↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/66

第21会 レナンダール家の栄衰 其の参

 栄枯盛衰《えいこせいすい》。

 

 よく聞《き》く言葉《ことば》だ。

 

 繁栄《はんえい》するものはいずれは衰退《すいたい》する。

 

 レナンダール家《け》もその法則《ほうそく》には抗《あらが》えなかったようだった。

 

 次《つぎ》に僕《ぼく》が来《き》た時《とき》には国《くに》は滅亡寸前《めつぼうすんぜん》の状況《じょうきょう》であった。

 

 「なっ……、あの短期間《たんきかん》で何《なに》が……!?」

 

 「シュライザル様《さま》……。」

 

 倒《たお》れている兵士《へいし》を抱《だ》き起《お》こす。

 

 「何《なに》があった!?

 こんな短期間《たんきかん》でここまで防衛線《ぼうえいせん》が崩《くず》されるなんて!」

 

 「海《うみ》から突然大《とつぜんおお》きな船《ふね》が……、見《み》たこともない武器《ぶき》でこの国《くに》を……うっ。」

 

 「も、もういい、話《はな》さないで。

 命《いのち》に障《さわ》る……。」

 

 「私《わたし》より……エシェンディア様《さま》が……。

 貴方《あなた》をお待《ま》ちです……。」

 

 「エシェンディア……!」

 

 王間《おうま》まで駆《か》けていく。

 

 不躾《ぶしつけ》にノックもせずに入《はい》ると完全《かんぜん》に王間《おうま》は荒《あら》らされている状況《じょうきょう》だった。

 

 「な、なんという……!

 一日《いちにち》だぞ……!

 たった一日《いちにち》で僕《ぼく》が夢《ゆめ》を壊《こわ》したのか……!?」

 

 「シュライザル様《さま》……。」

 

 「っ!

 エシェンディア!」

 

 王座《おうざ》にもたれかかるようにかけているエシェンディアを見《み》つけすぐさま駆《か》け寄《よ》る。

 

 「何《なに》があった!?

 こんな……、あぁ……、血《ち》まみれじゃないか……。」

 

 「アストテイルは……命《いのち》を落《お》としました。

 私《わたし》も……この国《くに》ももう長《なが》くないでしょう。」

 

 「そんな……!

 嫌《いや》だ!

 やっと知《し》り合《あ》えたのに!

 38のおっさんがだよ!?

 こんな未来《みらい》ある若《わか》い子《こ》を見送《みおく》るなんて……!」

 

 「……大丈夫《だいじょうぶ》です。

 私《わたくし》たちは、また出会《であ》えます。」

 

 「何《なん》で!?」

 

 「リーフェ様《さま》が……、私《わたくし》ですから。

 あと2000年程待《ねんほどま》つだけです。」

 

 「~~~~っ。」

 

 脂汗《あぶらあせ》を流《なが》しながら微笑《ほほえ》む血《ち》まみれのその表情《ひょうじょう》に悲《かな》しみがこみ上《あ》げる。

 

 落《お》ちかけた夕日《ゆうひ》が照《て》らすその表情《ひょうじょう》は胸《むね》を切《き》り刻《きざ》まれる思《おも》いだった。

 

 「……敵国《てきこく》は?」

 

 「去《さ》って行《ゆ》きました。

 この国《くに》の財《ざい》も民《たみ》も全《すべ》て奪《うば》われました。」

 

 「……何《なん》と名乗《なの》ってた?」

 

 「……エルバンタール、そう名乗《なの》っていました。」

 

 「……属国《ぞくこく》になる気《き》はなく、抵抗《ていこう》したんですね?」

 

 「私《わたくし》は……誤《あやま》った選択《せんたく》をしたのでしょうか。

 民《たみ》を思《おも》いやったつもりでしたが、敗戦《はいせん》してしまえばこの有様《ありさま》です。

 私《わたくし》は……かはっ!」

 

 「エシェンディア!」

 

 血《ち》を吐《は》くエシェンディア。

 

 もう長《なが》くない。

 

 明晰夢《めいせきむ》を使《つか》うか?

 

 でも彼女《かのじょ》が望《のぞ》むだろうか?

