第16会 謎の夢と少女の夢
日が照りつける日に台車を手で漕いでお届け物をしている夢だった。
自分でも何でこんなことをしているのかはわからなかった。
ただ大金の入った袋を届けなければならない使命感には駆られていた。
途中、サモエド犬程もありそうなシーズー犬に追いかけられてしまい、大金の入った袋を落としてしまう。
逃げ込んだ先はどこかの家のお手洗い。
犬が追いかけてこないことを確認して出たら、ヤクザ。
これはまずい。
向こうさんは「何じゃワレェ!」言ってる。
そうだよね、不法侵入だもんね。
事情を話すと意外にもすんなり分かってもらえた。
ただ一言。
「あの犬は高かった筈じゃけんのぉ、逃がしたんなら相当額の弁償は覚悟せぇや。」
そう言われて屋敷を出た。
大金の入った袋を探しに戻ってみると、シーズー犬の飼い主の子供であろう子が泣いているではないか。
あぁ、これはまずいな。
声をかける僕。
「おじさんが逃がしちゃったんだ。
空飛べるから探してくるね。」
そう告げて。
しかし空から見てもあれほど大きかった犬は全くといっていいほど見当たらない。
半ば諦めかけて地上に降りると女性が声をかけてきた。
「日浅の社長さんがそれらしい犬を保護しているわよ。」
にっせんのしゃちょう?
しらんがな。
取り合えずにっせんの社長とやらを探してみる。
すると豆腐屋がシャッターを閉めそうな場面に出くわす。
看板には「日浅」の文字が。
「あ、あの!」
無意識に声を上げていた。
犬の事を話すと、
「あぁ、あのポメラニアン!」
「え?」
あんなに大きかった犬がポメラニアン?
どういうことか見せてもらったら、ヨーグルトの容器に収まるほど小さい犬がいるではないか。
怒ってて毛が逆立っていたとのこと。
それにしても小さすぎやしないか……。
社長にお礼を言い、犬を飼い主のもとに戻すべく飛翔する。
途中、お世話になったヤクザの屋敷から怒声が飛んでいる。
「この大金袋は誰のだい!?
早く名乗り出な!」
あ、僕のだ。
ここで落としたのか。
再びヤクザの屋敷に舞い降りて事情を説明すると、宛先も書いてあったのですぐに渡してもらえた。
犬を飼い主のもとに返す。
飼い主の子供は泣いて喜んでいた。
僕は終始謝っていたけれど。
で、例の大金袋は無事届けるべき人のところに届けられることが出来て無事終了。
……変な夢だ。
何でこんな夢を見るんだろう。
「貴方、疲れてるんじゃない?」
リーフェの部屋に行って開口一番彼女の言葉がそれだった。
「疲れる要因がないんですがね。
最近は早寝早起きだし。」
「精神的な話をしているのよ。」
「んー……。」
思い当たる節がない。
「エルダーフラワーのハーブティーでも飲んで落ち着いたらどう?」
「リーフェ、飲みたいの?」
「えぇ。」
「ほいほい。」
150mlの熱湯をティーカップに入れたティーバッグに注ぎ蓋をして蒸らすこと5分。
「どうぞ。」
「ありがと。」
そっと口を付けるリーフェ。
「うーん、美味しいわね。」
「リーフェ、紅茶以外も飲むんだね。
知らなかったよ。」
「あら、意外だった?」
「ちょっと。」
「ふふ。」
「そういえば妻がまたポケベルの夢を見たと。
ただ今度は連絡をするというよりは待ってる感じで存在を確認するために机の引き出しを引いていたそうだよ。」
「ふむ……。」
リーフェがティーカップを傾ける。
「それは貴方が悪い。」
「え?」
「貴方からの愛情を待っているのよ。
確認したいの。
大切なものだから、鍵付きの引き出しに閉まってる。
何気ない毎日かもしれないけど何か大切なことを見落としてないかしら?
ちょっと立ち止まって考えてみてはどう?」
「ふむ。」
「過去は変わらない、参考にしかならない。
それすらも怪しい。
でも未来は不確定であるが故に創ることが出来る。
これからの貴方の行動次第では夢が変化するかもしれないわよ?」
「了解。」
「夢といえばね、私も夢を見るの。」
「え? リーフェも夢を見るの?」
「見るわよ?」
「貴方に制服姿にされた夢なんだけどね?」
「そりゃすみませんな……。」
「責めているわけじゃないのよ。
ただ、その時に……男の人に乱暴される夢を見た。」
「っ。」
「気にしないで、夢だから。」
「気になるよ。
女性はそういう場面に出くわすと本能的に体が硬直する事があるって。」
「この私が一般人如きに手間取る筈がないでしょうが。」
「そうだけど。」
「……ま、気持ちは受け取っておくわ。
ありがと。」
「でも、どうしてそんな夢を?
やっぱり僕のせい?」
「違うわね。」
「何でそう言い切れるの?」
「貴方は理性が強すぎるくらい強い。
そんな事を望まないし、望んでも行動に絶対に起こさない。
第一、そういう事をしたって面白くないって思ってるから。」
「ま、まぁ……。」
「心が通じないと意味がないって思ってるでしょう?」
「そうだけど。」
「なら、貴方は関係ない。」
「じゃあ、どうして。」
「……案外、私の希望だったりしてね。」
「まさか。」
「だって私、そういう経験ないもの。」
「ん。」
「追求しない辺り、紳士よねぇ……。」
「そういうセンシティブなことって聞かない方がいいと思うんだけど。」
「私達ってそういう仲だったっけ?」
「親しき仲にも礼儀あり。」
「堅苦しいわねぇ。
子供はコウノトリが運んでくるわけじゃないことくらいわかっているでしょう?」
「やめなさい。」
「あはは。」
笑いながらリーフェはエルダーフラワーのハーブティーを飲み干す。
「何でリーフェの夢の話をしたの?
つらくない?」
「貴方ならどう見るかなって思って。」
「男性恐怖症。
男に近寄って欲しくない現れなんじゃないかって思うけど。」
「あら。
貴方だって男性じゃない。」
「寄ってほしくなければ来ませんよ?」
「それはちょっと退屈ねぇ。
困るわ。」
「外れ?」
「信頼の置ける人以外とは話したくないのよ、私。
だからそんな夢を見たんでしょうね。
結果的に言えば、当たり。」
「そっか。」
「あ、乱暴してって意味じゃないからね?」
「分かってるよ!」
「あははははっ!」
「もう、リーフェはいっつもそうやってからかうんだから……。」
「ごめんなさい、面白いからつい。」
「どんな冗談だよ、きついなぁ。
陽菜に双葉が居たら大変だよ?」
「まぁ、そうね。」
サァ……と、辺りが明るくなってくる。
「やれやれ、やっとお目覚めか。」
「あまり寝れてないようね、大丈夫?」
「まぁ、大丈夫でしょう。」
「あんまり適当にしてちゃだめよ?」
「はーい。」
こうして目が覚めた。
全く、なんてけしからん夢だ。
ぷんすこ。
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