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Scene.32「光葉君が動いた……?」

 各人の参戦表明が終わり、あとは細かい日程や持ち込んでよいものなどを確認し、その日の生徒会会議は解散となった。

 皆がそれぞれに動き始める中、何かを思い出したかのように暁が啓太へと声をかける。


「ああ、そうだ古金。ちょい残れ」

「? はい、わかりました」


 暁の呼び止められ、少し怪訝そうな顔になりながらも啓太はリリィへと振り返る。


「それじゃあ、リリィ。僕はこのまま残るね」

「じゃあ、私も一緒に……」

「よーし、話ができるとなれば、二人っきりになれる場所へ行こうじゃねぇか。今日はおごってやるぞー」

「え? え?」


 リリィが一緒に残ると言い出そうとした瞬間、暁は啓太の首根っこをひっつかんでそのまま引きずっていく。

 有無を言わさぬ勢いに、リリィが怯んだ。


「え、あ、ちょっと、アカツキさん!? 私も一緒に……」

「さー、今日の俺は気前がいいぞー。缶ジュースを奢ってやろう」


 リリィは声をかけるが、暁はそれが聞こえていないかのように振る舞い、そのまま拒絶するように生徒会室の扉を閉めた。

 ピシャリという音に、リリィが小さく体を竦めた。


「あう……」

「うーん、新上君がああいう態度を取るのは珍しいねぇ」


 会長は暁の行動に大体の当たりを付けながらも、そう口にした。

 おそらく、フレイヤから聞いた話を啓太にも伝聞しておくつもりだろう。

 だとするとリリィが同席すると色々とややっこしい。彼女を引き留めるために、慰めるように声をかけてやる。


「まあ、気にしなくてもいいですよ。彼らは先輩後輩である前に、友人同士ですからね。何か面白いことがあって、遊びに誘ったのかもしれませんよ?」

「そう、ですよね」


 会長の言葉を聞いて、リリィは少し肩を落とす。

 そんな彼女の様子を見て、美咲がいやらしい笑みを浮かべながらじりじりとリリィににじり寄る。


「おやおやぁ? なんだか元気がありませんねぇ? ひょっとして、啓太さんがいないと寂しかったりするんですかぁ?」

「……はい」


 何かを勘ぐるような美咲の質問に、特に考えることもなくリリィは頷いた。

 リリィが何らかのリアクションを返してくれると期待していた美咲は、拍子抜けしたような顔で曖昧に頷いた。肩透かしを食らったと言ってもいい。


「あら、そうですか……?」

「まあ、それは新上君も悪いねぇ。マリル君の話を聞こうとせず、さっさと先に進んでしまったしね」


 次にどんな言葉をかけるか迷い始める美咲に代わり、会長が声をかける。

 視線は暁を咎めるように彼が出て行った扉を睨み、それからリリィの反応を窺うように横目で観察する。

 彼女は寂しそうに、暁たちが去っていった扉を見つめていた。


(……フレイヤ嬢は幽霊に対する“異常な恐怖”と、力への“異常な執着”を持つと言ってましたが……。それらに根差す彼女の感情の起源はおそらく……)


 今、寂しそうに扉を見つめるリリィ。彼女は、ポルターガイストによって両親を奪われ、のちに目覚めた力を強くすることに執着するようになった。

 そのどちらも、おそらく大切な誰かを失ったことによる喪失感から来るものだろう。大切な両親を奪った幽霊に対し恐怖し、もう二度と大切な人を失いたくないからこそ力を求める。

 彼女の心の起源である喪失感。それをどうにかしない限りは、幽霊への恐怖も力への執着もどうにかすることは難しい、と会長は判断した。


(失ったのであれば埋めればいい……ですが、それもなかなか難しい話ですねぇ)


 会長は難しそうな表情になりながら小さく唸り声を上げる。

 彼女が失ったのは、唯一無二の存在である両親だ。両親に代わりは存在しない。いなくなってしまえば、二度と取り戻すことはできない。

 仮に美咲の目論む通りに啓太と恋仲になったとしても、彼の存在が果たして両親を失った悲しみを消してくれるかどうか……それは分からないのだ。

 そうして会長が悩んでいる横で、誰かが動いた。


「………」


 異世光葉だ。光葉は、滑るように移動しながらじっとリリィを見下ろし始めた。

 光葉の存在に気が付き、リリィは彼女を見上げる。


「……? な、なんですか……?」


 突然自身の横に並んだ光葉を見上げながら、リリィは首を傾げる。

 光葉は相変わらず感情の窺えない眼差しでリリィを見下ろしていたが。


「………」


 すぐにリリィに興味を失ったかのように、駿の元へと戻っていった。

 そんな光葉の不可解な行動に首を傾げるリリィであったが、それ以前に光葉が動いたということ自体に会長は驚いていた。


「光葉君が動いた……?」

「な、なんですかあれ。まさか天変地異の前触れ!?」


 こそこそと会長の影に動きながら小声で叫んだ美咲に、会長も同意したいところだ。

 彼女の心の起源は憎悪。あらゆる存在に対する憎悪が彼女の中にはあり、それが反転して駿への愛情となり、今の彼女を支えている。

 そんな彼女が、駿以外の存在を気にかけることはまずありえない。例え目の前で両親を殺された幼子を見たところで、産毛すら動かさないのが異世光葉という少女なのだ。

 そんな彼女が、リリィという存在を一瞬とはいえ認識し、自らの意志で動いた……ように見える。

 確認するため、会長は駿へと視線を向ける。


「……駿君。光葉君に、何か言いました」

「………………。いい、え。俺は、何も、言って、いません……」


 光葉の突然の行動に驚いているのは彼も同じらしく、自身の感情を抑えようと必死になっている様子だ。その証拠に、鬼火のごとく彼の周辺で火の粉が噴出している。

 だが、そんな駿の動揺がなによりも先ほどの出来事が白昼夢でないことを証拠づける。彼もまた、光葉の存在以外で心を乱すことはないからだ。


「いったい、どういうことですかこれは……!? 光葉さんの行動の意味は!?」

「うぅむ、わからない……」


 会長は唸り声を上げて、周りについていけない様子のリリィと、我関せずと駿の胴に自分の顔を擦りつけている光葉を交互に見やる。


(……いったい何が光葉君を動かした? マリル君の実力はそうたいしたことはない……。光葉君や駿君へ敵意を向けたわけでもない……)


