えず、とりあえず集まった面々に昼間のうちに聞いておいたフレイヤの話をしていた。

 それを聞き、会長がうぅむと唸り声を上げる。


「それが、リリィ君と光葉君の共通点……というわけなのかね?」

「他に理由があるのかもしれねぇが……俺はこれがあの二人の共通点だと考えてる」

「あのー。ちょっといいですか?」


 したり顔で頷く暁に、美咲が手を上げながらおずおずと問いかけた。


「そもそも……光葉さんって、自分が世界で一人きりだって思ってるってことですよね? 普段の様子を見るに、とてもそうだとは思えないんですけれど……」

「私も、そう思う。駿さんについている光葉さんは、一人じゃないと思う」


 美咲の疑問に、つぼみも同意する。

 確かに、普段の光葉の姿というか行為を見ていれば、そんな風には思えないだろう。

 確かに彼女にとって世界は汚いものしか存在せず、ともすれば世界で唯一の人間は自分ひとりなのかもしれない。だが、そんな中で彼女は駿という存在を見初め、それを慕っている。

 であれば、光葉は世界で一人きりということにはならないのではないだろうか?

 そう考える二人に、暁は首を横に振って見せた。


「いや。光葉にとっちゃ、世界は自分一人きりなんだ。例え駿の姿や俺の存在を認識できても、それは変わらねぇ」

「え、どうしてですか?」

「なんというべきなのかねぇ……」


 会長はポリポリと頭を掻きながら思い悩む。

 どう説明するのが適切なのか。それを考えているようだ。

 やがて助けを求めるように暁の方へと視線を向けた。


「何か良案はないかな? 新上君」

「俺に振るんじゃねぇよ」


 顔をしかめながらそう言う暁だが、彼も一応どう説明するか悩んでいるようだ。

 天井を見上げ、唸り声を上げている。


「あー……なんだ。お前ら、自分が一人きりだって思う状況って……なんだ?」

「はぁ……?」


 暁の質問に、美咲たちはそれぞれの顔を見合わせる。

 突然の問いであるが、先ほどの内容にも即している。彼らに助け舟を出すつもりで、答えてみよう。

 そう思い、まずは美咲が口を開いた。


「そうですねぇ……。私は、大体誰かと行動していますから。やっぱり周りにだれもいないときにじっとしてると、自分が一人きりなんだなぁ、って思いますね」

「私は……本を読んでいるとき。物語に没入している間は……私は、一人きりになれてると思う」


 つぼみも、今読んでいるジュブナイル小説の本を抱えながらそう答える。

 最後のメアリーも、真剣に思い悩み、それから答えを返した。


「……なんと言いましょうか。自身の無力を感じたとき、ですかね」

「ほほぅ、その心は?」


 暁の返しに首を傾げながらも、メアリーは胸に手を当てながら答える。


「私自身の力が及ばず、目的を達成できなかったとき、特にそれを痛感いたします。やはり、私は未熟なのだ……と。その時、いやがおうにでも私は一人きりだ、と感じることがあるんです」

「ふぅむ。深いねぇ」


 会長は三人の話をそれぞれに興味深そうに聞き、それから扇子を広げて口元を隠しながら自分の考えも明かした。


「僕は、多くの人間に囲まれてる時に感じるかなぁ?」

「え? それむしろ真逆な状況じゃないですか?」

「いやいや、これが意外とそうでもなくてね。自分の考えが、周りと違い過ぎるとどうしても相手との壁を感じてしまってね。そういう時に、自分は一人きりなんだと思ってしまうんだよ」


 そう言って苦笑する会長。彼の事情を詳しく知っている人間はほとんどいないが、彼は彼なりに苦労しているようだ。

 会長はスッ、と流し目をくれてやりながら、暁にも問いかけた。


「そういう君はどうだい、新上君? 君は、どういうときに一人きりと感じるかね?」

「あれだな。真冬の時期に自分の部屋ん中にいるとき。ロクな暖房器具もねぇからさみーのなんのって……」

「それは物理的すぎる例えでしょう……」


 自らの赤貧生活を恥じることなく明かす暁を、美咲は半目で睨みつける。

 誰もそんな話聞きたくはない。今聞きたいのは、光葉がどうして一人きりであると考えているかについてなのだ。

 暁は一応どう話すのか纏まったのか、唸りながらも口を開いた。


「とまあ、各々一人きりであると感じることは大体一緒だが……。光葉の場合、会長の答えに近い」

「会長の答えに?」

「ああ。もっとも、あいつの場合は隔たりがあるのは自分と世界の間だが」


 つまり、自分と世界の間に壁があるから一人きりであると感じているというわけだろうか。

 意味が解らず疑問符を浮かべる三人の様子を見ながら、暁は必死に言葉を探す。


「あー……つまりー……なんだ、会長、パス」

「やめてくださいよこっちに丸投げするのは! 僕だって困ってるんですよ!?」


 結局自分に回され、慌てふためく会長。

 突然のパスに必死になりながらも、何とか言葉を紡ぎ始めた。


「……まあ、ものすごい乱暴な言い方をしますと、光葉さんは頂点を極めてしまっているがゆえに孤独なんですよ」

「頂点、ですか?」

「ええ。異能・イザナギ。これを持つがゆえに、彼女は一人きりと言えます」


 会長は自身の言葉に対してか、きつく眉間にしわを寄せながら続きを話す。


「これは彼女に限った話ではありません。駿君のカグツチや、英国有するフレイヤ嬢……。第一世代の方たちは、皆世界で一人きりと呼んで差支えありませんでしょう」

「強い力を持つゆえ……ですか?」

「はい、そうです」


 メアリーの言葉に会長は頷く。


「頂点を極めた景色は、その場にいるものにしかわからない……。しかも、彼らはそれぞれ別の異能を持つ者たちです。それぞれに、見える景色は全く異なるでしょう。それが、理由です」


