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リントヴルムの揺籠(ゆりかご)外伝  作者: 翠山 朔


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外伝:皇太子リヒャルトの婚姻(中編)

視線で皇太子リヒャルトが聞き耳を立てているのに気づいたのか、宰相が「主役への挨拶がまだでしたな」と侯爵家を促した。 次女のエステラは17歳。侯爵夫妻は、皇太子と年頃の合う可憐な彼女と縁を結ばせたいのか、いかに彼女が社交的で令嬢教育が進んでいるかをしきりに強調する。 「エステラはダンスも得意ですのよ」という夫人の畳み掛けを、リヒャルトは曖昧な微笑みで受け流した。


宰相にも促され、結局、リヒャルトはエステラに手を差し伸べた。 「踊っていただけますか」 「喜んで」 最新流行のドレスに大粒の宝石をあしらった装飾品を光らせ、エステラは顔を輝かせてその手を重ねた。しかし、優雅ではあるが儀礼的に彼女と踊るリヒャルトの目は、壁際で静かに控える姉娘、ペトラを追っていた。


曲が終わると、なおも身を寄せようとするエステラを軽くあしらい、リヒャルトは壁際へと歩み寄った。 「ペトラ嬢。私と踊っていただけますか」 驚きに目を見開く彼女の手を取り、リヒャルトは華麗にリードした。あまり社交の場には出ず、父の執務を手伝うことが多いと聞いていたが、流石は侯爵家の総領娘。ペトラのダンスは完璧であった。装いこそ派手ではないが、地に足の着いた上位貴族としての品格がそこにはあった。


ダンスが終わると、エステラが早足で歩み寄ってきた。 「素晴らしいダンスでしたわ。お姉様の鳶色の髪色が引き立つドレスだったら、もっと素敵でしたでしょうに」 褒め言葉を装った揶揄と共に、姉へ蔑むような一瞥をくれるエステラ。 彼女は熱っぽい眼差しでリヒャルトを見上げたが、彼は静かに、しかし冷ややかに言い放った。 「ありがとう、エステラ嬢。君を綺麗だという男性は多いだろうね。だが、私は見た目の美しさだけに重きを置いていないんだ。美しいというだけなら、父上や異母弟アルヴィンに勝る女性は世の中に数少ないからね」


その時、広間の扉が開き、遅れてやってきたアルヴィン皇子が姿を現した。帝国の正装を纏い、皇太子あにに向けて咲き誇る花のように微笑んだ絶世の美貌。 それを見たエステラは絶句し、即座に自らの敗北を悟って赤面した。 周囲の貴婦人や令嬢たちからも一斉に溜息が漏れる。 「……本当にこいつは、こういう時には……便利だな」 リヒャルトは心の中で苦笑し、その後しばしの間、ペトラとの会話を楽しんだ。

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