第4会 四月馬鹿
あれから色々あり、2021年になってから心境が大分落ち着いた感がある。
無論、流行り病があるので気は抜けないが。
眠りにつくと深夜の畑で土を耕していた。
「ぜぇ、ぜぇ、何だこの夢。」
コントロールはちょっと出来ないらしい。
疲れているのだろうか。
明晰夢もまだまだ修練が必要だな。
「まぁ、こんな夢も見ているのね。」
「え?」
驚いて振り返るとそこにはリーフェと双葉に陽菜の姿が。
「あれ? 夢が混ぜこぜになってる。」
「違うわよー。」
「ん?」
「貴方の記憶の扉が開いて輝いていたから入ってみただけ。
…何で野良仕事してるの?」
「こういう未来もあったのかな……?
土いじりをした記憶はあるけど、こんな広い大地を一人で土を耕している記憶はない。」
「夢に見る夢じゃなくて、どちらかと言えば悪夢に近そうね。」
「あぁ、そういう。」
「パパ、今日何年何月何日だ?」
「え? 2021年4月1日だよ?
まぁ寝てるから正確には4月2日だとは思うけど。」
「えいぷりるふーるー!」
「リーフェ、エイプリルフールにしてはネタが込んでない?」
「私じゃないわよ、たまたま。
ほら、種を撒くわけじゃないんだから体を休めなさい。
現実世界にも響くわよ。
お茶にするから。」
指を鳴らすと現れるティーセット。
同時に双葉はチンチラに戻った。
当たり前のように肩に乗ってくる。
陽菜と言えば膝に乗せろというのでいつの日かのようにレジャーシートを召喚してリーフェと並んで座ることにした。
僕が座ると同時に陽菜も僕の真ん前に座る。
「えっへっへー。」
「陽菜、もうちょっと前に行ける?
紅茶が飲みにくい……。」
「えー。」
「モテる男はつらいわねえ。」
「自分の娘ですがな。」
「概念的にはね。」
「実際問題、女の子が生まれるって確定したわけじゃないんでしょ?」
「まぁ、そうだけど。」
「パラレルだもんねぇ、でも僕の人生の大動脈ってどんな流れしてるのか興味があるな。」
「毎日一日がその流れ。
何気ない事象を言葉にできればそれは形となる。
言霊ってやつかしらね。
……なかなかに苦労した人生なんじゃない?
半分近くなったけど、振り返ってみてどう?」
「甘えがある気がするな。」
「はぁ、ほんっと貴方って他人には優しいのに自分には厳しい。
奥さんともケンカした事、殆どないんでしょ?」
「ないねぇ。」
「ケンカが全くないのはそれはそれで問題だけど、話し合いだけで終わるのもある意味凄いわ。」
「相性よかったんじゃないかな。」
「パーパ! 陽菜はいつそっちに行けるの?」
「……ごめん、多分無理だ。」
「何でー? 子供、嫌いー?」
「育てられないのが一番大きいよ。
世の中の情勢が大きく変わってしまった。
例えば英語の義務化でしょ、プログラミングもそうじゃなかったかな。
親として何もしてあげられないことが多いんだよ。
自分が歩んだ道なのに生まれた子供は見守るだけ、宿題しろという親になるつもりはないけど、後は自分で何とかしてねってのはちょっと。
過保護とまではいかないけれど、放任する気もないんでね。」
「ふぅーん……、でも陽菜ならそんな世の中でもいいな。」
「え?」
「お父さんに、会いたい。」
「お母さん、身体が弱くてね。
無理をさせられないんだよ。
もし陽菜を産んだら命と引き換えちゃうかもしれない。
……それだけは、出来ないんだ。
ごめん。」
「余程奥さんのことが好きなのね。
子供相手に何真剣になってるのよ。」
「あっ……。」
「んー、じゃあ陽菜ここでお父さんを待ってる。
生まれられそうなら真っ先に行く!
夢には来てね?」
「そりゃあ、もちろん。」
用意されたクッキーを手に取って齧る。
ガリッ。
「ふがっ!? 何これ、硬っ!」
「あはははははっ!
私からのエイプリルフールよ!」
「これ、何?」
「石。」
「なんちゅーもん食わすんじゃい。
っていうか、エイプリルフールは午前までで午後は種明かし……。
そもそも今は日付も変わって深夜では。」
「あはははははっ!
ごめんさい、ちゃんと召喚してあるから汚れてはいないわ。
はい、種明かし。」
「問題はそこじゃない……。」
人差し指を立てるとくるりと指を回すように振るリーフェ。
キラキラしたものが舞ったかと思うと、可愛いお皿にクッキーが。
「今度は食べれるよね……?」
「二番煎じはつまらないでしょう?」
サクッ。
「あ、大丈夫だった。」
「ごめんなさいって。」
「陽菜にも食べさせてー。」
「はい。」
もぐもぐ。
「ありがとー。」
「食べながら喋らないところ、偉いね。」
「そこはリーフェお姉ちゃんに厳しく躾けられてるから……。」
「そうなんだ?」
「お茶会が台無しになるでしょう?
最低限のマナーくらいは仕込んであるわよ。」
「成程ね。」
「リーフェお姉ちゃん。」
「ん? なあに?」
「パパと魔法対戦とかやらないの?」
「貴女のお父さん、明晰夢の訓練性が半端ないのよ。
このままじゃ私の戦い方を奪われそうで怖いわ。
単純能力では私の方が上でしょうけど。
色んな意味で戦いたくない相手ではあるわね。」
「38歳にもなれば大分衰えていると思いますがね?」
「そうかしら?」
「やってみる?」
「……遠慮しておくわ。
舞台もよくないし。
ここいつもの草原じゃないでしょう?
貴方にとっても私にとっても最大限の力を発揮出来ないのよ。
ある種、ここも記憶にない夢のパラレルワールドだからね。」
「パラレルワールドで思い出したんだけど、僕が今のような状態にならない未来は有り得たの?」
「結果から言うと、有り得たわ。
でも、もっと不幸な未来しかなかった。
それこそ最悪の事象も含めてね。
貴方はそれらを全て押しのけて今の生活に落ち着いた。
……いいんじゃないかしらね。
それは貴方の知りうる知識を行使した結果。
38歳にもなれば色々億劫になるでしょうけど、貴方は冒険心をいい意味で忘れていない。
たまに危なっかしいところはあるけど、そこは奥さんが止めてくれてる。
相談出来る様になったのもいい関係になった証じゃないかしら。
すぐには話せなくても、ぽつりぽつりと貴方は話すようになったじゃない。
大躍進よ。」
「だといいんだけどな。」
「奥さんだって普段他人には言わないような事言ってくれるんでしょ?
それは貴方だって一緒。
あなた達夫婦を見ていると、ちょっと羨ましくなるわ。」
「あはは。」
周囲が明るくなってくる。
「あ、朝だ。
…おー、日の出が綺麗だな。」
「そのための夢の部屋だったのね。
どおりで何もないわけだわ。」
「じゃ、リーフェ、双葉に陽菜。
また明日。」
「またねー!」
「待ってるわ。」
目が覚めると朝6時だった。
ちょっと早く起きすぎたかな。
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