第12話 シベリアで見たもの
「んー…」
「デミヒューマン、起きたか?」
やっと目覚めた時には、朝日が出ていた。あの夜から不眠不休で向かっているのである。
しかし、フレースヴェルグが異変に気づいた。
「…アクリス?」
呼吸が弱く感じた。おろして確認すると、一回一回の呼吸が遅く、吐く力も弱くなっていた。
デミヒューマンがヤタガラスから飛び降りてアクリスの元に駆け寄る。
「先輩!先輩!」
デミヒューマンの声かけにも分かっているのか、分かっていないのか。
「…熱だ。かなり熱い。高熱だよ間違いない。この戦闘と合流ポイントまでの旅で口にしたのは水だけだ…。免疫力が弱まりすぎたか…拷問まで受けていたからな…」
「あと少しなんだが…耐え凌げるか…?」
何か、何か食べるものはないのか。
シベリアの極寒では、果物もない。せめて、動物でもいれば…。
その時、僕は思い出した。
「…誰か、グレネード持ってる?」
「あるぞ。でも、何に」
「あの湖を貼ってる氷を割って」
「…なるほど。氷上釣りか!よし来た!」
バジリスクがグレネードのピンを抜いて氷を爆破。同時に魚が爆発に巻き込まれて浮いて来た。
「よし。ただ、寄生虫はどうする?」
確かに…気温は今マイナス40度。24時間経てば死ぬけど、今は時間が勝負…どうすれば…。
「貸して。自分やる」
「フレースヴェルグ。何をやるつもりだ?」
サバイバルナイフを取り出して魚の腹を切り始めた。
「内臓処理」
「やったことあるのか?」
「うん。よく釣って食べるから。まだ新鮮だし、今すぐ内臓処理すれば寄生虫は防げる」
綺麗な捌きに一同は圧巻。無口で返事や少しの文しか喋らない彼は、特徴もよく分からず、ただスナイパーとしての腕はとんでもないものであるということだけ。料理も魚も捌けることを今、初めてフヴェルゲルミルは知ったのだった。
捌き終わると、刺身にした。
「調味料はないけど許して」
「日本人はこれを食ってるのか?」
「口に合うといいんだけど…」
刺身をつまんでアクリスの口に運んで食べさせようとするが、意識が朦朧としすぎて食べることができていない。
「アクリス!しっかりしろ!デミヒューマンを任せたのを忘れたわけじゃないだろうな!」
グリフォンの声にも反応しない。
僕は刺身を口に入れよく噛んでキスをした。そのまま口に入れていた刺身を先輩の口の中に移す。最初の本当のキスなんて気にしなかった。いや、むしろこれで良かった。
フヴェルゲルミルのメンバーが顔を赤らめたり、隠したり、そっぽを向く。
「…先輩…。僕のなら、受け取ってくれますよね」
アクリスは思い出していた。懐かしい、1962年の夏。デミヒューマンと出会い、育成期間中だった頃。
子供なんて嫌いだ。騒がしく、生意気で臆病。それがただ気に食わなかった。
グリフォンからデミヒューマンの育成を任されてから、その考えは180度変わった。デミヒューマンが特別なだけだったのは分かっていた。でも、それでも子供を見る目は変わっていた。
別れから数年、デミヒューマンが恋しくなった。ヤクルスが嫌だったわけじゃない。寂しかっただけだった。まるで、自分の子供かのように見えた。
階段を登る。上にはヤクルスやキョンシー、他の仲間もいた。
「アクリス。止まれ」
「ヤクルス?」
「まだ来ちゃいけない。俺は相棒を託したんだ。最強のコンビを組め。これは俺からの頼みだ」
「何言って…」
横から次元を割るように、パリィンとデミヒューマンが飛び出してきた。そのまま、口にキスをされる。押し倒され、下へ落ちていく。
シベリアの雪が俺に当たり、デミヒューマンの顔が真近くにあった。
「デミヒューマン…か?」
「先輩…先輩!先輩!」
デミヒューマンの涙が俺の顔に溢れてきた。
「…先輩…遅いですよ…僕を置いて…」
しばらく、立ち直ることは出来なかった。心理的にも物理的にも。ただ、その涙が俺にとっては幸せだった。こんなにも、俺を大切にしてくれる存在がいるだと改めて認識できた。
ヤクルス。もう少し、俺はこっちにいるよ。
「さぁ、行こうかアクリス、デミヒューマン。あと少しだ」
もう少し歩いた。俺も抱えられることもなく、自力で歩いた。デミヒューマンと手を繋ぎながら。
「到着だ。まだジズは来てないな」
「あれじゃないか?」
双眼鏡で覗くと、黒い点がかなり小さくだが見えた。やっと終わる。長い任務だった…。
「…待て、早すぎやしないか?ヘリのスピードじゃない」
「…みんな伏せろ!」
ヤタガラスの警告で防ぐと戦闘機が急接近。しかし、ヘリのように浮遊し始め、俺らを見つめた。コクピットにはダークエルフが搭乗している。
「ハリアー!噂のVTOL機だ!」
VTOL機。垂直に飛行ができる新型戦闘機。だが非武装で、積んでいるのは燃料タンクのみ。
<アクリス!>
無線機からダークエルフの声がする。無線を奪って使用しているようだ。
<安心しろ。撃ちはしない。1つ、忘れていたことがある>
「…んだよ?」
<次は必ず殺してやる。俺の愛銃でだ。その時はアクリス、お前と勝負だ>
「…いいだろう。ただ、俺も必ずお前を殺してやる。相討ちでも、俺が死んでもだ」
<これは返してやる>
コクピットを開き、無線機を投げ返した。所詮、ミズガルズには要らないのだろう。ニヴルヘイムとは違うからな。
ハリアーが垂直飛行を解除し、そのまま高速で去っていく。去った後、ジズの乗るMi-2が到着。ダウンウォッシュが俺達の髪を靡かせる。
「さらばシベリア」
「二度と俺は着たくないな。行くならせめてシベリア以外の寒い場所がいいな…」
「どこそこ」
「北欧とか…?南極とか…?」
「南極なんて、行くとしても来世かもね」
「一度は行ってみたいぜ」
そんな会話をフヴェルゲルミルのメンバー達はしていた。
僕とアクリスは、ただただ、目を合わせられなかった。




