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勝手極まる最強たち

この話は本編の第三章・第六十七話読了後に読むことをお勧めします。

(……ふむ。どうしましょうか)


学園の生徒会選挙から暫く経った頃。

生徒会選挙を経て晴れて生徒会長に就任したアリシアは寮の自室にて悩んでいた。

生徒会長にはなったが、生徒会役員はまだいない。これからアリシアは生徒会役員を決める必要がある。


候補は既に考えている。その中でも特に生徒会役員として仲間にしたい生徒が四人。

風紀委員会所属のグレイ・フォーリダント。

委員会無所属のシエル・グレイシア。

委員会無所属のミハイル・ラッドマーク。

委員会無所属のアラン・アートノルト。

実技を含め、彼らは多くの分野に於いてとても優秀だ。生徒会に加えれば頼れる仲間になってくれることは間違いない。


(やはり、まずは交渉してみましょうか)


一人で悩んでいても仕方ない。実際に話して彼らの反応を見る事にしよう。

翌日、アリシアは早速交渉に向かった。

まず会いに行ったのはグレイ。いつも通り風紀委員として学園の見回りをしていたところにアリシアは声をかけた。


「こんにちわ、グレイ・フォーリダント」


「アリシア様ですか。どうなさいましたか」


「突然で申し訳ないのですが、今お時間ありますか?生徒会の件についてお話ししたいのですが」


「生徒会?」


「貴方さえ良ければ、新しい生徒会のメンバーとして加わってくれませんか?貴方の力は必ず役に立ちます。ぜひ貴方の力を貸して欲しいのです」


「…………」


少しだけグレイは考える素振りを見せるが、


「そう言っていただけるのは光栄ですが……すみません。俺は風紀委員としてやっていくと決めているんです。俺はいづれ父上の跡を……王家直属聖装士団を継ぐ。秩序と平和を守る者として、この道が一番合っている」


人には誰しも適材適所がある。グレイの場合はその道が風紀委員だった。

彼には十分な信念も適性もある。彼の決めた道に口出しするのは無粋というものだろう。


「分かりました。では気が変わった時には教えてください。生徒会はいつでも貴方を歓迎しますよ」


そうしてアリシアはその場を去る。

仕方ないとは言え、あまり良くないスタートを切ってしまった。



───グレイ・フォーリダント、勧誘失敗!




***




アリシアの生徒会への勧誘はまだ終わらない。

まだ候補は残っている。グレイが駄目なら次だ。

次に会いに行ったのはシエルだった。だがここである問題が起きる。


(困りましたね……全く見つかりません)


空いた時間にシエルの姿を探し続けているが、全く見つからなかった。

教師に聞いた所によると今日はシエルは出席しているとのこと。特別に彼女が受けている講義を教えてもらい、彼女が居るであろう場所を訪れているが、成果はなし。

このままでは見つからずに終わるかもしれない。悩みながら学園の廊下から窓の外を見た瞬間だった。


「…………は?」


目に映った光景に対して思わず呆けた声が出た。

窓の外には学園の中庭がある。そこに植えられた木から生えた太い枝の上にピンク髪の少女が寝転がっていた。


「???????????」


流石にアリシアも困惑を隠せない。

まさか現実に木の上で寝る者がいるとは思わなかった。それもあのような体勢で。

とにかく見つかったのなら声をかけなくてはいけない。アリシアは中庭に出るとシエルの元へ向かう。


(驚きました……本当に寝ていますね)


