第25会 伝説と夢の繋がり
リーフェの部屋にまた来易くなった。
まぁ、精神的にはよろしくないんだけどまぁいいか。
「あれ?リーフェ、ミカエル様は?」
「ミカエル様も忙しい方だからね、いらっしゃらないわよ。
ここはかなり気に入って貰えたようだけど。」
「ほう、それはよかった。」
「主様ー!」
「わぁっ!?」
思いっきり後ろから抱き着かれて驚いた。
……エクスカリバーの概念体だ。
「あれ?エクスカリバー本体は?
まだ呼んでないような気が。」
「あぁ、それは私があれから帰ってないからだよー。」
「え?リーフェ本当に?」
「ちっとも帰らないのよ、主様を待つんだーってさ。」
「身体を休めないと持たないよ?」
「大丈夫ー、主様の夢の中は居やすいから。
何て言うかな、すっごく素直。
私みたいに捻てない。
これっていったらこれをくれる感じ。
下手をしたらこれと言ったらもっとをくれる環境。
剣にいるより快適かも。」
「えぇ……。」
「夢ってさ、異物が入ったら廃絶運動が起きるのに主様にはそれが無い。
受け入れてくれるの。
まぁ、私にちょっと奥さんの概念が入ってるからかもしれないけど……、
でもさ、今の私を見たら大体わかるでしょ。」
「あんまり妻っぽくないよね?」
「でしょ?
多分奥さんの概念は私の声と性格の反転化に使われたのかな?」
「エクスカリバーはそれでよかった?」
「あ、やさしーい。」
「真面目に聞いてるんだけど。」
「ちょっと性格は変わったかな?
でもそこを抜きにしても私はこれでいいかなー。
もっと私って暗かったからね。」
「その性格出せる?」
「主様にはしたくない。」
「えー。」
「仲がいいわね。
貴方もエクスカリバーに甘えてみたら?」
「しないと思って聞いてるでしょ、全く。」
「えー、主様は甘えてくれないのー?」
「妻らしいところがどこにもない。
普通に浮気夢になる。
悪いけど、エクスカリバーはエクスカリバー。」
「ふーん。
あ、そうそう。
双葉ちゃんと陽菜ちゃんって子に会ったよ。」
「おや?僕の知らないところで夢が進むこともあるんだね?
それも加味した夢かな?
よく分かんないけど。」
「娘さんなんだってね?
陽菜ちゃんがお姉さんで双葉ちゃんが妹さん。
でも概念的には双葉ちゃんの方が先に生まれてるって不思議。」
「んー、それはリーフェの使い魔だったからかな?
最近はあんまりないけど、チンチラだったのよね、あの子。」
「猫?」
「ウサギっぽいネズミの方。」
「ふーん。」
「ん?エクス生まれて数千年経ってるよね?
リーフェのこと知らないの?」
「貴方ねぇ、そもそも国が違うでしょうが。
エクスはヨーロッパアーサー王伝説の聖剣でしょ。
私はレナンダール……、とは言ってもヨーロッパ方面だけど位置は全然違うわ。」
「ギリシャ神話好きの自分っぽいですね。」
「まぁ、レナンダールなんて国は史実には残ってないけどね?」
「まぁ、夢ですし。」
「じゃあ私とエクスの関係性も分かるでしょう。」
「夢と伝説が繋がったら面白いと思わない?」
「次元が違いすぎるわ。」
「あらそう……。」
「あーるーじーさーまー。」
「なんだい?」
「双葉ちゃんと陽菜ちゃんだけどー。」
「あぁ、話の途中だった、ごめん。」
「いいよー、一緒にお風呂入ったんだけどさ。」
「随分仲がいいわね……。」
「陽菜ちゃんに始めは噛みつかれたんだけどー。」
「かぷっと?」
「そうじゃなくて、あんた誰よ?みたいな。」
「あぁ、比喩ね。」
「奥さんの概念体だって言ったら、ごめんなさい、ママーだって。」
「うへ。」
「嘘は言ってないよ?」
「そうねぇ。」
「主様も一緒にお風呂入ろー?」
「嫌な予感はしてた、断る。」
「リーフェさーん、主様ってこんなに頑固なのー?」
「貴女ね、この人がどういう人か分かってないみたいね。
明晰夢練達者よ。
ちょっとやそっとじゃ動かないわよ。
下手をしたら夢をやり直す事すらできるんだから無理よ。」
「えー。」
「えー、じゃありません。
いい年した女性がはしたないよ、エクス。」
「私まだ7歳くらいだよー?」
「え?エクスって何年生まれ?」
「歳ならリーフェさんよりちょっと下くらい。
でも生きている時間が短かったから、精神は7歳くらい。
概念でいる時間が長くて考えることが出来なかったの。」
「ふむ、何とかならないだろうか。」
「よしてよ、もう一回過去改変なんてしたらミカエル様に怒られるじゃ済まないわよ?」
「要は、アーサー王がエクスを折らなければいいんでしょ?」
「あのねぇ、簡単に言うけど伝説を弄るのよ?
貴方の夢だからある程度は容認されるかもしれないけれど、アーサー王に何て言うのよ。
折らないでって?
