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鉄腕ラリアット  作者: 鳩野高嗣
第九章 遠い日の約束
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遠い日の約束【Aパート】

この作品は『エンターブレインえんため大賞(ファミ通文庫部門)』の最終選考まで残ったものを20余年の時を経てリライトしたものです。

「危ない!!」


 道路に勢い良く飛び出して来た幼稚園に通っているか、いないかぐらいの幼女は女性の大声を耳にして立ち止まった。

 刹那(せつな)、その幼女の目の前に赤いスポーツカーが現れる。



「!!」


 直実(なをみ)は布団をガバッと跳ね()け飛び起きた。


(‥‥またあの夢‥‥。)


 先程の悪夢によって心臓の鼓動は速い。


 時間にしておよそ三分、鼓動がようやく落ち着き始める。

 額の汗を袖口で拭い去り、若草色のカーテンを開ける。

 天気はあいにくの雨模様。


「四月二十二日‥‥か‥‥。」


 日曜日。

 部屋の壁に掛けられた色気のないカレンダーに赤い丸が付けられている。


(みんな、こんな天気でも今日も練習してるんだろうなぁ‥‥。)


 学校には行っていたが、あの日以来、部に顔を出してはいなかった。

 暴力事件として何らかの処罰は覚悟していたのだが、幸いにも田上たちの『オヤジ狩り』の被害者が証人となり直実への処罰は特に何もなかった。

 一方、オヤジ狩りのグループは全員が書類送検されていた。

 主犯格の青年は鑑別所送りとなったが、田上は十三歳という年齢から刑罰はとことん軽く、一定期間の自宅謹慎を言い渡されていた。


「さて、行かなくちゃ。」


 直実は汗だくのパジャマを脱いだ。



「気を付けて行ってきてね。」


 玄関として兼用されている床屋の入り口で母、葉子(ようこ)が直実に花束を渡した。


「うん。じゃあ、行ってきまーす。」


 私服姿の直実はモスグリーン色の傘を広げると駅の方へと向かって行った。

感想、評価、ブクマを付けてくださっている方々、本当にありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[良い点] いきなりのスリリングなシーン。 ショックから立ち直り切れていない直実の様子が伝わる優れた文章です。
[良い点] 悪夢の原因が何か気になります。 母との会話、短いですが、よく親子関係がわかります。
[良い点] 田上の刑罰の軽さがリアルすぎて怖い。 やはり少年法は改正すべきですね。
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