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空色アスカ

空色アスカという少年

作者: 油揚げ

挿絵(By みてみん)

空色アスカ(AIが仕上げた)


挿絵(By みてみん)

雪内桃花せつないももか


 わたしは学校の図書室で資料を探していた。うちは変わりモノ学校で、図書室はやたらと広くて多様な蔵書があるから、もしかしたらと思ったんだけど。

「み、見当たらない……」

 しかたない、図書委員に聞こう。もしかしたら無いかもしれないけど、一応ね。

「あ、あの」カウンターで待機しているのは、メガネをかけた男の子だ。大人しそうで、いかにも文学少年という感じがする。

「はい、なんでしょう?」

 はあ、こんなことを聞くのは、少しためらうんだけど。

「あの、悪霊の憑依に関する資料はありますか?」

 すると彼は困り顔をした。当然だよね。

「悪霊関連ですか。一応あるんですが、特別資料なので許可なく閲覧はできないんですよ」

「そ、そうなんですか」ただのオカルトなのに? やっぱりこの学校、なんかおかしい。

 図書委員くんは、真面目な顔をしている。

「悪霊について知りたいなら、オカルト研究部をあたってはどうでしょう」

「う、うーん。確かにオカ研のウワサは聞いたことあるけど」

 他にアテがないので頼ることにした。しかし、その道は険しい。オカルト研究部は部活動でも目立たない存在なので、部室がどこにあるのか分からないのだ。

「こ、こっちかな……?」

 誰か、知っている人がいないかな。

 目の前にひとりの男子がいた。鳥打帽を被っていて、万年筆を手に持っている。あれは報道部員の西園寺優也くんだ。あんな格好をしているのは他にいないし。

「あのー、西園寺くん」

 記者らしいからという理由で、鳥打帽と万年筆を装備しているという変な人だけど、しかたない。

「どうしました?」

「オカルト研究部、探しているんですけど」

「ああ、オカ研の部室はわかりにくいですからね」

 西園寺くんは丁寧に道順を説明してくれた。

「あ、これならわかります。ありがとうございました」

「いえいえ、人々に必要な情報を提供するのが、報道おれたちの使命ですから」

 彼は得意げな顔をする。わたしはその場を動けずにいた。少し沈黙が起きる。

「なにか気になることでも?」

「あ、いえ。拍子抜けだなーって」

「もしかして、あなたがオカルト研究部を訪ねる理由を、おれが聞かないからですか」

 言い当てられて、無意識に反応したらしい。西園寺くんは微笑んだ。ふつうの人は、オカルト研究部なんてイロモノを訪ねるなんてことしないはずだからね。

「べつに、なんでもかんでも記事にする必要なんてありませんから」

「そ、そうなんですか」

「そうですよ。それに選ばれし者はオカ研に導かれるものですし」

 軽口の上手な人だ。

 とにかく、教えられた通りに進んだ。そして『オカルト研究部』と書かれたドアを見つける。

 わたしは恐る恐るノックした。

「どうぞ」中から爽やかな少年の声がした。

 わたしは思いきってドアを開けた。

「ようこそ、お客さん」

 わたしを出迎えたのは小柄で華奢な男の子だった。とはいえ、わたしよりは背が高い。細くて筋肉があまりなさそうな体だけど男の子らしい体つきだ。あと、わりと色白だ。

 瞳は大きいけど横長で、ツンとした感じがある。わりと童顔で、髪の毛を伸ばしたら女の子と勘違いしてしまうかも。

 彼は小さい体ながら、スッと立っていてカッコいい。

「オレはオカルト研究部部員の空色アスカ」

 アスカ? 女の子なのかな。そういえば、可愛い感じもある子だ。

「……男だぞ」アスカくんは、そう付け足す。苦労してるみたいだね。

「あ、いや。えっと、わたしは雪内桃花です」

