第58会 突発性運動会
とある日。
「リーフェ、あれ?」
「いらっしゃい。」
「書斎じゃない、どこだここ。」
「あー眩しいわ。
ちょっと理由があって外でね。」
「うん? 夢だよね?」
「夢なのは違いないわ。
……夢のユーザーの運動会の案内が来ててね。」
「夢のユーザー?」
「あなた宛て。」
「あらそう。」
ポンポンと音が鳴っている。
普通に運動会だ。
出場人物は割と多い。
「結構いるね。」
「明晰夢が使えるなら出場できるからね。」
「リーフェ、気が向かないんじゃない?」
「夢の管理者だからね、それくらいはやるわ。
ただ、管理者がいて出場しているのは私らだけだけど。」
「そうなの?」
「大体は夢を見ている人だけ来てるわね。
起きたら大体は忘れさせられるからね。」
「……楽しそう。
忘れないかな。」
「あら、珍しい。
希望とあるなら記憶を残してあげるけど。」
「お願い。」
「はーい。」
スピーカーから声が響く。
「一種目目、遠投ー。
出場者はピンクの旗のところまでー。」
「遠投ね……。」
ぽーん、ぽーんと球が飛ぶ。
十数メートルから三十メートルあたりだろうか。
「僕、背中やって5メートルくらいだったんだよな。」
「なんだオッサンが何しに来た?」
若いお兄ちゃんが声をかけてくる。
「おいちゃんね……。」
「腑抜けばっかりだな、見てろ!」
ぎゅーんと球が飛んでいく。
「204メートル!204メートルが出ました!」
「はっはっは、オッサンには無理だろ。」
「……。」
「(シュライザル、本気でやりなさい。)」
リーフェの声が頭に直接響く。
「いいのかなぁ……。」
服がバタバタとはためく。
「え……?」
「ふん!」
球が空へと飛んでいく。
「た、球が落ちてきません!
大変な事態です!」
「な、なにをやった!?」
「明晰夢。」
「う、嘘だろ……!?」
「本当ですか!?
せ、1169メートル……だそうです!」
「せん……、せん!?」
「おー、飛んだなー。」
「ふ、ふん。
そこそこやるようだな。」
「次の種目は選択式遠距離走です。」
「なんじゃそりゃ。」
「短距離、長距離を自由に選んで
先にゴールした人が勝ちです。」
「なんと不公平な。」
一列に並ぶが相当な人数がいる。
「息苦しい……。」
「用意……!」
服がばたばたはためく。
「スタート!」
パーンとピストルの音がする。
風のように飛び出す。
「あの道を走ろうかな。」
自由に走っていると、行き止まり。
「おっと、タイムロス。」
カーン、とアスファルトの壁を蹴って反転。
ゴールテープまで駆けていく。
結果は、3位。
「ごめんリーフェ、3位になっちゃった。」
「ははははは!
ここでは俺が1位のようだな!」
上機嫌で言い去る若いお兄ちゃん。
「悔しいな、あの人数でも3位ではあったのだけれど。」
「……あなたの選んだコースは最長の最難関コースだったわね。」
「あ、そうなの?」
「他の選手は500メートル前後。
あなたは1キロメートル以上も翔けていたのよ。
しかも障害が多い。
比べる方がおかしいわね。」
「選ぶのも技術では?」
「……ふふ、そう思うなら思ってなさい。」
「最終種目は、ずばりバトルでーす!」
歓声が上がる。
「目玉なのかな。」
「その辺にいる人、殴っちゃってくださーい!
スタートー!」
「は?」
隣にいた人が急に襲い掛かってくる。
「嘘だろ!?」
ひらりと空へ緊急回避。
空を飛べる人は相当に少ないようだ。
「ふむ。」
胡坐をかいて下の戦いが終わるまで待っていよう。
と、殺気を感じて動く。
同じく空中に浮いている人が光線を飛ばしたようだ。
「……何もしない、というわけにはいかないのね。」
服がはためく。
「さすがに怒っちゃうなぁ。
覚悟してもらうよ。」
しばらくして。
地上に数人残るだけになった。
空中の敵はいなくなった。
地上に降りる。
「やっと降りてきたか、卑怯者め!」
「使える力を使っただけなんだが。」
一気に襲われる自分だが。
「……気分悪いんだ。
僕、怒ってるんだよ。」
バシュン!と音がして周囲の人間が消える。
「な、なにをした!?」
「あ、さっきの兄ちゃんじゃーん。
残ったんだね。」
「殺した、のか?」
「んーん。」
「やめときなさい。」
リーフェが割って入る。
「リーフェ。」
「見てたけどあんたじゃ勝てる要素がないわ。
さっきの競争で勝てたことを基準にしてるなら
大きな間違いよ。」
「は、ははは!
やってみなきゃわからない!」
「どうする?」
「別の手口使える?
さっきのやつらと同じじゃ、”夢が覚めるだけ”だからね。」
「おっけ。」
「はあああっ!」
ガン!と殴られる。
「怖くて回避もできないか!
