第45会 御守りの加護
ふと夢が始まった。
「御守りはいりませんか。」
「いただきましょう。」
珍しく制御が利かない。
御守りを受け取った。
御守りを渡してきた人はどこかへ。
御守りを少し離してみるが
ふよふよと浮きながらついてくる。
ここで夢への干渉が利いた。
「離れないのかな、これ。」
ぽいと投げても走ってもついてくる。
ぷしゅー、と電車がやってきた。
「電車で引き離せばいいのでは。」
電車に乗るが少し考えればわかること。
御守りも電車に乗ってくる。
電車にはリーフェ、ミカエル様、ウリエル様、エクスが乗っている。
話しかけようとするがどうにも近づけない。
切符を切りに車掌さんが来た。
「御守りを引き取ります。」
「あ、助かるー。
よろしくお願いいたします。」
御守りが離れた。
するとどうしたことか。
リーフェ、ミカエル様、ウリエル様、エクスが
踊りながら電車を降りて行ってしまった。
「あれ? 御守りが離れたことと関係ないよね?」
すると突如悪魔が電車に溢れる。
「あいちゃー……、御守りが離れたせいだな……。」
右手に握り拳を作って後方へ反動をつける。
「さて! 相手になるぞ!」
そこまで来て。
カシャーンと風景がガラスのように崩れた。
「お……?」
一気に暗くなったため目が慣れない。
見回すと書斎のようだ。
ここは、いつもの場所か?
「悪夢を見たのに懲りないわねぇ。」
「あ、リーフェ。
やっぱり御守りは持っておくべきだった?」
「結果でしかないわね。
鬱陶しくついてくるなら離したくもなるでしょう。
なにかある、と思う方が変わってるわね。」
「いつもの僕なら、そう思うんですけどね。」
「あなたが変。」
「えー。」
「ちょっとこのグローブつけてみてくれない?」
「えらく急ですね。」
「いいからいいから。」
「凍ってる革のグローブに、燃えている革のグローブ。
あとは普通の革のグローブだね。」
「凍ってるやつからね。」
「ほいほい。」
はめると意外と冷たくない。
「して、どうするので?」
「そこのサンドバッグ殴ってくれない?」
「フェーパは?」
「いいわよー。」
ドン、と音を立ててサンドバッグにダメージが入る。
「揺れない!?」
「威力減少グローブの試作品よ。」
「面白いもの作りますね……。」
「次は燃えてる方ね。」
「はいな。」
はめてみるが熱くない。
「今度は威力上がっちゃうんじゃないかって思うんだけど。」
「あたり。」
「フェーパで殴っちゃいけませんよね?」
「構わないわよ?」
ドカーン!とさっきよりも大きい音でサンドバッグが大きく揺れる。
「音と物理法則があってないよ!
もっと揺れてもいいんじゃない!?」
「そもそもそのサンドバッグが特殊だからね。」
「最後は革のグローブですね?」
「フェーパで撃っていいわよー。」
ドーン!とダメージが入る。
サンドバッグは少ししか揺れない。
「何でできてるのこれ……。」
「魔力的質量は私と一緒なのよ、そのサンドバッグ。
だから少々のダメージだったら通らないわよ?」
「あ、現身さんだったんですね……。」
「うん、結果は上々ね。
ミカエル様に後で報告しておかないとね。」
「ミカエル様のご提案だったんだ?」
「んー、あなたが思ったより伸びてるからかな。
ウリエル様に凍っているグローブを。
あなたに燃えているグローブを渡すおつもりらしいわよ。」
「均等になる予感がしない。」
「えーと次はー。」
「まだあるんですかい。」
「信号!」
「信号?」
奥の部屋のそばに置かれていた信号機が光る。
「いつの間に設置して……、
なんかおかしいなあの信号。」
「光ってるのは何色に見える?」
「目がおかしいのかしら、紫に見える。」
「はい、これ。」
色が変わる。
「青?緑?ニホンジン青も緑って言うよ。」
「十分、これは?」
「黄色に見えますね。」
「よし、今日は車に乗りましょう。
シミュレーターだけど。」
「脈絡が全然ない。
夢っぽくていいけど。」
奥の回廊に進みシミュレーターのある部屋に入る。
「はい、乗って。」
「リーフェは?」
「ここで見てるわ。」
「このシミュレーター、
クローズなシステムかと思ったらこんなオープンなこともできたのか。」
座席に乗り込む隣で椅子に腕をかけながら見ているリーフェ。
「して、始まったわけですが交通安全のシミュレーターみたいですね。」
「走ってごらん。」
前方左右後方を確認して走り出す。
ハンドルはまっすぐだ。
と、右折しろと矢印が出る。
停止して信号は青。
バスが前が詰まって停車したことを確認して右せ…
ガン!
