第5話 帰還者達
「運転もお願い」
「ひ、ひぇ…」
キョンシーが後ろに乗ると、一番近いミズガルズのバイクに飛び移った。運転手を蹴り飛ばしバイクを奪う。
「あの女を始末しろ!Mi-8はあのガキを追え!」
僕はバイクで器用に戦うキョンシーを背に走るしかなかった。未来を任された責任感と、置いていくという罪悪感に襲われた。
「鬱陶しいヘリ!」
ヘリのドアを開けてミズガルズが発砲してきた。
<デミヒューマン。10秒後に急停止しろ。後はこっちがやる>
文句を言っている隙はない。ロングウィットンの言う通りにするしかない。
一気にスピードを上げ、10秒走り続けた。
片足を使いバイクを横に向かせスライドしながら急ブレーキをかける。
追いかけてきていたヘリが旋回してこちらを向いた時、パコンと、テールローターから火花が散りブレードが外れる。ヘリはグルグルと回ってそのまま墜落した。
「…何が起きたの?」
<こちらロングウィットン。迎えに行くぞ>
ニヴルヘイムのMi-8が到着。着陸し僕を迎え入れると、シモノフPTRS1941を持っていたエージェントがいた。
「離陸しろ」
ヘリが上昇。ニヴルヘイム本部へと向かう。
「紹介しよう。ニヴルヘイム唯一の特殊部隊、フヴェルゲルミル・スクワッドのエージェント、バジリスクだ」
「うん」
落ち着いた感じの人。なのに、あんな対戦車ライフルを軽々と担いでる…。
「…もしかして、あのヘリのテールローターを数キロ離れた先から…しかもこの真夜中…」
「バジリスクは狙って獲物は絶対に逃さない。どんな距離でもだ。狙撃じゃ、ニヴルヘイム一かもな」
そのまま、僕達は本部に帰還した。
…キョンシーさん…ごめんなさい…。
「先輩の後ろー!」
「せんぱーい!準備完了ー!」
「先輩!パラシュート!」
「先輩えらいえらい!」
「先輩?世界救った?」
「先輩…ボク達…死んじゃうの…?」
「行ってきます」
「あ"あ"可愛い〜!会いたい〜!!」
<無線入れながら叫ぶんじゃない。アクリス>
「6年!6年だよヤルクス!?キューバ危機以来会ってないし…マジ天使。早く会いたい」
アクリスがこうなったのはデミヒューマンとの別れから1年ほど経った頃だ。アメリカの新核兵器、W54を探すために沖縄へ出発。しかし見つからず、アメリカ軍による超頑固な警備で守られていたことで撤退。次にアメリカに渡り、再び見つからず、ここ最近の2年は西ドイツで探している。手がかりを掴めたのは、アメリカに渡った際にCIAに潜入していたティーターンが我々に連絡。デイビー・クロケットという形態型戦術核兵器に搭載する弾頭がW54であるということを教えてくれた。
結果、デイビー・クロケットが西ドイツに配備されたと聞いて現在は潜入中…なのだが、デミヒューマンと6年も会ってないせいでだんだんと中毒症状を出すようになった。
こうして、そろそろ任務に支障を来たすと考えた私は今日、アクリスをデミヒューマンと会わせることにしたんだが…我慢できないらしい。
<お前はいつからそんな人間なったのやら>
「さぁ…いつからだろ」
確かに俺は6年前とは大違いだ。あの任務のおかげかもしれないが。
正直、デミヒューマンは大好きだ。どの観点からでも。ただ…これ俺、犯罪者になりかねないのでは…?数十歳離れた人間がこんなに子供を好きになるのは危ない…よな?
<こちらジズ。ヘリポートに到着。デミヒューマンを連れてきた。着陸する>
<こちらヤルクス了解。降りたらすぐ扉を開けてやれ>
<了解>
UH-1イロコイが到着。ドアが開くとデミヒューマンが飛び出してアクリスに思いっきり抱きついた。
「アクリス先輩〜!」
「デミヒューマン!大きくなったな…」
昔は俺の下半身までしかなかった幼女が、いつのまにか胸までとどく少女になっていた。
「アクリス先輩、髭生えてる」
確かに、顎に髭が生えた。俺も成長、いや、歳をとったというわけか。
<アクリス、デミヒューマン。とりあえず中に入ってくれ>
中に入ると、地図が広がっていた。
「よし。全員揃ったな」
部屋には俺とデミヒューマン、ヤルクス、ジズ、トートがいた。
「アクリスが追いかけていたW54だが、西ドイツから姿を消した。今、西ドイツ軍は大騒ぎだ。今回は東ドイツとミズガルズが関与したと断言できるだろう」
「証拠は?」
「俺がシュタージのエージェントを誘拐して吐かせた。スタニスラフというKGBの男が中心になっている。つまり、デミヒューマン。今回はお前も関与していないとは言い切れないわけだ」
「ほへぇ。でも、どうやって?スタニスラフはモンゴルか中国にいるはずだよ?」
「スタニスラフはKGBの連中じゃない。おそらく、ミズガルズの一員だ。KGBの任務と同時並行でこちら側にも関わっているのだろう。器用なヤツだ」
「でも、同僚が出世したって」
「その同僚達もミズガルズの掌で踊らされていたんだ。今、ソ連の裏にはミズガルズがいる。アクリスが列車の上で戦った奴も、ミズガルズと中かしら関係していた可能性も否定できない」
こうして、俺達はミズガルズの跡を追って東ドイツに侵入することになった。
だが、ミズガルズの方が俺らより一足早かった。