第13会 大きなお屋敷での試練
今日の夢も暗い。
記憶には殆どない。
と言う事はリーフェの干渉が無いことも視野に入れなければならない。
大きなお屋敷のホールから始まった。
いつぞやの掃除していた屋敷の規模ではない。
もっと広い。
天井は見えない。
スピーカー等も無いらしく何をしていいか分からない。
取り合えず歩いてみる。
ガコン、と音がしたと思ったら上から岩が降ってきた。
いち早く察知した自分は明晰夢によって身体を透かし、落下する岩を透過。
自分と重なる様に大岩が落下する。
「……二刀の試練って結構過酷だな。」
その場を移動し、身体を元に戻す。
コツーン、コツーン。
すると今度は誰かがこちらへ歩み寄ってくる音がする。
……誰だ。
サァ、と光が差し込んだ時、目を疑った。
自分だ。
二刀を持っている。
嘘だろう?
こんな試練まで課されるのか。
相手が飛び出す。
こちらも二刀を召喚し、切り結ぶ。
しかし、相手には感情がないのか完全に押し負けている。
「陽菜と双葉をそんな扱い方をしていいと思ってるのか……!」
カンカン!と相手の攻撃を防ぎながら後方へとどんどん押しやられる。
剣聖と言われたリーフェの記憶も持っているらしく太刀筋が鋭い。
完全に数日前の自分だ。
遂に壁際まで追い詰められてしまった。
退路はない。
ノーチェスで胸を貫こうとする相手。
――陽菜、ごめん。
トン、と胸にノーチェスが突き立てられる。
「っ!?」
今まで表情を変えなかった相手が驚きの表情で自分の胸を見ている。
壁際に立っているのは、追い詰めていたはずの相手。
相手を貫いているのは僕自身。
刺される瞬間に位置を明晰夢で入れ替えたのだ。
「自分の別小説でも言っていることなんだけどね。
自分を超えられなくて成長は出来ないんだ。
ただ、陽菜と双葉を躊躇いなく振るう自分が怖かっただけだよ。」
シュワアアア……と泡になって消え始める相手。
「……ありがとう。」
「っ!」
相手が言葉を発した。
「……申し訳ない。」
僕の言葉に相手がニコリと笑うとそのまま相手は消え去ってしまった。
「これが神様の与えた試練なのか。
明晰夢がなければ敵わなかっただろうけど、明晰夢が無ければ不要な夢だったとも言えるかな。
陽菜と双葉には後で謝らないと。
……つらい夢だ。」
二刀を仕舞おうとすると、二刀は輝いてそのまま人の形を成す。
「あれ? 二人とも……。」
「リーフェお姉ちゃんが関与出来なくても召喚されたら、私達ならお父さんの夢に関与出来るよー!」
「無理しちゃって……。
夢を切断することだって出来たのにさ、パパってば……。」
「申し訳ない。
無作為に君達を振るいたくなかったんだ。
でも負けると心が壊れる。
ギリギリまで相手と交渉出来たらと思ったんだけど、無理だった。」
「お父さんが謝る必要はないんだよー。
私は戦うためじゃなくてお父さんを守るために居るんだよー。」
「守るため……。」
「攻撃することイコール暴力じゃないのよ。
守るための戦いがあったっていいじゃない。
パパならそれを一番よく知っている筈。
だって、私達以外の戦う夢だって見ているんだから。」
「そうか……、そうだったね。」
3人で部屋を出て、あるネームプレートのある部屋に辿り着いた。
「……フルーツインストラクト?
何だこの部屋。」
「パパの見る夢は謎が多いわね。」
「あっ! 果物がいっぱいあるー!」
「双葉、がっついちゃ危ないわよ。」
「だいじょーぶ、だいじょーぶ……、ってかたーい!
