原石たちの輝き【Aパート】
この作品は『エンターブレインえんため大賞(ファミ通文庫部門)』の最終選考まで残ったものを20余年の時を経てリライトしたものです。
そして迎えた四月三十日。
練習試合の為、宮町中野球部員たちは八幡中のグラウンドに現れた。
前日の雨によるグラウンドのコンディションが心配されたが、八幡中の部員が整えたのだろう、試合には影響がない程度までになっていた。
「よお、いつもより二ヶ月早いじゃないか。
秘密兵器でも手に入れたか?」
八幡中の監督である原島幹也が三浦に語りかけた。
「秘密兵器は手に入れていませんが、原石は幾つか手に入れましたよ。」
三浦がにこやかに答えたのとは反対に原島の表情は急に厳しく変わった。
「いつも辛口のお前にしては珍しいな。
でもな、原石ならうちも負けちゃいないぞ。」
「メンバーは昨夜、原島先輩に電話で伝えたままでOKです。」
「おう、うちもOKだ。
‥‥ところで太刀川ってリトルシニアの太刀川か?」
原島は三浦が今年に限って四月中に練習試合を申し入れたのは太刀川の加入によるものだと確信していた。
「ええ。元リトルシニアの太刀川です。」
「元?」
三浦、原島両監督が親しそうに話している光景の脇では既に選手たちのウォーミングアップが始まっていた。
「あいつ、太刀川だよな。」
「間違いねぇ。
‥‥でも何で軟式の試合に?」
八幡中の面々が太刀川について物議を交わしている。
「太刀川って有名人なんだねえ‥‥。」
直実が屈伸運動をしながら羽野に話し掛けた。
「上級生を呼び捨てにしちゃマズいって。」
羽野が小声で直実を窘めた。
「え?
‥‥うん。それはわかってんだけどさぁ、今更『さん』付けすんのも何かねぇ‥‥。」
「それはそうと、今日は良く試合を観ておいて。
試合を観た方がルールは把握し易いから。」
「うん、わかった。
‥‥あ~あ、でも試合に出たかったなぁ‥‥。」
「鷹ノ目さんも俺も控えとして選ばれたんだから試合には出られる可能性はあるよ。」
前日の練習の終わりに三浦が選出したメンバーは以下の通りであった。
一番ショート:星野勝広(一年)三十メートルなら陸上部を凌ぐ俊足と華麗な守備がウリ。
二番セカンド:岡田獅子丸(三年)天才的な守備とバントの名手。野球部副部長。
三番ピッチャー:松浦健太(三年)元リトルリーグ日本一の投手で野球部部長。
四番サード:太刀川教経(三年)元リトルリーグ日本一の四番。天性のスラッガー。
五番ファースト:金森徹(三年)得点圏打率は宮中一の信頼性。通称親分。捕手経験有り。
六番ライト:藤本真(三年)安定した守備と暴投のない送球には定評がある。
七番センター:和田純平(二年)メガネを掛けた外野手。チーム一の頭脳派。
八番レフト:竹之内省吾(三年)誰も打てない時に打ったりする意外性の打者。
そして九番キャッチャー:加藤浩之(三年)本来は第二投手であるが、全ポジションにおいても第二の選手であった。ユーティリティ・プレイヤーと言えば聞こえは良いが、器用貧乏とも言える。
控えとして選ばれた者は、
鷹ノ目直実(二年)サイドハンドの右投手。
羽野敦盛(二年)大柄な外野手だが、直実専用の捕手でもある。
伊藤和也(一年)オーバーハンドの左腕投手。星野とは違うリトルリーグチーム出身。
長田弘(三年)内野手。今までショートのレギュラーとして活躍していた。
多々良信也(二年)左投げ右打ちの外野手。
新井隼(二年)小兵の外野手。内野もこなす便利屋。
「選手は整列して下さい!」
審判の声が掛かった。この試合、審判は選手から漏れた八幡中野球部員が務めるようだ。
両校の選手がホームベースを挟み整列し、帽子を取って大きな挨拶と共に一礼する。
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