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Scene.22「どうも誤報ではなかったようなんですよね」

「あー……」

「あの、美咲先輩……? 大丈夫ですか……?」


 謎の万歳三唱からしばらくして、造言被語(ライアー・ボイス)の効果が途切れ、テンションが平時のものへと戻った四人だったが、造言被語(ライアー・ボイス)が切れた途端、美咲がべたりと机の上に突っ伏した。

 まるで電池が切れたおもちゃのような美咲の様子に、啓太が心配そうに声をかけると美咲はゾンビのようなうめき声を上げながら片手を上げた。


「だ、大丈夫じゃありません……。さすがに、貫徹はきついです……!」

「か、貫徹って……何してたんですか、先輩」


 いくら美咲が若いとはいえ、完全徹夜とはただ事ではない。いったい何があったのだろうか。

 と、不安を覚える啓太に、暁が肩を竦めながら教えてやった。


「つい最近、中央塔侵入騒ぎがあったろ。美咲はその関係で呼び出されてたのさ」

「あ、ああ、ありましたね、そんなこと……。でも、なんで美咲先輩がそれで呼び出されたんですか?」

「美咲の異能、サテライト(アイ)が、監視や捜索に適しているから」


 美咲の傍に入れたてのコーヒーを置いてやりながら、つぼみが補足してくれる。


「サテライト(アイ)……ですか? どんな能力なんですか?」

「ハコニワ型の異能で、いわゆる遠視系の異能だ。カメラのフィルム一本を消費して生み出せる、目玉の化け物を使役して遠くを見る能力さ」

「カメラの……フィルム? フィルムって……」


 暁の言葉に若干首をかしげた啓太だったが、そのものを思い出して手のひらを打った。


「あ、ああ! あれですよね! 乾電池の親玉みたいなあの!」

「……うん、まあ、言わんとすることは分かる。たぶん、お前が考えてるのであってんだろ」


 何とも曖昧な表現を用いた啓太に微妙な顔で頷きながら、暁は念力で美咲のカバンの中から黒い何かを取り出してみせた。

 啓太の言うとおり、単一電池ほどの大きさの物体である。横にはスリットと、そこから何かビニール状のものが顔を見せている。


「ネガフィルムっつって、一昔前の写真は大体これを使ってたもんだ。今もプロはこれ使ってんだっけ?」

「あるいはごく一部の趣味人が使う。今や、カメラと言えばデジタルカメラが主流。デジカメにも、一眼レフとほとんど変わらない機種が出てきてる」

「技術は進むよなぁ。おかげで説明にも苦労するわけだが」


 暁はため息をつきながら、手の中でネガフィルムを弄ぶ。


「……まあ、カメラ談義はさておき。美咲のサテライト(アイ)は、このネガフィルムを核に、目玉の化け物を生み出す。その化け物は、半径一キロ圏内を自由に飛翔し、あらゆる物体を透過して動き回る。動体検知器やレーザー式の警報器なんかも無効化し、見た映像を美咲の脳内に投影するんだ」

「生み出せる目玉は最大で十個。美咲は脳内でそれらすべてを処理して、必要に応じて写真を撮るように映像をフィルムに収めることもできる。監視、捜索においてこの上なく便利な異能」

「一キロ……! すごいですね、先輩!」


 啓太は畏敬の念を込めて美咲を見つめる。

 一キロとはかなりの射程距離だ。比較的遠くに力を飛ばせるサイコキネシスやパイロキネシス系で、大体百メートル前後が限界射程と言われている。これは遠視系能力においても大体同じとみられている。

 だが美咲の射程範囲は実にその十倍を誇るということだ。せいぜい十メートル前後が限界の啓太にとっては、未知の領域である。

 と、そこで美咲は顔を上げる。

 油の切れたロボットのような動作で、ギギギと啓太の方へと視線を向けた。


「お、お褒めいただき、こ、光栄です……。でも、すごいことばっかり、じゃ、ないん、ですよ……?」

「目玉を十個操れるというのは、すなわちモニターを十個見つめているのと同じだからねぇ」


 異能の使い過ぎで、美咲のようにぐったりと椅子に体を預けているリリィの顔を、センスで扇いでやりながら、会長がしみじみと続ける。


「十個フルに活用した場合の美咲君の脳への負担は、第一世代のそれとそん色ないと言われているほどだよ」

「え、じゃあ、美咲先輩は第一世代なんですか!?」

「いえいえ、まさかまさか……。ただ単に負担が第一世代と変わりないってだけですよ……」


 まだ頭は痛むままなのか、額を押さえながらも、美咲は体を起こし上げた。

 そしてつぼみにコーヒーの礼を言い、カップに口をつける。


「……んん。目玉が見た映像はあくまで私の脳内にしか映りませんし、写真を残せると言っても、一つの目玉につき一枚が限界なうえ……すぐに見れるわけではありません。司令塔の役割ができるテレパスと組めれば、戦場やらなんやらではかなり役に立つんでしょうけれどねぇ」

「ああ、それでこの間、テレパスが欲しいって言ってたんですね」

「そこまで言いましたっけねぇ」


 啓太の言葉に苦笑しつつも、美咲は頷いた。


「まあ、ともかく、そう言う異能を使って、中央塔侵入の犯人探しと、中央塔警戒に駆り出されたというわけですよ」

「まったくうらやましいぜ。俺は実害がはっきりと確認できるまでは出番がねぇってのによ」


 言葉の通りうらやむ視線を暁から投げつけられ、美咲はとんでもないというように眉尻を上げて反論し始めた。


「羨ましいだなんてとんでもない! おかげで私、最終日は不休で働かせられたんですよ!? 警備隊の皆さんは侵入者を捕縛できなかったせいでピリピリしてるし……そう何度もあんな空気味わいたくないです!!」

