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勇者ライゼルが死んだわけ  作者: スケ丸


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荒れた大地

王都の門が、背後で閉じる音がした。

俺たちを乗せた馬車が、ゆっくりと動き出す。

馭者は国の兵士だ。国境近くまで送ってくれるらしい。

馬車の中には、俺とヴェラ、レイン、エドガーの4人。

ヴェラは窓の外を睨みつけるように見ている。レインは目を閉じて腕を組んでいる。

エドガーだけが、穏やかな笑顔で俺を見ていた。


「改めまして、よろしくお願いします。勇者様」

エドガーが丁寧に頭を下げた。

「あ、はい……こちらこそ」

俺は慌てて頭を下げ返す。

エドガーは本当に礼儀正しい。年上だからか、落ち着いた雰囲気がある。

「不安なことがあれば、何でも聞いてください。微力ながら、お力になります」

「あ、じゃあ……一つ、聞いてもいいですか?」

「もちろんです」


俺は少し迷ったが、ずっと気になっていたことを口にした。

「なぜ、俺たちだけで魔王討伐に行くんですか?」

エドガーが目を瞬かせた。

「と、言いますと?」

「国には、あんなにたくさんの兵士がいたじゃないですか。なのに、なぜ4人だけで行くんだろうって」

「ああ、なるほど」

エドガーは納得したように頷いた。

「それは、魔王城に結界があるからです」

「結界……?」

「はい。魔王城は強力な魔力の結界で守られています。選ばれし者――つまり勇者とそのパーティメンバーしか、中に入ることができません」

「そんなものが……」

「過去に一度、1万の兵で魔王城を攻めたことがあったそうです」


エドガーは静かに語った。

「ですが、結界を越えられず、魔王軍に壊滅させられました」

「1万も……」

「それ以降、勇者による少数精鋭での討伐が基本となったのです」

俺は息を呑んだ。

1万の兵でも、ダメだったのか。

「では、国の兵士たちは?」

「彼らは国境を守っています。魔王軍の小規模な襲撃は、今も続いていますから」

「なるほど……」

つまり、兵士は国を守る。俺たちは魔王を倒す。

役割が分かれているのか。

「あの、もう一つ聞いてもいいですか?」

「どうぞ」

「魔王軍の幹部って……どれくらいいるんですか?」

エドガーは少し考えるような仕草をした。

「魔王軍には、かつて8人の幹部がいました」

「8人……」

「はい。ですが、前の勇者であるライゼル様が、そのうち4人を倒されたそうです」

俺は息を呑んだ。

ライゼル様が、4人も……

「つまり、残りは4人」


エドガーは頷いた。

「その4人を倒せば、魔王城へ辿り着けます」

「4人……」

「それぞれが非常に強力です。私たち全員で協力しなければ、勝つことはできないでしょう」

俺は拳を握った。

ライゼル様は、4人も倒したのに……

それでも、魔王を殺さなかった。

一体、なぜ……

「ありがとうございます。分かりました」

「いえいえ」

エドガーは微笑んだ。

俺は窓の外を見た。

王都の街並みが、徐々に遠ざかっていく。

緑の畑が広がり、平和な村が見える。

だが――それも、すぐに変わった。

馬車が進むにつれて、景色が荒れていく。

畑は枯れ、村は焼け焦げていた。

木々は黒く焦げ、地面にはひび割れが走っている。


「……ひどい」

思わず呟いた。

「魔王軍が通った跡です」

エドガーが静かに言った。

「ここは、かつて豊かな土地でした。ですが、何度も襲撃を受けて……」

「こんなことを……」

胸が痛んだ。

魔族は、こんなにも多くのものを奪っていったのか。


ヴェラが、ぽつりと呟いた。

「私の村も、こうなった」

俺は彼女を見た。

ヴェラは窓の外を見つめたまま、続けた。

「兄弟が殺された日。村は、燃えていた」

「……」

「魔族は、容赦しなかった。子供も、老人も、全員殺した」

ヴェラの声は、静かだった。

だが、その奥には深い怒りが滲んでいた。

「だから私は、魔族を一匹残らず殺す」

俺は、何も言えなかった。

