第4話 東を揺るがすバラライカ
中ソ論争。それは、同じ共産主義を掲げていたソ連と中国が対立した出来事。なぜ対立したのか。
スターリンの死後、指導者となったニキータ・フルシチョフは平和共存を目指した。それをきっかけに中国の暴力的な政策や修正主義を批判し、対立が始まった。中国からソ連の技術者を撤退させ、軍事的な協力まで停止させてしまい、中国と対立を深める故、東側の分裂に影響。後の1969年には中ソ国境紛争という軍事衝突が起きてしまうのだった。
こうして現在に至る。
「MiG-21はソ連軍のコードネームでバラライカと呼ばれているわ。そして、中国のことはソ連は修正主義者と呼ぶ。つまり、修正主義者のバラライカは」
「…中国産のMiG-21…?」
「そういうこと。じゃあ行きましょ。いざ中国へ!」
夜中、シコルスキー S55が低空飛行で着陸。デミヒューマンを下ろすと素早く去っていった。
<作戦は聞いたな?>
「うん。貨物列車内にある修正主義者のバラライカの資料を盗む。それだけ」
<よし。何かあったら言ってくれ>
ここは中国軍の秘密基地。例の機体を載せた貨物列車が停止していた。日没と同時に移動する予定だそうだ。
警備が厚い正門から入ろう。
警備の交代時間になると、あの網の扉が空いて兵士が交代する。その隙を狙って僕の能力を使い中に侵入。とはいえ、透明人間になれるわけじゃない。昔はそれ同然だったけど、弱まったせいで大胆な行動をすると見つかるようになった。おまけに、時代の進歩で監視カメラと呼ばれる防犯器具が出てきてしまった。数秒に一回カメラが撮影し状況を映し出す。視野に入らないようにするか、壊すか、撮影しない数秒を潜り抜けるしかない。
「…もうエリートの肩書も要らなくなるかなぁ…」
計画通り、正門から中に入り、急いで建物の裏に入る。
「…まだ見つかってない」
急いで柵沿いを走って貨物列車へ向かう。
ターミナルに監視カメラが多い。あまりやりたくはなかったけどやるしかない。
ヘアゴムを取り、ターミナルの監視カメラに向かって指で発射すると、監視カメラに巻きついてコードを破壊した。これであの監視カメラの電源は落ちたはず!
「什么?」(なんだ?)
警備兵が壊れた監視カメラに気を向けているうちにターミナルに侵入。貨物列車の下に隠れた。
「はぁ…はぁ…はぁ…疲れた…」
あの髪飾りはニヴルヘイムの新兵器だった。いつ使うのか分からなかったけど、こんなところで役立つとは…。
匍匐前進で先頭車両に向かい、発射するまで列車の真下で待機した。
日が暮れ、ゆっくりと列車が動き出す。同時に列車上にあがり、見つからないよう荷物に隠れながらバラライカを目指す。
貨物車両に到着。シートの下に隠れると、頭の上には修正主義者のバラライカが眠っていた。
「…ホントにMiGにそっくり…」
後方へ行きシートから出て客車に入る。背を向けていた中国兵を気絶させ、机に散らばっていた資料を漁った。
「…あった。これが例の資料…」
資料を盗み貨物列車の上に乗って後尾を目指す。あの頃を思い出した。
「…アクリス先輩、元気かな」
一番後ろに辿り着くと、走って思いっきり飛び降りた。少しふらつき着地すると、急いでキョンシーを呼んだ。
すると、キョンシーがバイクで駆けつけてきた。
「乗る?」
「もちろん!」
バイクに乗って貨物列車の後をバレないように追いかけた。
「この先って、中国の中じゃかなり魔境じゃなかったかしら…。中国のエリア51があるとかなんとかって」
「仕方ないけど行くしかないよ」
「…そうね」
しばらく走ってみると、巨大な基地が現れた。
「何ここ…情報にはないよ!?」
<デミヒューマン、キョンシー。そこがおそらく終点だ。何か見えるか?>
ロングウィットンから無線が入る。
双眼鏡で基地を見ると、普段とは違う装備をした中国兵が徘徊していた。
「何あの人達…中国軍じゃないの?」
「いえ。多分中国軍だとは思うけど、CGBの兵士ね」
「CGB?」
「中国の中でも最高指導者とか、幹部とか極秘な基地の防衛も担当してる部隊。あんなに警備がいちゃ侵入は無理ね」
その時、貨物列車がシートが取られ隠れた戦闘機が現れた。
「見えた!見えたよ!」
「ホントね…。資料からするに、名前は、瀋陽 殲撃七型」
瀋陽 殲撃七型。通称、J-7。NATOのコードネームはフィッシュカンと呼ばれる。この戦闘機は、ソ連のMiG-21のデータを参考に自国で開発した新型戦闘機である。
「とりあえずは撤退ね」
バイクを走らせ基地に背を向け帰るしかない。でも、また戻ってくるだろう。スタニスラフはまだ生きている。
夜の中国の公道を走る中、僕には眠気が襲ってきていた。
「こちらアルファ部隊。ターゲット発見。これより任務を開始する」
キョンシーが運転する車で、ロングウィットンとの合流地点まで後1kmほど。時間は22:00。暗闇を利用して非合法ルートからミズガルズが潜む予想ルートをさけるつもりだった。
ズドドッと、発砲音と共に弾丸が耳を掠る。
「敵襲!?もう嗅ぎつけてきたのね…。デミヒューマン!後ろは頼んだわ!」
僕は眠気を払い、山西十七型拳銃を撃ちバイクで迫ってくる敵を撃つ。
「あれ何者!?」
「ミズガルズの連中よ!」
さらに、空からサーチライトで照らされる。
「眩しっ!」
飛行していたのはMi-8ヘリコプター。ミサイルを搭載している。おそらくミズガルズのだろう。
「キョンシー!どうしよう!」
「…あんただけは絶対に生きて帰すわ。資料は頼んだわよ」
「ちょ、ちょっと!?」
キョンシーは死を覚悟した。だが、未来を託すという覚悟も決めたのだ。