頭脳派たちの交流
こちらは本編である『聖装士学園の異端者』の番外編に当たります。
番外編なので本編とはあまり関係ありませんが、多少は関係する要素もあるので、最初に『読むタイミング』を記載します。
番外編はアランたちの過去の出来事や普段のお話を記録したものとなっています。本編と関係ないので色んな人たちが出てきます。
彼らの何気ない日常を是非お楽しみください。
この話は第二章読了後に読むことをお勧めします。
それはアランが学園に入学してから三ヶ月ほど経った頃だった。
ちょうどその時期は当年度の第二回序列戦があった。そこでアランは天才と名高いシエル・グレイシアと対戦した。
シエルは学園入学時から名が知られていた生徒だった。
入学試験の筆記試験で満点を叩き出し(アランも満点だった)、対戦形式の実技試験でもその場から殆ど動かずに全勝したからだ。
さらに序列戦から三週間ほど前、アランとグレイが大喧嘩した際の学園の破損を一晩で完全修復させた事も拍車をかけていた。
二人の試合は激闘と呼べる程激しい戦いではなかったが、高度な頭脳を持つ者同士の戦いは他に例を見ない接戦を見せた。それも前代未聞の半日に及ぶ教師泣かせの大接戦である。
最終的にはシエルが降参したことでアランは勝利した。その後は特に何事もなくアランは学園生活を送っていた。
だがシエルと対戦した二日後、突然ソレはやって来た。
「ふぃ〜あったまった」
学生寮の大浴場を出たアランは首にタオルを巻いた状態で寮の廊下を歩く。
アランの自室は寮の三階にある。自室目指して階段を昇り、廊下を進んだ先、自室の前に到着した。
ポケットから取り出した鍵で玄関扉を開けると、扉を押し開いて室内に入る。
そして、
「…………は?」
驚愕した。驚きのあまり持っていた着替えが入った鞄が手から落ちた。
視線は部屋のベッドの上に釘付けにされている。
そこには何故か───ある少女が横になっていたから。
「え……怖……どゆこと……」
自分は何を見ているのだろうか。真っ先に湧いた感情は恐怖だった。
部屋の戸締りはしていたはずなのだが、何故部屋に侵入されているのか。そして何故あの少女は寝ているのか。
何が起きても良いように密かに攻撃魔法の術式構築を進めながら、寝ている少女に近づいた。
少女の姿は見覚えがあった。
ピンク色の短髪と幼い顔付き。
幼さと儚さを合わせたような特徴的な雰囲気は間違いない。
(シエル・グレイシア……だよな?)
シエルが居眠り魔である事は知っている。彼女の居眠り癖は有名だ。学園の各地で寝ている姿が目撃されている。
まさかその居眠りが遂にアランの部屋にまで及んだのか。
とにかく放置するわけにはいかないので、アランはシエルの肩を揺さぶった。
「起きろ、シエル・グレイシア。ここはアンタの部屋じゃない。寝るなら自分の部屋に帰ってくれ」
「…………んにゅ?」
薄っすらと目を開くシエル。
首を回し、自身を起こした者の姿を視界に映す。
「んぅ……もしかぁして、アラッチぃ?」
「そうだ。ここは俺の部屋だ。とりあえず起きてくれ」
「ごめんねぇアラッチの事待ってたんだぁけど、眠くってさぁ……そしたら都合よくベッドがあったからぁこれは寝るしか無いと思っちゃってぇ」
「なんでそうなるんだよ……」
意味不明な理由に困惑しながらアランはベッドに腰掛ける。シエルも体を起こしてベッドに膝を曲げて座った。
「それより、アンタ俺を待ってたのか?」
「そうだぁよ。ちょっとお話しがしたいんだよねぇ」
「話?用事でもあるのか」
「そういうのじゃないよぉ。ただアラッチと親睦を深めたいってぇだけだぁよ。序列戦で戦った仲だしねぇ」
「仲って……そんな面白い戦いじゃなかっただろ。半日間永遠と演算と適応を繰り返してただけじゃねぇか」
「私からすれば十分面白かったよぉ。初めてだったんだよぉ?私と頭脳戦でぇ張り合えた人はぁ。しかも聖装具を使わない人がぁ張り合うなんてねぇ。学園長に志願した甲斐があったってもんだぁね」
「学園長に志願したって……どういうことだ?」
「そのままの意味だぁよ。私たちの試合はぁ私が学園長にお願いした結果だぁよ」
「はぁ!?」
アランは激しく驚愕した。
「なんでそんな要求が通るんだよ!?ダメだろ普通!?」
「普通はねぇ。でも私は特別だったんだぁ。ほらぁ、この前アラッチがグレッチと喧嘩したぁじゃん?あの時に壊れた校舎とか色々を直したご褒美としてぇ学園長にお願いしたのぉ。今度の序列戦でアラッチと戦わせて欲しいってぇね」
「それをあの人は通しのか……」
「そゆことぉ。私たちのぉ実技成績からしてぇも対戦は現実的だって事で成り立ったんだよぉ。どう?アラッチ。自分が罠に嵌められた感覚はぁ?」
「いや罠って程のものじゃないだろ。確かに驚いたけどさ」
まさか今回の試合にそのような裏話があったとは予想もしなかった。
「なんでそこまでして俺と戦いたいと思ったんだ」
「単純に気になったからだぁよ。グレッチは王家直属聖装士団の現団長の息子で有名なのは知ってるよねぇ。グレッチはその出生に相応しい実力と人柄を持ってぇる。既に所属してる風紀委員会の中じゃあ三年生の序列二位である風紀委員長を越して最強って呼ばれてるくらぁい。そぉんなグレッチと聖装具抜きで渡り合うどころかぁ重傷を負わせたとなればぁ、流石に気になるよぉ」
