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Scene.29「……本当にお似合いですね、あのお二人は」

「いやホントすいませんでした……忘れてください、即座に」

「とりあえず、脳内メモリーの永久保存版にしとくわ」

「やめてくださいマジで! 違うんです、あんなの私じゃないぃぃぃ!!」


 何やら叫びながら、美咲が格好の廊下の上で左右に転がる。

 美咲の暴走は暁のボディーブロウを鳩尾に叩き込むことで一応の終結となった。さすがにサイコキネシスの衝撃波込の一撃はよく効いた。喰らった後、美咲は口から泡を吹き始めたほどだ。

 その後、気絶した美咲の身柄は保健室に預け、暁たちは放課後に回収。

 いろいろ自己嫌悪していた美咲を引きずって、今は生徒会室に向かっているところである。


「……だってしょうがないじゃないですか!? 昨日の夜に呼び出しで寝不足なんですよ!? 結局夜明けまで作業して、休む間もないところに、あんな光景見せられて……! ちょっとハイテンションになっても仕方ないと思いません!?」

「知らん」

「知りません」

「ひどいですー!」


 暁と駿の二人にバッサリ切り捨てられ、美咲はだーっと目の幅の涙を流す。

 暁はそんな美咲の様子に構わず、彼女の呼び出しのことを問いただした。


「……で? 呼び出しってどういうことだ? なんかあったのか?」

「うう、暁さんのいけず。昨日もまた侵入者騒ぎがあったんですよ」


 美咲は涙をハンカチでぬぐいながら、事の次第を説明し始める。


「えーっと、午後七時くらいですか。今度は研究街にある、工場に侵入者が現れまして。呼び出しに来てレポーターに連れて行かれて、そのまま厳戒態勢の工場の警備を手伝わされましてね……。解放されたのが夜明け頃なんですよ……」

「ハードスケジュールだな、そりゃ」


 美咲の境遇を思い、少し同情の眼差しを向ける暁。

 とはいえ、委員会も鬼ではない。そう言う場合は、翌日の学校は公休扱いになるはずだが。


「いえ、それが……気まぐれで皆さんの様子を見ようと寮の方向へサテライト(アイ)飛ばしましたら、啓太さんとリリィさんの仲睦まじい姿が見えまして……。その感動を誰かにお伝えしたくて、気が付いたらあそこに」

「そうか」


 どうやら自主的に登校したらしい。

 暁は適当に頷きながら、生徒会室へと歩いていく。

 そんな彼の背中についていきながら、美咲は軽く首をかしげた。


「……でー、珍しく駿さんも一緒ということは、生徒会に依頼が来たってことでしょうか?」

「らしいな。詳しいことは、生徒会室に着かなきゃわからんが」

「美咲さんの話を考えれば、侵入者騒ぎに続報があったのかもしれません」

「ですねー。ここまで短い間隔で侵入者があったことはありませんからねぇ」


 美咲が軽く欠伸を掻きながらそう呟く。

 彼女の言うとおり、連続で侵入者が現れたという例は、タカアマノハラにはあまりない。なぜなら、侵入者が完全に逃げおおせたという事例自体が少ないからだ。

 タカアマノハラには異能を応用した様々な技術が散乱している。それは警備システムにも例外ではなく、タカアマノハラの警備システムは外界のそれと比べると、一世代か二世代ほど進んでいると言われている。しかし、異能という不安定な技術を無理やり使用している関係か、タカアマノハラを二十四時間見張らねばならない警備システムとしては、信頼性に欠けているのが実情だ。警備隊という、民間企業に頼っているのもそのためである。

 警備システムと警備隊。この二つを併用することで侵入者への対策をほぼ完璧なものとしているのだ。

 もちろん、それらを完全に掻い潜って逃げおおせる侵入者もいなかったわけではない。だが、その時の経験はきっちりと活かし、再犯が現れないように全力を尽くしているはずだ。犯行中はともかく、犯行後であれば現場をサイコメトリー系の異能者で見ればどのように侵入されたかを検証するのは難しくないのだ。


「しかしどんな人間なんですかね? ここまで短い間にタカアマノハラへ侵入を繰り返し、なおかつ逃げ遂せるなんて」

「さあな」


 美咲の疑問に、暁はそっけない感じで答える。


「案外、義賊系の怪盗が出張ってるんじゃねぇの? シルクハットにタキシード着込んだ大怪盗がよ」

「もしそれが本当なら、私たちに勝ち目ないじゃないですかー。何をしても裏を掻かれる未来しか思い浮かびません」


 暁の言葉に、げんなりと舌を出す美咲。

 それを横で聞いていた駿が、小さく頷いた。


「ならば姿が見えない、というのも納得でしょうか。異能も、警備隊も、警備システムを操るものも、所詮は人間。人間心理に通じているであろう怪盗であれば、出し抜くのも容易というわけですね」

