第2話 基地へ
「よぉ。久しぶりだなァ店主さんよ」
「…あぁ」
「なんだその顔は?まるで俺らが迷惑そうじゃないか」
「ここはガンつける場所じゃねぇんだ。入ったからには何か注文しな」
「食いにきてやったのにひでぇ言い方だな」
面倒ごとは厄介だ。早く食べて部屋に行こう。
「よぉ嬢ちゃん。見ねぇ顔だな。どっから来た?」
「…さぁ。でもあんた達にはわからない所から来た」
その回答にソ連兵達は嘲笑う。
「嬢ちゃん俺らは立派な兵隊さんだぜ?もっと敬ってもらわなきゃなぁ?」
ソ連兵が私をほっぺたを掴み向かせると、何かを企んでるような顔を見せつけた。
「ちょっと付き合ってくんねぇか?ほんの少しだけだ。楽しいことだから安心しろよ」
「…そう。でも、あんたじゃ私を満足させられないと思う」
思いっきり足を上げてソ連兵の股と股の間を蹴り上げた。
「いぎゃぁぁっ!?」
「Что ты делаешь!」(何しやがる!)
「Не стреляйте! Она всего лишь ребенок!」(撃つな!まだ子供だ!)
さらに次のソ連兵の首を腕に当て半回転し一気に倒す。
次のソ連兵の脚の関節部を蹴って崩れ落とし、ナイフを取り出し人質に取った。
「武器を置いて今すぐ出て行って。さもなければこいつの命はないよ」
ソ連兵達は怯えて気絶した仲間達を連れて出て行った。
「で、あんたにはまだ用がある。この人、知らない?」
ターゲットの写真を見せると、汗が出てきて怯え始めた。
「し…知らん…こんな男…」
「ホントに?」
ナイフを徐々に首に近づけていくと、兵士は口を割った。
「わ、わかった!話す!全て話すから!ヴァシリエヴィチだ!」
「ヴァシリエヴィチ?」
その名、聞いたことがある。KGBの幹部…キューバ危機の裏ボスだった男。
「そうだよ!スタニスラフ・ボリスラーヴォヴナ・ヴァシリエヴィチ!KGBに所属している!俺らと同期で出世したヤツだ!」
「そう。ありがとう。いっていいよっ!」
幼児のような明るい声で開放すると、AKMを捨ててすぐさま逃げていった。
でも、僕達を見たからには始末しなければならない。
窓を開けて逃げるソ連兵達に向かい奪ったAKMを単発で発砲し全員撃ち殺した。
「店主さん出てきて大丈夫ですよ」
「お嬢ちゃん、助かったよ。ありがとう。今回の代金は構わない。助けてくれたお礼だ」
「ありがとうございます!後、この武器は僕には要らないのであげちゃいます」
「分かった」
僕は部屋に向かいベッドに寝転んだ。ポケベルで現在位置を司令部に連絡して、着替え始める。
「あっ。連絡しなきゃ」
無線のスイッチを入れてロングウィットンを呼び出した。
「ロングウィットン。ターゲットの名前が分かった」
<本当か!?よくやった!>
「本名はスタニスラフ・ボリスラーヴォヴナ・ヴァシリエヴィチ」
<ヴァシリエヴィチ?確か、キューバ危機の時にも同じみよじをしたKGBの幹部が居たな。関係があるかもしれない。こちらでも調査する>
「ありがとう」
朝日が眩しい。
幼い体の上にスーツを見に纏ってネクタイを締める。
ロングウィットンから無線が入る。
<デミヒューマン。良い知らせだ。仲間のエージェントが手がかりを見つけた。君の場所から西側にある前哨基地でKGBの連中がいるそうだ。おそらく、ターゲットと合流するつもりだろう。いや、合流した後かもしれん。とりあえず、そのKGBエージェントから情報を聞き出せ。わかったな?>
「了解」
日の出と共にバイクを走り始める。とりあえず交通量が少ないうちに行こう。こんな僕みたいな歳の子が運転しているなんて、絶対捕まる。
目標地点近くに到達すると、哨兵が大量に徘徊していた。簡素な前哨基地にしては警備が多すぎる。
「なんて数…」
最悪なことに、装甲車が2両、戦車も駐留していた。BTR-60とT-34/85…。軍用車両も多数。T-34/85に関しては東側で生産された近代化型の機体だろう。昔の機体だが厄介だ。
「時間がない…やるしかない…」
僕は得意の潜在能力を活かして気配を消し匍匐しながら近づいていく。とはいえ、僕のこの能力は体が成長するごとに弱まっている。今はまだ能力の本領を発揮できるが、体力をかなり使う。
なんとかBTRの側面まで来ると、タンクデサント用の取手を掴み前哨基地の屋根までジャンプした。着地し、ガラスのない窓から侵入した。
とりあえずKGBの連中が来るまで隠れなければ…。
僕は机の下にあった段ボールを取り出し中に入った。
10分ほどすると、2人の将校が中に入ってきた。
「Хорошо. Детали "Балалайка в Ревизионист" в этом. Обязательно добейтесь успеха.」(素晴らしい。"修正主義者のバラライカ"についてはこの中だ。必ず成功させろ)
「Конечно, товарищ.」(もちろんだ同志)
修正主義者のバラライカ…?何の隠語なの?
「Эй! Несите свой багаж!」(おい!荷物を運んでくれ!)
数名のソ連兵が段ボールを運び始め、私もトラックの荷台に積まれてしまった。
やばい…どうしよう。
少しだけ開けて外を覗くと、トラックに先程の将校の1人が乗り込んだ。どうやら、あの男こそスタニスラフのようだ。運がいい。
トラックが動き出した。このまま着いて行こう。