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Scene.31「気象情報研究所?」

「みんなも知っていると思うけれど、最近のタカアマノハラには正体不明の侵入者が続出している」


 会長の言葉に、バラバラに頷く上級生たち。

 啓太とリリィは侵入者騒ぎをよく知らないのか、申し訳なさそうに手を上げた。


「あの……ごめんなさい、知らないです」

「わ、私も……不勉強ですいません……」

「ああ、いやいや。知らなくても仕方ないよ。基本的には一般には伝播していない話だからね」


 会長は慌てて啓太とリリィへ侵入者騒ぎの説明を始める。


「久遠君が駆り出された侵入者騒ぎは覚えているかな? あれと同様の騒ぎが、また起きたんだよ」

「また、ですか……」

「ここ、タカアマノハラは未知の最新技術が集う場所です。侵入者騒ぎが続くのは、そう珍しくもないのでは?」


 リリィが不思議そうに首を傾げる。彼女はこのタカアマノハラの事情をよく知らない。そう言う発想も致し方ないだろう。

 そんなリリィに笑顔を返しつつも、会長は首を振って否定した。


「そうかもしれないけれど、侵入者の姿も形も見えないとなると話が変わってくるんだよ。ここはタカアマノハラ……。遠視能力者も過去視能力者も大勢存在する。そんな彼らにさえ見通せない侵入者が、タカアマノハラの中を動いている可能性があるんだよ」

「姿が見えない……ということですか?」

「そう言うことだね。未だ侵入者の明確な情報が得られない状況に対し、委員会は厳戒態勢を発令。各種研究機関は、事態の明確な収拾がつくまでは警備体制を強化することに決まったよ」

「そりゃ、アルバイターが泣きそうな話だな」


 暁は残念そうにため息をつく。

 研究機関が警備体制を強化してしまうと、あくまで一般人として扱われる学生たちはそれらの研究機関に出入りすることができなくなる。

 研究機関に出入りし、その研究に協力することで懐を温めている、暁のような人間にとってこの状況は好ましくはなかった。

 会長もそれを心得ているのか、暁に頷いてみせる。


「その通りだ。君のような苦学生はこのタカアマノハラにたくさん存在する。彼らの数少ない収入源を長く断つような真似は、委員会としても望ましくないと考えているようだ」

「ですが、侵入者を捕えるまでは、可能な限り人の出入りは締め付けるべきでしょう。他にアルバイトをする場所はないのですか?」


 真剣な表情をしたメアリーに、美咲が肩を竦めながら答えた。


「無くはありませんが、稼ぎの率が段違いですからねぇ。誰もやりたがらないんですよ」

「外部企業のチェーン店のバイトは現金で支払われるけれど、研究機関系はポイントで支払われる。タカアマノハラで暮らすなら、断然研究機関系の方がいい」

「あー、それは誰もやりたがりませんよねー……」


 続くつぼみの補足に、啓太が顔をしかめる。

 タカアマノハラにおけるポイントの有無は、ある意味死活問題にも繋がる。タカアマノハラは洋上都市であるせいか、物価が都心と比べて若干高い。インスタント食の定番であるカップ麺一つとっても、定価のままであることが多い。店頭に表示してある大抵の商品が、メーカー希望小売価格のままであることもあるのだ。

 だが、ポイントを持っていれば現金と比べて、圧倒的に安い値で欲しいものを手に入れることができる。タカアマノハラで暮らすのであれば、現金はポイントに代えてしまうのが賢い暮らし方なのである。