「ん、あんた悪霊に憑かれているな」

 彼は普通にそう言った。

「え」

「まあ、席についてくれ。いろいろ聞きたいことがある」

 そしてアスカくんにいろいろと話をした。

「ふむ、先週から背筋がゾクっとしたり、何かの気配を感じたりすると」

「うん、そうなんです。気のせいとかじゃ済まないくらいヒドイので」

「悪霊に憑かれるには、何らかの理由があるはずなんだが。心当たりはないか?」

「べつに、心霊スポットに行ったとか、罰当たりなことをした記憶はないです」

「ま、そうだろうな。そういうわかりやすい理由で憑依されるほうが珍しい」

 そういうものなの?

「しばしば見られるケースは、その人独自の要素が悪霊を引きつけるってものだ」

「それは、どういうことですか」

「シンプルな例は、金持ちを妬む小市民の死霊や生霊が、金持ちに憑依するって感じだ。その金持ちがあくどい儲け方をしていない善良な上流階級であってもな。いや、むしろそういうタイプがやられる」

「……理不尽ですね」

「だから悪霊なんだよ」アスカくんはぶっきらぼうに言う。

 と、真剣な瞳でわたしを見つめた。

「オレも調べておく。ただ君も知識を持った方がいいだろう」

 そう言うと、彼は名刺みたいな紙に何かを書いた。

「ほら、これを図書委員に渡せば必要な資料を用意してくれる」

「そんなシステムがあるんですか!?」変な学校だ。

 わたしは紙片を受け取る。

 そして再び図書室へ。さっきの図書委員くんに紙片を渡した。

「なるほど、こういうことになりましたか。少し待っていてください」図書委員くんは席を立つ。

 わたしは彼を待つ。ちらっと新規入荷のコーナーを見た。どの本の表紙も可愛らしいヒロインが飾っている。

「はあっ……」これらの作品のヒロインはフィクションだけど、現実の男性の好みを反映しているんだろう。

 最近は男の子を甘えさせてあげる、母性溢れる女性がトレンドだ。

 もうひとつのトレンドは、強気でパワフルな女の子。男主人公をグイグイ引っ張っていくのだ。

 わたしは男の子にリードされたい甘えたい。それも、できれば強くて逞しい男子に。今の時代、そんな願望を持つ女性は好かれない。いや、それ以前の問題がある。

 わたしは人気シリーズの最新刊に目をやる。表紙を飾るヒロインは、ムチを握りしめている。

 そう、こーゆーヒロインも人気なのだ。男の子って、実はMが多いの?

 いや、確かにね、魅力的な異性に痛めつけられたり罵られたりするのは快感だよ。だけど、男の子の方がそういう趣味に目覚めたら、わたしは困るのだ。

 アスカくん、冷たくて鋭い瞳だったな。あれで蔑まれたら、わたしはきっと……。

 妄想したわたしは、ぶるぶる震えて自分の体を抱きしめた。本人に打ち明けたら、軽蔑して虐めてくれるかな?


――その頃、アスカは桃花に憑依した悪霊との対話に成功していた。

「ふむ、どっかの男の霊か。彼女になんの恨みがある?」

 悪霊は、よくぞ聞いてくれたとばかりに反応する。

「なんだそれ。愛する人に虐めてほしかったが、相手から『お前のようなキモイ男を虐める趣味はない』と断られた? だから、虐めてほしい願望を持つ美少女に憑依したって?」

 アスカは険しい顔をした。

「あいつ、そんな趣味があったのか。これ、報告していいものか……。好きでもない男には、バレてほしくない趣味嗜好だろうし」

 アスカ、ふっと息を吐く。

「とりあえず、お前には望みのモノをくれてやるからサッサと向こうへ行け、変態!」

 魔術道具のひとつらしい、ムチで思いきり悪霊を叩きのめすのだった。クールかつ情熱的な美少年アスカの一撃に、悪霊は満足したようだ。

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