なにこれー!?」
「……硬い? どれどれ。」
どうやら食品サンプルのようだ。
「食品サンプルだね。
フルーツインストラクト……、直訳すると果物に指示をする。
一体何だ?」
「あ、お父さん! 林檎だけ食べれるー!」
「林檎だけ?」
「片っ端から食べてんじゃないわよ! バカ双葉!」
「えー。ふたば、バカじゃないもーん。」
「……林檎だけ。
パッと思いつくのは紅茶かな。
アップルティーだとすれば、指示するのはお茶菓子、クッキー……、お茶会だ。
となるとこれはリーフェからのメッセージ。
帰ってきなさい、かな。」
「あ、そうかも。」
「陽菜、双葉。
帰り方って分かる?」
「パパが夢を遮断すればいいんじゃないの?」
「ひなお姉ちゃん、簡単に言うけど夢の遮断って結構体力使うんだよー。
さっきの戦いでお父さんは思いのほか精神にダメージ受けてるー。
仮にも自分自身を死なせたわけだからー。
だから、他の方法を探してあげたいなー。」
「……成程ね、分かったわ。」
陽菜が右手を高く上げる。
その行動に双葉が慌てる。
「ひなお姉ちゃん、それやるの!?」
「これ以外に方法ない。」
「うー……。」
蚊帳の外な気分の自分は何が起きているのかよく分からない。
「パパ、ちょっと苦しいかもしれないけど我慢して。
夢の遮断よりはマシだと思うから。」
「分かった。」
「待ってひなお姉ちゃん、他に方法……!」
「くどい、周りを見てごらん。」
「まわり……?」
壁一面にヒビが入っている。
「あ……。」
「夢が崩壊しかかってる、納得してもらえた?」
「うー、分かったー……。」
パチン、と陽菜が指を鳴らすと周囲が渦を巻くようにぐにゃりと回る。
吐き気が酷い。
渦が逆回転したと思ったら、いつものリーフェの部屋に戻っていた。
しかし、当の本人が居ない。
「あれ? リーフェは?」
「実はさ……。」
「リーフェお姉ちゃんは……。」
「何かあったのか!?」
暗い表情の二人に慌てて問いかける。
「高熱出して寝込んでる。」
「40度くらいの……。」
「なんだって!?」
二人に案内して貰ってリーフェのいる部屋をノックする。
すると返事の代わりに向こうからノック音が返ってくる。
「入るよー。」
中に入ると文字通りリーフェが寝込んでいた。
「リーフェ!」
「ごめんなさい……、体調崩しちゃった……。」
「そんなのはいい!
どうしたら治る!?」
「パパが寝ればいいのよ。」
「へ?」
「お父さん、今日自分自身をやっつけちゃったでしょ?
精神的ダメージがリーフェお姉ちゃんに直撃しちゃったの。
リーフェお姉ちゃんはお父さんでもあるから……。」
「そんな……、僕はなんてことを……!」
「勘違いしないで……。
貴方が負けていたらもっと酷い事になってた。
私が消滅していたかもしれない。
この程度で済んだのよ。
……ありがとうね。」
「で、でも。」
「言う事は聞く、そう言ったわよね?」
「は、はい。」
「お紅茶の事、よく分かったわね。」
「フルーツインストラクトの事かい?」
「えぇ。」
「林檎だけ食べれるってのが引っかかってね。
僕、アップルティーしか飲めないから。
林檎に指示をするならお茶菓子のクッキー、お茶会だ。
なら、帰っておいでかな、って。」
「何回か失敗しちゃったけど、お紅茶とクッキーを用意してあるわ。
飲んでいって。」
「っ。」
テーブルにはいくつか転がっているティーカップがある。
テーブルクロスは茶色く染みている。
クッキーも同様、綺麗に入っているものもあれば、テーブルにバラバラ落ちているものもある。
「……無理をして。
いただきます。」
「……文句を言わないのね。
汚いのに。」
「何でさ、ありがたいよ。
片付けもやっておくね。」
「そこまでは……。」
「病人はゆっくりしてなさい。」
「……じゃあ、甘えることにするわ。」
いつものように美味しい紅茶とクッキーをいただくと、陽菜と双葉の3人で片づけをした。
それが終わる頃、リーフェの寝ている窓から明かりが差し込んでくる。
「よーし、間に合ったー!」
「……ありがとうね。」
「たまにはいいじゃない。」
「ふふふ。」
こうして目が覚めた。
時計を見ると午前3時。
寝る時間は早いけど起きるのも早すぎやしないかい?
何して過ごそうかなぁ……。
しかも寒い。
そんな底冷えする朝だった。
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