第51会 訪問する辰
天界で朝を迎えて次の日。
眠るといつもの書斎に。
さすがに天界から始まらないのね。
「リー……」
スピーカーから音声がする。
「A-15081 A-15081。」
「何? 何か始まるの?」
「あら、シュライザル。今何時?」
「えっとー……、ここの時計だと午前3:30ですね。」
すると奥から一人、人影が見える。
「おや? 随分髪が長いな。
どちらさま?」
「一年遅かったわね。」
「一年遅かった、とは?」
奥から来た人影が前までやってくる。
「……今年は、何年ですか?」
「日本の言い方だと2025年、巳年ね。」
「……そっか。」
「女の子……、ですね。
自分の夢が嫌になるな。
実に男っぽい夢で。」
「この子はしょうがないよ、干支だから。」
「え? リーフェ、干支?」
「竜子、と言います。」
「あー、去年辰年だもんね……って、あれ?
私の夢に顔出してくださるんですか?
こういう事初めてですよね。
ありがとうございます。」
声をかけられた女の子がびっくりしている。
「あら? 何か変なこと言ったかしら。」
「……去年の干支なんですよ。
11年後に来いとかないんですか?」
「え? いつでも嬉しいかな?
これからはちょこちょこおいでいただけるんですか?」
「……お約束は出来ません。」
「それでもいいですー。
いい夢見たなぁ。」
「まだ来たばっかでしょ、シュライザル。」
「目が覚めたらきっと同じこと思うからいいの。」
「過ぎた干支なのに感謝されるなんて……。」
「いいじゃないですか。
よくおいでいただきまして。
ことしは良い一年になるなぁ。
辰も巳も根っこは一緒でしょう?
にょろんとしてるんでね。
龍だったら背中に乗ったりできるのかしら。」
「私にはそこまでの力が残ってなくて。」
「おや、悪いことを聞きましたな。
竜子ちゃん、どこかで会ったような気がするね。」
「お、ガールハント。」
「リーフェ、違う。」
「ふふ、当ててごらん?」
「ん-? 初めて本気で恋愛した人に似てる。
恋をしたのが初恋なら似てないんだけど。」
「あなた初恋どこだっけ。」
「幼稚園だねぇ、苺ちゃんとか言われてた気がする。」
「答えは起きてから考えてくださいね。
きっと私の事はぼんやりになってると思います。」
「めっちゃ印象に残ってるんだが……。
雰囲気ではどこかの漫画のリザードマンの女の子に似てますな。」
「どちらでしょう?」
「どっちも似てるんだよなぁ……。」
「あなたが本気で初めて本気で恋したのっていつだっけ。」
「中三ですね。」
「黒歴史じゃない。」
「いうな、いうな。」
「まぁ、悪戯されちゃったからねー。」
「あはは。」
「……許すんだ?」
「今が幸せだからだね。」
「ふふ、いいじゃない。
幸せになるのは一番の報復だからね。」
「リーフェが黒い。」
「お紅茶淹れようか?」
「リーフェが?」
「テディには無理ねぇ。」
「そうでしたね。」
待っている僕と竜子ちゃんに紅茶が出される。
「竜子ちゃんお砂糖使う?」
「自分の好みがわからなくて。」
「ちょっと飲んでみてから……、
あ、熱いだろうからちょっとずつだよ。」
「めっちゃ世話焼くじゃない。」
「いーの。」
「ふーふー、あちち。
うん、ちょっと苦い気がする。」
「リーフェ、グラニュー糖もらっていい?」
「どうぞー?」
竜子ちゃんの紅茶にグラニュー糖を一本注ぐ。
「すみません、要領を得なくて。」
「出来る人に頼みましょ。」
「ずず……、あ。
飲める、美味しい。」
「リーフェは腕がいいからね。」
「褒めたってなにも出ないわよー。」
「よもぎ餅が出るかもしれない。」
「わかったわかった、出すわよ。
ほら。」
「もぐもぐ、香りがいい。」
「草の香りがする、美味しい。」
「ウケてますよ、」
「竜ってそもそも何食べてるのかしら……。」
「あ、それもそうですね……。」
「色々食べますね。
ほぼほぼ私は人間よりなので。」
「そうなんだー。」
「多少なら戦闘も嗜みますけど。」
「お。シュライザルお願いしたら?」
「竜子ちゃんに!?」
「私、強いですよ。」
「ドラゴンだもんね、強いでしょうよ……。」
いただくものをいただき、最奥の部屋へ。
「ふぅぅ……。」
ボウッ、と吐き出す吐息に炎が混じる。
「僕強くないんで手加減お願いします。」
「……謙遜するんですね。」
「いや、その。」
一気に竜子が飛び出す。
その軌跡から拳の軌道を変える。
「躱されてしまいましたね!
