みんな大好きです!【Cパート】
五月五日、こどもの日。
宮町中のグラウンドに専属の審判員団と共に白鳳学院中等部の野球部が現れた。
「こんな設備のないグラウンドの学校とやるなんて思わなかったな。」
主砲の景清がグラウンドを見渡してからこぼした。
「愚痴るなよ、景やん。
噂ではあの八幡といい勝負したらしいよ。」
双子の小野寺兄弟の兄、嗣信が景清を制した。
「本当かよ? 八幡と言えば、今年の埼玉の優勝候補だぞ?」
「本当の話だ、景清。
八幡の監督から直接聞いた話だから、まず間違いはないだろう。」
白鳳の監督、滝口が答えた。
「でも、八幡と試合、したかったですね。」
腰まで届くロングのストレートヘアの吉野が言った。
緑の黒髪が色白の肌をより引き立てている。
「確かにな。
しかし、早く気持ちを切り替えろ。
ここを叩けば八幡を叩いた事と同じだと思え。
――いいな!」
「はいっ!」
白鳳野球部は声を揃えて滝口の檄に応えた。
「この試合、先発を鷹ノ目、抑えを松浦でいく。
二人の調子次第では加藤、伊藤の投入もあるので両名はそのつもりでいろ。」
三浦がこの試合の投手について発表した。
「はいっ!」
直実、松浦、加藤、伊藤が声を揃えて応えた。
土肥の指がまだ完治しない上、八幡との試合で爪を割った松浦の先発はあり得なかった。
加藤、伊藤では白鳳を抑えるには正直荷が重い。
直実の先発は最悪の状況下で最善の選択であった。
「頼んだぞ、鷹ノ目。」
松浦が直実の右肩をポンと軽く叩いて言った。
「はいっ! 任せて下さい!」
(松浦さん―――たった一学年上だとは思えないくらい大人。
ピッチャーとしてのスキルもすごいけど、部長としてのスキルもすごい人。)
「白鳳だかハクチョウだか知らねぇが、ぶっ倒して来い!」
金森が握り拳を突き出し、でかい声で命じた。
「はいっ! ぶっ倒して来ます!」
直実も拳を握ると、金森の拳に軽くぶつけて答えた。
(金森さん―――ピンチの時、この人の豪快な一言が迷いを断ち切ってくれる。
『親分』という愛称がピッタリの頼れるすごい人。)
「全員を三振に取ろうと思わなくていいから。
バックを信頼してくれ。」
岡田がグローブを掲げながら言った。
「はいっ! 打たれたらよろしくお願いします!」
(岡田さん―――細かい所に気付く優しい人。
それでいて倒れそうな人の心を支えられる芯の強さも兼ね備えたすごい人。)
「得点の突破口は任せるっス!」
星野がガッツポーズを取って宣言する。
「おうっ! 頼むよ!」
(星野勝広―――ちょっと生意気だけど、小さい身体に大きな闘志を持ったすごい奴。)
「点を取られたらよ、必ず取り返してやるぜ。」
太刀川が自信たっぷりに言った。
「おあいにく様、一点も取らせるつもりはないよーだ!」
(太刀川‥‥さん―――最初は何てヤな奴と思ったけど、本当は友だち思いのいい奴。
現在んとこ、唯一、私の球をバットに当てたすごい人。)
「行って来い!」
三浦が腕を組んだまま力強く命じる。
「はいっ!」
(三浦先生―――私の能力を見抜き、わかり易い理論でコーチング出来るすごい人。)
「ナココ―――っ、頑張って~~!」
グラウンドの外から応援に駆けつけた明美が声の限りエールを送った。
「任せて!」
(アケ―――ちょっとお節介なとこがあるけど、明るくて優しい娘。
アケを嫌いな人、いないと思うよ。)
「先輩、スポーツドリンクが必要な時はいつでも言って下さい!」
希望が目を輝かせながら言った。
「ありがとう!」
(希望ちゃん―――自分の意見をハッキリ言える意志の強い娘。)
「よっしゃ! ほな、いこか!」
羽野がミットの捕球部分に拳を打ち付けて気合を入れた。
「羽野くん、緊張してる? 言葉、変わってるよ。」
「あ‥‥。」
(羽野くん―――私のタッグ・パートナー。
表面はおとなしいけど、実は内面に熱いものを秘めているファイター。
どんな局面でも逃げないすごい奴。)
「よ~し、いっちょ、いきますか!」
(そして私、鷹ノ目直実―――水瓶座の十三歳。必殺技『鉄腕ラリアット』!)
―――誰も完全無欠じゃないけれど、みんな大好きです!―――
第一部 完
第二部の構想はありますが、仕事の合間の作業となる関係上、いつアップ出来るかわかりません。
なので、この作品は一旦ここで完結とさせて頂きます。
機会がありましたら『鉄腕ラリアット・第二部』で再会しましょう。
ここまで読んで頂き、誠にありがとうございました。