第57会 6125
話をしていると、最奥の部屋から再び人影が。
「こんばんは。」
「あら、ミカエル様。」
「ミカエル様、こんばんは。」
「げ。」
ミカエルの姿を見たウリエルが思わず漏らす。
「ウリエル、げ。とは何ですか。」
「というか、ミカエル様でしょ!
シュライザルに触れなくしたの!」
「……ほう、試したんですか。」
「あ、やば。」
「まったく、油断も隙もありませんね。」
「ぶー。」
「ソファロについてなんですけど……。」
「あぁ、シュライザルは気づいたんですね。
私たちを呼びやすいように精霊を置きました。」
「こちらから出向くものでは?」
「安易にこちら、天界に来ることも難しいでしょう。
そもそもリーフェが天界を嫌っておりますからね。」
「ぎくっ。」
「リーフェ、そうなんだ?」
「前にも言ったでしょ。
なんとなく下に見られるのは嫌よ。」
「格、上げてもらったんじゃないんだっけ。」
「確かにリーフェの格はウリエルに並びます。
ですが天使としての経験が圧倒的に不足しています。
ウリエル級の天使も多いのです。
そこでは最下位になるでしょう。」
「あ、そういう……。」
ぱりん。
「リーフェ、なにそれ。」
「ウリエル様、これは焼胴煎というお煎餅で。」
「大きいお煎餅だね。」
「シュライザルも食べる?」
「食べるー。」
ぱりっ。
「エビの味がする。」
「ふむ。」
ぱりん、とお煎餅を食べるミカエル。
「ウリエル、一回本気でシュライザルと戦ってみてくれませんか。」
「ん?」
「ミカエル様!? それはちょっと……!」
「何をためらっているのですシュライザル。
私と切り結べたんですよ、ウリエルと同格かも知れません。」
「い、いやいや!」
「いーよ、奥の部屋行こうっか。」
「なんでウリエル様はオッケーしちゃうんですか!」
「ただミカエル様、私が勝ったらこの呪い解いてよ。」
「いいですよ。」
「あ、そういう話になるのか……。」
最奥の部屋。
「ミカエル様、グローブは無しよね?」
「ありません。」
「よっしゃ。」
しゃらん、とスピアを取り出すウリエル。
「悪いけど本気出すよ。
この呪い解いてもらうんだ。」
「ひええ……。」
「では、いいですか?」
ミカエルが手を振り上げる。
「……はじめ!」
ものすごい勢いでウリエルがスピアを振り下ろす。
後方回避。
読んでいたのか突きが来る。
身体を反転させて回避。
「あはは、私を殺したいならブラムスとノーチェスを出したら!?」
「出来ないの知ってて言ってるでしょう!」
「あったりー!」
切り返しで切っ先が飛ぶ。
「……っ!」
ガァン!
「ヒットー……、あれ?」
「シュライザルが薄輝いて……、
ウリエルの攻撃を素手で止めましたね。」
「姫龍閃の生みの親としてはここで負けるわけにいかない。」
「バリアっぽいけど違うね。
ならそれ事吹っ飛ばす!」
ウリエルが3人に分裂する。
「はあああっ!」
男めがけて前方、右方、左方から一気に攻め入るウリエル。
「……雷光万里疾閃。」
眩い光が一気に3本、空に向かって貫く。
「な、なに今の!?
分身が消し飛ばされた!?
本体しか躱せなかった……!」
ぽーんと手から弾む小さな石。
「っ!
電気ナマズの石!?
技に乗せたの!?
武器もなしに!?
ありえない!」
胸から自分も電気ナマズの石を取り出すと、ぽーんと投げるウリエル。
「っ。」
「悪いわねシュライザル。
それ使うなら私のほうに一日の長があるよ。」
スピアの切っ先で引っ掻き、雷光が迫る。
「よいしょー。」
手を前に突き出すと、雷光は遮蔽物に当たった水鉄砲のように散る。
「っ!」
「ウリエル様、こういうのはどうです?」
今度は自分がぽーんと石を投げる。
握った拳を石に向かって振りかぶる。
「……む。」
ミカエルが何かに気づいた。
「翠翔。」
7本の雷光が大拡散して襲い掛かる。
「ちょ、マジで!?」
ウリエルは翼で全身を包みバリア展開。
雷光は直撃し、ウリエルが地に落ちる。
「ウリエル様、大丈夫です?」
「空気読みなさいよ!
