プロローグ
私は私が嫌いだ。
私は私の”声”が嫌いだ。
いつからだろう。
この部屋が暗闇に閉ざされたのは。
いつからだろう。
この部屋に液晶の光だけが灯るようになったのは。
いつからだろう。
この部屋に”単一的で心地いい”キーボードの音が鳴るようになったのは。
いつからだろう。
この部屋に...
”私の声が聞こえなくなったのは”。
”耳障りな”声は聞こえない。
頭の中に響かない。それだけで心地いい。
部屋の外からお母さんの声が聞こえる。
”安心できる”声。夕飯を置いておいてくれたみたい。
私は何も答えず、しばらくしてから部屋の外にご飯を取りに出た。
部屋の机にご飯の乗ったトレーを置き、”何も言わず”で両手を合わせてからご飯をほおばり始める。
ご飯を食べながらキーボードとマウスを操作し、MyTubeのブラウザを立ち上げ、とあるチャンネルをクリックする。
そのチャンネルは最近お気に入りのVtuber、St0rKs所属の花谷奏ちゃん、そのライブ配信を開いた。
「花民のみんな~、こんふら~。今日も奏の配信を見に来てくれてありがと~。今日はみんなに奏の歌を届けていこうと思うよ!」
”歌”という言葉を聞いて少し嫌なことを思い出してしまう。
だけれども、大好きな彼女の配信、その程度で見るのをやめるつもりはない。
所謂歌枠、奏ちゃんはリクエストされた歌や、事前に準備していた歌を歌っていく。
そんな奏ちゃんを見ていると、少し羨ましく感じる。
「「私も...歌ってみたいな...」」
小さな”二つの”声が頭に響き渡る。
慌てて両手で口を塞ぐ。
いつ以来だろう。
この”忌々しい”声を聴くのは。
私の声がこの世界に響いたのは。
そして、今後何度も聞くことになるなんてこの時は思いもしなかった。
「今日も見てくれてありがと~。最後に、今日はみんなにお知らせがあるよ♪」
他の休止中の作品もぼちぼち書き始めようと思います。