 

 「ひとつ、聞《き》きたい。」

 

 「……何《なん》なりと。」

 

 「エシェンディア姫一人《ひめひとり》でも生《い》きていく気《き》はあるかい?」

 

 「私《わたし》はここで果《は》てる運命《うんめい》なのです……。

 民《たみ》を逝《い》かせておきながら自分《じぶん》だけのうのうと生《い》きるなど、民《たみ》に顔向《かおむ》けできません……。」

 

 「顔向《かおむ》けなんてどうだっていいんだよ。

 君《きみ》はどうしたい?

 エシェンディア・レナンダールではなく、一人《ひとり》の人間《にんげん》として。

 僕《ぼく》には君《きみ》を救《すく》うことが出来《でき》る。」

 

 「お父上《ちちうえ》や母上《ははうえ》と同《おな》じです……。

 ここで……死《し》なせてはいただけませんか。」

 

 やはり、彼女《かのじょ》は明晰夢《めいせきむ》による延命《えんめい》を望《のぞ》まなかった。

 

 こうなれば彼女《かのじょ》も一歩《いっぽ》も引《ひ》かないだろう。

 

 レナンダール家王女《けおうじょ》としての高貴《こうき》なる戦死《せんし》を選《えら》んだのだ。

 

 「ただ……。」

 

 「何《なに》!?

 何《なに》かできる!?」

 

 「逝《い》くときはやっぱり淋《さみ》しいので、抱《だ》いていて下《くだ》さいませんか……。」

 

 「……わかった。」

 

 王座《おうざ》からゆっくり彼女《かのじょ》を降《お》ろすと、包《つつ》み込《こ》むように腕《うで》で抱《だ》きかかえる。

 

 「あぁ……、温《あたた》かい。

 貴方《あなた》と出会《であ》えてよかった。

 2000年《ねん》は長《なが》いでしょうけど、貴方様《あなたさま》にとってはきっと一瞬《いっしゅん》なのでしょうね……。

 早《はや》くお会《あ》いしたいです……。

 短《みじか》い間《あいだ》ではありましたが、楽《たの》しかっ……」

 

 「……エシェンディア?」

 

 「――……。」

 

 「うぅぅ……、ちくしょおおおおおお!」

 

 まだ温《ぬく》もりの残《のこ》るたった今零《いまこぼ》れ落《お》ちた命《いのち》を横《よこ》たえる。

 

 「エルバンタール……、この代償《だいしょう》は高《たか》くつくぞ……!」

 

 相当《そうとう》な部隊数《ぶたいすう》だったのだろう、足跡《あしあと》が大量《たいりょう》に残《のこ》されている。

 

 「船《ふね》だろうが何《なん》だろうが逃《に》げられると思《おも》うな……!」

 

 出航場所《しゅっこうばしょ》を発見《はっけん》。

 

 「星空《ほしぞら》のローブ……、今回《こんかい》は私怨《しえん》だ。

 力《ちから》を貸《か》してくれなくてもいい。

 でももし……、

 もしも力《ちから》を貸《か》してくれるのならエルバンタールのいる船《ふね》へ僕《ぼく》を導《みちび》いてくれ!」

 

 フワリと浮《う》かぶ身体《からだ》。

 

 「ありがとう、星空《ほしぞら》のローブ……。」

 

 




 船《ふね》はあっという間《ま》に見《み》つかった。

 

 船頭《せんどう》に着地《ちゃくち》する自分《じぶん》。

 

 「むっ!?

 侵入者《しんにゅうしゃ》だぞ!

 皆《みな》、武器《ぶき》をとれ!」

 

 「……エルバンタールか?」

 

 コツコツと足音《あしおと》を立《た》てて歩《あゆ》みを進《すす》める。

 

 「そうだ!

 貴様《きさま》はどこの者《もの》だ、名《な》を名乗《なの》れ!」

 

 「レナンダール家《け》の生《い》き残《のこ》りだ。」

 

 「何《なに》?