これはどうですか!」
手を開く竜子。
爪が伸びる。
驚いて後方へ跳ねる。
「いい判断です。」
そのまま引っ搔きにかかる。
「おっと!」
ぶんぶん振り回す鋭い爪。
当たったら痛いではすまない。
「はあっ!」
竜子の口から炎が吹かれる。
「っ!」
ボン、と炎に包まれる。
「あら、当たるんですか。」
包まれた炎が消える。
「っ。」
「ちょっと熱かったな。」
「感覚が狂いそう。
結構な温度だったはずなんですが。」
「神聖属性があるからだろうか。
威力上昇の燃えてるグローブをつけてたことがあって
あれも結構熱くてさ。
夢の力で緩衝してたんだけど長くは続かないね。」
「器用な方。」
「いやー、竜子ちゃんも発言通りお強い。」
「もう少し戦いたいですね。」
「あいさ!」
今度はこちらから。
ブラムスとノーチェスを召還し、斬りかかる。
ガギン。
「お。」
腕に太刀筋が止められる。
「ふむ、竜鱗で防げますね。
剣自体の威力は相当なものですが、
使い手様が慣れてませんね。」
「あっはっは、よくお分かりで。」
「シュライザルったら私の記憶使わないんだから。」
紅茶を飲みながらリーフェが突っ込む。
「え? 記憶?」
「剣聖だった時の記憶があるらしい。
ただ、結構力を使うというか……。」
「夢の力を使うんですね?」
「そうそう、結構大変で……。」
「使ってください!」
「そう来るー?」
服がバタバタとはためく。
ツーン!と明晰夢が発動するモスキート音がする。
「結構すごい音がしますね……。」
「竜子ちゃん、避けてね。」
「どうでしょう!」
振り下ろした長剣ノーチェス。
腕で受け止める竜子。
パキーン!と音がして竜燐にヒビが入る。
「クッ!本当に太刀筋が変わった!」
カンカンカンと剣と爪がぶつかり合う音がする。
「ふぅぅっ!」
大きく炎を吐く竜子。
「む。」
範囲が広い。
温度も高そうだ。
剣を振り回してみるがあえなく炎の中へ。
「あっつ! あっつ!」
「ぷっ、あははははっ!」
大ウケの竜子。
「なんだい、なんだい。
爆笑しよってからに。」
「面白い方ですね。
この辺にしましょうか。」
「鱗大丈夫?」
「人でいう爪みたいなものですので生え変わります。
大丈夫ですから気に病まないでください。」
「あらそう。」
さーっと日が差し込んでくる。
「お、体が起きちゃうな。」
「楽しかったです。」
「僕も楽しかった!
竜子ちゃんもまた会えたらね!」
「ふふ、よいお年を。」
ここで目が覚めた。
やっぱりいい夢だったなって思うじゃないか。
はて、女の子がぼんやりしているぞ。
言われたとおりだったな。
あんなにバシーっと衝撃受ける容姿だったのにな……?
Copyright(C)2025-大餅 おしるこ




