第6会 少女への差し入れ
ふふふ。
今日は驚くぞー。
いつもしてもらってばかりだったこちら側からすることになるんだから。
「……どうしたのよ、にこにこして。」
「今日はなんと!
妻から差し入れを頂きましたー!」
「はあっ!?」
「いやぁ、このやりとりが面白いらしいよ?
でね、リーフェ達に差し入れられないかなって。」
「どうやって?
現実世界から夢世界への物理的干渉何て不可能でしょう。」
「僕が味を覚えて持ってきた。」
「……とんでもない事するわね。」
「というわけで、今日は僕がお茶会を開きまーす。」
「意外だわ……。」
リーフェに用意してもらったのはテーブルと椅子だけ。
当の僕は杏露酒に魔法のパウダーを流し入れて混ぜる。
「……それ、お酒?」
「お酒は薄く作るよ。
リーフェ、未成年でしょ。」
「身体的には成長が止まってるから関係ないわ。
概念的には……まぁ、それなりに生きてるし。
ここは夢世界だから法律も無関係。」
「うん? じゃあ、通常の濃さでいいの?」
「そうして貰える?
見たこともないドリンクだわ。」
「居酒屋で覚えたレシピでーす。」
「ノリノリね……。
って言うか、味だけでレシピ分かったの?」
「あ、そういえばそうだな。」
「どういう舌をしてるのよ、貴方……。」
「あとは月光のクッキーです。」
「あぁ、これ見たことはあるけど食べたことは無いわね。」
「ささ、どうぞどうぞ。」
「いただきます……。」
ちょい、とリーフェがドリンクに口を付ける。
「あら、アップルティーを混ぜたの?」
「インスタントで申し訳ないんだけど、手軽なのがこれしかなかった。
本格的に作ろうとすると紅茶の手順踏まないといけないし。
お茶会を開く以上は出来る限り自分でやりたかったんだ。」
「やだ、どうしよう。
美味しい……。」
「お、本当?
妻も喜ぶと思うな。
クッキーもどうぞ。」
「なんか、貴方の記憶と大きさが合致しないんだけど。」
「昔に比べて小っちゃくなっちゃっただけ。
味はそのままだから大丈夫。」
サクッ。
「美味しい……!
ねぇ、これどこで売ってるの?」
「気に入った?」
「えぇ。」
「良かった。
いつでも持ってくるよ。
僕が味を忘れない限りは。」
「もう、こんなに美味しいものを……。
奥さんにお礼を言っておいてよ?」
「はいな。」
「ところで、その奥さん繋がりで思ったんだけど。」
「何でしょ。」
「私達のやり取りを、らのべ?とかいうのにして公開してるのね。」
「そうですよ?」
「ウケると思えないんだけど。」
「ウケると思ってやってないよ、自己満足。
日記と一緒。」
「あははっ!
じゃあ万に一つ本にでもなったら読者さんからのリクエストでも受け付けてみようかしら。」
「お、本当に?」
「本なんかになるわけないでしょ、バカねぇ。」
「だよねぇ。
でもリーフェからラノベって言葉が出るとは思わなんだ。」
「貴方の記憶を探ってるだけよ。
最近の流行はよく分からないわ。」
「ま、なろう系だとは思いますが。」
「何それ。」
「まぁ簡単に言うと自由に投稿して運がいい人かセンスのある人から小説家になりませんかって話。」
「ふぅーん……。
で、貴方はそれを狙ってるわけ?」
「まさか。」
「そうよねぇ……。」
「僕が一番興味があるのは自作パソコンですよ。
小説家何て御大層な方になれるとは微塵も思ってない。」
「でしょうねぇ……。」
「でも過去にこのやり取りをブログにしてた時があったんだけどさ。」
「あったわね。」
「結構ウケがよかったんだよ。」
「そうなの?」
「そうそう。」
「あ、おかわりくれる?」
「結構いける口だね、リーフェ。」
「酔ったらごめんなさいね。」
「……悪酔いはしないでね。」
「どうかしら。」
「ひえぇ……。」
気が付いたら大瓶一本(500㎖)を一人で空けていた。
「めっちゃ飲みますがな。」
「はあぁ……、ふわふわするぅー……。」
「そしてめっちゃ酔ってますがな。」
「これ気持ちいい。
癖になりそう。」
「やっぱりリーフェ子供なんじゃないの?」
「誰が子供よっ。
これでも概念的に長生きはしてるんだからねっ!」
「悪酔いしてる……。
明日二日酔いにならないように願ってます……。」
「二日酔い?」
「頭痛したりする。
酷いと記憶を無くす。」
「ふぅーん……。」
「……戻さないでね。」
「何を?」
「飲んだ分。」
「大丈夫よ、そこまで酔ってないわ。」
「そうかそうか。」
「……多分。」
「分からんのかーい!」
「だぁーって、お酒飲んだの初めてなんだもーん。」
「マジデスカ。」
「うふふ、ここまで明晰夢が出来る人が居なかったからね。
増して、この私に差し入れ出来る何て考えたこともなかったわ。」
「それは喜んでいいのかどうか分からなくなってきたぞ。」
「喜んでいいことだと思うけど。
それだけ夢に干渉できる能力が高い証でもあるんだから。」
「ふむ。」
「ねぇ、もっとない?」
「何が?」
「杏子と林檎紅茶のお酒。」
「もう出しません。
これ以上は危ない。」
「えー。」
「完全にキャラ崩壊してる。
リーフェ酔いすぎ。」
「だぁーって、美味しかったんだもん。
こんなに幸せな気持ちになったの初めて。
あ、こういう気持ちにさせて世の男性は女の子をお持ち帰りするんだ?」
「やめなさい。
危ない表現はご法度ですよ、リーフェ。」
「貴方、奥さんとお酒はよく飲むの?」
「年一くらいかなぁ。
下手したらそれ以下かも。」
「えー、こんなに美味しいのに?」
「一応、嗜好品だからね。」
「あー、お酒持ってこいっていう人の気持ちがわかるー。」
「こりゃ次からリーフェにお酒は飲ませられないな。」
「お酒が甘いからついつい飲めちゃう。
クッキーも美味しいし、最高。」
「僕もこのお酒は好きだけど、ここまで気に入ってもらえるとは思ってなかったよ。」
「ねぇ、お願い。」
「ん?」
「また飲ませて。」
「それはどうかなー……、ここまで悪酔いされると……。」
「次は控えるから、お願い!」
「分かった、量を控えるなら飲ませてあげるから。」
「よかったぁ。」
頬どころか耳から首にかけてまで染まっているリーフェ。
お酒には意外にも弱いようだ。
身体年齢的には飲ませてはいけないんだけど、彼女を証明させるものはない。
夢だから。
僕の妄想だと言えばそうとも言える。
皆さん、お酒は二十歳になってから!
法律はきちんと守りましょう。
……説得力ないかもしれないけど。
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