「それに、自らの異能をより磨く機会にもなります。外の学校ではアルバイトを禁止するところも多いようですが、タカアマノハラではむしろ推奨していますね」

「学校が紹介状も書いてくれるから、その日のうちにポイントを手に入れられるしな。まあ、そこまでやってもらうにはそこそこ以上に腕が立たなきゃならねぇが」

「むむぅ……お金も手に入って、自らも磨ける……タカアマノハラでは、アルバイトはとても重要なのですね……」


 暁たちの言葉に、リリィは難しい顔をして唸り声を上げる。

 自分にもできるアルバイトがあるだろうか? そんなことを考えている顔だった。

 そんな彼女に、会長が申し訳なさそうに声をかけた。


「あー、マリル君? すまないが、生徒会では原則的にアルバイトは禁止しているんだ」

「え!? そ、そうなんですか……」


 会長の言葉を受け、リリィが残念そうに肩を落とした。

 そんな彼女を見て、暁は呆れたような声を上げる。


「お前、この間二十万も稼いでおいて何を言ってるんだ」

「あ、いえ、そうなのですが……あれ? でも、言われてみれば?」


 リリィは首を傾げる。

 そう言えば、この間はお金をもらって仕事をしていたわけだが、あれはアルバイトには当たらないのだろうか?

 リリィのそんな疑問も表情から読み取って、会長が引き続き応えてくれた。


「その代り、生徒会に所属すると委員会から直接の依頼を受けることができるのだよ。普通のアルバイトと違い不定期ではあるけれど、手に入る金額が違うのさ」

「普通のバイトで……大体五、六万くらいだったか?」

「ですねぇ。ざっと二倍から四倍くらい手に入る額が違いますよね」

「ワンチャンで十倍もあり得る。億万長者も夢じゃない」

「そ、そんなにですか!?」

「さすがに十倍は僕も知りませんでしたよ!?」


 驚く啓太とリリィ。十倍といえば五十万……管理職の給与額だろう。一学生に与えていい額では断じてなかろう。


「とはいえ、当然それに見合うだけの実力は必要だよ。依頼によっては危険も付きまとう」

「場合によっちゃ死ぬからな。危ないと思ったら、受けないのも当然アリだ」

「で、ですよねぇ」


 啓太はこの間暁と共に受けた依頼の時のことを思い出し、軽く身震いした。

 あの時は何とか防ぐことができたが、最悪どちらかに銃弾が命中していたかもしれない。

 医療技術に関しては、基本的に本土とそこまで変わりがあるわけではない。強いて言えば、貫通しなかった場合はテレポーターによる摘出が行われる程度か。当たり所によっては即死もありえただろう。

 会長はそんな啓太を見て、安心させるように頷いた。


「まあ、その辺りは僕が適宜、皆に合う依頼を選定しておくよ。少しずつ、慣れていけばいいさ」

「はい、わかりました」

「ありがとうございます、会長」

「いやいや」


 ハッキリと口にしたわけではないが、会長は自分たちを戦力の一つとしてみてくれている。

 そのことがうれしくて、啓太とリリィは笑顔で頭を下げた。

 会長はそんな二人に笑顔を返しながら、本題を口にした。


「いささか話はずれてしまったけれど、委員会は現状を好ましく考えていない。そのため、事態解決のために協力するよう、僕たちへの依頼が行われたというわけさ」

「依頼はいいけど、解決する当てはあるのかよ? それがなきゃ、どうしようもねぇぞ?」


 暁の言葉はもっともである。現状、侵入者が存在するという以上のことは分かっていない。

 その状態で事態解決に協力せよと言われても、何をすればよいのか……。

 それに対する答えは、つぼみが持っていた。


「次に侵入者が現れる場所の、見当はついてる」

「あ? なんだ、お前。予知()てたのか」

「その通り。実は、まだ確定はしていないが、先の侵入事件の同一犯と思われる存在が、ここ最近のタカアマノハラで散見されていることが分かった」


 そう言って、会長は地図を示してみせる。

 手にした地図はタカアマノハラの物で、研究街を中心とした場所に、いくつか赤い点が記されていた。


「これは、件の侵入者が現れたと思われる場所をマークしたものだ」

「おいおい、美咲が関わった件だけじゃなかったのか?」

「私が呼ばれたのは中央塔と工場の件ですけど、そこだけじゃなかったんですね……」


 ざっと見積もっても十件近く。これがもし短期間で侵入された場所だとするのであれば、相手は相当の手練れだろう。


「実は、侵入者が連続したのが気になってね。今日は学校を休んで、方々を駆け回って情報を集めたんだよ。警備隊の皆さんにも、協力してもらってね」

「で、結果がこの地図か?」

「その通り。中央塔での侵入者騒ぎ以前にも、警備システムの誤作動なんかが散見されているんだよ。もちろん、本当に誤作動を起こしただけかもしれないけれど、今回は侵入者であると仮定した。近衛君の、予知のためにね」