「アンタにもそういう気持ちはあるんだな。それで実際に俺と戦ってさらに興味が深まったと」
「そゆことぉ。いやぁ面白いねぇアラッチは。侵入した甲斐があったよぉ」
「その事についても聞きたいんだが……お前どうやって入ってきた。戸締りはしてただろ」
「それはもちろん……」
直後、シエルの真横の空間に穴が空いた。
穴の先は光で満たされていて見えない。シエルはその中へ右手を突っ込む。
すると、
「こうやって入ったんだぁ」
「っ!」
アランの右肩に何かが触れた感覚があった。
振り返ると、そこには何者かの右手があった。右手は背後の空間から生えている。
「……なるほどな、空間接続か。そういやアンタの聖装能力はこういう事も出来たな」
「そそ。これなら侵入もチョチョイのチョイだぁね」
シエルは右手を戻し、空間の穴を閉じた。
「だからって勝手に他人の部屋入るか普通」
「眠かったんだよぉ。廊下で待ってたらその場で寝ちゃいそうだったからぁ部屋に入ったんだぁ」
「その技術がいつか悪用されない事を祈るよ……」
もしシエルの聖裝能力を悪用すればとんでもない事になりそうだ。本人の性格からして無いとは思うが。
「で、何を話したいんだ?親睦がどうたらって言うからには何か話題持ってきたんだろ」
「その事なんだけどさぁ……ちょっと明日にしてもいいかぁな」
「え?なんで」
「お風呂上がりだから眠くて眠くて……ふぁぁぁ……」
シエルは大きく欠伸をすると、
「……だから悪いんだけどぉ……ここで寝させてもらうねぇ」
「は?いやちょっと待て!待てって!起きろシエル・グレイシア!」
アランの制止も聞かずにシエルは寝転がる。数秒後には寝息が聞こえてきた。
「早すぎんだろ……おい起きろよ。マジで寝たのかアンタ。このままだと俺寝れないんだけど」
揺すってみるが、シエルが起きる気配はない。
余程眠りが深いようだ。こうなったら雷魔法で感電させて無理矢理起こそうか。
(……流石にそれは可哀想か)
良心がその考えを止めた。
ため息を吐きながら悩む。まだ寝る時間では無いとは言え、流石にいつかは寝なくてはいけない。
もちろん床で寝るなんて御免だ。突然やって来たよく分からない奴に寝床を奪われるなんて許容できない。
だがその侵入者に起きる気配が無いのであれば───。
「………………仕方ない。一緒に寝るか」
他人と寝るのは初めてではない。学園入学前、シリノアと同居していた頃にシリノアと寝たことはある。故にそこまで抵抗はない。
そしておそらくシエルは誰かと共に寝ても気にしないタイプだ。
このベッドも詰めれば二人で寝れなくはない。気乗りはしないが、今日はシエルと共に寝るとしよう…………。
***
翌朝…………。
「ふぁぁぁ……あぁ眠っむ」
窓から差し込んだ日差しで目を覚ます。
瞼を擦ろうと腕を動かした瞬間、腕が何かにぶつかった感覚がした。
「っ……何に当たったんだ」
顔を向けると、目の前にシエルの顔があった。
彼女はまだ睡眠中だ。シエルの寝顔は普段から各地で目撃されるが、間近で見るとまた違って見える。
どこか小動物的な可愛さがあると、アランは思ってしまった。
「……って、それどころじゃねぇ」
ベッドから出ると、アランはシエルを揺さぶり起こした。
「おい起きろシエル・グレイシア。もう朝だ」
「えぇ…………もう朝ぁ?」
ゆっくりとシエルも目を覚ました。
体を起こすと窓の外を憂鬱そうに見ている。
「朝が嫌いなのか」
「んー嫌いって程じゃないよぉ。日が出てる時間じゃないとぉ味わえなぁい睡眠もあるからぁね」
「なんだよその感想」
起こすことできたが、シエルはベッドから離れない。
「おい、早くベッド降りろよ」
「えぇ〜面倒くさぁい」
「寝たいなら自分の部屋で寝ろ。何度も言うがここは俺の部屋だからな」
「うん。そうするよぉ」
言うが早いか、シエルは昨晩も見せた聖裝能力によって空間に穴を空けた。
「じゃあねぇアラッチ。ベッド貸してくれてありがとぉ。また来るねぇ」
「今度からは急に侵入しないで、正面から入ってくれよ」
「はぁい。あとアラッチ、ベッドのシーツはちゃんと洗った方が良いよぉ。血の匂いが落ちてないかぁら」
「分かったからさっさと帰……おい待て、お前今なんて」
言い切るより先にシエルは空間の向こうに姿を消した。
「…………なんだったんだよ、アイツ」
シエルは性格も聖裝能力も何もかもが奇怪だ。ここまで理解できない人物は初めてだ。
「まぁいいか」
学園の制服に着替えた。
今日も学園の講義がある。まずはリオとアシュリーと合流して朝食を食べに食堂へ行こう。
アランは部屋を出ようとするが、その寸前で思い返す。
「………血の匂いか」
シーツは定期的に洗っている。直近で血を流したのはシエルとの序列戦前にシリノアに修行相手になってもらった時だ。ベッドに血が付く瞬間など無かったはずだが。
「アイツは何の事を言ってたんだ……?」
疑問を抱えたまま、アランは部屋を出た。