私が負けたら呪いが解けないでしょうが!」
「……あ。」
「……ここまでですね。」
「ミカエル様。」
展開していたバリアを解除して歩み寄ってくるミカエル。
「ふむ、バリアが溶けましたね。
電気ナマズの石のこういった使い方は初めてですか?」
「思いつきです。」
「天使には1本しか出せないでしょうね。
それをあなたは7本も出した。
まぁ、初めてお会いした時に23万の精霊を使役した実績がありますからね。
想像の限りで構いません。
何本まで出せそうですか?」
「……。」
「シュライザル?」
「理論値なら……。」
「それで構いません。」
「理想的な状態なら6125本まで出せると思います。」
「6125!?
なんでそうなるの!?」
「……なるほど、並行励起。」
納得したようにミカエルが頭をうなずかせる。
「ミカエル様はわかるんですか?」
「実に興味深いのですが、シュライザルは今そこにある自分を肯定しません。」
「は?」
「自分は常に側流と本流の間にいるという考えです。
珍しい思考だと思います。
別の次元の自分を肯定し、今の自分を肯定しない。
こんな考えを持っているとするなら確実に自我が狂います。
三面鏡にお前は誰だと言っているようなものです。」
「……それ、自分が崩壊しておかしくなるやつですよね?」
「そうですリーフェ。
知っていてもやってはいけないことがあります。
それは自我の否定と他在の肯定も同じです。」
「ミカエル様、そんなやつと私を戦わせたの?」
「呪いを解いて欲しそうだったので。」
「意地悪……。」
「日を改めてリーフェとウリエルに戦ってもらいましょう。」
「今度は負けないからね……。」
「すみません、ウリエル様。
ちょっと失礼しますよ。」
ちょいっとウリエルの額に人差し指で触れる。
「なに?
……あれ。」
すっと急に立ち上がるウリエル。
「体が軽い!
怪我消えてるし!?
何したの!?」
「……怪我の次元をずらしました。」
「へ?」
「ふふ。」
薄く笑うミカエル。
「え?全然わかんない。」
「例えばこの5次元にケガをしたとしましょう、ウリエル。」
「うん。」
「怪我は通常時刻と同時期に次元を進みます。
仮に怪我を2次元に捨てたとすれば、
怪我は時間の進行で存在が出来なくなり
消えるということです。」
「なにその超理論!
滅茶苦茶すぎるんだけど!?」
「シュライザルにとっては、”普通”です。」
「そういやシュライザル90のコイン出たって言ってたっけ。
私とは15も違うんだよなぁ……。」
「……ウリエル? 今なんと言いました?」
「シュライザルに90のコインが出た話ですか?」
「90!?」
ミカエルが驚いている。
「90……ですか。
5違うだけでも次元が違います。
私に及ばない考えを持っているのですね、シュライザル。」
「いやいや、若輩者で。」
「あなたが奢らないから対等に話せるのでしょうか。
それとも我々が浅学に見えるのでしょうか。」
「ちょっと、ミカエル様。
流石に怒りますよ。」
「怒ってくださるのですね。」
「当たり前です。」
「ふふ、ウリエル。」
「ん?」
「呪い、解いてあげます。」
「……どういう風の吹き回し?」
「ただし、目に余ればまた掛けますよ。」
「はぁい。」
呪文を唱えるミカエル。
ウリエルが薄く輝いている。
「これで大丈夫です。」
「……うー。」
「飛びつきたいでしょう?」
「分かってるなら言わないで。」
「監視されていると思ってくださいね?」
「なんか変わんない気もするなー。」
いよいよ日を改めたらウリエル様とリーフェの対戦。
何が起きるのだろうか……。
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