 そこまで言って、会長は後悔するように腕を組み、俯いてしまう。


「……いえ、すいません。極端すぎる暴論ですね……。申し訳ありません」

「い、いえいえ! 決してそんなことは!? そう言われてみれば、確かにあの人たちは理解しがたいって言いますか!? ねえ、皆さん!?」


 落ち込んでしまった会長を慰めようと、美咲は極力明るい声を上げながらつぼみとメアリーの方を窺う。

 つぼみは美咲に同意するように頷き、メアリーもまた笑顔で会長へ声をかけた。


「確かに。彼女たちは、私たちにとって遠い存在」

「偉大なる神の力をお持ちになる方々ですし、理解に遠いのも致し方ないですね!」

「ありがとう諸君。君たちは優しいなぁ」


 三人の優しさに触れ、会長は目じりに浮かぶ涙をぬぐう。

 そんな会長を眺めながら、暁は小さくため息をついた。


「とりあえず、納得はしたな?」

「ええ、まあ、一応はですけれど」


 口ではそう言いながらも、美咲は首を傾げる。


「けど、今はそう感じてはいないのでは? お二人とも、お互いにとって最良のパートナーを得たわけですし」


 美咲の言うとおり、駿も光葉も、お互いにとって最も良きパートナーを得たと言える。

 お互いにとって、お互いはなくてはならない存在だ。永い人生で、いったいどれだけの人がそう言う人物に出会えるというのだろうか。それを考えれば、あの二人は極めて恵まれていると言える。

 ……そんな主張を美咲の顔から読み取ったのだろう。暁は胡乱げな眼差しで美咲を見やる。


「……まあ、傍から見りゃな」

「おや、含みのある言い方ですね? 何か気になることがあるんですか?」

「いや、いい。気にするな。今はそれよりリリィのことだ」


 暁は一方的に話題を切り替え、全員の顔を見回す。


「リリィは光葉のように世界で一人きりであると考えていると仮定し……今後どう動くか、だ」

「どう動くも何も……」


 暁の言葉にメアリーが困ったように眉根を寄せる。


「私たちにできることなんて、ほとんどないのでは……?」

「そうですねぇ。できることがあるとすれば、啓太君の背中を押すくらいでしょうか?」


 美咲も首を傾げる。

 そもそもこの問題の根っこは啓太とリリィの仲違いだ。

 ともすれば、犬も食わないような騒動を、何が悲しくて横から仲裁せねばならないのか。

 わざわざ藪をつつく必要もないだろう。そう言うような美咲に暁は肩を竦めて見せる。


「その通りと言えばその通りだがな……放っておくのも、目覚めがわりぃ」

「僕としても、炊き付けた側としての責任があるからねぇ」


 申し訳なさそうな顔で俯く会長。

 その顔に浮かんでいるのは自責の念だ。


「なるべくであれば、あの二人には仲直りしてもらいたいと思っているんだよ。こういう問題は、時間が経てばたつ程修復が難しくなってしまう……。できれば、今のうちに解決しておきたいんだ」

「「「………」」」


 女子三人は、会長の言葉に顔を見合わせ、そして頷き合った。


「……そこまで言われては仕方ありませんね。我々も一肌脱ぐと致しましょうか!」

「おお……そう言ってくれるかい?」

「もちろんです! と言っても、リリィさん側のフォローで精いっぱいだと思いますけれど」

「少し話をしてみる。もう一度、啓太と向き合えるように」

「必ずうまく行くとも限りませんが、できる限りは頑張ってみますね」

「そうしてもらえるとありがたいよ。こちらは、啓太君を何とかしてみるから」


 ほっとしたような表情で息をつく会長。そんな彼に微笑んで見せながら、三人は早速リリィの元に向かうのか、生徒会室を後にしようとする。


「――あ、そうそう」


 その直前、メアリーが暁へと振り返った。


「リリィさんの話は、いったい誰に?」

「あん? 英国在住のくそったれだよ。昨日起きたばかりの侵入者事件の情報と引き換えにな」

「……そうですか」


 メアリーは少し考えるような顔になったが、すぐに顔を上げて苦笑した。


「たったこれだけのために、ずいぶん大盤振る舞いですね」

「俺は面倒事を解決するためなら、手段はえらばねぇんでな」


 暁の言葉に、メアリーは苦笑の度合いを深め、生徒会室を出て行った。




 生徒会室の面々が、啓太とリリィの関係修復に動く。

 果たして、その結果はいかに!?

 以下次回ー。

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