みんな大好きです!【Aパート】
この作品は『エンターブレインえんため大賞(ファミ通文庫部門)』の最終選考まで残ったものを20余年の時を経てリライトしたものです。
尚、この章で第一部(1クール)は完結となります。
「五日って‥‥明後日に、ですか?」
松浦は余りにも急な話にコメントに困った。
「そうだ。
本来は八幡が引き受けるはずだったんだが、練習試合の予定がバッティングしてしまったらしい。
それで急遽、こっちに話が回って来たという訳だ。」
三浦が事の経緯を部員を前にして語った。
「それで、その相手って‥‥?」
岡田が少し緊張した声で三浦に質問した。
「仙台の名門私立中、白鳳学院だ。
昨年夏の大会では全国優勝している。
ゴールデンウィーク恒例の練習試合ツァーで、今年は関東にまで足を延ばしたらしい。」
「いい話じゃねぇか。
どうせ戦うんだったら、相手が強いに越したこたぁねぇぜ。」
太刀川がファイトを剥き出しにして言った。
「名門私立か‥‥金持ちのやる事はすげぇよな、遠征ツァーかよ。
修学旅行の積み立てやってる俺たちとは次元が違うぜ。」
金森がアゴを掻きながらつぶやいた。
「白鳳と言えば、中学で軟式最強の右打者と呼ばれる四番の景清光朗、鉄壁の二遊間を誇る嗣信、忠信の小野寺兄弟、そして女子投手の吉野静‥‥優勝の原動力となった戦力が揃って残っている。
特に吉野はまだ二年だ。
今年も東北地区代表の最右翼である事は間違いない。」
三浦は白鳳の中心選手を簡単に説明した。
「私の他にも女子選手いたんだ。
どんなピッチャーなの?」
直実が吉野の事について、隣りの羽野にたずねた。
「俺も良く知らないよ。
宮中は地区大会の代表にもなってないんだから全国大会の情報までは首が回らないって。」
羽野は正直に答えた。
「吉野静、通称マジカル・サブマリン。
七色の変化球を持つ、下手投げのピッチャーですよ。」
この手のデータには詳しい和田純平が直実と羽野に教えた。
「七色の変化球?」
羽野が『変化球』という言葉に反応して和田に聞き返した。
松浦のカーブを受け止めるのに四苦八苦している羽野は変化球に対し、ややナーバスになっていた。
「カーブ、シュート、シンカー、スライダー、縦割れのスライダー、ナックルです。」
「六種類しかないじゃない。」
和田の変化球名称を指折り数えていた直実が突っ込んだ。
「はい。最後の一つはですね、『スウィート・マジック』って言うらしいのですが‥‥まだ誰も見た事がないという謎の球なんです。」
「まさか魔球?」
「はっはっはっ、マンガやアニメじゃありませんから、それはないと思います。
もっとも自分からすれば、鷹ノ目さんの鉄腕ラリアットも充分過ぎるくらい魔球ですよ。」
和田が笑いながら答えた。
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