木の下から眺めてみるが、シエルは熟睡していた。

どうやってシエルを起こそうか。この場で声をかけて起こしてもいいが、何かの拍子に彼女が落ちては困る。


「仕方ありませんね……《浮遊(フロート)》」


風魔法によって宙に浮くと、シエルがいる木の枝に乗った。


「起きてください。シエル・グレイシア」


「…………んん。やだぁ、まだ眠いぃ」


「子供ですか貴方は……」


「十七歳はまだ子供の内に含まれるよぉ」


「だとしても木の上では寝ません。危ないので降りてください。寝るならせめて自室でお願いします」


「んう。分かったよぉ」


シエルは渋々体を起こすと、


「よっ」


次の瞬間、木の枝から飛び降りた。

それなりに高い場所からの落下だが、シエルは問題なく着地した。意外と身体能力は高いようだ。

アリシアも続けて着地した。


「それで、私に何の用かなぁ。お姫様」


「そうでしたね。すっかり本題から逸れてしまいました。貴方にお願いしたい事があるのです。新しく出来た生徒会──」


「嫌だ」


言い切る前にシエルは拒絶した。


「生徒会に入れって事でしょぉ?そんな面白くない事したくなぁい」


「ですが──」


「そういうの興味無いんだよねぇ。他の人に話しなぁよ。それじゃあバイバァイ」


空間に突然穴が空く。

シエルはその穴の向こうに姿を消し、穴を閉じた。


「…………」


もはや交渉にすらならなかった。話を聞く前に逃げられた。


(アラン君からは、シエル・グレイシアは話にはちゃんと応じてくれる人だと聞いていたのですが……)


おそらくアランがシエルにとって特別だったのだろう。シエルの興味の対象外であるアリシアではアランのような対応はしてもらえなかった。



───シエル・グレイシア、勧誘失敗!




***




失敗が続いたとしても、アリシアの勧誘は終わらない。

まだ候補が二人残っている。あまり良い予感はしないが、試さなければ成功はない。


(次はミハイル・ラッドマークですね……)


正直ミハイルが一番可能性が低いと思う。

既にミハイルはレーヴェル交響楽団という音楽団体の指揮者を務めており、楽団で日々仲間たちと演奏の練習をしているらしい。

学生がやる事ではないが、少ない出席日数でも高い成績を取っているので誰も文句が言えないのである。


ミハイルを見つけるのは簡単だった。学園の音楽室にて彼は一人でピアノを弾いていた。

指揮者とは思えないほど彼のピアノの腕前は上等なものだった。

曰く、彼には『指揮者たるもの、指揮する相手や楽器のことも理解していなければいけない』という信条があるらしい。


「見事な演奏でした。さすがですね」


ミハイルの演奏が終わると、アリシアは声をかけた。


「これはこれは、アリシア様ではないですか。僕に何か用でも?」


「はい。多忙な貴方には難しいかもしれませんが、新しく出来た生徒会に入ってくれませんか?」


「なるほど、生徒会ですか……」


そこで予想外の質問をミハイルは言う。


「何故、アリシア様が僕を生徒会に勧誘するのですか?アリシア様は生徒会に関わりはないはずでは?」


「え……いや、私は生徒会長ですから。生徒会役員を探さないといけないのです」


「生徒会長?あ〜もう選挙終わってたんですね。御当選おめでとうございます、アリシア様」


「知らなかったんですね……」


なんという事だ。そもそもミハイルはアリシアが生徒会長になった事すら知らなかった。


「だから僕を生徒会に誘いに来たんですね」


「ええ。貴方は文武共に学園でトップレベルです。そして仲間をよく見て、思い合える人でもある。是非貴方の力を生徒会で役立てて頂きたいのです」


「なるほど。お褒めに頂き光栄です」


アリシアの思いをしっかりと噛み締めてから、


「……ですが、お断りさせてもらいましょう」


「理由を聞いても?」


「知っての通り、僕は多忙な身ですから。生徒会でのアレコレに時間は掛けられません。僕にとっては学業より楽団の仲間たちとの演奏の方が大切なので」


(ならどうして学園に入学したんですか……)


「それに、そもそも生徒会とか興味無いので。勧誘の話は他の人にしてください」


「……そうですか。それなら仕方ありませんね。また気が変わった時にはいつでも声をかけてください」


話を聞いてくれただけマシだったが、やはりこちらの主張は聞き入れてくれなかった。

仕方なくアリシアはミハイルの元を去る。だが同時に彼女は思った。

ミハイルが断った理由のほとんどは『興味が無い』からなのだろうと。




───ミハイル・ラッドマーク、勧誘失敗!




