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スウィートカース(Ⅲ):二挺拳銃・染夜名琴の混沌蘇生  作者: 湯上 日澄(ゆがみ ひずみ)
第四話「戸口」
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「戸口」(1)

 ひとけのない夜の山……


 山の中腹、上から下に闇をつらぬいたのは、ひとすじの光だ。


 強く収束されたその閃光は、しかしどこか悲しげな咆哮を残して夜空へ消えた。


 その〝発射地点〟……


 ああ、なにがあったのだろう。


 森の中、樹の幹にもたれかかって項垂れるのは、制服姿の女子学生だ。その制服はところどころが焼け焦げ、煙をあげている。


 なにかの衝撃に吹き飛ばされた?


 そうはいっても、ここは道路も人通りもない山奥だ。ダンプカーが、それも燃えながら走っているとはとても考えづらい。


 力を使い果たしたかのように、彼女は動かなかった。暗くてはっきりしないが、その足もと、呆れたつぶやきを漏らしたのは小さな影だ。


「たいした威力じゃねえか。いまの武器なら、当てさえすれば〝奴〟の鼻を明かすこともできる……当てさえすりゃ、な」


 野鳥のとびたつ羽ばたきに混じって、彼女は反応した。かすれた声で答える。


「絶対に外さない。仕留めてみせる」


「そう簡単にいくか? じぶんへの反動をみてみろ。毎日毎日の特訓、ごくろうさまと言いたいとこだが、この大砲の出力はまだ五割ってとこだ。なんでかって? フルパワーでこんなもの撃ちゃ、おまえの体は耐えきれず燃えカスになるかもしれねえからだ」


 うつむいた前髪の奥、彼女はかすかに鼻で笑ったようだった。


「はれて死人が火葬されるというわけか。ごく自然なことだ」


「おまえの復讐心はわかるが、いいか、よく肝に命じとけ。〝奴〟はきっと自分以外のだれかを盾にする。樋擦帆夏と同じように、大切なだれかに憑依しておまえの前に現れるかもしれねえ。そのとき動揺して、引き金をひく指を鈍らせるんじゃねえぞ……隙をみせたら、こんどこそ死ぬぜ、ナコト」


 木々を揺らす風の音だけが、沈黙に流れていた。


 すこしヒビのはいったメガネをくいと押し上げ、答えたのは彼女だ。


「撃てないほど大切なものなど、もうわたしには残されていない……そうだろう、テフ?」


「…………」


 消耗しきって重い体を、彼女はむりやり樹の幹から起こした。踵を返すと、そのまま森の闇へ静かに消えてゆく。


 その背後に広がる光景は、おお。


 高出力のなにかに、長距離にわたって上半身を消し飛ばされた木々たちだった。

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