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第52会 モスグリーンの湖と天使の誕生

ふと夢が始まった。


扉だ。

少し小さいので屈んで手前に開いてみる。


また扉だ。


それを繰り返すこと少し。

最後の扉は引く扉ではないようだ。

押すと開いた。

先に風景が広がる。


モスグリーンの湖だ。


足を置いてみると水面に着水。

水面を歩けるようだ。


思ったより湖が広い。


さて、何をするか。

あたりを見回してみる。


綺麗な鍾乳石が広がっている。


天井は星空のように輝いている。

高くて果ては見えない。


こういう光景は誰も知らず地球が広げているんだろうな。


リーフェが見たらなんていうだろうか。


そんなことを考えながら歩みを進める。

足元を凝らして見てみると魚が泳いでいる。


不思議と嫌な感覚はしない。

悪夢ではないのだろう。


「綺麗な夢を見ているわね。」


声がして振り返ると、リーフェだった。


「あれ? 書斎に行くんじゃなくて

ここでリーフェが出てくるのか。」


「いい夢だからね。

救い出す必要もなくてさ。」


「あぁ、そういう。」


湖面にテーブルと椅子を出したリーフェ。

その一つに腰を掛けると、リーフェが紅茶を出す。


「いつもごめんねぇ。」


「んー、そう思う?」


「そりゃあ。」


「来てくれてるからね。

私にしてみたらそれで十分なのよねぇ。」


「そういうもん?」


「退屈なのよ。」


「ミカエル様、ウリエル様は話し相手にならないの?」


「どちらも私からしてみたら上司だからね。

気は遣うわ。」


「あぁ。」


「この世界、あなたが逃げ場所をなくして作った世界だったじゃない?」


「そうだねぇ。」


「最近私も思うことがあってね。」


「といいますと?」


「あなたが作ってくれた世界の私だけど、

そこの私はあなたがいないと退屈なのよ。

これ結構大きいわよ。」


「あれ? リーフェそんなに退屈なの?」


「昔はそうでもなかったんだけどねー……。」


「どれくらい昔?」


「あなたがまだ小っちゃかったころ。」


「話し相手にならんでしょ、子供なんぞ。」


「よく言うわよ、13歳で大学生に間違われたくせに。」


「写真見返して思うんだけど、大学生にしては童顔が過ぎる。」


「そういう人もいるからねー。」


「いるけどもだな。」


「わかったならこまめに来なさい。

私を退屈させないで。」


「……。」


「あら? どうかした?」


「命令口調なのにお願いされてるなーって。

リーフェも変わったね。」


「……そう?」


「いいところだとは思うけどね。」


「テディには出来ないことよ。」


「そっかぁ。」


紅茶を啜る。


「……静かだね、ここ。」


「風もないからね。

過去にこういう場所に来たわけでもなさそうだけど。」


「記憶の限りにはないね。」


「はい、よもぎ餅。」


「どうもどうも。」


よもぎ餅をかじる。


「そういやミカエル様、パソコン直してほしそうだったわよ。」


「あれ? 最近直しに行ったよ?」


「ノートパソコンとか言ってたかしら。」


「お持ちなんだ、なるほど。」


「天界に行ったのね。」


「ウリエル様に連れられてねー。」


「どうだった?」


「綺麗な場所だったね。

こことはまた趣が違うんだけれども。

執務室にNAS置いてあったのはびっくりしたな。」


「っ。

執務室に入ったの?」


「なんか珍しいらしいとは聞いた。」


「私もあんまりないわね。」


「リーフェ、天界行くことあるんだ?」


「あなたに作られた、襲名するときにね。」


「え? それ以外では?」


「天界すらないわね。」


「なんで天界行けたんだろ……。」


「一目置かれているからでしょうね。」


「ミカエル様がどれだけ異常か分かられてないようですね、

とは言われたんだけどな。

そうか、相当に珍しんだね。」


「ふむ。」


パチン、と指を鳴らすとリーフェの衣装が変わる。


「おや、チーパオ。」


「そういうのいいから。」


「どうしたの?」


「フェーパ、打ってごらん?」


「リーフェに?」


「えぇ。」


「やだよ、ピンチでもなし。」


「お願いって言ったら?」


「お願いと来たか……、しゃーなし。」


椅子から立ちがると、テーブルとイス、ティーセットが消える。


「意識してないんだけど、なんでここ歩けるの?」


「あなたが望んでるから。」


「あ、そう……。」


ツーン、と小さく音がする。


「気が進まないようね。」


「そりゃあ……。」


「本気でやって頂戴。

場合によったら私も天界に呼んでいただけるかもしれないし。」


「……なんて?」


「いつか、曖昧になったけど試験してあげたでしょ。

あれ、ミカエル様からも来ててね。

私の昇進試験。」


「おっけー!」


ヅーン!と耳を劈くような音がする。


「クッ!」


リーフェの顔が苦痛にゆがむ。


ゆっくり握り拳を後方へ滑らせる。


「はああああっ!」


ドーン!と湖面が大きく揺れる。

リーフェが吹っ飛ぶ。


「あ。」


奥のほうで立っていた樹に足底をつけて緩衝する。

その勢いで目の前まで帰ってきた。


「……驚いたわ。」


「ごめん、ちょっと力が入っちゃったね。」


「……本気でやりなさいって言ったのに。」


「危機的状況以外で出せる本気だったよ。」


「あら、そうなの?」


「リーフェ、怪我してない?」


「平気よ。

まさか私を吹っ飛ばすとはね……。

明晰夢力に磨きがかかってるわねぇ。」


「リーフェ、昇進できそう?」


「あなた、自分のために力を本当に使わないわねぇ。」


「使ってるよ、ここの世界だってそうだ。」


「そういうこと言ってるんじゃないんだけどな。」


「おや。」