***



気付けば残り候補は一人だけになっていた。

現状、その他の候補者は全員話し始めてから一分以内には断っている。もはや交渉の余地すらない。

最後に残ったのはアラン。正直彼の性格は生徒会に向いているものとは言い難い。

どちらかと言えば、アランは『守る』ことより『壊す』ことの方が向いている人間だ。

彼に生徒会役員が務まるのかと言えば微妙な所はあるが、彼の能力の高さは本物だ。

仲間に出来れば間違いなく役に立ってくれる。


という訳で、早速アリシアはアランを生徒会室に連れてきた。


「ほへぇ〜ここが生徒会室の接客所か。綺麗だな」


「そうですね。先代の生徒会の方々が大切に使ってきた証拠です」


接客用のソファーが二つ。その間にテーブルが一つ。

二人はソファーに座って向き合った。


「それで、俺を呼んだのは生徒会に誘うためか?」


「やはり貴方には分かりますか」


「タイミング的にそうだろ。アンタまだ生徒会役員決めてないそうだしな。グレイとかシエルとかミハイルや俺を誘ってから他を決めるつもりだったんだろ。まぁこの様子だと先の三人には断られたみたいだけど」


「全くもってそのとおりですよ。頑張ってみましたが、誰も承諾してくれませんでした」


「アイツらの性格からすれば妥当な結果だな」


彼ら三人の性格を知るアランとしては予想できる結末だった。


「もう分かっているとは思いますが、改めて言わせてもらいます。アラン君、私の生徒会に入ってくれませんか」


「嫌です」


「ダメです」


「なんで!?」


アリシアはアランの意思を粉砕してきた。


「先の三人から学んだことがあります。貴方たちは単純な交渉など意味をなさないのだと」


「だからって俺の拒否権まで奪うつもりか。それはいくらなんでも横暴が過ぎるだろ」


「分かっています。ですがこうでもしなければ貴方は入ってくれないでしょう」


「そりゃ入りたくないし。めんどくさいし」


「何故貴方たちは揃いも揃ってそうなのですか……グレイ・フォーリダントはまだ良いです。ですがシエル・グレイシアにミハイル・ラッドマーク、そして貴方は力を持つ者としての自覚と矜持が無さ過ぎです」


「そんなの必要ないだろ。俺そこまで考えて生きてねぇよ」


アランが強くなったのは全てシリノアのためだ。アランには矜持や誇りなど微塵もない。


「で、もう話済んだよな?帰っていいか?」


「ダメです。生徒会に入ってください」


「段々雑になってきてないかアンタ。あの三人に断られたからってヤケになってるだろ」


「誰だってここまで上手くいかなければ不満くらい持ちますよ」


「よりによって不満の矛先が俺に向いたか……」


ただ単純にアランは不運であった。

是が非でもアリシアはアランを生徒会に加えるつもりだ。半ば彼女はヤケクソ状態に入っている。


「貴方の性格はやや難がありますが、生徒会では貴方は大いに役に立つはずです。必要なら特別な待遇でもなんでも用意しましょう」


「おいおい。そりゃ不公平ってモンじゃないか?他の生徒会役員と扱いに差を付けたらダメだろ」


「分かっています。ですがその不公平を解決する手段があるのです」


「へぇ……解決する手段」


アランは暫し考えて、


「……まさかと思うけど、俺をアンタの付き人とかにして従わせようって話じゃないよな?」


①付き人にして無理矢理生徒会に入れる。

②生徒会の仕事をさせる。

③報酬を支払う。だがそれは付き人として働いてもらったという意味での報酬。

そもそもの立場が他の生徒会役員とは異なるので、公平性には抵触しない。


この理屈でアリシアは意見を通そうとしているようにアランは感じた。


「よく分かりましたね。その通りです。貴方なら付き人として雇っても誰も文句は言わないでしょう」


「絶ッ対嫌だ!そもそも平民出身(経歴上)の奴が王女の付き人なんて許されないだろ」


「今時、出自で評価されるような時代ではありませんよ。貴方の出自を理由に断る者はいません。そもそも雇い主は私ですから、他者が介入する権利はありません」


「強引だなーアンタ。生徒会のためだけに俺を雇うとか、執念が深過ぎじゃないか?」


「貴方は信頼できる人ですから。生徒会の事を抜きにしても、単純に付き人として雇いたいという思いもありますよ。それこそ私の専属騎士として雇うのもアリかと思っています」