……あれ?」
「実際は痛くないんだが、夢としては痛いね。
ボディーブローだよ。」
「え?」
ボス、と音がして男が崩れ落ちる。
「が……はっ……!」
「実力がないわね。
センスはあるんでしょうけど。
この子の強さがわからない以上、足元にも及んでないわ。
出直してきなさい、三流。」
「なんだとこのガキ!」
「むかっ。」
「リーフェをバカにするのは許さないよ。」
突如、崖を作り兄ちゃんを落とす。
「わぁぁぁぁーっ!」
「……あそこまでする?」
「どうせ地面に落ちる寸前で目が覚めるよ。」
「まぁ、そうね。」
「リーフェ、ガキって言われたんだよ。
僕の尊敬する師匠なのに。」
「……師匠って言わないで、照れくさいから。」
「優勝は、リーフェ配下のシュライザル!」
「おや?
徒競走では3位だったのに?」
「総合点で見ますので!」
「あら。」
「だから言ったでしょう?
明晰夢であなたに勝てる人がいるなら見たいものね。」
ふっと、書斎に戻る。
「帰ってきた。」
「お疲れさま。
紅茶と珈琲どっちにする?」
「珈琲飲みたいな。」
「はーい。」
「……リーフェは昔ああいうの出たことあった?」
「存在が曖昧だったからねー。
出てはいなかったわね。」
「今も存在が曖昧な方ってみえるの?」
「結構いるわよ?
だからって呼ばないでね。
めんどくさいから。」
「やり方を知りませんが。」
「明晰夢。」
「あー……。」
「はい、珈琲。」
「いただきます。」
「……。」
「どうしたのリーフェ。
じっと見て。」
「……やめとこ。
あなたにとっては悪夢になるからね。」
「イリオスさんの関係?」
「あー……、察しちゃうのかこの世界だと。
普通ならまぁまぁわかんないんだけど。
そうそう、あなたが旦那だったらよかったなって。
ごめんなさいね。」
「んーん。
そう言ってもらえるのは光栄だね。」
「奥さんが羨ましいわ。」
「ふふ。
そういやリーフェに聞きたいんだけど。」
「なぁに?」
「翼が出来たじゃない?」
「そうね。」
「触られるのってどんな感覚でいるの?」
「一般的な天使と一緒だと思っているんだけど。」
「悪いことを聞いた。」
「あなたならいいけど。」
「相当恥ずかしいこと聞いたんじゃない?」
「あ、そこは後発組のせいかなくてね。
っていうか、どういう解釈してるのよ。」
「多分恥ずかしいところ触るのと一緒って感覚。」
「へ? あ、一般的な天使ってそうなんだっけ?」
「リーフェ、何だと思ったの?」
「誇りにかかわる部分だから怒るか、
相当に信頼している人だけだと思ってたわ。」
「僕の天使の解釈があってるとも限らないんですが。」
「ここはどこだっけ。」
「あー……。」
「触りたいの?」
「いや。」
「純粋な天使ならウリエル様なら喜んで触らせてくれるんじゃない?」
「天使に求めることは隷属の意味があるので控えておきます。」
「なんか変なものかじってない?
そんなことないはずよ?」
「そうなのかな。」
「ですよね? ウリエル様。」
「へ?」
ヴン、と別の椅子にウリエルが投影される。
「ぎょっ、何だこれは。」
「天界投影通信。」
「妙なものを……。」
「シュライザルのえっち。」
「誤解だー!」
「あはは、これ言ってみたかったのよね。」
「ウリエル様が意地悪です。」
「まぁ、真面目な話するとそんなにかったい事情はなくてさ。」
「そうなんですか?」
「ただ、気を許した奴以外に触られるのはすっごく嫌ね。」
「そうなんですね……。」
「最大の強みでも弱点でもあるからね。」
「え?」
「雷光なんちゃら、だっけ。
防ぐには最大防御を誇る翼しかなかったんだけど、
貫通されると最大弱点が露呈することにもなってね。」
「……痛かったんじゃないです?」
「あっ、って顔してたの見逃してないわよ私。
本気だったら羽散ってたと思うわ。」
「……。」
「本気でって言われたのに、優しいのね。」
「実際に起きたら出来るかは怪しいですが。」
「シュライザル。
地球でそんな状況にはそうそうならないわよ。
そもそも電気ナマズの石がない。」
「あはは、そうですね。」
「……そっち行きたいな。
ちょっと手が離せないのよね。」
「そうなんですか?」
「弱点抜かれたからね。
羽の手入れしないとちょっと傷んでて。」
「げ!」
「嘘だって。」
「なんじゃそりゃ!?」
「リーフェ、シュライザルって確かにからかうと面白いわね。」
「でしょ?」
「二人そろってやめていただけませんか。」
明るい笑い声が響いた運動会後。
からかわれるのは癪だが、こういうのも悪くない。
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