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Scene.21「声を媒介に対象の精神に干渉する異能ですか」

 放課後、暁たちが生徒会室へと赴くと、何やら歓声が沸き起こっていた。


「なんだ?」


 思わず眉根を寄せながら、暁が生徒会室の中へと入ると、リリィが涙を流しながらひたすら万歳しているところだった。


「やったぁ! やりました! ついに雛あられを一つ無傷で移動させられるようになりましたぁ!」


 見てみれば、数多く粉砕されている雛あられのうち、一つだけが無事にもう片方の皿へと移動していた。

 リリィが雛あられの移動訓練を開始して一週間程。進捗速度としては、なかなかのものだと経験者の暁は唸る。


「ほほぅ。思ってた以上に早かったじゃねぇか」

「よかった! よかったねリリィ!!」


 リリィの隣では啓太も涙を流して彼女に抱き着いて喜びの声を上げている。

 そしてその光景を美咲はひたすら写真に収め、つぼみに至っては何を刺激されたのか、ノートに何か書き付けはじめていた。


「ええ、本当によかったですね! よかったですよ本当に!!」

「素敵な場面に出会えた今日に歓迎……!」

「いやいや、あっぱれ至極! マリル君の努力が結実した瞬間だ!!」


 そしてリリィの背後では、会長が日の丸扇子を広げて立っていた。

 扇子を掲げ、嬉しそうに笑いながら音頭を取り始める。


「さあ! リリィ君の訓練成功を祝い、万歳三唱と行こう!!」

「はい、わかりました!」

「じゃあ行くぞ! せーの!」

「「「「「ばんざーい! ばんざーい! ばんざーい!!」」」」」


 会長の音頭で始まる万歳三唱。輪の中心にいるリリィの顔は、もはや涙で崩れて見れたものではない。

 そんな生徒会メンバーの姿を、冷めた眼差しで見つめながら、暁は声をかけた。


「おはよう諸君。今日も元気で何よりだ」

「やあ、新上君! リリィ君の雛あられ移動の成功を、君も祝ってくれないかね!?」

「断る」


 会長の言葉をバッサリ切り捨て、暁はその手の中から扇子を奪い取った。


「そもそも異能まで使って何やってんだ。新手の宗教じゃあるまいし」

「いやぁ、マリル君が、なかなか訓練に成功しないでずいぶん気落ちしていたからねぇ」


 まだ万歳を続けるリリィと啓太を微笑ましそうに見つめながら、会長は暁から扇子を返してもらう。


「気分を盛り上げてあげようと、ちょっと頑張ってみたら思っていた以上に盛り上がっちゃってねぇ。まさかほうっておくわけにもいかないし、踊らにゃ損損だよ」

「踊らされる方はたまったもんじゃねぇがな」

「はっはっはっ。たまには踊るのも一興だよ?」

「断る。カロリー消費は最低限に抑えたい」


 そう言って椅子に腰かける暁と、そんな暁に笑って見せる会長。

 二人の顔を交互に見つめながら、メアリーが不思議そうに声をかけた。


「異能、ということは今、会長さんは異能を使われていたんですか? それは、どのような異能で?」

「ふむ、そうだねぇ」


 リリィの質問に会長は少し考えるようなそぶりを見せ……。

 バッと、彼女の目と鼻の先で扇子を広げて見せた。


「きゃっ!?」


 突然のことに、メアリーは鼻白む。

 そしてメアリーの頭の中に、会長の声が滑り込んできた。


「メアリー君。ちょっとそこに座ってみてくれないかい?」

「――あ、はい。わかりました」


 会長にそう言われ、メアリーはそのまま床へと座り込んでしまう。

 それを見届けてから、会長はバッと音を立てて扇子を閉じる。

 メアリーはその音を聞き、すぐに自分の体勢に気が付いた。


「え、あ、あれ? 私、どうして床に座って……」


 自分がいつの間にか床に座り込んでしまっているという事実に動揺するメアリー。

 そんな彼女を見て申し訳なさそうな表情になりながら、会長は手を差し伸べた。


「いやはや申し訳ない。説明するより、まず体験すべきだと、僕は考えているのでね……手を」

「あ、はい……」


 差しのべられた手を握り、立ち上がるメアリー。

 スカートについた埃を払いながら、メアリーは数瞬前の出来事を思い出そうとする。


「……私は、会長さんの言葉を聞いて座ったんですよね?」

「うむ。そう言うことになるね」

「……つまり、会長さんの異能は、言葉で他者を操る類の能力ですか?」

「そのとおり! 僕はこの能力を、造言被語(ライアー・ボイス)と呼んでいる」


 会長は再び扇子を広げて見せながら、ニッコリ笑顔で笑って見せた。


「自分、あるいは他人を、声で扇動することで操るゲンショウ型の異能でね。以前は先ほどのメアリー君のような直接的な行動を指定することはできなかったのだけれど、研三先生やそのほかの人たちのアドバイスから、鍵となる行動を指定するようになってからは、ごらんのとおりさ」


 そう言って示してみせるのは、グッと拳を握りながら、再び雛あられへと立ち向かい始めるリリィの姿だった。

 袖まくりをしながら傘を握りしめ、リリィは興奮した様子でサイコキネシスを操り始める。


「さあ、次です次! 会長さんの言うとおり、努力は実るものなのです!」

「そうだよリリィ! その意気だよ!! 僕も頑張って応援するから!!」


 そのそばではまだ泣いている啓太が懸命にリリィの応援を繰り返していた。

 そんな二人の姿に苦笑しながら、会長は自分の口元を扇子で覆い隠した。


「実際に造言被語(ライアー・ボイス)を使って励ましたのは少し前だけど、その効果がまだ残ってるみたいだねぇ」

「あいつらびっくりするぐらい純粋だからな。その分、精神干渉系の異能にもかかりやすいんじゃねぇか?」

「うぅむ。将来が不安だね、いろんな意味で」


 雛あられをいくつかまとめて粉砕してしまっても気勢を上げながら次の雛あられへと向かうリリィに、そんなリリィの姿に一喜一憂する啓太。造言被語(ライアー・ボイス)の効果でこうなっているのかもしれないが、それにしても効き過ぎだった。

