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トンチキ異世界の短編集

異世界でもWi-Fiは繋がる

布団の中。スマホの画面を眺めながら、私はまたどうでもいい動画を見ていた。



気づけば瞼が重くなり――そのまま寝落ち。



……次に目を開けたとき。






「聖女よ!どうか我らの国を救いたまえ!」


眩しい光。見上げると天井は高く、石造りの荘厳な広間。周囲にはローブをまとった神官らしき人々がずらりと並び、こちらを拝んでいた。


「え?え!?!?」



状況が理解できない。いや、本当に理解できない。

だって私はただ、布団でスマホいじって寝おちしただけなのに。


「ちょっと待って、何これ……異世界召喚? いやいやラノベ読みすぎかよ」


 混乱していると――手の中でスマホがブルッと震えた。


 ……メールの通知だ。


「あ、LINE」


 何気なくつぶやいた私の一言に、広間がざわつく。


「らいん!?」「聖具が応えたぞ!」「神託か!?」


「いやいや、ただの通知だから!!」


 必死に否定しても、神官たちは耳を貸さない。

 まるで私のスマホが神から授けられた聖なる神器であるかのように、口々に騒ぎ立てる。


ーーー



 

試しにスマホを覗き込むと――普通にネットが繋がっていた。まじかよ。動画アプリを開くと、見慣れたおすすめ動画がサクサク再生される。


「てか、Wi-Fi繋がってる…?」



ぽつりと漏らすと、さらにざわめきが広がった。


「聖女様は外界の声を受信しておられる!」

「これはまさしく神の御言葉!」


「いやいや、これ単なるショート動画だから!!!」


 叫んでも誰も聞いちゃいない。




「……あ、でもこっちからは送れない」


 返信しようとしたメールもLINEもずっと送信中のまま。

 ネットは受信だけ可能。送信はできない。検索はできる。なぜだ。


「……どうすりゃ良いのよ」


 現実世界に「助けて」って送れない。インスタもXもポストすらできない。ただひたすら通知と動画が流れてくるだけ。まあ検索はできるから…ましか?



「聖女様は神からの声を受信なさる!」

とまわりはざわめく。




 

そんな中、さらなる危機が迫る。スマホの画面に残り充電5%の表示。


「やばっ……これ切れたら本当に終わる!!詰む!!!」


 青ざめる私を見て、神官の一人が小箱を捧げてきた。

 

中には、光を放つ赤い宝石。


「聖女様。この“魔石”をお使いください」


「……いやいや、そんなんで充電できるわけ……」


 半信半疑でスマホに近づけると――ピコン、と画面に雷マーク。

 充電が始まった。


「できた!!!!!」


 私が叫ぶと、周囲の神官たちが膝をつき、涙を流した。


「聖女様の聖具が魔石の魔力を喰らった……!」

「これぞ神話の再来……!」




 こうして私は、訳も分からぬまま聖女に祭り上げられた。


異世界でもWi-Fiは繋がる。

充電は魔石でできる。

――でも送信はできない。



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