「過分な評価だ……」


確かに自分はそれなりの実力者という自負はある。

だが所詮は聖装具を使えない半端者。エルデカ王国最高峰の聖装士という肩書きは身に余るものとしか思えない。


「いづれにせよ、俺がアンタの生徒会に入るなんてあり得ない話だ。付き人や騎士なんてもっと嫌だ。諦めて他を当たってくれ」


「他を全て当たり尽くしたから貴方に話が回ってきたのですよ」


「そういやそうだったな……いやでも、序列トップ5の奴以外にも候補は考えてるだろ。アンタを慕ってる生徒はいくらでもいる。無理に俺たちを生徒会に加えなくても良いじゃん」


「頼りになる人物がいるなら積極的に仲間に引き入れにいくのは当然でしょう。特に貴方は事務作業や話し合いは得意そうですから」


「全部偏見じゃん。俺そんな難しい事やったことないし。やりたくもないし」


そう言ってアランは席を立つ。


「とにかくもう話は終わりってことで。頑張れよ、生徒会長。きっと良い仲間が見つかるさー」


そのまま生徒会室の扉を開けて去ろうとするが、



──ガチャッ!



「……あれ?」


扉を押した。だが開かない。

もしかして何かに扉が引っかかっているのだろうか。続けてアランは扉を動かす。

だが、


ガチャガチャガチャガチャガチャッ!!


何度押しても引いても開かない。ダメ元で横に引いても上下に引いても開かない。

何をやっても扉は微動だにしないのである。


「………………」


瞬間、アランは急速に思考を巡らせる。

今までの会話と経緯を思い返し、自身が今置かれているであろう状況を推測する。

そして出た結論は───。


「アリシア、まさかアンタ扉を『奇跡』で閉め──」


振り返った瞬間、アランが見たのは双剣を手に突っ込んでくるアリシアの姿だった。

あの双剣はアリシアの聖装具である《神話を紡ぐ双煌(ディヴァインスペル)》だ。アランは咄嗟に横へ転がり、アリシアの突貫を避けた。


「おいおいおいおい!アンタ俺を殺すつもりか!?」


「切られた程度で怯む貴方ではないでしょう。それより、もう私の意思は分かっていますね?」


アリシアは剣先をアランに向け、


「決闘です。アラン・アートノルト。生徒会に入りたくないというのなら、私に勝ってみせなさい」


「んなモン承諾するわけねぇだろぉぉぉぉぉ!!」


アランは全速力で走り出し、生徒会室の窓を突き破って外へ逃げ出した。


「待ちなさいアラン君!」


次いでアリシアもアランの跡を追う。


この後アランはアリシアから逃げるために学園のあちこちを走り回った。

最終的には学園長室からシリノアが造った空間に逃げ込むことで振り切ったが、この程度でアリシアの執念が止むとは思えない。

なのでその後三日ほどはアリシアとの接触を恐れてアランは学園をサボったのである。



───アラン・アートノルト、勧誘失敗!







「…………という事があったりもしたんですよ」


「凄いエピソードですね……グレイ委員長は仕方ないですけど、あの御三方は以前からそうなんですね」


食堂で夕食を摂りながら生徒会書記であるシーファは対面に座るアリシアから聞かされた話に驚愕していた。


「それにしても、まさかアリシア様がアランさんを仲間にするためにそのような強引は手段を取られていただなんて……」


「驚きましたよね。私も武力行使はなるべくしたくないんですけどね。彼らはマトモな手段では取り合ってくれないので、ある程度の強引な手段は必要になるのです」


自分勝手な強者たちと関わった末にアリシアがたどり着いた結論がそれだった。


「シーファ、覚えておいてください。自分勝手な人を相手に怯んではいけません。武力が全てを解決する時もあるのです」


「わ、分かりました」


意外とアリシアにも強引な一面はあるのだなと、シーファは思った。

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