「戸口」(1)
ひとけのない夜の山……
山の中腹、上から下に闇をつらぬいたのは、ひとすじの光だ。
強く収束されたその閃光は、しかしどこか悲しげな咆哮を残して夜空へ消えた。
その〝発射地点〟……
ああ、なにがあったのだろう。
森の中、樹の幹にもたれかかって項垂れるのは、制服姿の女子学生だ。その制服はところどころが焼け焦げ、煙をあげている。
なにかの衝撃に吹き飛ばされた?
そうはいっても、ここは道路も人通りもない山奥だ。ダンプカーが、それも燃えながら走っているとはとても考えづらい。
力を使い果たしたかのように、彼女は動かなかった。暗くてはっきりしないが、その足もと、呆れたつぶやきを漏らしたのは小さな影だ。
「たいした威力じゃねえか。いまの武器なら、当てさえすれば〝奴〟の鼻を明かすこともできる……当てさえすりゃ、な」
野鳥のとびたつ羽ばたきに混じって、彼女は反応した。かすれた声で答える。
「絶対に外さない。仕留めてみせる」
「そう簡単にいくか? じぶんへの反動をみてみろ。毎日毎日の特訓、ごくろうさまと言いたいとこだが、この大砲の出力はまだ五割ってとこだ。なんでかって? フルパワーでこんなもの撃ちゃ、おまえの体は耐えきれず燃えカスになるかもしれねえからだ」
うつむいた前髪の奥、彼女はかすかに鼻で笑ったようだった。
「はれて死人が火葬されるというわけか。ごく自然なことだ」
「おまえの復讐心はわかるが、いいか、よく肝に命じとけ。〝奴〟はきっと自分以外のだれかを盾にする。樋擦帆夏と同じように、大切なだれかに憑依しておまえの前に現れるかもしれねえ。そのとき動揺して、引き金をひく指を鈍らせるんじゃねえぞ……隙をみせたら、こんどこそ死ぬぜ、ナコト」
木々を揺らす風の音だけが、沈黙に流れていた。
すこしヒビのはいったメガネをくいと押し上げ、答えたのは彼女だ。
「撃てないほど大切なものなど、もうわたしには残されていない……そうだろう、テフ?」
「…………」
消耗しきって重い体を、彼女はむりやり樹の幹から起こした。踵を返すと、そのまま森の闇へ静かに消えてゆく。
その背後に広がる光景は、おお。
高出力のなにかに、長距離にわたって上半身を消し飛ばされた木々たちだった。




