さらば初恋【Aパート】
この作品は『エンターブレインえんため大賞(ファミ通文庫部門)』の最終選考まで残ったものを20余年の時を経てリライトしたものです。
「ナココ~、聞いたわよっ!」
「かはっ!」
いきなり廊下で直実は明美にサイドヘッドロックを極められた。
「何で月末の試合の事、黙ってたの?
昨日のうちに教えてくれたっていいでしょっ!」
「ちょ、ちょっとアケ、どっからその情報を?」
明美の情報収集能力には毎度の事ながら驚かされる。
「奈留ちゃんからよ。」
「奈留ちゃんって、一組の門倉さん?
何であの子が知ってんの?」
「ナココって、ほんっと~にウトいわね。
奈留ちゃん、野球部の和田くんと付き合ってんの知らないの~?」
「うそーっ、知らなかったよ‥‥。早い子は早いんだね。」
同級生に、もう交際している人がいる事を知らされた直実は衝撃を受けた。
「周りにはちらほら付き合ってる人いるよぉ。
スポ根少女が悪いって言うつもりはないけどさぁ、もう少しグリーンエイジを謳歌したら?」
明美はヘッドロックを解くと呆れ果てた顔で忠告した。
「あ、ちなみに田上くんは今んとこフリーらしいよ。」
明美の耳打ちに直実の顔はたちまち紅潮した。
「な、何言ってんのよ!?」
「あはは、ナココって純情だよね。」
予想通りの反応を示した直実に明美はコロコロと笑った。
「それはそうと、今日、部活が終わったら私の買い物に付き合ってよ。」
「今日?」
「だって、もうすぐなんでしょ、試合?
今日を逃したら、もうそれどころじゃないだろうし。」
昔からやっている早朝と部活後の自主トレに加え、野球部の朝練と放課後の部活動。
平日も休日もトレーニング漬けの日々を送る直実は、明美や他の友人たちと疎遠になりつつある状況を実感した。
「うん、わかった。付き合うよ。」
「じゃあ、部活終ったら正門とこで待ってるね。」
会話が終ったと同時に二時限目の授業が始まる事を告げるチャイムが鳴った。
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