「まあ、そうカリカリすんなよ。駿の奴も言ってたが、警報の誤報かもしれねぇんだろ? 犬に噛まれたとでも思って諦めろよ」

「……それなんですけれども」


 警報の誤報、という言葉に、美咲は眉根を顰める。

 不思議でしょうがない、という様子で首を振り、自らのきいた話を語って見せた。


「どうも誤報ではなかったようなんですよね」

「……なに? どういうことだ?」

「いえ、これは帰る直前に小耳に挟んだんですけれど……過去視のできるサイコメトリー能力者を呼んで、警報が反応した場所を見せたところ、人がいた気配はあったんだそうです」


 美咲の言葉に、暁の瞳が鋭く光る。


「……どういうことだ? カメラに映らなかった何かを、そいつは視たってことか?」

「そう言うことなんでしょうけれど……どうも要領を得ないんですよ」


 ガシガシと乱暴に頭を掻きながら、悩む美咲。

 自身が聞いた話をどう話せばよいのか、わからないようだ。

 やがて諦めたようにため息をつき、聞いたままを口にし始めた。


「……話によれば、人の姿はないのに動いたんだそうですよ?」

「なにが」

「ドアノブが」


 淡々としたやりとりの中で、美咲はまたため息をつく。


「今回作動したのは動体感知型の警報器だったのですけれど、それが反応した時、付近のドアノブが勝手に動いたそうですよ? 幸い、そこのロックは指紋式だったため開錠されずに済んだようですが、ドアノブが動いた時、肝心の人影はどこにもなかったとか」

「……サイコキネシスか何かか?」

「その可能性も加味して調べましたが、周囲は百メートル圏内には人影は一切なし。そもそも、サイコキネシスでドアだけ開けてどうするんだって話ですよ」

「……だな」


 美咲の言葉に、暁は頷く。

 サイコキネシスで指紋が付かないように扉を開けられたとしても、肝心の中身は直接見ないことには持ち出せまい。

 暁はサイコキネシスの微弱な波動を全方位に投射することで、物の位置などを正確に測る技術を持っている。

 これは啓太も使える技術で、彼がリリィの攻撃を正確に察知した理由の一つなのだが、物の位置は分かっても、文字を読めるわけではない。

 片端から資料を持ち出すというのも手ではあるだろうが、それでは足が付きやすいだろう。そもそも完全に目視できるわけではない。念波の投射範囲外からの攻撃には極端に弱い。サイコキネシスによるレーダーはあくまで死角を補う手段であり、頼りきるものではないのだ。

 だが、だとするのであればいったいどのような理由なのか?


「……単純に考えれば、姿を消すタイプの異能か? 光学迷彩系の」

「ですかねぇ。あるいは、異界学園に入学できずに散っていった不遇の学生たち……その怨念かもしれませんねぇ」


 ハッハッハッ、と冗談めかしたように笑う美咲。

 そんな馬鹿なと暁も笑い飛ばしてやろうとしたとき。


「お化けなんていませんっ!!」


 バン、という轟音と共にリリィが立ち上がった。

 どうやら音の正体は、彼女が叩き付けた両手らしい。机がたわむほどの勢いで叩きつけられ、机の上に載っていた雛あられの皿がひっくり返る。

 はぁ、はぁ、と荒く呼吸を繰り返し、しかし真っ青に血の気の引いた顔を上げ、美咲に向かってリリィは怒鳴り声を上げた。


「そう! お化けなんているわけがないんです!! この科学の時代に、怨念だなんて非科学的な存在なんて、いるわけがないんです! ええ、もうその通りなのです!!」


 突然の出来事に、メアリーも呆然とリリィのことを見ている。

 会長たちは目を丸くしてリリィを見つめ、啓太はあんぐりと口を開けていた。

 硬直している皆を代表して、暁がリリィに声をかける。


「……あー、リリィ? ちょっといいか?」

「はい、なんでしょうアラガミ・アカツキ!? お化けですか!? お化けなんていません、ええ、いませんとも!!」

「なにもいってねぇよ」


 見れば、リリィの目は忙しなくあちらこちらを向き、顔中から汗を拭きだし、とても慌てているのがよくわかった。

 誰の目から見ても明らかだろう。

 リリィ・マリル。彼女は。


「……お前、幽霊とか化け物が駄目なの?」

「そんなものいないって言ってるじゃないですか!? いやですね、アラガミ・アカツキ! 科学の徒、その最高峰の一人であるあなたが、そんな迷信を信じているようでは!!」

「いや、異能科学って元々魂の存在証明が目的って説もあるから、幽霊は」

「わー! わーっ!! 聞こえませんたら聞こえません! 幽霊はいない! お化けなんていなーい!!」


 耳をふさぎ、暁の言葉を必死に聞かないようにするリリィ。

 暁はため息とともに顔を上げ、ふと会長と目が合い。


「「………フゥ」」


 どちらからともなく、共に肩を竦めた。




 泥棒事件続報から、なぜか妙な方向へ。

 次回、暁先生の幽霊講座ー。

 以下次回。

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