 あの反抗的《はんこうてき》な国《くに》にまだ生《い》き残《のこ》りが居《い》たのか。

 ちょうどいい、退屈《たいくつ》してたところだ。

 その細首《ほそくび》ひと思《おも》いにはねて……」

 

 「……煩《うるさ》い!」

 

 右手拳《みぎてこぶし》を思《おも》いきり振《ふ》り抜《ぬ》くと敵兵《てきへい》は海《うみ》へ派手《はで》にバッシャーン!と落《お》ちる。

 

 「強敵《きょうてき》だぞ!

 皆《みな》、一斉《いっせい》にかかれぇ!」

 

 「ばーか。」

 

 鉄製《てつせい》の足元《あしもと》の甲板《かんぱん》がバキバキ割《わ》れていく。

 

 「なっ!?」

 

 「よくもレナンダール家《け》を滅《ほろ》ぼしたな……!

 よくもエシェンディアを殺《ころ》したな……!

 幼《おさな》いアストテイルまで……!」

 

 「た、隊長《たいちょう》!

 彼奴《きゃつ》の魔力値《まりょくち》が計測《けいそく》できません!」

 

 「ば、馬鹿《ばか》な!?

 あんな小国《しょうこく》にこんな魔王《まおう》クラスの魔術使《まじゅつつか》いがいてたまるか!」

 

 「テレス・レイ。」

 

 周囲一帯《しゅういいったい》が真昼《まひる》のように明《あか》るくなる。

 

 ドーン!と派手《はで》な音《おと》がしたかと思《おも》ったら船《ふね》が傾《かたむ》き始《はじ》めた。

 

 「な、何《なに》が起《お》きた!?」

 

 「ど、動力室《どうりょくしつ》が吹《ふ》き飛《と》んでいます!

 このままでは船《ふね》は沈没《ちんぼつ》してしまいます!

 すぐさま脱出《だっしゅつ》を……!」

 

 「何《なん》だと!?」

 

 「心配《しんぱい》いらないよ。

 全隻沈《ぜんせきしず》めてあげるから。」

 

 「は、ははは!

 何《なに》を言《お》うかと思《おも》えば!

 10は超《こ》えるこの艦隊《かんたい》を滅《ほろ》ぼすとでも?

 寝言《ねごと》は寝《ね》て」

 

 「テレス・レイ。」

 

 バシャーン!と音《おと》がして即座《そくざ》に一隻沈没《いっせきちんぼつ》。

 

 「え……。」

 

 「ある種魔王《しゅまおう》かもなぁ?

 レナンダール家《け》の感《かん》じた恐怖《きょうふ》をそっくりそのまま返《かえ》してやるよ!」

 

 「う、うわぁぁぁぁっ!」

 

 いつぞやの戦闘《せんとう》より早《はや》く事《こと》が済《す》んだ。

 

 空《そら》からビームを船《ふね》にめがけて打《う》つだけ。

 

 あっという間《ま》に艦隊《かんたい》は全滅《ぜんめつ》した。

 

 近隣《きんりん》を見回《みまわ》しても無人島《むじんとう》すら無《な》い。

 

 真《しん》の意味《いみ》で全滅《ぜんめつ》だ。

 

 



 また、レナンダール家《け》の王間《おうま》に帰《かえ》って来《き》た。

 

 出来《でき》ることなら救《すく》いたかった。

 

 でも彼女《かのじょ》が望《のぞ》まなかった。

 

 その彼女《かのじょ》の望《のぞ》むようにしたかった。

 

 それがこの結果《けっか》だ。

 

 周囲《しゅうい》はすでに真《ま》っ暗《くら》だった。

 

 ランプを探《さが》し、火《ひ》を灯《とも》す。

 

 ゆらゆらとエシェンディアの顔《かお》が映《うつ》し出《だ》される。

 

 冷《つめ》たくなった頬《ほほ》を撫《な》でる。

 

 「仇《かたき》は取《と》って来《き》たよ……。」

 

 それくらいしか、出来《でき》なかった。

 

 明晰夢《めいせきむ》を使《つか》うことが許《ゆる》されない時《とき》がある、それを思《おも》い知《し》らされた辛《つら》い現実《げんじつ》。

 

 この時代《じだい》では珍《めずら》しいであろう、火葬《かそう》にてエシェンディアを葬《ほうむ》った。

 

