遠い日の約束【Aパート】
この作品は『エンターブレインえんため大賞(ファミ通文庫部門)』の最終選考まで残ったものを20余年の時を経てリライトしたものです。
「危ない!!」
道路に勢い良く飛び出して来た幼稚園に通っているか、いないかぐらいの幼女は女性の大声を耳にして立ち止まった。
刹那、その幼女の目の前に赤いスポーツカーが現れる。
「!!」
直実は布団をガバッと跳ね除け飛び起きた。
(‥‥またあの夢‥‥。)
先程の悪夢によって心臓の鼓動は速い。
時間にしておよそ三分、鼓動がようやく落ち着き始める。
額の汗を袖口で拭い去り、若草色のカーテンを開ける。
天気はあいにくの雨模様。
「四月二十二日‥‥か‥‥。」
日曜日。
部屋の壁に掛けられた色気のないカレンダーに赤い丸が付けられている。
(みんな、こんな天気でも今日も練習してるんだろうなぁ‥‥。)
学校には行っていたが、あの日以来、部に顔を出してはいなかった。
暴力事件として何らかの処罰は覚悟していたのだが、幸いにも田上たちの『オヤジ狩り』の被害者が証人となり直実への処罰は特に何もなかった。
一方、オヤジ狩りのグループは全員が書類送検されていた。
主犯格の青年は鑑別所送りとなったが、田上は十三歳という年齢から刑罰はとことん軽く、一定期間の自宅謹慎を言い渡されていた。
「さて、行かなくちゃ。」
直実は汗だくのパジャマを脱いだ。
「気を付けて行ってきてね。」
玄関として兼用されている床屋の入り口で母、葉子が直実に花束を渡した。
「うん。じゃあ、行ってきまーす。」
私服姿の直実はモスグリーン色の傘を広げると駅の方へと向かって行った。
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