「会長が集めてきてくれた情報を元に、私が予知したところ、次に犯人が現れるのは二日後。タカアマノハラ気象情報研究所に現れると出た」

「気象情報研究所?」


 聞き慣れぬ名前に、リリィが首を傾げる。


「気象情報研究所は、近衛先輩みたいな予知系能力者がたくさんいて、彼らの予知情報を元に気象予報を行う研究をしてるところだよ。今のところタカアマノハラ全域の情報を集めるので精いっぱいだけれど、将来的には全国の気象情報を予知できるようにするのが目標なんだって」

「そうだったのですか! 道理で、タカアマノハラの天気予報にははずれがないと思いました!」


 リリィは目を輝かせる。タカアマノハラに流れる気象情報には基本的に外れがない。そのことがずっと不思議だったのだろう。

 そんな彼女を余所に、暁は腕を組んで首を傾げる。


「二日後……? 二日後っていやぁ、週間天気予報会がなかったか?」

「その通り。私のような、予知能力者にとっては、委員会へのアピールを行うための最大の機会……。参加できる予知能力者は、全員参加する予定。これは、厳戒態勢内でも、普通に行われる」


 暁の言葉に、つぼみは頷く。

 タカアマノハラの天気予報は、毎日行われるものではない。一週間に一回、まとめて次の週の予測を行うのだ。

 これもバイトとして扱われるため、予知能力者はこぞってこの週間天気予報会に参加する。予知能力に分類される能力を持ってさえいれば、だれでも参加できるからだ。予測の精度に関わらず、必ずポイントが支払われるというのも、参加率を高める理由の一つだ。

 もっとも、学校側から参加者の情報は提供されるので、予測精度によって支払われるポイントは左右されるのだが。


「……では、犯人の狙いは、タカアマノハラに在住する予知系能力者なのでしょうか?」

「かもしれないね。今まで犯人が現れているのは、基本的に研究街だ。異能者の情報を狙っているとみて、間違いはないだろう」


 メアリーの考えに同調するように、会長は頷く。

 そして手を組み、生徒会室の中を見据え、はっきりと口にする。


「そこで我々異界学園生徒会は、週間天気予報会に参加し、侵入者の撃退、もしくは捕縛に努めたいと考えている」

「まあ、そうなるわな。向こうが来るなら、探す手間は省けるわけだし」


 会長の言葉に頷く暁。

 委員会の依頼とあれば、参加しない理由はない。報酬が約束されるわけだし。


「父も侵入者の存在に懸念を抱いているようです。俺も、今回は参加させていただきます」

『駿が行くなら、光葉も』


 父である研三から何か話を聞いているのか、駿と光葉も参加を申し出る。


「私も参ります! タカアマノハラを脅かす悪党を、必ず捕まえて見せましょう!」

「リリィ、力みすぎですよ? もちろん、私も参ります。よろしいですか?」


 騎士団からの出向者であるリリィとメアリーも乗り気のようだ。


「リリィが行くなら、僕も行きます。いいですよね?」

「私も当然行く。情報が集まれば、予知もしやすい」

「みなさんが行くなら私も行きますよー。生徒会による大捕物! いやぁ、記事になりますねぇ」


 残りの三人も、それぞれの思いを胸に参加を表明する。

 その場にいる全員の意志を確認し、会長は頼もしそうに頷いた。


「ありがとう皆。タカアマノハラの平穏を守るために、皆の力を合わせようじゃないか!」


 扇子を広げて掲げ上げ、会長は堂々と宣言する。


「それでは! 二日後、タカアマノハラ気象情報研究所にて、侵入者を撃退したいと思う! 異論はないか!?」

「「「「「異論なし!!」」」」」


 全員の唱和を受けて、会長は満足そうに頷くのであった。




 というわけで、捕物作戦発動です。

 タカアマノハラだと、アルバイトは研究関係が狙い目。逆に客商売は敬遠されがちです。だってめんどくさいもの。

 以下次回ー。

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