「前に竜子って龍神が来たじゃない?」


「来たね。

あれから全然夢に見ないけど。」


「強かった?」


「強い強い。

あれで力が残ってないんだから相当だよ。」


「あれからちょっと竜子ちゃんと話をしたんだけどね。」


「お。後日談。」


「あなたは相当に強かったようよ。

龍神を攻撃に向けるほど気分を高ぶらせるのも珍しいって。

大体は退屈で気分が乗らないそうだから。」


「炎に包まれたんですがね。」


「竜燐割られたのも久しいって。」


「あ。大丈夫って聞いてたけど……。」


「生え変わるものだし、痛覚はないからね。」


「痛覚ないんだ、よかった。」


「……そちらも併せて報告を上げないとね。」


「リーフェが昇進したらどうなるの?」


「どうして?」


「会えなくなるとかないよね?」


「あはは、ないわよ。

天使の座をいただけるかもしれない。

そんな簡単なお話よ。」


「リーフェル?」


「よく予測ついたわね……。

予定ではそう、リーフェルになるって聞いてるわ。」


「エシェディエルとかじゃないんだね。」


「今の名前で賜るから。」


「ふむ、天使になるとなんかあるの?」


「天界に行き来が出来るわね。

あとは宝物を一つ賜れるんじゃなかったかしら。

夢の管理者が天使の座を賜ることはまずないと聞いてるから。

心配しないでも天使になったとて私は私。」


「リーフェルかぁ。

翼をもったリーフェを見てみたい気もする。」


「ふふ。

あなたフェーパって乱打できたかしら?」


「出来るけど……、リーフェ?」


「さっきのフェーパで湖面が揺れたでしょう。

さざめく位にしてやりたくてね。」


「お茶目だねぇ……。」


右足のつま先でリーフェが湖面を叩く。


「行けそう?」


「いつでも。」


右手からフェーパが飛んでくる。

左手でフェーパを打ち返す。

左手からくれば右手で。

まさに花火のごとくバンバンと大気が振動する。


「ステップアップするわよ!」


「あいさ!」


バンバンなっていた音はドンドンへと変わり、

衝撃が体にも貫通する。


湖面の中心で打ち合いをしていたが、

小さく波が外へと広がっていく。


「ん。」


ぴたっ、と急にリーフェからの攻撃がやむ。


「お?」


合わせるようにこちらも攻撃の手を止める。


「……あなた、強くなったわね。」


「あら、そう?」


「結構力を出してたんだけどついてきたわね。

ステップアップしたときは大体本気よ。」


「明晰夢に磨きがかかってる?」


「明晰夢で私が下げられてたりして。」


「んな姑息なことをしてどうする……。」


「あはは!

いいわ、報告しておくから。」


「それには及びません。」


「おや。」


奥からミカエル様が歩み寄ってくる。


「ミカエル様、どうもー。」


「先日はパソコンを直していただきありがとうございました。」


「いえいえ。」


「シュライザルにはこのノートパソコンを……。」


「電源が入らなかったらもう基盤なんですが。

流石に基盤のどこかまで直すスキルはないですよ。」


「それには及びません。

メモリー?とかいうものの増設を頼みたいです。」


「あ、はーい。」


パチン、とリーフェが指を鳴らすとさっきのテーブルと椅子が現れる。

そこでドライバーを召喚し、裏蓋を開く。


「新しい規格じゃん。

そうか、デスクトップが死んでたからこっちにされてたのか……。

不便だったろうな。」


リーフェとミカエル様は少し離れたところで話をしている。

よくは聞こえない。


メモリーの増設も終わり、裏蓋を閉じてねじを締める。


「終わりま……、」


顔を上げるとリーフェから大きな翼が広がっている。


「ふぁー……、」


「シュライザル、ありがとうございました。」


「あ、いえ……。」


「リーフェルになっちゃった……、あはは。」


本人も予想外だったのか照れ笑いをしている。


「おかしくない? シュライザル。」


「大丈夫、聖なるものの感じが出てますよ。」


「ありがと。」


「リーフェに聞いたんですが、宝物を欲しくないと言うんですね。

しかしそれでもこちらが困ります。

シュライザルに貰ってくださいと言われたので、

何か欲しいものありますか?」


「何があるかを知らないんですが。」


「お金であれば超付金落でしょうか。」


「いらないなぁ。」


「シュライザルは興味の塊と聞いたことがあります。

何か興味があるものはありませんか。」


「電気ナマズの石に興味ならありますかね。」


「では、電気ナマズの石を与えましょう。」


「リーフェは? それでいいの?」


「えぇ。」


「なんか、おこぼれいただいちゃったな……。」


いただいたのは少し大きな石。

ウリエル様が持っていたものより少し大きなものだ。


「擦り切れるまで使っていただいて構いません。

宝物も喜ぶでしょう。」


「ありがとうございます。 ……あ。」


「なんでしょう?」


「リーフェ、連れてかれないですよね?」


「本当なら天界に連れていくんですけど。」


「え?」


「あなたと一緒にいたほうが良い影響が出るようですし、

リーフェも望みませんのでこちらにいていただこうと思います。」


「あっぶな!

リーフェ! 話が違うでしょ!」


「あはは、ごめーん。

だって夢の管理者から天使って出たことないんだもん。」


「シュライザルが優秀でよかったですね、リーフェ。」


「えぇ。」


湖が明るくなってくる。


「次! 次来るときちゃんといなきゃ嫌だよ!」


「はいはい、ちゃんといるから。」


当たりが真っ白になったと思ったら、朝に目が覚めた。

……最近いい夢を見ることが多いな。

Copyright(C)2025-大餅 おしるこ

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