 この国《くに》は本当《ほんとう》に豊《ゆた》かで大工道具《だいくどうぐ》も揃《そろ》っていたから棺桶《かんおけ》を作《つく》るのにも手間《てま》はかからなかった。

 

 ただ、慣《な》れていないせいで時間《じかん》はかかったが。

 

 棺《ひつぎ》を明晰夢《めいせきむ》で出《だ》してもよかったが、それでは意味《いみ》がない。

 

 人《ひと》の命《いのち》を送《おく》り出《だ》すのだから―。

 

 灰塵《はいじん》と化《か》した彼女《かのじょ》を葬《ほおむ》り、石碑《せきひ》を立《た》てる。

 

 ”エシェンディア・レナンダール ここに眠《ねむ》る”

 

 僕《ぼく》はレフトインピースなんて格好《かっこう》のいい言葉《ことば》はその時《とき》には思《おも》いつかなかった。

 

 葬式《そうしき》なんて自分《じぶん》のためにやってるようなものなのかもしれない。

 

 だってこれ、日本式《にほんしき》だもの。

 

 隣《となり》にはアストテイル君《くん》もいる。

 

 淋《さみ》しくないといいけど。

 

 全《すべ》てが終《お》わり自分《じぶん》の無力《むりょく》さに打《う》ちひしがれていると、バツン!と夢《ゆめ》が途切《とぎ》れた。

 

 「はっ!」

 

 「……満足《まんぞく》した?」

 

 「リー……、」

 

 名前《なまえ》を言《い》いかけて口《くち》をつぐむ僕《ぼく》を見《み》て彼女《かのじょ》は悪戯《いたずら》っぽく笑《わら》う。

 

 「エシェンディアって言《い》いたい?」

 

 「今《いま》は、なんとも。」

 

 「葛藤《かっとう》しているのね。

 まさかエルバンタール艦隊《かんたい》を滅《ほろ》ぼしていたとは思《おも》わなかったわ。」

 

 「歴史改変《れきしかいへん》して、ごめん。」

 

 「ううん。

 どちらにせよ貴方《あなた》には深《ふか》い傷《きず》を負《お》わせることになる結果《けっか》になっていたのよ。

 ……ごめんなさいね。」

 

 「とんでもない。」

 

 血《ち》マメだらけの手《て》に気《き》づいた彼女《かのじょ》が駆《か》け寄《よ》る。

 

 「何《なに》このケガ……!

 すぐに治療《ちりょう》しないと……、化膿《かのう》してるじゃない!」

 

 「いいんだ。

 放《ほう》っておけば治《なお》る。

 僕《ぼく》には……、こうすることしか……出来《でき》なかったんだ……。

 無力《むりょく》な自分《じぶん》が悔《くや》しい。」

 

 「……。

 双葉《ふたば》に陽菜《ひな》は寝《ね》てるわ。

 ちょっと、私《わたし》の部屋《へや》に来《こ》ない?」

 

 「うん。」

 

 いつか通《とお》されたか、彼女《かのじょ》の部屋《へや》に通《とお》される。

 

 ふと、写真立《しゃしんた》てに目《め》が行《い》く。

 

 「あ……。」

 

 「気付《きづ》いた?」

 

 銀版写真《ぎんばんしゃしん》だ。

 

 相当古《そうとうふる》い。

 

 そこにはエシェンディアと僕《ぼく》の姿《すがた》が並《なら》んで映《うつ》っていた。

 

 写真《しゃしん》の中《なか》のエシェンディアははにかむ様《よう》に微笑《ほほえ》み、隣《となり》の僕《ぼく》は緊張《きんちょう》で固《かた》まっている。

 

 見《み》てすぐに分《わ》かった。

 

 恐《おそ》らくはこれを見《み》せるために、あえて目《め》につきやすいここに置《お》いたんだろう。

  

 「あ、あれ?

 時代《じだい》が合《あ》わない。

 銀版写真《ぎんばんしゃしん》って1800年代《ねんだい》だよね?」

 

 「ちょっと加工《かこう》してあるの。

 第一《だいいち》ここは貴方《あなた》の夢《ゆめ》なんだから何《なに》があっても不思議《ふしぎ》じゃないわ。」

 

 「そうか……。」

 

 「貴方《あなた》、ほんと昔《むかし》から変《か》わらないわね。」

 

 「……そう?