 ともあれ、会長の異能の概要が掴めたメアリーは、何度か頷きながら確認する。


「つまり、声を媒介に対象の精神に干渉する異能ですか」

「そのとおり! 声というのは人間にとっては重要なコミュニケーションツールだ。その分、人間が耳から取り入れる情報は極めて多いと言える」


 扇子を閉じ、その先で自身の耳を示しながら、会長はニヤリといやらしい笑みを浮かべて見せる。


「そこを掌握するための造言被語(ライアー・ボイス)……生半なことでは破れないと思いたまえよ?」

「……そのようですね」


 会長の笑みに嫌なものを感じながらも、同じく笑みを返すメアリー。

 何しろ、たった一言で相手の行動を操るほどの異能だ。使い方次第では、都市一つを丸々制圧できるレベルなのではないだろうか?

 そんな考えが頭によぎるメアリーだったが、呆れたように頬杖をつく暁によってその考えは否定された。


「よく言うぜ。さっきのだって、不意を打たなきゃメアリーには効かなかったってのによ」

「あぁん。新上君、ネタばらしが早すぎるよ」

「……? どういうことですか?」


 暁の言葉に首をかしげるメアリー。

 暁は肩を竦めながら、事の真相を明かしてみせた。


「会長の造言被語(ライアー・ボイス)は精神干渉系の異能だが、本来は相手を煽って感情を増幅したり、逆に減衰したりする異能なのさ。あくまで心の動きを操る異能で、行動を指定したり制限するのは本来の使い方じゃないってことさ」

「まあ、それもさっきのように相手を動揺させれば不可能ではないけれどね」

「あ、そういうことですか……」


 観念して自分から説明を始める会長の言葉に、ようやくメアリーは事の真相を悟った。

 先ほど、会長はメアリーの鼻先でいきなり扇子を広げて見せた。メアリーはそれに驚き、会長はその隙をついて造言被語(ライアー・ボイス)を発動したのだろう。


「まだまだ僕も精進が足りないねぇ。声一つで、メアリー君のような魅力的な女性を落とせるようになりたいものだ」

「それはまた別の異能だろうよ」


 扇子で口元を隠しながら自身の席へと向かう会長の背中に、暁は呆れた声を投げかけてやる。

 メアリーはと言えば、まだ見ぬ様々な異能の力にときめくやら慄くやらで、疲れたように椅子へと腰かけてしまった。


「はぁ……私も、まだまだです。不意打ちとはいえ、精神干渉系の異能にかけられてしまうとは」

「いや、本当に申し訳なかったね、メアリー君。君の許可も得ず、その心を操ったことを深く謝罪しよう」


 メアリーにそう言って、頭を下げる会長。

 その姿はとても真剣で、深く懺悔しているのがよくわかった。

 メアリーは慌てて会長に頭を上げるように促した。


「い、いえ良いんですよ会長さん! 精神干渉系の異能を体験することはなかなかありませんから、貴重な体験をさせていただきました」

「そう言ってもらえると、ありがたいけれどね……」


 顔を上げた会長は、それでも少し後悔している様な表情をしていたが、二、三回頭を振って気持ちを切り替えたのか、すぐに笑顔を取り戻した。


「…だが、女性にそこまで言わせてまだ引きずるのも華麗ではないね。この件は、ここでおしまいとさせていただこうか!」

「はい。そうしていただけると、私としても助かります」


 会長の調子が戻ったことに安堵するメアリー。

 そんな彼女に暁がぼそりと呟いた。


「もし次似たようなことがあったら、気持ちを強く持つといいぞ。造言被語(ライアー・ボイス)に限った話じゃなく、精神干渉系の異能に対抗するのはそれが唯一の手段だからな」

「そうですね……心に留めておきます」


 暁の言葉に、メアリーは深く頷いた。

 人心を惑わし、操り、手玉に取る精神干渉系の異能。催眠術と呼ばれるそれに対抗する唯一の方法が、強い自我を持つことだった。

 たとえ物理的に目を覚まされたとしても、心の中が無事かどうかは本人以外には把握のしようがないのだ。


「ただ、信じてほしいのは、僕は決してみんなの心を弄ぶようなことをしないということだ。さっきのようなことをされて、信じろと言うのは無理な話かもしれないけれどね……」

「いえ、信じます。信じさせてください」


 顔を伏せる会長を励ますように、メアリーははっきりとそう宣言する。

 会長の目を見て、その声に耳を傾け、彼女は会長にはっきりと宣言する。


「まだお会いしてから一ヶ月も経っていませんけれど、会長さんは信頼に値する人だと考えています。たとえ会長さんがどんな異能を持っていたとしても、私は会長さんを信じたいと思っています」

「……ありがとう、メアリー君」


 メアリーの力強い言葉に、会長は笑顔を取り戻す。

 その笑顔の中には、微かな安堵が含まれていた。




 チート能力の一つ、精神干渉系。言葉だけで人を操るとか、もはやオカルトですよね。

 ……というわけで、少しオカルトに首突っ込むかもしれんです、はい。

 以下次回ー。

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