「出し抜かれる方はたまったものじゃありませんよ……」


 感心しているかのような駿に、美咲は恨みがましい視線を送る。

 と、その瞬間。


「はひぃ!?」


 ズバンと音を立てて、美咲を縦に貫こうと影の触手が彼女の足元から突き上げられた。


「あ、あの……?」

「………………」


 美咲が脂汗を垂らしながら下手人の方を見ると、光葉はドロドロした眼差しで美咲を睨みつけていた。ドロドロとした、暗い眼差しで。

 瞳を覗いたところで、美咲にはその中にどのような感情が渦巻いているか全く理解できない。

 美咲は、ごくりとつばを飲み込む。彼女が何を考えているかはわからないが、一つだけわかったことはある。

 光葉の背後でうごめく影の触手が雄弁に語っている。彼女は、美咲を……。


「光葉、そこまでです」


 美咲が全力で逃げようと後退を始めた瞬間、駿が光葉を背中から抱きしめた。

 左手は彼女の胴体に。右手は彼女の目を覆うように。そして頭は彼女の頬へとこすりあわせるように。

 ギュッと光葉の体を柔らかく抱きしめながら、駿は彼女の耳元に小さく囁いた。


「落ち着いてください、光葉。彼女は敵じゃありません」

「………」

「彼女は敵じゃない。だから、殺す必要はありません」


 優しく言い聞かせるような駿の言葉に反応して、光葉の影から伸びている触手が収まっていく。


「光葉。光葉は、何も気にしなくていいんです。あなたの敵は、俺の敵です。もしもの時は、俺が灰に還します。だから、光葉は何もしなくていいんです」

「………………」


 光葉が、駿に体を預けるように力を抜く。するすると、影の触手は光葉の影へと収まりきった。

 駿が光葉の顔から手を外すと、そこにはいつもの光葉の姿があった。

 いつものようにどこを見据えているかわからない、黒い瞳を駿の方へと向け、小さく頷いた。

 それを見て、駿は微かに微笑んだ。


「ありがとう、光葉」

「はいはい、いつもの茶番は置いといて、さっさと行くぞ」

「ええ、わかりました」


 駿の頭上に何度か瞬いた火の粉をサイコキネシスで払いながら、暁が手のひらを叩く。

 それに頷いて、駿と光葉が並んで歩きだした。

 それを見て安堵のため息を吐き出す美咲の隣に、暁が並ぶ。


「いつも言ってるが、気を付けろ。どんな些細な悪感情だろうと、光葉は拾うぞ」

「ええ、わかってます……わかってるつもりなんですけどね……」


 美咲は笑いながら、暁へと小さく溢す。


「まさか、あんな小さな感情すら拾うとは思いませんでしたよ……」

「まだ自制は効いてる方だ。昔に比べりゃな」


 美咲の背中を慰めるように叩いてやりながら、暁は遠い目で駿と光葉の背中を見つめる。


「俺なんざ、駿に挑むたびに、光葉の攻撃にも晒されてたもんだ。今でこそ、慣れというか、光葉の中には俺もいる(・・・・・・・・・・)が、そうでなきゃ俺は毎日光葉の相手をしなきゃならねぇよ」

「……強い異能を持つが故の代償、ですか」


 美咲は今の光葉の精神状態を思い出しながら、小さく呟いた。

 異世光葉。世界最高のハコニワ型能力者。

 その強い異能を持つ代償は、精神障害ともいうべきだった。

 彼女は、世界を正常に認識できない。あらゆるものが彼女にとっては異常に映る。世界の姿はヘドロのような匂いを放つ闇色の泥であり、世界の音はすべからく不協和音を奏でるノイズだ。

 そんな彼女が正常に認識できる数少ない存在が、彼女が愛し、そして愛される存在である異世駿だった。彼は彼女の中へと入り、そして言葉を届けられる数少ない存在だ。

 そして、それ以外の存在に対して、彼女は憎悪に近い感情を抱いている。駿という存在がいなければ、あらゆる全てを呪い、飲みこみ、そして消し去ろうとする、そんな暗い感情。それこそが、異世光葉という少女の心の起源なのだ。

 故に、彼女はあらゆる負の感情に敏感だ。自分へ向けられるものはもちろん、駿へと向けられるものにも。

 先ほど、光葉を攻撃したのは、美咲が微かに駿へと恨みを抱いたからだ。

 美咲にしてみれば、軽い冗談のようなものだったし、ふりも含まれていた。だが、光葉はそれすら許さない。なぜなら、光葉は全てを呪っているから。


「よくまあ、無事でしたよね、暁さん。私なんか、生きた心地がしませんでしたよ」

「まあな。その辺は俺の実力によるものだが」


 美咲の言葉に、暁は胸を張って見せる。

 が、すぐに真面目な顔をして駿の背中を見やった。


「だが、駿がいなけりゃどうしようもなかったな、実際。駿だけが、光葉を、イザナギを完全に抑え込めたからな……」


 光葉の異能“イザナギ”は、影を媒介する。影であらゆるものを形作り、影の中に世界を作り、全てを影の中へと飲み込む能力。それが、イザナギだ。

 だが、影を媒介とするゆえの弱点も存在する。影は光が強くなれば小さくなる。そのため、光の多い昼間は十全な力を振るうことはできない。

 そして、駿の異能カグツチには手も足も出ない。彼の異能は光を発し、異能を燃やす。彼女にとって、駿は天敵というべき存在なのだ。


「……本当にお似合いですね、あのお二人は」


 暁の言葉を聞き、美咲は小さく息を吐く。

 その息には微かな戦慄と、多くの羨望が入り混じっていた。


「光葉さんは全てを呪っているというのに、駿さんはそんな光葉さんを受け入れて……羨ましいくらいです。私にも、あんなパートナーが欲しいですよ」

「お前の頭の中についていける奴ぁ、そうはいねぇだろ。諦めてソロライフを満喫しとけ」

「いろいろひどいですね、暁さん。今度の生徒会報、楽しみにしていてくださいね……?」

「おう、期待しないで待っとくわ」


 ひらひらと手を振りながら、暁は美咲の前に出る。

 そんな彼の背中を睨みながら、美咲は生徒会室へと向かった。




 侵入者事件、続報の予感……!

 そして光葉に関してもちょろり。昔いろいろあった系なんですけど、書けるかなこれ。いろいろひどいから、書く隙があるかどうか。

 以下次回ー。

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