 でも、この2000年《ねん》は僕《ぼく》にとっては君《きみ》の言《い》う通《とお》り一瞬《いっしゅん》で……」

 

 「たしかに、そうかもしれないわね。

 でも、正解《せいかい》でもないわ。」

 

 「え?」

 

 「2000年《ねん》の間《あいだ》に歴史改変《れきしかいへん》がなかったと思《おも》う?

 貴方《あなた》がいない事実《じじつ》だって有《あ》り得《え》たのよ。

 でも、貴方《あなた》は生《う》まれてきてくれた。

 そして12歳《さい》の時《とき》、よく知《し》りもしない私《わたし》に助《たす》けを乞うて38歳《さい》になって逆《ぎゃく》に国《くに》を、私《わたし》を救《すく》ってくれた。

 私《わたし》はあの時《とき》に命《いのち》を落《お》としたことを後悔《こうかい》していないわ。

 ……貴方《あなた》には相当《そうとう》キてるみたいだけど。」

 

 「……明晰夢《めいせきむ》を使《つか》わせてくれないなんて、ずるいじゃないか。」

 

 「明晰夢自体《めいせきむじたい》がずるいのよ。

 あそこで私《わたし》が息《いき》を吹《ふ》き返《かえ》したらどうなっていたと思《おも》う?

 民《たみ》を失《うしな》った何《なに》もない国《くに》で。

 

 国《くに》の再建《さいけん》なんて夢物語《ゆめものがたり》よ。

 下剋上《げこくじょう》に敗《やぶ》れたのよ、私《わたし》の国《くに》は。

 守《まも》りのみに徹《てっ》したのが失策《しっさく》だったわね。

 攻《せ》めこそ最大《さいだい》の守《まも》り。

 前提条件《ぜんていじょうけん》が違《ちが》っていたのよ。」

 

 「違《ちが》う、違《ちが》うよ。

 エシェンディアはもっと広《ひろ》く大局《たいきょく》を見《み》ていた。

 相手《あいて》をも思《おも》いやっていた。

 その優《やさ》しさに付《つ》け込《こ》まれたから僕《ぼく》は怒《おこ》ったんだ。

 滅《ほろ》ぼしてやったんだ。

 でも、そんなことしてもエシェンディアは帰《かえ》ってこないのにね……。」

 

 「ここにいるじゃない。」

 

 「へ?」

 

 気《き》が付《つ》くと、12歳《さい》のリーフェではなく20歳《さい》のエシェンディアがそこにいた。

 

 「え? えぇ?」

 

 「貴方様《あなたさま》に綺麗《きれい》に埋葬《まいそう》されたから無事天《ぶじてん》に昇華《しょうか》されたんです。

 アストテイルはお役目《やくめ》を頂戴《ちょうだい》してますがまだまだ半人前《はんにんまえ》でしょう。

 でも、あの子《こ》も無事天《ぶじてん》に昇華《しょうか》されました。

 心《こころ》の籠《こも》った手厚《てあつ》い葬儀《そうぎ》のお陰《かげ》で。

 

 様式《ようしき》なんて如何様《いかよう》でもよいのです。

 葬儀《そうぎ》とは遺《のこ》された者《もの》が生《い》きるための道筋《みちすじ》。

 その手《て》を見《み》たらどのような気持《きも》ちで痛《いた》みに耐《た》えながら埋葬《まいそう》されたかがわかります。

 貴方《あなた》には感謝《かんしゃ》してもし切《き》れません。」

 

 「え? エシェンディア……?」

 

 するとスーッと背《せ》が縮《ちぢ》み12歳《さい》のリーフェに戻《もど》る。

 

 「というわけで、ありがとね。」

 

 「あはは……、あははははは。」

 

 泣《な》き笑《わら》い。

 

 なんだ、エシェンディアはそこにいるじゃないか。

 

 そうだ。

 

 僕《ぼく》は守《まも》れたんだ。

 

 命《いのち》は零《こぼ》してしまったけれど存在自体《そんざいじたい》は消《き》えていない。

 