「ピー、事故になりました。」
「嫌な予感したんだよなー。」
「何と当たったの?」
「リーフェ見えなかったの?」
「あの状況で何と当たるのよ。」
「今度は行かないでおきましょうか?」
「えぇ。」
同じ状況に陥るとどう考えても行きたくなるが
紙のようなバイクがバスと石垣のゼロ隙間をヌルーっと抜けていく。
「は?」
「懐かしい記憶だけどこれ再現して欲しくなかったなー。」
「現実的な事故じゃないじゃない。
なんのシミュレートをしてるのよこのポンコツ。」
「言うな言うな…。」
「こんな経験してたのね。」
「一応には。」
「変わった経験ばっかしてるわねぇ。」
「紫の信号ってなんだったんです?」
「青を緑っていうなら赤っぽい紫はなんていうかなって。」
「紫だね。」
「私には青に見えるし紫なのよねぇ。」
「リーフェってもともとヨーロッパの人でしょ?」
「そういうのはいいの。
虹彩の話はねぇ。
私、自分の目って好きじゃないのよね。」
「あら、綺麗な目をしてるのに。」
「あなた……、よしなさいって。
無意識に女性を褒めるの。」
「おっと、夢では出ちゃうな。」
「コントロールが効いてるのか効いてないのか……、ねぇ。」
「ん?」
「私を口説くとしたらどうやって口説く?」
「しませんけど、口説くとしたら、だよねぇ。
うーん、あなたと一緒に人生を歩かせてください?」
「そういう一言で完結するような口説き文句で動くと思う?」
「イリオスさんどうやって口説いたんだ。」
「政略結婚だったからね。」
「あ、そう……。」
「あなたらしく長ーく口上たれて求愛する?」
「頭回るかしら。」
「ふふ。」
「え?やるんですか?」
「いーえー?
あなたが奥さんにどう求愛したかのも知ってるし。」
「恥ずかしい記憶を知ってますね。」
「あれなら私も納得の上で応じそうだけど。」
「リーフェが?まっさかぁ。」
「私の事なんだと思ってるのよ。
言ってみたらあなたの現身ですらあるのに。」
「でももう個として確立してると思うんだよなー。」
「あなたの夢という大きな舞台から離れない限りはね。」
「ふむ。」
「口説いてみる?」
「やめとく。
現身なら自分の手の内、分かるんでしょ。」
「あ、そう来たか。
しょうがないわねぇ……。」
「どしたの、口説いてほしかったの?」
「女の子はいくつになっても乙女。」
「否定はしないけども。」
「けども?」
「リーフェって4桁歳でしょ。」
「あ、権利ないって言うんだ?」
「そうじゃなくて。」
「なによー。」
「41年しか生きてない青二才に
生き字引、賢者みたいな人に響く言葉がないかと。」
「……面白いこと言うわね。」
「あれ?響いたの?」
「こう言いましょうか。
私はあなたが好き。」
「僕も好きですよ。
幼少期に一番つらい時期を救っていただきましたし。
ただラブでなくてライクですけどもね。」
「あはは、私にはイリオスがいるからねぇ。」
「僕にだって妻がいますよ。」
「仮に、私が独り身であなたが本当に夢に生きる気をしたら?」
「……死んでるんじゃないですかね。
リーフェにそこまで依存した可能性は高いかな。」
「バカおっしゃい。
あなた、人に何かするの昔っから好きだったでしょ?」
「そうですね。」
「奥さんに色々何かするのも好きだし、
甘えてもいるでしょ。
わたしはそういう関係はちょっとね。
引っ張る方が好きだったから。」
「僕引っ張ってます?」
「あなたを中心に回すと環境が回るわね。
いいサイクルだと思うわよ。
人が寄る才能ってのは生まれ持ち。
……あなたの場合は生まれ持ちが努力した劇症型だけど。」
「ヤラカシもそこそこに多いんですけどね。」
「あのねぇ、潔癖几帳面も大概にしなさい。
全部先読みして綺麗に歩けるほど人生うまく回らないの。」
「思い出してつらいんですよね。
何回頭を振ってもひょこひょこついてくる。」
「まぁ一般的には考えるな、忘れろと言うでしょうね。」
「ほらー。」
「私は、あえてそうは言わないわ。」
「あら、新説。」
「思い出すものはしょうがない。
やるなったって何かのきっかけで思い出すのよ。
私だってヤラカシ、失敗なんてたくさんあるわ。
それこそ人の命を落とさせたものすらある。
そんな私をみて綺麗に人生を歩けると思う?」
「そっか、エルバンタール。」
「それも、そうかな。
アストテイルも死んだ、国民も両親も亡くした。
あなたが見た世界線での私はそうね。」
「あれ?リーフェの世界線なら順風満帆に行ったんだよね?」
「そのパラレルを知っている以上、ヤラカシ。
フラッシュバックするに決まってる。」
「……なんか、ごめん。」
「なら思い出してもいいから、次に繋げなさい。
次に失敗するなって意味でもないわ。
その次で失敗しなければね。
精神が安定しないから長生きは出来ないでしょうけど、
過去は固まるのよ。
先の道一寸は闇だけど、過去は明るくも暗くも確定道路。
道は時間が進む限り流れるのよ。
生きなさい。
まだ41じゃない。
私みたいに年取ると数えるのめんどくさくなるから。」
「あはは、ありがとう。」
「いぃえぇ。」
「リーフェって生きるの嫌になったことあるの?」
「今はないけど、少し過去に戻るならそこそこにはね。」
「リーフェであるならそういうもんって思えるんだよね。」
「死なないのもまぁ退屈ね。
暇だと嫌なこと思い出すし。」
「あ、わかるぅ。」
「あなたも苦労してるわね。」
「そうかい?」
「過去を振り切れないのはなかなかね。」
「リーフェ、退屈してる?」
「何よ急に。」
「嫌なこと考えるって言ってたし。」
「じゃあ退屈させないくらいに来てちょうだい。」
「努力します……。」
部屋に太陽光が差してくる。
ゆっくり起きるのは久しぶりだな。
目が覚めたら真っ暗だったんですけどね……。
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