表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
スウィートカース(Ⅲ):二挺拳銃・染夜名琴の混沌蘇生  作者: 湯上 日澄(ゆがみ ひずみ)
第一話「魚影」
4/44

「魚影」(4)

 翌朝。


 美須賀大学付属高校の教室で、エドはぼんやり頬杖をついていた。


 結局、昨晩は一睡もできずじまいだ。ルリエの話はあまりに現実ばなれしすぎていて、ふつうの者なら一笑に付して終わりだろう。


 だが、実際に現場に立ち会ったエドからすればそうもいかない。事実のところどころに、ルリエの話を裏付ける説得力があるのだ。


 そして今日も、ルリエの語ったとおりのことが起ころうとしていた。


染夜名琴(しみやなこと)


 とつぜんの転入生は、チョークで黒板にそう書いて名乗り、無駄のない挨拶を教室の生徒たちに振る舞った。


 染夜名琴は、メガネをかけ、どこか神経質っぽい眼差しの、いかにも友達の少なそうな女子だ。


 メガネ?


 もちろんエドは、本日、その転入生がこのクラスへ落ち着くことを、あらかじめルリエから聞かされていた。名前はもとより、こまかな特徴までルリエの説明どおりだ。


 背筋に寒いものを感じながら、エドはひとりごちた。


「あれが……誘拐犯」


 やがて、担任にしめされ、染夜名琴は音もなく所定の席についた。おそろしいことに、エドの斜め後ろの席だ。


 まあ、これだけ人の多い場所なら、おかしなマネもできまい……エドがその考えの甘さを痛感したのは、次の瞬間だった。


「きのうはよくも邪魔してくれたなあ、クソガキ。あと一息だったのに」


 エドの顔面は蒼白になった。


 聞き間違えるはずもない。きのう、薄暗い路地裏で、狂気じみた発言を繰り返したあのキンキン声だ。


 だが、妙なことに、他のクラスメイトたちに変わった様子はない。これだけはっきりエドの耳には届いているのに、なぜだ?


 その答えも、やはりあの甲高い声が発した。


「けけけ。てめえの心に直接しゃべりかけてんだ……楽に死ねると思うなよ?」


 恐怖のあまり、エドは頭の中が真っ白になるのを感じた。


 さびついたロボットのように、ぎこちなく斜め後ろの席へ瞳を向ける。


 染夜名琴は、エドを見ていた。


 ナイフのような鋭い視線で。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