エクスカリバーが折れなかったらここにエクスは居なくなるわよ?」
「まぁ、そうだね。」
「え!?主様と離れるの!?嫌!」
「でも本来ある記憶が……。」
「いらない。
私は確かに幼いかもしれない。
でもそれで不便に感じることは多分主様が補完してくれる。
陽菜ちゃんが言ってたよ。
主様がどんなに凄い人か。」
「そんなに凄いとは思わないんだけど……。」
「リーフェさんも言ってた。
明晰夢だっけ、の練達者にして現世界転生者。
この世で主様以上の明晰夢の使い手はいないって。」
「へ?」
「あ、こらエクスカリバー。
言うなって言ったのに!」
「えっへっへー、ごめんなさぁい。」
「もう。」
意外だ。
リーフェがそんな風に思ってくれていたなんて。
きゃるるんとしてるけどエクスカリバーも結構策士だな。
「リーフェ、お茶用意しようか。」
「ん?あぁ、私が用意するわ。」
ひゅーっと茶器が奥から飛んで来る。
トポトポとマリアージュフレールのポンムが手も触れずに注がれる。
「ふぇー……、リーフェさんって何でも出来るんだねぇ。」
エクスが珍しそうにゆらゆら揺れながら眺めている。
「貴女みたいな人も珍しいわよ、エクスカリバー。」
「そーお?」
「貴女体躯は20歳くらいだけど、7歳の精神年齢って言ったわね?
いくらエクスカリバーとはいえ7歳には見えないわねぇ。」
「それは、主様のせい?」
「あー……、シュライザルが絡むなら可能性は無限大ね。
明晰夢があるから。」
「自分の意識しないところで作用してるのかな?
エクスが夢で活動しているみたいに。
あれ、その理論だとリーフェもそうなの?」
「ん?まぁそうねぇ。
フルーツインストラクトの時なんてまさにそれよね?
それを言ったら双葉と陽菜が貴方のいない間に神様にお願いに行った事もあったでしょう?」
「あ、そうか。」
「かみさま?」
「陽菜と双葉が21の銀河世界の中の伝説の双剣なんだ。
ブラムスとノーチェスって言うんだけどね。
剣としては双葉と陽菜が最強だけど、呪われてて。
まぁ、その呪いも僕にしか向かないんだけどもエクスの方が振りやすいんじゃないかってミカエル様が仰っててさ。」
「あれ、ブラムスとノーチェス?知ってるよ?」
「え?エクスが知ってるとは、どういう事?」
「エクス程の格の高い剣になれば中身が知っていてもおかしくないわ。
最も、エクスを召喚出来る練達者であることが前提だけど。」
「ブラムスもノーチェスも僕の夢だよ?
伝説上のエクスが知れる?」
「ま、それこそ伝説と夢の繋がりなんでしょうね。」
「面白いなー、エクスは僕召喚出来ないんじゃない?
エクスから出て来てくれたじゃない。」
「んー?主様が呼んでも私が嫌がったら出ないよ?
主様は優しさで私を召喚出来るのだ!」
「あ、そうなのね……。」
ゆらゆら揺れていたエクスがバランスを崩す。
「いだっ!」
「どうしたの?」
「っちゃー、足挫いたぁ。」
「剣に帰るかい?」
「嫌。」
「あんまり放っておくと剣が錆びちゃうよ。」
「じゃあ主様を宿主にする。」
「えぇ……。」
「主様ー、おんぶしてー。」
「どこ行けばいいの。」
「どこか。」
「どこよ。」
「私の部屋で寝かせたらいいわ、私あんまり部屋使わないし。」
「そうもいかない、リーフェ倒れたことあったでしょ。」
「まぁ……。」
やるか。
キィィン。
いつやってもこの耳鳴りは慣れないな。
「あ!こら、明晰夢を使うな!」
ぐにゃりと空間が広がり、部屋が1つ増える。
「はやや、主様すごーい。」
「……もう、どれだけ身体に負荷がかかると思ってるのよ。
今あるもので何とかしようと思わないの?」
「リーフェの事もエクスの事も考えたらこうなるの。」
「あれ?主様、脂汗……。」
「エクス、分かった?
自分の夢を好きにいじられる代わりに身体にバカみたいな負担がかかるのよ。
昔っからこういう癖が治らないのよね……。」
「リーフェの部屋だってこうして作ったでしょ。」
「まぁねぇ。」
ひょいっとエクスをおんぶする。
「わぁ!?」
「きゃっ。」
バランスを崩しそうになる自分。
「エクス軽すぎない!?羽みたいだよ!?」
「概念体だからかなぁ、分かんない。」
「まぁいいか。」
気にせず部屋まで連れて行って何もかもが新しい空間の中のベッドにエクスを座らせる。
「……あるじさまー。」
「どうしたの、猫なで声何て出して。」
「お背中大きいねー。」
「そう?割に体躯は貧弱だと思ってるんだけどね?」
「男の人だなーって思うー。」
「そうかそうか。」
挫いて腫れた足に湿布を貼る。
今思ったが聖剣の治療ってこれでは間違っているのではなかろうか?
「あー、きーもーちーいーいー。」
「僕の魔力を剣に送った方がよくない?」
「そんなの嫌ー。」
「随分とまぁ、人間らしいこと。」
「あるじさまー、だっこー。」
「どっちが主様か分かったもんじゃない、寝なさい。」
「えー。」
「また来るから。」
「もう帰っちゃうの!?」
「いつまでも寝てらんないよ。」
「うぅー……、早く来てね……?」
「ほい、大人しく寝てるんだよ?」
「はぁーい……。」
大人しくベッドに横になったエクスを確認し、部屋を出ようと立ち上がってく背中を向けると……
「ひっく、ひっく。」
「痛む?」
「寂しい。」
「仕方が無い子だなぁ。」
ベッド脇に椅子を持って来て座る。
「えーへーへー。」
ニコニコしているエクスカリバーを見て不思議な気持ちになる。
「どしたの?」
「いや、何も。」
子供が居たらこんな気持ちになるのかな。
少し考えたけど、有り得ないとも思ったそんな夜明け。
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