 リーフェはエシェンディアなんだ。

 

 お役目《やくめ》を貰《もら》って僕《ぼく》に憑《と》りついているエシェンディア―。

 

 「ね、もう一度聞《いちどき》いていい?」

 

 「ん?」

 

 「今《いま》なら私《わたし》のことどう呼《よ》びたい?」

 

 「リーフェ。」

 

 「ありがと。」

 

 にこーっと微笑《ほほえ》むリーフェ。

 

 エシェンディアの人生《じんせい》は僕《ぼく》が見送《みおく》って来《き》た。

 

 だから、今《いま》の彼女《かのじょ》は僕《ぼく》が名前《なまえ》をあげた通《とお》りリーフェだ。

 

 出会《であ》った当初《とうしょ》に名前《なまえ》が無《な》かったのもそのせいだろう。

 

 それは変《か》わらない。

 

 これからも。

 

 「今日《きょう》は私《わたし》がお茶《ちゃ》を用意《ようい》するわ。」

 

 「お、そうですか?」

 

 「その……、お礼《れい》くらいさせなさいよ。」

 

 「いいのに。」

 

 「私《わたし》のために怒《おこ》ってくれる人《ひと》がいる。

 私《わたし》が死《し》するときに一人《ひとり》にせず泣《な》いてくれる人《ひと》がいる。

 痛《いた》みに耐《た》えながら埋葬《まいそう》してくれる人《ひと》がいる。

 それが純粋《じゅんすい》に嬉《うれ》しかった。

 

 私《わたし》にはもう随分前《ずいぶんまえ》からそれが”視《み》えて”いたけれど、貴方《あなた》が経験《けいけん》することで記憶《きおく》が呼《よ》び起《お》こされる。」

 

 「あ、それはつらいことを。」

 

 「いいのよ。

 それ以上《いじょう》に嬉《うれ》しかったし、仇《かたき》も取《と》ってくれたしさ。

 でもよかったの?

 敵兵《てきへい》にも家族《かぞく》はいるんじゃなかったっけ~?」

 

 悪戯《いたずら》っぽく笑《わら》うリーフェ。

 

 「その家族《かぞく》を奪《うば》われたんだよ。

 戦争《せんそう》ってこういう負《ふ》の連鎖《れんさ》だから無《な》くならないんだろうね。」

 

 「あら、貴方《あなた》ならこの連鎖《れんさ》を断《た》ち切《き》って見《み》せる!って言《い》うと思《おも》ってたのに。」

 

 「そこまで甘《あま》っちょろくないよ。

 世《よ》の中綺麗《なかきれい》ごとだけで出来《でき》てない。

 ヒトがヒトである以上争《いじょうあらそ》いは避《さ》けられないと思《おも》う。

 最《もっと》も、ヒト以上《いじょう》の存在《そんざい》が現《あらわ》れたら話《はなし》は変《か》わるだろうけどね。」

 

 「そうねぇ……。」


 ティーカップに注《そそ》がれたマリアージュ・フレールのポンムを口《くち》にする。

 

 「でも妙《みょう》ね。」

 

 「何《なに》が?」

 

 「20歳《さい》の私《わたし》、意外《いがい》に可愛《かわい》かったのに貴方《あなた》に手《て》を出《だ》されなかった。」

 

 「ぶはっ!

 今《いま》までの感動《かんどう》が全部台無《ぜんぶだいな》しだよ!

 僕《ぼく》は妻帯者《さいたいしゃ》だ!

 第一《だいいち》、38のおっさんが20歳《さい》の女《おんな》の子《こ》に手《て》を出《だ》すとかどうかしてる!」

 

 「うーん、お淑《しと》やかだったと思《おも》うんだけどなぁ、当時《とうじ》。」

 

 「そういう問題《もんだい》じゃなくて。」

 

 いつもの日常《にちじょう》が帰《かえ》ってきそうだった。

 

 おそらくレナンダール家《け》の夢《ゆめ》はもう見《み》ないだろう。

 

 だって、エシェンディアはすぐそこにいるのだから―。

Copyright(C)2023-大餅 おしるこ

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。