 会長は悩み、考え、そして一つの仮説を打ち立ててみる。


(……でなければ、同調した? マリル君が持つ何かと、光葉君が……?)


 異世光葉という少女は、精神構造はもちろん、異能も通常のハコニワ型とは大きく異なる。

 影の中に異世界と呼べるような広大な空間を持ち、なおかつそれは飲み込んだ生物の精神にも干渉できる。かつて光葉に飲み込まれ、そして出てきたものはごく少数を覗き、正気を保ってはいなかった。

 そして、その応用なのか、彼女は影を通して他人の感情に同調する。他者の敵意に過剰反応するのは、そのためだ。

 その、影を通した同調によって、リリィの何らかの感情の波とリンクしたため、一時的にリリィの存在を認識した……可能性はある。


(……だが、確実かどうかはわからない。ともあれ、研三先生へ報告しておく必要はあるだろうな)


 光葉の突然の行動に騒然となる生徒会室の中、会長は携帯電話を取出し研三へと連絡を取り始める。

 そんな周りの人間の様子についていけないリリィとメアリーは、じっと騒ぎが終わるのを待っているのであった……。






 異界学園の食堂は、放課後もなかなかの賑わいを見せている。学生が利用できる食堂としては味のレベルも中々なので、学校が終わった後に立ち寄る生徒たちも多いのだ。

 そんな中、食堂の端の方に座っている啓太は、暁が終えた話を反芻し、珍しい暁のおごりであるオレンジジュースを啜り、小さく呟いた。


「……リリィに、そんな過去が」


 啓太にとっては、想像もしない話だった。リリィの幽霊に対する過剰な反応も、歳相応の恐怖心だと、信じて疑っていなかった。


「俺が聞いた話は以上だ。あのクソアマが情報を隠匿してなきゃ、だけどな。折を見て、会長にも確認しておくか……」

「………」


 後半部分は啓太にはよく聞き取れなかったが、気にすることなく啓太は考える。

 考えるのは、もちろんリリィの事だ。


(……リリィは、普通の女の子だと思ってたのに……。僕が思っていた以上に、悲しい過去を背負った女の子だったんだ……)


 啓太の両親は、一応健在である。現在は、考え方の違いからほとんど連絡も取りあってはいないが、それでもいることに代わりはない。

 両親がいないリリィに比べれば、断然幸せだろう。いない相手には、どうあっても文句は言えないし、反応立って返ってこないのだから。

 オレンジジュースを啜りながら、啓太は暁を見る。


「……どうして、その話を僕に?」

「特別他意はねぇよ。話自体は、会長たちも聞いてるし、なるたけ情報は共有しておくべきだと思っただけだ」


 自身は無料のお冷を飲みながら、啓太の問いに答える暁。


「もちろん、多少の期待はあるが……言うほどの事でもねぇからな。無理に意識することもねぇぞ」

「これだけの話聞かされて、意識するなって方が無理ですよ……」


 暁の言い草に小さく苦笑しながら、啓太は俯く。


(先輩が言っていた気を使ってやれって、つまりそう言う意味だったんだ……)


 昨晩の暁の言葉の心意を悟り、啓太はギュッと拳を握りしめる。

 リリィの中に根付く心の闇は、彼が思っている以上に深いということなのだろう。

 暁はそんな彼女を心配して、啓太に気を使ってやれと言ったのだ。


(だってのに僕は……北原さんの言葉を真に受けて、舞い上がって……)


 昨晩から朝にかけての自らが感じた、幸せな羞恥心に対し、啓太は強い怒りを覚える。

 何を舞い上がっていたのだろう、自分は。心の中に傷ついた少女を前に、むやみにはしゃいだりして……。


(僕が……しっかりしなきゃいけないのに。なのに、僕は……!)


 ギュッと、制服のズボンを握りしめる。しわになってしまうが、啓太は気にしない。

 そんな彼を見て、暁はなにか懸念するようにこう口にする。


「……重ねて言うが、気負うんじゃねぇぞ。これはリリィの問題だ。お前が必要以上に背負い込む話じゃねぇ」

「……わかってます。わかってます、けど……」


 暁の言葉に啓太は顔を上げ、真剣な表情でこう口にした。


「でも、気にしないなんて、できません。聞いてしまった以上、リリィの友人として、彼女のために何かしてあげたいと思ってます」

「……まあ、好きにしたらいいんじゃねぇの? 何をやっても、悪い方向にはいかねぇだろうし」


 強い決意を宿す啓太の瞳を見て、暁はあきらめたように肩を竦める。

 啓太はそんな彼に一礼して、立ち上がった。


「ありがとうございます、先輩。僕、決めました」

「なにを?」


 端的な暁の質問に対して、啓太は並々ならぬ決意を込めて言い放った。


「リリィは……必ず僕が幸せにして見せると……!」




 啓太君、まさかの告白宣言。果たしてうまく行くのか!?

 割と前向きに恋愛に望む子になったなー。さあ、どうなる!?

 以下次回ー。

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