馬車は、さらに荒れた大地を進んでいく。

道の脇には、骸骨が転がっていた。

人間のものだろうか。それとも、魔族のものだろうか。

もう、見分けがつかない。


数時間後。

馬車が止まった。

「前方に、何かいます!」

馭者の声が響いた。

俺たちは外へ飛び出し、周囲を確認した。

前方の茂みが、わずかに揺れる。

「……来る」

レインがそう言った瞬間、

灰色の肌をした魔族が三体、姿を現した。

赤い目が、こちらを捉える。


次の瞬間には、もう二体が倒れていた。

――理解が、追いつかなかった。

レインはいつの間にか魔族の間に立っていて、

双剣はすでに血に濡れている。

喉を裂かれた魔族が崩れ落ち、

心臓を貫かれたもう一体が、音もなく倒れた。

動きは見えなかった。

ただ、結果だけがそこにあった。

レインは振り返りもしない。

血を払うこともなく、剣を収める。


「アレン殿!」

エドガーの声で、はっとした。

最後の一体が、俺に向かって走ってくる。

距離が近い。近すぎる。

考える暇はなかった。

剣を握り、身体を横にずらす。

気づけば、刃が魔族の首元に食い込んでいた。

……止まらない。

嫌な感触が、手に伝わる。

骨か、筋か、それとも――

魔族は何か言おうとしたが、


声になる前に膝から崩れ落ちた。

地面に倒れ、動かなくなる。

俺は、その場から動けなかった。

……今のは。

剣を握る手が、震えている。

血が付いていた。

生温かく、粘つく感触。

初めて見た、

生き物の――死。


それなのに。

胸の奥が、妙に熱い。

ライゼル様も、

きっと、こうやって――

そう思った瞬間、

胸の奥に、言葉にできないものが湧き上がった。

これは、喜びなのか。

それとも――

俺には、まだ分からなかった。


「アレン殿、大丈夫ですか?」

エドガーが近づいてきた。

「あ……はい、大丈夫です」

エドガーは優しく微笑んだ。

「初めての戦闘、お疲れ様でした」

その時――

茂みが、わずかに揺れた。

「まだいるのか!?」

俺が叫んだ瞬間、

最後の魔族が飛び出してきた。

狙いは――ヴェラの背中。

「ヴェラ!!」

声が届いたかどうかも分からない。

一瞬だった。

ヴェラの姿が、ぶれた。


次の瞬間、

魔族の頭部が消えていた。

遅れて、血が噴き出す。

首から上を失った体が、何が起きたかも理解できないまま、前のめりに倒れた。

「……え?」

ヴェラは、すでに大剣を構え直していた。

呼吸一つ乱さず、

まるで最初からそこに立っていたかのように。

速い――

いや、それだけじゃない。

俺は思わず、見とれていた。

すごい……

これが、ヴェラの実力。


「ヴェラ、今の――」


声をかけようとして、

俺は、足を止めた。

ヴェラが、魔族の死体を見下ろしていた。

笑ってはいない。

だが――妙に、穏やかな顔をしていた。

「……」

何も言わず、

ヴェラは一歩、近づいた。


そして、大剣を突き立てた。

一度だけ。

深く、正確に。

血が、静かに滲む。

それで終わりのはずだった。

なのに――ヴェラは剣を抜かない。


「……見てたな」


ぽつりと、独り言のように呟いた。

俺の背筋が、ひやりとした。

エドガーが、軽く咳払いをする。

「……もう、十分でしょう」

ヴェラは、ゆっくりと剣を引き抜いた。

死体から目を離さないまま。

「分かってる」

淡々とした声だった。

怒りも、興奮も、ない。

ただ――

確認を終えたような声音。

レインは、何も言わずにその光景を見ていた。

視線だけを落とし、表情は動かない。

俺は、胸の奥に残った違和感を振り払うように、息を吸った。

ヴェラは、すでに剣を収めていた。

いつもと変わらない顔。

ただ任務を終えただけの、戦士の表情。


……なのに。

なぜか俺には、

ほんの一瞬――

笑っていたように見えた。

きっと、気のせいだ。

そう思おうとした。

でも、その違和感は、

胸の奥から消えてくれなかった。

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