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スウィートカース(Ⅲ):二挺拳銃・染夜名琴の混沌蘇生  作者: 湯上 日澄(ゆがみ ひずみ)
第四話「戸口」
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「戸口」(10)

 どこまでも広がるお花畑。


 かぎりなく澄んだ青空、ゆっくり流れる白い雲。


 色とりどりの花の上で遊ぶのは、これも美しい無数の蝶だ。


 そよ風に髪を揺らしながら、ナコトは花の中にたたずんでいた。


 こんなきれいで切ない場所、世界中のどこを探してもあるわけない。わかっている。


 でも……


 ふと、ナコトは手をのばした。


 指が触れかけた寸前、蝶は弾かれたようにどこかへ遠ざかってしまう。まるで、透明な壁がそこにあるかのように。


 蝶たちのなまえはきっと〝幸福〟〝希望〟〝命〟……


 それに触れてはいけないことを、ナコトは知っている。蝶たちが、ナコト自身の魂と体を欲しがり、消化し尽くそうとしていることも。


 蝶とナコトの距離は、刻一刻と狭まっている。ナコトを守る大切な壁が、見覚えのあるだれかの残した〝現実〟が、薄くなっているのだ。


 それが完全に取り払われたとき、ナコトは完全に楽園の住人と化すのだろう。


 わたしはどうすれば……


 ひときわ強い風が吹き、ナコトは美しい花びらの嵐につつまれた。


 だれだろう。うつむいて立ち尽くすナコトを、遠く呼ぶ声がある。


「姉さん……ナコト! だめだ! そっちに行っちゃ!」


 まさか、スグハ?


 こっちに来てはいけない。


 おまえまで連れていってしまっては、父さんと母さんはきっと悲しむ。


 わたしを起こすな。


 目覚めたとき、わたしはおまえを撃たなければならない……

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