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鉄腕ラリアット  作者: 鳩野高嗣
第十一章 原石たちの輝き
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原石たちの輝き【Dパート】

「何だ? ずいぶん小せえのが出てきたな~。」


「去年は見てねえよな~。」


「ちょっと待て、あいつ‥‥女子じゃねぇか? 坊主頭じゃねぇし。」


 八幡(やはた)中の面々は松浦の後のマウンドに立つ直実(なをみ)に対して好き勝手な事を言っていた。

 当然、直実の耳にもそれは届いていた。


(こんのぉ~、みんなまとめてやっつけてやるかんね!)


鷹ノ目(たかのめ)さん、投球練習だよ!」


 直実は羽野(はの)の声でふと我に返った。

 どうやら審判が投球練習について指定をしたらしいのだが、八幡中のベンチからの雑音に気を取られていた為、聞こえていなかったようだ。


「OK!」


 直実は足元の軟球を拾い、まずは軽く鉄腕ラリアットを唸らせた。


 バス――――――ン!


 軟球がミットに納まった際に発したすさまじい音に八幡中の面々の言葉は消えた。


「速いな。おい、今、何キロ出ていた?」


 原島は脇で記録を取っている部員の中でスピードガンを担当していた者にたずねた。


「ひゃ‥‥百五十五キロです!」


「何だと!? 中学生女子のサイドスローだぞ!」


 驚愕する八幡中の野球部員をよそに直実は投球練習を続けた。


「プレイ!」


 八球の投球練習が済み試合が再開された。

 右のバッターボックスには九番打者の藤原が立つ。


「鉄腕ラリアット、行きます!」


 直実はそう宣言すると、大きく振りかぶる独特のモーションから第一球を放った。


 ズバ―――――――――――ン!!!


 藤原は絶句した。

 いや、八幡中の全員が絶句していた。

 試合を仕切る主審でさえも。


「あの‥‥判定をお願いします。」


「‥‥ス‥‥ストライーク!」


 羽野の催促に主審は慌てて判定をコールした。


「い、今のは何キロだ?」


 原島は再びたずねた。


「ひ、ひゃ‥‥ひゃ‥‥百六十四キロです!」


 相当興奮したのだろう、スピードガンを担当していた部員の声が裏返っていた。


「馬鹿な! メジャーにもそんなスピードボール投げる奴はおらんぞ!」


 原島は目の当たりにした光景を反射的に否定した。

 スピードガンの故障か、誤差という可能性も脳裏をよぎった。

 しかし、自分の見た未体験の球速は紛れもない現実であった。


「タイム。」


 藤原はタイムを要請すると掌に滲んだ汗をズボンで拭い、ゆっくりと構え直した。


(――ったく、世ン中‥‥広えな。)


 藤原の構えたのを確認した主審は試合再開のコールを告げた。

 直実の速球は続く二球目、三球目とも藤原にバットを振らせず三振に斬って落とした。


「やるな、炎のストッパー女。」


 マウンドから降りていく直実に藤原が声を掛けた。


「炎のストリッパー女~!? それ、どういう意味よ!?」


「た、鷹ノ目さん! 落ち着いて! 悪口じゃないって!」


 藤原に向かって歩き始めた直実を羽野が制した。


「はあ? ストリッパーのどこが悪口じゃないっての!?」


「ストリッパーじゃなくてストッパーだよ。説明は後でするから‥‥。」


 羽野は直実の手首をつかむと、唖然としている主審と藤原にペコペコ頭を下げながらベンチへ引き上げていった。

 羽野に引きずられながらも納得いかない直実は藤原に対して顔をしかめて舌を出した。


(こいつは‥‥。)


 原島の険しい表情が消えてうっすら笑みがこぼれた。

感想、評価、ブクマを付けてくださっている方々、本当にありがとうございます。

1990年という時代なので、ストライクとボールのコールの順番は現代(2023年)とは違っています。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 直実の快投が心地よいですね。 直実の無知っぷりも笑えました。
[良い点] ストリッパーって、笑えます!
[良い点] 164キロって大谷さんと同じくらい? 直実の怪物っぷりが爽快。
感想一覧
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